2012年5月、経団連が『ミドルマネジャーをめぐる現状課題と求められる対応』という報告書を発表した。ミドルマネジャーには、情報分析やコントロール、業務の遂行、マネジメントや人脈構築、コンプライアンスなど幅広い役割が求められている。また経営トップは、「部下のキャリア・将来を見据えた指導・育成」「経営環境の変化を踏まえた新しい事業や仕組みの企画立案」といった点においてミドルマネジャーが十分な役割を果たしていないと考えているようだ。
経団連は「ミドルマネジャーが役割を果たしづらい5つの構造的要因」として以下の内容を挙げている。
以上のことからも、今後、管理職の能力向上は、「組織」の問題として企業が一丸となって取り組んでいく必要があるだろう。
ここで、人事としてどのように管理職の育成を考えていけばよいのかについて考えてみたい。まずは前提として、15年前と現在の管理職候補が育ってきた環境の違いを理解しておこう。
つまりは、こうした「仕事の幅の狭さ」「指導経験の浅さ」「挑戦機会の少なさ」が、管理職の素養を身につけられない人材の増加につながっていると言える。そこで、管理職の育成に当たっては課題の異なる昇格前・昇格時・昇格後の3段階で対策を練ることを提案してみたい。
また、各段階で重要な事柄を以下にまとめてみた。
第1段階【昇格前】 次期管理職候補者の計画的育成 |
職場の中核的な存在として、リーダーの役割を認識させる |
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実際に、職場でリーダー的役割を担わせるよう上長に促す | |
アセスメントツールを用いてマネジメントスキルを客観的に評価し、強み・弱みをフィードバックすることで、能力開発に向かわせる★ |
第2段階【昇格時】 人材育成につながる昇格審査 |
審査前に期待する人材像(能力レベル含む)を明示し、候補者が努力できる環境をつくる |
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事業課題と対策を立案させて、リーダーとしての視点の高さと自覚を問う | |
アセスメントツールを用いて、管理職として必要なマネジメントスキルを備えているかを測定する★ |
第3段階【昇格後】 管理職としての意識改革 |
日頃のマネジメント行動について定期的にフィードバックするよう上長に促す |
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360度診断を用いて周囲からの評価と期待をフィードバックし、自分の行動を見直す機会をつくる★ | |
アセスメントツールを用いて、マネジメントスキルの偏り度合いを自覚し、自己変革に向かわせる★ |
ここで注目していただきたいのが、★印が付いている項目のように、各段階でアセスメントツールを活用している点である。一般的に「アセスメントツール」とは人事評価のためのものと考えられがちだが、昨今では優れたフィードバックプログラムやアセスメントと連動した能力開発プログラムがあり、「気づき」を与え、自己成長へとつなげることができる――つまり「育成」のツールとして有効なのだ。
管理職の育成にも使えるアセスメントツールとして、日本能率協会マネジメントセンターのマネジメントスキル診断「アセスメントセンターR」がある。これは受検者に実際の職務場面を模した演習に取り組ませ、管理者・リーダーとしてのマネジメント能力を評価するものである。「課題解決スキル」「判断・処理スキル」「対人関係スキル」を測定するもので、報告書とスキルアップに向けたガイドブックにより育成につなげることができる。
活用例をいくつか紹介しよう。
A社では、管理職手前のリーダー層の研修で、アセスメントセンターを取り入れている。職場マネジメントを担う役割を意識づけ、現時点でのマネジメント能力のレベルを評価することで、今後強化していかなければならないポイントを本人に理解させる効果が得られる。
B社では、事前にeラーニングでマネジメントに関する学習を行い、その後の昇格試験でアセスメントセンターを利用している。従来の社内での面接審査だけでなく、社外の客観的な評価も導入することで、公平性や納得性を高めている(図表2)。また、試験後に上司から結果のフィードバックを受けることで、自己の弱みや育成のポイントを理解させている。
C社では、新任管理職研修の中でアセスメントセンターを利用している(図表3)。昇格直後でモチベーションが高まっている状態で、自己のマネジメント能力の偏りに気づくことで、今後管理職として進むべき方向性を理解させ、さらなる成長を促す効果があると好評だ。
以上、強い管理職をつくるための方策とアセスメントツールを活用した事例を挙げてみた。 通信教育・研修に加えて「アセスメントツールを育成に活かす」という考え方が、企業としてこの時代に生き残り、未来につなげていくためのヒントかもしれない。改めて管理職の昇格審査と育成について見直す必要がありそうだ。
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