入社直前に急病になったら
即戦力と期待していた企業も困惑
中途採用の選考が進んでいた企業から「内定」が出るとホッとする。これは転職する人も仲介した人材紹介会社も同じだろう。しかし、内定はゴールではない。入社予定日に「出社」してはじめて、転職活動は完結するからだ。そのため人材紹介会社は入社日まで、注意深く人材をフォローする。だが、時にはアクシデントもある。中でも不可抗力といえるのが、内定者が急に体調を崩してしまうケースだ。
内定者との連絡が途絶えた
「いよいよ来週からご出社ですね。準備はいかがでしょうか。もし何か気になることがあれば、お気軽にご相談ください」
転職が決まり、入社日待ちの人材には、うるさいと思われない頻度でフォローのメールを送っている。翌週がG社への出社予定となっているMさんも、そのうちの一人だった。
ところが、いつもなら遅くても翌日には返ってくるMさんからの返信がなかなか届かない。急に嫌な予感がわきおこってきた。電話をかけてみるが留守番メッセージになってしまう。何か問題が発生したのだろうか。
何度目かの電話で、ようやくMさんと話すことができた。
「すいません、実は少し前から体調を崩していまして……」
電話に出たMさんの声は、弱々しく力がない。本来なら「お大事に」といって安静にしてもらうべきだろう。しかし、入社日は数日後に迫っている。私は単刀直入に病状と回復の見込みを聞いてみた。
「目がまわって、まともに立っていられないんです。医師からは過労とストレスだろうと言われました。業務の引き継ぎがとにかく大変で、徹夜続きだったものですから……。いつ治るかも、正直わからないんです」
大変なことになった。急いでG社に連絡し、状況を説明する。
「えっ、 Mさんが急病に?」
電話の向こうで、人事部長が困惑しているのがわかる。私はMさんが回復するまで、何とか入社日を少しずらしてもらえないかと聞いてみた。しかし、相手の声色は厳しい。
「そうもいかないんですよ。こちらも前任者との引き継ぎの関係がありましてね。Mさんが現職だったのでギリギリのスケジュールを組んでいたのですが、入社日が遅れるとその予定が完全に狂ってしまいます」
Mさんは会計のスペシャリストで、G社でのポジションは会計部門の責任者となるはずだった。即戦力として期待しての採用だ。
「Mさんの代わりの方を、今から紹介してもらうことはできませんか」
人事部長のその言葉に、私は焦った。
「ちょっと待ってください。Mさんに出した内定はどうなるんですか」
事態は想像以上にまずいことになっていた。