緊急事態宣言が全面解除
次の感染ピークを想定して
今から取り組んでおきたい職場の感染症対策
ミネルヴァベリタス株式会社 顧問
信州大学特任教授
本田茂樹さん
新型コロナウイルス感染症の世界的流行により、私たちの暮らしは様変わりし、企業でも休業や自宅待機、在宅勤務などの対応に追われました。過去にも新たな感染が流行したことはありますが、ここまでの影響を受けたことはほとんどありません。平時と異なる部分も多く、事業を続けることの難しさを感じた企業も多いのではないでしょうか。いったんは感染のピークが収束に向かう中で、どうすれば企業活動と並行しながら、従業員の感染リスクを最小限に抑えることができるのかを考えていく必要があります。企業の危機管理と感染症対策に詳しい、ミネルヴァベリタス顧問で信州大学特任教授の本田茂樹さんにお話をうかがいました。
ほんだ・しげき/現・三井住友海上火災保険株式会社に入社、MS&ADインターリスク総研の勤務を経て、現在に至る。リスクマネジメントおよび危機管理に関するコンサルティング、執筆活動を続ける一方で、全国での講演活動も行っている。これまで、早稲田大学、東京医科歯科大学大学院などで教鞭を執るとともに、日本経済団体連合会・社会基盤強化委員会企画部会委員を務めてきた。著書に、『中小企業の防災マニュアル』(労働調査会)、『いま、企業に求められる感染症対策と事業継続計画』(ピラールプレス)、『中小医療機関のためのBCP策定マニュアル』(社会保険研究所)などがある。
感染症流行時の事業継続は“人”にかかっている
2020年の前半は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が世界中で猛威をふるいました。企業活動にも大きな影響が出ています。
新型インフルエンザ等対策特別措置法に新型コロナウイルス感染症を追加した改正法(以下、改正特措法)が施行され、4月には全国を対象に緊急事態宣言が出されました。休業要請により営業を制限された業種もありますが、医療機関に交通機関、金融機関やスーパー、コンビニなど、社会生活と結びつきの強い施設は対象外となりました。ホワイトカラーの人たちも、在宅勤務や時差通勤、ローテーション勤務などを取り入れながら、通常時と異なる働き方をすることになりましたね。
企業にとっては、感染症に対するリスク管理の必要性が浮き彫りになりました。
非常時においても企業活動を中断させず、また中断した場合も速やかに復旧できるような体制を構築しておくことはとても重要です。事業継続計画(BCP:Business Continuity Plan)と呼ばれるものです。日本は大地震や台風、大雨など、自然災害の多い国です。そのため、自然災害を想定したBCPを立てている企業が多いと思いますが、感染症はノーマークだった、というところも多かったはずです。
自然災害と感染症では、BCPにおいて押さえておくべきポイントが異なります。というのも経営資源である、「人」、「(工場や事業所などの)施設や設備」、そして「ライフラインと物流」への影響が違ってくるからです。自然災害では、ケガや死亡などによる従業員の欠勤、施設の倒壊や設備の破損、そして停電などによるライフラインの途絶などによって、三つの経営資源がすべて機能しなくなります。そのためBCPも、それらの欠けた三つの経営資源をどのように復旧するかを考えます。
感染症の場合は、どのような方針になるのですか。
感染症が直接影響を及ぼすのは、人のみです。ウイルスが施設や機械を壊すことはありませんし、ウイルスで電気やガスがだめになってしまうこともありません。ただし、人への感染が拡大することで、ライフラインへの影響がでることは考えられます。人が感染さえしなければ、事業継続の可能性が高まりますから、従業員の感染をいかに防ぐかがポイントです。
従業員 | 施設 | ライフライン | |
---|---|---|---|
自然災害 | 大 | 大 | 大 |
感染症 | 大 | 無 | 小 (人への感染次第) |
新型コロナウイルス感染症を例に挙げると、従業員が一人でも感染した場合、事業所を封鎖し、施設中を消毒しなければなりません。感染者自身は入院や自宅療養、そして濃厚接触者は2週間ほど自宅待機となります。休業を余儀なくされたり出社できる人が限られたりと、業務に大幅な支障をきたします。自社に限らず、取引先で感染者が発生して取り引きが中断することもあります。また運送会社で感染者が生じれば、物流にも影響が出てきます。
つまるところ「人」に問題が発生すると、他の資源にも被害が及ぶのです。ですから平常時から従業員とその家族を含め感染しない、つまり「感染防止対策」が求められます。そして自社に感染者が発生したときは、欠けた従業員をどのように代替するかという「代替戦略」が主軸となります。
さまざまなジャンルのオピニオンリーダーが続々登場。それぞれの観点から、人事・人材開発に関する最新の知見をお話しいただきます。