人事マネジメント「解体新書」第69回
新・女性活用時代―― いま改めて注目される「女性活躍推進」について考える(前編)
アベノミクスの成長戦略で、女性の活躍推進が打ち出された。日本社会において、女性の積極的な活用が経済的閉塞打開のカギを握る、というものである。周知のように、「女性活用」の重要性は以前から言われてきたが、なぜ今、改めて注目されることになったのか?この古くて新しいテーマである女性活用を現時点で整理し、その課題と企業が対応すべき施策・マネジメントについて洗い直していく。『前編』では、女性活用が再び俎上(そじょう)に上がった背景について解説する。
女性を国の「成長戦略」の中核に
◆2012~13年、政府が打ち出した女性活用への方針とは
女性活用が言われるようになって久しい。振り返ると、1985年に「男女雇用機会均等法」(均等法)が制定され、翌年施行された。働く人を性別によって差別することなく、働く女性の母性を尊重し、その能力を十分に発揮できる雇用環境を整備することは、少子高齢化が急速に進む日本において、また、経済社会の活力を維持していく上で、非常に重要な課題であった。しかし、それから30年近くを経た現在も、当初の思惑とは裏腹に女性活用はなかなか進んでいない。その理由については多くの見方があるが、男女の役割分業意識が根強い日本社会や会社組織風土において、性差のない活躍を進めていくには相応の意識改革と継続的な取り組みが必要であり、そのためにはかなりの時間とコストを要するという意見が支配的である(だから、できなくても仕方がないという言い訳になっている)。それがここに来て、やっと政府が本腰を入れ始めた。国際公約的な意味合いも含め、少子高齢化が進む国内での労働力不足が進展していく中、2012年から13年にかけて女性活用に向けた明確な方向性が打ち出されることになった。
2012年、経済産業省産業構造審議会は価値創造経済への経済社会ビジョンを発表した。この中で日本経済を縮小連鎖型の「やせ我慢の経済」と表現し、その活路の一つとして女性の活躍を求めたのである。戦後の重厚長大・製造業型経済が様変わりし、現在では第3次産業が約75%を占めるという産業構造の変化に対して、従来型の男性モノカルチャーでは、イノベーションにも経済の拡大にも限界がある。また、国内市場の飽和状態に対しても、女性の持つソフト力が商品開発などで新たな市場創出に大きく機能するとしていて、産業構造が移り変わっていく中、改めて女性活用を国の「成長戦略」の中核に置くことを同報告書は強調している。
翌2013年、そうした意向を受けた形で経済産業省は、「ダイバーシティ経営企業100選」を発表、表彰した。一部の先進的な企業を除き、多くの日本企業では多様な人材を積極的に活用していこうという動きが鈍くなっているが、その中で、女性活用が多様な人材力の獲得と市場形成の試金石であると明示したのである。要は女性活用が、ダイバーシティ経営への突破口になるということだ。
余談であるが、「ダイバーシティ経営企業100選」の発表会場で、IMF(国際通貨基金)の専務理事から「日本女性の活躍は、経済に計り知れない恩恵をもたらす」とのビデオレターが紹介された。IMFは東京で開催された年次総会の場でも、「女性は日本を救えるか?」という研究発表を行っているが、その中で、今後20年間で日本が女性の労働参加率を現在の62%から先進7ヵ国(G7)並みの70%に引き上げれば、GDP(国内総生産)を0.25ポイント、北欧並みの80%とすれば0.5ポイント引き上げることができるとしている。このような指摘の背景には、日本女性の「ジェンダー・ギャップ指数」(男女平等指数:政治・経済・健康分野における女性の地位)の低さがある。世界136ヵ国中105位という低ポジションでは、日本は女性活用について国際社会で語る資格はないのかもしれない。
何より、政府が女性活用の方向性を意識的に打ち出した理由には、このような内外からの要請があったことは間違いないが、労働力不足と縮む一方の国内市場に対する大きな危機感が非常に大きいと思われる。まさに、待ったなしの状況なのだ。
◆依然として女性は「眠れる労働力」
急速に進む少子高齢化は、確実に労働力不足を引き起こす。そこで、女性をはじめとした多様な人材を活用しようとなったわけだが、問題は人口の半分を占める女性が労働市場に十分に参加していなくて、さらに参加の内容も不十分なことである。女性の年齢別就業率を議論する場合、育児期の主婦層が前後の世代より下がる「M字型就業曲線」が引き合いに出される。直近の2014年に総務省が発表した「労働力調査」では、M字傾向がかなり改善の傾向を示しているものの、諸外国と比べるとまだまだ低い状態である。この年代の女性で就業率が低下する主な理由は、第一子出産で6割以上が仕事を辞めることにある。これは、出産・子育てと仕事が両立できない状態が依然としてあるからで、官民挙げて進めているワーク・ライフ・バランス施策も、あまり効果を上げていないようだ。
加えて、40代から始まる再就業にも問題がある。その多くはパートタイムなど非正規労働であり、本人の持っている能力・スキルを発揮することのできる仕事とは程遠いのが現実である。また、家庭との両立が難しい日本企業では、大卒女性の復帰率も低くならざるを得ないという事情がある。
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