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「個人情報」を隠したまま転職活動したい人
「転職回数」を少なくして経歴を書きたい人

個人情報を伏せて転職活動をしたい人材のケース
自分の名前や会社名を漏えいされたりしないか心配なんです…


転職活動に欠かせない履歴書や職務経歴書。考えてみれば、これほど「個人情報」のかたまりのような書類もないだろう。個人情報保護法などの施行にともなって、企業も人も、また人材紹介会社も、これら個人情報の取り扱いには細心の注意を払うようになっている。しかし、どこまで保護すれば十分なのかという点など、まだまだ運用面ではばらつきがあるようだ。ときには、個人情報を一切伏せて転職活動ができないか…という問い合わせなどもいただいたりするのである。

「応募したことがわかったら問題になるかもしれないな…」

「これはぜひ応募してみたい案件ですね。今、私がやっている仕事の経験がそっくりそのまま生かせそうです。ただ、かなり狭い業界だから、応募したことがわかったら問題になるかもしれないなぁ…」

Kさんは、通信関連の商品開発を技術的な側面から支える優秀なエンジニアだった。通信という現代の花形業界で活躍している人材だけに、転職活動でも困ることはないのかと思いきや、そうでもないらしい。

「通信業界というのは、大手といえば数社だけじゃないですか。ですから、そんなに選択肢があるわけでもないですし、同業どうしで情報交換なども盛んなんですよ。だれがどこにいてどんな仕事をしているのか…などということも、お互いかなり知っているんです。通信機器のメーカーさんなども含めて、場合によったら展示会などで名刺交換していたりしますしね」

そんなことはまったく気にしないで、どんどん積極的に転職活動を展開する人もいる半面、Kさんのように几帳面な方は、知り合いかもしれない人のところに自分の履歴書や職務経歴書が届くということが我慢できないようだ。

「ではどうでしょう。まずは匿名というかたちでご推薦させていただくということでは…。ただ、面接が決まったら、実名も所属会社名も出していただかないと困りますが」

「もちろん、それは大丈夫です。だれだかわからない人を面接するというわけにもいかないでしょうから」

Kさんがそれで納得してくれたので、そのときはまず実名や会社名を伏せたかたちでのご紹介を進めたのだった。

しかし、それを受け取る企業側はどうなのかといえば、明らかに匿名での応募に対しては、よい印象は持ってないようだ。

「私たち人事はいいんですよ。それぞれの方にご事情もあるということはわかりますので。でも、最近は書類選考をほとんど採用部門が自分たちでやるようになっているじゃないですか。営業の募集なら営業部長が…というようにね。すると、匿名応募だとまず、うちに応募する意思があるのか…みたいな話になってしまうんですよね」

「なるほど」

「ひどいときなんて、住所の番地と電話番号が伏せられている履歴書を見ただけで、応募意欲が感じられない…ということを言ってきましたよ」

企業の人事担当者の方の話である。

「履歴書には所属会社名を実名で書かないとダメですか…」

業界が狭いので心配だ、あるいは知人がその会社に勤めている可能性がある…このようなケースで、個人情報を表に出さずに活動したいというご要望は、以前からときおりあったものである。

しかし、最近は単に個人情報が外部に漏れることが心配だ…ということで、すべての転職活動を匿名で行えないかというご相談も増えてきた。

「履歴書や職務経歴書には、やはり所属会社名などを実名で書かないとまずいのですか」

「そうですね、企業としてはどういった会社に勤務していた方かということも、書類選考の大きな判断材料だと思いますよ」

Sさんは、個人情報が完全に守られるのかどうかを、とても気にされていた。そのため、どうにか実際の会社名を書いていただいた履歴書なども、すべて手書きである。

「電子ファイルですと、どんどんいろいろな部門に転送されていってしまうような気がして心配なんです。それで手書きにしたのですが…」

「そのご心配はわかりますが、現在では、企業へのご推薦のほとんどが電子ファイルをメールでお送りするかたちなのです。パソコンで作成いただくことはできないでしょうか」

Sさんにもご理解いただこうと、ご紹介システムの説明をする。実際、ウエブを使った独自の「人材推薦システム」を通さないと受け付けない企業も増えてきている。当然、ウエブシステムで送れるのは電子ファイルのみだ。

「企業とは個人情報の守秘義務をともなう契約を結んでいますのでご安心ください。改ざんがご心配でしたらPDF形式のファイルにしていただくとか、あるいはパスワードをかけて知らない方は開けないようにするなどしていただくのは問題ないですよ」

Sさんはそれでもまだ心配そうだ。

「そうなんですか。少し考えさせていただいてもいいですか…」

Sさんも転職活動を進めたいのはやまやまなのだという。ただ、昨今の個人情報漏洩のニュースなどを見ると心配に歯止めがかからない。Sさんの気持ちもわからないでもないのだが…。

転職回数を少なく見せたかった人材のケース
何度も会社を辞めたやつだと思われたくないんです…


採用時の書類選考も面接も、すべて履歴書や職務経歴書を参照しながら行われる。企業側は、そこに書かれていることが正しいという前提で選考を進めていくし、就職の仲介を行う人材紹介会社などもそれは同様だ。しかし、転職の回数が多くなってしまっている場合、あるいは何らかの事情でごく短期で退職してしまった場合など、「これは書かなくてもいいのではないか」と考えてしまう人も、なかにはいるようなのだ。

