職場のモヤモヤ解決図鑑【第74回】
内定者フォローの手法を紹介。
学生の不安を解消する手法選びや注意点を解説[前編を読む]
自分のことだけ集中したくても、そうはいかないのが社会人。昔思い描いていた理想の社会人像より、ずいぶんあくせくしてない? 働き方や人間関係に悩む皆さまに、問題解決のヒントをお送りします!
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吉田 りな(よしだ りな)
食品系の会社に勤める人事2年目の24才。主に経理・労務を担当。最近は担当を越えて人事の色々な仕事に興味が出てきた。仲間思いでたまに熱血!
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森本 翔太(もりもと しょうた)
人事部に配属されたばかりの23才。部長と吉田さんに教わりながら、人事の基礎を勉強中。
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石井 直樹(いしい なおき)
人事労務や総務、経理の大ベテラン42歳。部長であり、吉田さんたちのよき理解者。
内定者懇親会の内容を企画している吉田さんと森本さん。張り切るあまり、プログラムを詰め込みすぎたようです。内定者フォローで期待できる効果は、手法によって異なります。目的に合わせてどのような手法を選び、組み合わせればよいのでしょうか。内定者フォローの種類と事例を見ていきます。
内定者フォローの手法と効果
内定者の抱える不安には、大きく分けて「人間関係の不安」「会社や仕事内容の不安」「社会人生活の不安」の三つがあります。それぞれの不安解消が期待できる内定者フォローの手法について紹介します。
「人間関係の不安解消」に役立つ内定者フォロー
「どんな人と働くのか」「上司や先輩はいい人なのか」といった、内定者が抱く人間関係の不安を解消するには、内定者同士や社員との交流機会をつくることが有効です。具体的な手法を見ていきます。
内定式
内定式は、内定者に対して正式に内定通知を渡す式典。社長や役員が同席し、内定者が一同に会する場です。社長や役員が会社のビジョンや内定者への期待感を伝え、学生から内定承諾書を提出するのが一般的な流れです。式典後に、懇親会で内定者や先輩社員との交流機会を設ける例も多く見られます。
近年はオンライン形式、またはオンラインとオフラインを組み合わせたハイブリッド形式で開催する企業もあります。式典を通じて、内定者には「会社の一員になる」という意識が芽生えます。式典の形式に限らず、自社の社風が伝わるプログラムを組むことが大切です。
内定者懇親会
内定者同士が顔を合わせて、親睦を深める場です。内定式後、入社まで複数回開催する例もあります。同期と話すことで、入社への不安を軽減し、仕事へのモチベーションを高める効果が期待できます。内定者懇親会を複数開催する場合は、遠方在住の内定者に配慮した参加手法(オンライン開催にする、リアル開催なら交通費を支給するなど)を検討する必要があります。
社員との懇親会
社員を交えての懇親会は、内定式のような式典とは異なり、カジュアルな雰囲気の場です。リラックスした状態で話ができるため、一歩踏み込んだ質問もしやすくなり、仕事への不安解消につながります。また、社員の活躍する様子を聞くことで、働くモチベーションが向上します。
参加する社員の属性は、内定者の属性や知りたいことに合わせて調整します。役職や年次が高い社員だけではなく、内定者と年の近い若手社員にも入ってもらうなど、バランスを考慮することも重要です。
メンター制度、ブラザー・シスター制度
内定者一人ひとりに対して、先輩社員が相談役や教育係としてつく制度により、人間関係の不安解消が期待できます。メンターは、業務に限らず、社会人生活や働くことそのものなど、より広い範囲の不安や悩みに対して精神面のサポートを行う存在です。ブラザー・シスター制度も同様の役割を担いますが、会社によっては、メンターの社員が、そのまま入社後の教育係となるケースもあります。会社の一員として丁寧にケアされている実感から、内定辞退防止においても効果的です。
メンター制度やブラザー・シスター制度を導入する際は、相談役・教育係を担う社員に対して、制度の目的や運用方法をしっかりと伝えることが大切です。
旅行・合宿
内定者期間に実施する旅行は、内定者同士の交流・コミュニケーション促進を大きな目的としています。合宿の場合は、研修のようなスキルアップ・マインドセットを目的としたプログラムに比重が置かれます。どちらも「楽しむ」という目的だけではなく、内定者が相互理解を深め、会社への入社意欲が高まるプログラムを設定することが大切です。開催時期やスケジュールは早めに検討し内定者に伝えます。学業に支障が出ないよう、内定者に希望開催時期のアンケートを取ることもあります。
「会社や仕事内容の不安解消」に役立つ内定者フォロー
内定者は、「入社したらどのような仕事をするのだろうか」という不安を抱えています。また、「自分の選択は正しかった」と思えるよう、会社について深く理解したいと考えています。研修、職場見学、インターンシップなどによって、入社後の自分がどのように成長できるのか、内定者にイメージを膨らませてもらうことが効果的です。
研修
内定期間中に実施する研修は、基本的なビジネスマナーの習得や、業務で求められるスキルの学習、会社や事業の理解促進などを目的に開催されます。業務を大まかに理解することで、入社後の不安解消につながります。研修内容によっては、内定者同士のチームワークの向上、入社に向けてもマインドセットも期待できます。研修の開催にあたっては、内定者が参加しやすい方法や時期を検討します。
資格取得支援
業務に関係する特定の資格取得を支援するものです。具体的には、eラーニング・通信教育の受講費用や受験料、資格取得に関する祝い金などの支給などが挙げられます。内定者のスキルアップが主目的であり、資格取得を支援することで、人材育成に熱心な会社というイメージを内定者に持ってもらえます。
