面接日を2度も変更する企業
年俸制から月給制に変わることに違和感を覚える転職者
細かいことかもしれませんが
面接日程が急に延期に。その時、候補者の心理は
中途採用の選考過程で最も重視されているのが面接。企業も候補者も「その日」を期待と不安に満ちた気持ちで待っている。特に面接を受ける側(候補者)にとっては、大変な緊張とともに迎える日でもある。しかし、企業のさまざまな都合によって一度決めた面接日が変更されるケースもある。面接担当者に急な別件のアポイントが入ってしまった…といった場合だが、予定を変更されるほうにとっては、実は一大事なのである。
せっかく有給休暇まで取っていたのに
「たびたび申し訳ないです…。Tさんの面接の日時を再調整していただけないでしょうか。面接担当の部長に急なアポイントが入ってしまいまして…」
採用担当のDマネジャーからの電話だった。しかし…
「Tさんの面接日ですか。これで変更は2度目になってしまいますね」
Tさんの面接は、一度決めた日時が延期になり、再設定したものだったのである。ちなみに前回の延期理由は部長の出張が長引いたため…というものだった。
「そうなんですよ。なにしろ全国の営業所を統括している部門の部長なので、出張も多いしスケジュールが厳しいんです。本当にご迷惑をおかけしているとは思うのですが…Tさんには事情を十分にお伝え願えないでしょうか」
もちろん、部長という役職の方が面接以外に多くの業務を抱えているのはよく理解できる。安易に日程を変更しているわけではないだろう。こうなった以上は仕方がないので、さっそく候補者のTさんに電話をかけて状況をお伝えした。
「Tさん、なんとか別の日程で改めてお取りいただけないでしょうか」
驚かせないように丁寧に状況を説明したのだが、2回目とあってTさんもさすがに戸惑っていた。
「その日は実は有休を取っていたんですよ…。近日中にまた休むのは正直厳しいんですが…まあ仕方ないんでしょうね。分かりました。別の日時でセッティングをお願いいたします。でも…」
「はい、何でしょう」
「一般的にいって面接が何度も延期されるというのは、あまり採用する気がないと理解したほうがいいんでしょうかね。率直にご意見をお聞かせいただけないでしょうか…」
本当は企業が痛いのかもしれない
「そんなことはないと思いますよ。前回も今回も理由がはっきりしていますので。企業が採用したくない時には、普通ははっきり断ってきます。お忙しい部長が直接会われるわけですから、どうでもいいけど一応面接してみるか…みたいなことはまずないです。日程を変えてでも面接をしたいということは、必ずその価値があるということですよ」
「まあ、確かにそうなんでしょうけどね…」
Tさんも分かってくれたようだったが、心の底から納得していたのかどうかは分からなかった。
企業としては面接日の延期は避けたほうがいい。その理由の一つは、単純に良い候補者を採用するチャンスを逸する可能性が高まるため。候補者が複数の企業に同時応募している場合などは、面接日を先送りにすることで、他社が先に内定を出す可能性は高まる。その時に、候補者はTさんのように「あの会社は採用する気があまりないのではないか…」と考えることも多く、そのまま辞退につながりやすいのである。
もう一つの理由は、やはりイメージが良くないということだろう。候補者といえども、採用が決まるまでは社外の人。つまり面接の約束は、取引先とのアポイントと同じ扱いで考えるべきなのだ。
しかし、実際には、得意先からのアポイントが入った、出張が延びた、重要な会議が決まった…といった理由で、比較的簡単に面接日時の再設定を依頼してくる企業もあるのが現実だ。
「今回は申し訳ありませんでした。Tさんによろしくお伝え下さい…」
ようやく新しい面接日時が決まった。3度目の延期があってはならない…と慎重にアポイントを取ったので、かなり先になってしまっている。問題は部長のスケジュールにありそうだが、同社内で「採用」がどれくらいの優先事項になっているのかというほうが問題なのかもしれない。
チャンスを逃すかもしれないという意味では、面接延期は本当は企業のほうが痛いのである。
頭では理解できているのに
年俸制から月給制に変わる場合、こんな違和感も
選考の結果、無事内定が決まっても候補者は気を緩めることができない。給与条件の交渉という重要なプロセスが待っているからだ。提示額が希望額に達していない場合には、その差を埋められないかと交渉するわけだが、問題なのは「年俸制」と「月給制」といった制度の違いで候補者が悩んでしまうケース。通常は、初めての年俸制にとまどう人が多いのだが、時には年俸制から月給制に移行するのに違和感を覚える人もいるようだ。
ずっと年俸制でやってきたものですから
「無事に内定をいただき、給与条件もご提示いただきました。ただ…」
最終面接を終え、見事第一希望の企業から内定を獲得したFさん。「ただ…」というのはどういうことか聞いてみると、それは意外なことだった。
「提示されたのが月給制だったんですよ。今までずっと年俸制の企業に勤務していたので、どう考えればいいのか分からなくて戸惑っています」
「…といいますと。具体的にどのあたりを懸念されているのでしょうか」
「時間外手当を含んだ金額で提示されたことですね。その計算ですと、前職の年収を上回るんですが、残業という不確定な要素を入れて年収を計算するのが正しいのかどうか。今まで外資系企業に勤務していて、ずっと年俸制だったものですから、日系企業の計算方法に不慣れなんです」
よく話を聞くと、内定した企業から提示された年収は、月20時間分の時間外手当を含めて計算されたものだった。
「月20時間といいますと、1日あたり1時間弱ですよね。定時が17時30分までですから、18時30分まで残って業務をしていたら楽々クリアしてしまう数字だと思います。たしかに、時間外勤務は不確定な要素ではありますが、今回のケースですと、ほぼ間違いなく支給される額という意味でのご提示ではないでしょうか。けっしてサバを読んでいる数字ではないと思いますよ」
いまどき定時ぴったりに業務が終わる会社はあまりないだろう。営業やマーケティング、技術職などであれば1日2~3時間の時間外勤務も当たり前という会社が多いはずだ。
「なるほど…」
「前職では年俸以外に時間外手当の支給も受けていらっしゃったのですか」
「いえ、時間外は年俸の中に含まれていました」
個人によって大きく違う給与制度へのイメージ
「それでしたら、20時間を超えて時間外勤務した場合には、時間外手当が全額支給される会社の方が有利ですよね」
「たしかにそうなんですけどね。うーん、ちょっと一晩考えさせて下さい」
翌日、私はFさんに改めて電話してみた。
「いかがですか。まだ疑問点は残っていますでしょうか」
「頭では理解できているんですが…。不確定なものを繰り入れて計算されているのが、どうも気になるんです。同じ年収額の提示であっても年俸ですぱっと出ていたら、即決できたと思うんですが…」
理屈は分かっているとおっしゃるだけに、これ以上説明のしようがない。じっくり考えて得心したところでサインしていただくしかないようだ。月給制から年俸制に移行することには抵抗を感じる方が多いのだが、このケースはまったく逆である。
誰でも自分が慣れ親しんだ制度や環境が変わる時には抵抗がある。転職は、それまでとまったく違う環境・風土に身を移す一大イベントなだけに、まずここを乗り越えないと入社してからカルチャーショックを受けて大変なことになるだろう。
「じっくりお考えになっていいと思いますよ。もし情報が足りない場合は再度ご訪問のセッティングもします。お気軽にお申し付けください」
時間外手当が全額支給されるのを誰でも喜ぶと思うのが普通だが、そうならない場合もあるということなのだった。