「試用期間内に辞めた会社のことは職歴書に書かなくてもいいですね…」

「以前、ある人材紹介会社でアドバイスしてもらったのですが、試用期間内に退職したようなケースは職歴に入れなくてもいいというのは本当なんでしょうか。じつは、私も次が5社目になるので、できればあまり転職回数が多いという印象は与えたくないと思っているんですけど…」

職務経歴書の書き方について相談をいただいていたとき、Uさんからこんな質問を受けたのだった。

「試用期間内といいますと、どのくらいご在籍だったのですか」私はUさんに聞いてみた。

「ちょうど1カ月ですね。その会社は入社後3カ月が試用期間でした」

「そうですか。でも、一般的には試用期間内であってもそれだけ在籍されたら、履歴書にも職務経歴書にもお書きになるべきでしょうね」

「そうなんですか…」

Uさんは意外そうだ。たしかに、就職支援のプロである人材紹介会社から教えられたというのだから、そう感じるのだろう。

「ええ、入社して1カ月でしたら、おそらく社会保険の手続きなどもすべて完了したころではないでしょうか。つまり、在籍していたことを隠して新しい会社に採用されたとしても、そこで再度社会保険の手続きをしたときに、社保や年金の記録からそのことがわかってしまいますよね。そうなると、経歴を詐称していたのではないか…と言われてもしかたがない事態です。最悪の場合、それを理由に採用取消になるかもしれませんよ」

「なるほど。短い期間でもきちんと書くしかないということなんですね…」

「そうです。おそらく書かなくてもいいと言われた人材紹介会社でも、陰でコンサルタントの方が口頭ベースで情報を伝えたりしていると思いますよ」

例外的にあるとしたら、入社後の数日以内に、何らかの事情で退職するような場合だろう。まだ社保の手続きなどが終わってないとしたら、双方が話し合って「入社そのものがなかった」というかたちにすることもできないわけではない。数日で退職するというのは、よほどのことがあった場合だけだろうが、そういうケース以外は、ごくごく短期の在職でも転職1回にカウントされてしまうので、注意が必要だ。

「在職期間が極端に短いときには、たとえば入社前に聞いていた条件と大きく異なっていたなど、何か問題があったのだろうと考えられるのが普通です。ですから、職務経歴書には簡潔に退職理由も添えて、経歴を記載しておくのがいいでしょうね」

「そうです、私の場合も急に社内組織の変更があったからというので、当初予定していた経理部ではなく、総務部の所属になってしまったんですよ。そういうことを書いておけばいいのですね」

Uさんも理解してくれたようだ。

「かなり昔の話ですし、今の仕事に関係する経験でもなかったですから…」

Bさんも、Uさん同様、いやそれ以上に経験社数が多い方だった。およそ1年前、ある企業に転職が決まったということで登録を解除されていたのだが、再度ご連絡をいただいた。

「せっかく決まった会社だったんですが、入社後、別の企業との合併が決まってしまったんですよ。つい最近、組織も統合されたのですが、それによって担当業務が大きく変わってしまいました…」

「そうですか。それは残念ですね。そういうご事情でしたら、ぜひまた転職活動をお手伝いさせていただきたいと思いますよ」

私は新しい履歴書や職務経歴書を送ってもらえるようにBさんにお願いしたのだった。

ところが、送られてきた履歴書を拝見すると、なんとなく以前見たときよりもすっきりしている。

「Bさん、前回お預かりしていた履歴書を見直したんですが、V社とX社にもたしかご勤務されていましたよね。今回、その部分を変更なさいました?」

「そうですね。でもそれぞれ半年程度で短いですし、もうかなり昔の話です。直接今の仕事に関係する経験でもなかったですからね…」Bさんとしては、特別なことをしているという意識はなさそうだ。

「いえいえ、そういう問題じゃなくて。ちゃんとお書きいただかないと、うちでは責任を持ってご紹介することはできないですよ」

「そうですか…、ではちょっと作りかえますので少しお時間をください」

そういって電話を終えてから、Bさんからのご連絡は途絶えたままとなっている。

Bさんのケースは、たまたま私たちが以前のBさんの資料をお預かりしていたからわかったことだ。しかし、Bさんが別の人材紹介会社に新規に登録したら、おそらくその紹介会社は、履歴書の内容に疑いを差し挟むことはないだろう。

転職支援を行う人材紹介会社の仕事も、登録される方の善意をベースにしている。信頼関係といってもいい。目的のためなら何でもあり…という考え方が転職や採用の場面であたりまえにならないことを信じたい。そのうえで、人材紹介会社では、そういった経験社数の豊富さを含めたキャリアを、その人の個性と評価してくれるような企業をご紹介していきたいと思っているのである。

企画・編集:『日本の人事部』編集部

Webサイト『日本の人事部』の「インタビューコラム」「人事辞典「HRペディア」」「調査レポート」などの記事の企画・編集を手がけるほか、「HRカンファレンス」「HRアカデミー」「HRコンソーシアム」などの講演の企画を担当し、HRのオピニオンリーダーとのネットワークを構築している。

人材採用“ウラ”“オモテ”

企業と求職者の仲介役である人材紹介会社のキャリアコンサルタントが、人材採用に関するさまざまなエピソードをご紹介します。

この記事ジャンル 中途採用

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