対象となる資格は、業務に関連のあるものを選定します。また、資格取得にかかる内定者への負荷、資格取得に失敗した内定者のモチベーション低下に注意が必要です。
インターン・アルバイト
インターンシップやアルバイトで、入社までに業務の一部を経験してもらいます。従事する内容はさまざまで、入社後に就く業務の一部を体験することもあれば、先輩社員の業務を手伝うこともあります。職場や仕事内容の理解につながるほか、先輩社員との交流を通じて、入社へのモチベーション向上が期待できます。
一方で、内定者のスケジュールを拘束することによる不満や、社内の情報漏えい、賃金の支払い関係のトラブルなどには注意が必要です。通常のアルバイトとは異なり、研修が目的であることを明確にし、内定者の負担にならないよう、時間や期間を設定することが重要です。
職場見学
社内見学、工場見学、施設見学などを通じて、働くイメージを持ってもらいます。事前に、社内のどこまで見学してもらうのかを決めるほか、遠方の内定者のためにオンラインでも開催するなど、参加方法も工夫する必要があります。
社内イベントへの参加
全社集会などの社内行事への参加を通じて、会社への帰属意識を高めます。フットサルやバーベキューといったカジュアルな社内イベントであれば、社員とのコミュニケーション促進にもつながります。社内イベントに限らず、研修やインターンのように時間を拘束する内定者フォローは、希望者のみの任意参加か、全員の強制参加を前提としているものなのか、範囲を明確にすることが重要です。
「社会人生活の不安解消」に役立つ内定者フォロー
内定を得てから実際に働き始めるまでには、数ヵ月ほどの期間があります。その間に、ネガティブな情報に触れたり、会社からの連絡がなかったりすると、内定者は不安を膨らませてしまいます。定期的な連絡や面談を通じて、気にかけていることを伝えると同時に、不安を解消します。
面談
主に人事との面談を設定します。内定者にとっては、選考中に顔を合わせていた人事が最も身近な「社員」です。内定を承諾したものの、その選択に迷いが生じている場合など、他の社員には話せない内容でも、採用担当の人事になら話せるというケースは少なくありません。
会社が社員に求めていることや業務の魅力などを伝えたうえで、内定者が考える将来像などを話し合うことで、モチベーションが向上します。面談を実施する際は、事前に内定者へその目的をしっかりと伝える必要があります。
社内報
社内報は、会社の方針や雰囲気、最近の動向を内定者へ伝えるためのツールです。また、内定者懇談会の様子を社内報で発信するなど、社員と内定者が親しくなるきっかけづくりにも活用できます。「社内報の作成」は、内定者のインターンシップやアルバイト業務としても生かせますが、その場合は人事のサポートが必要となります。
定期連絡
内定通知後も、定期的に内定者と接点を持つことが重要です。内定式や懇親会、面談などのスケジュール、提出書類などの事務連絡をきちんと行うことで、内定者に安心感を与えられます。
また、入社までの期間にどんなイベントがあるのか、内定者フォローのプログラムを早めに伝えることで、内定者は「放置されていない」という安心感を得ることができます。
定期的に接点を持つ手法として、SNSを利用するケースもあります。ただし、カジュアルに連絡を取れるメリットがある一方で、内定者のプライベートに踏み込みすぎる恐れもあるため、注意しなければなりません。
内定者フォロー専用のプラットフォームを導入するのも一つの方法です。オープンなSNSで交流する場合には、内定者のコンプライアンス違反や情報漏えいのリスクに注意が必要です。
保護者への説明
昨今は、親から反対されて学生が内定辞退するケースがあります。こうした背景をもとに、親の承諾について内定者に確認したり、学生の親に直接連絡したりする、「オヤカク」という言葉が生まれました。事業内容や働き方をまとめた冊子を送付したり、説明会を実施したりする企業も少なくありません。
内定者フォロー時の注意点
内定期間中、企業が内定者と接点を持ち、関係性をつくることは内定辞退防止のために重要です。ただし、学生生活の負担とならないように、連絡やイベントの頻度を検討しなければなりません。内定者フォローを行う際は、以下の点に注意が必要です。
学生生活に配慮する
イベントを詰め込みすぎないように注意します。参加型イベントがあった次の月は定期連絡だけに留める、オンラインイベントを取り入れて移動時間を減らす、といったバランスが大切です。
イベントは一方向的でなく、参加型にする
イベントを実施する際、一方的に会社側が話すだけでは、内定者の仕事に対する理解促進やモチベーション向上を期待できません。「内定者からの質問の場を設ける」「内定者が発表できる場を設ける」など、内定者フォローの目的とあわせて、効果的な参加方法を検討しなければなりません。
内定者同士や社員とのトラブルに注意
内定者同士や、社員との間のトラブルを避けるため、困りごとがあれば連絡できる窓口を伝えておきます。採用担当や人事部は、内定者にとって連絡しやすい相談先です。
【まとめ】
- 内定者フォローでは、目的に合った手法を選択する
- 事務連絡やイベントのスケジュール案内など、定期的な連絡が内定者の安心感を醸成する
- 内定者フォローは、学生生活に配慮したスケジュールや参加方法を検討する
内定者フォローの方法って、いろいろあるから詰め込んじゃいました……
職場の雰囲気を知りたがる学生が多かったから、懇親会は社員としっかり交流できるものにしよう
事業理解やスキルアップ研修は、別のタイミングで開催してもいいかもしれませんね。なにかあれば相談してください
自分のことだけ集中したくても、そうはいかないのが社会人。働き方や人間関係に悩む皆さまに、問題解決のヒントをお送りします!