職場のモヤモヤ解決図鑑【第52回】
事業継続計画を意味のあるものにするための
見直しポイント[前編を読む]
自分のことだけ集中したくても、そうはいかないのが社会人。昔思い描いていた理想の社会人像より、ずいぶんあくせくしてない? 働き方や人間関係に悩む皆さまに、問題解決のヒントをお送りします!
自社の事業継続計画(BCP)の内容を確認した吉田さん。資料が古いことが気になり、上司と一緒に内容を見直すことにしました。内容の更新だけでなく、事業継続計画の存在を従業員に改めて周知する必要もありそうです。策定した事業継続計画を無駄にしないためにはどうすればいいのか。見直す際のポイントや効果的な運用について解説します。
事業継続計画(BCP)は一度では完成しない?
事業継続計画書は、一度策定すれば終わり、というものではありません。非常事態に役立てるためには、定期的な内容の見直しや情報の更新が欠かせません。たとえば組織編成の変更や経営陣の刷新など、事業に関連する情報は最新の状態にし、計画の有効性をチェックしておくことが重要です。
事業継続計画とは、継続的な活動です。会社が存続する限り、定期的な見直しが求められます。
見直しのポイント1)想定されるリスクの程度や種類
事業継続計画を見直す際にまず確認したいのは、想定される「リスク」です。策定から時間が経っている場合、外部環境に変化が生じ、たとえば新型コロナウイルスの流行など、策定当初は想定していなかった脅威が新たに生まれている可能性があります。事業に影響を及ぼすと考えられる事象や非常事態の種類、被害規模について改めて整理します。
新型コロナウイルス感染症の流行が長期化する中では、複数の災害が同時または復旧中に発生する「複合災害」のリスクも、追加で検討すると良いでしょう。
見直しのポイント2)緊急時に優先する業務
リスクの見直しに続き、事業継続計画で定めた中核事業を確認します。計画が対象とする事務所や拠点の範囲を広げるかどうかも検討します。
特に注意すべきなのは、製造ラインや業務プロセスが変更されているケースです。事業継続に必要な資源や、その代替方法を見直す必要があります。あわせて、新製品の展開、取引先の変化、法令改正など、さまざまな要因に対して事業継続計画が合致しているかどうかを評価します。
見直しのポイント3)BCP発動時の初動対応
非常事態が発生した時の初動対応を確認することも大切です。計画で定めた指揮命令系統が機能するのか、また各社員が非常事態での役割を理解しているのかをチェックします。
見直しのポイントは多岐にわたるため、自己診断チェックリストを活用し、自社の事業継続計画の不足点や改善点を確認するのも有効です。
リスク分析の精度を上げる!ビジネスインパクト分析
ビジネスインパクト分析(BIA:Business Impact Analysis)とは、災害などで業務やシステムが停止した場合の影響度を評価するための分析手法のことです。計画策定時に行っていないのであれば、計画を見直す際に改めてビジネスインパクト分析を行い、リスク分析の精度を向上させると良いでしょう。
ビジネスインパクト分析の目的
ビジネスインパクト分析を行うことで、非常事態における「必要となる資源」「優先する業務」「復旧にかかる時間」の三つを把握できます。
業務と関連するリソースの洗い出し
まず、非常事態で事業の継続に必要な業務と、その業務に対して求められるリソース(原材料、物流、システム、人員など)を洗い出します。業務ごとに必要なリソースを特定する時は、業務自体に存在するリスクを調査する「業務分析」と、周囲の環境からもたらされるリスクを調査する「環境分析」を行います。
「業務分析」では、人、システム、関係者(委託先)、拠点所在地を対象に、業務継続のために必要な資源を把握し、非常事態に手に入りづらそうな資源があれば、代替手段を検討します。「環境分析」では、建物、設備、周辺施設、社会インフラなど、事業を取り巻く環境に焦点をあて、存在するリスクを調査・分析。非常事態に業務を行う上での前提条件における課題を抽出します。
この二つの分析を用いることで、多角的に必要なリソースを検討できます。
事業継続に必要な事業の優先順位づけ
洗い出した業務について、複数の基準から非常事態における優先順位を決定します。災害時に、限られたリソースを効果的に割り振るために重要な部分です。優先順位の決定で用いる評価軸には、社会的インパクトや取引先などステークホルダーへの影響、会社が被る損失などを考慮します。
「最大許容停止時間」と「目標復旧時間」の算出
「最大許容停止時間」とは、非常事態で事業の停止を許容できる時間を指し、「目標復旧時間」とは、いつまでに事業を復旧させるかといった目標を示す時間を指します。これら二つは、時間軸という観点で優先順位の決定に関わります。
最大許容停止時間が短く、復旧難易度が高い業務は優先度が高くなります。また、目標復旧時間を決める際は、ステークホルダーへの影響など評価軸が大きく関わります。このように評価軸と時間軸の双方を組み合わせ、事業継続計画を見直します。
- 【参考】
- リスクコミュニケーション|日本の人事部
事業継続計画の訓練について
定期的な見直しとともに、事業継続計画の訓練を行い、従業員に非常事態での役割を定着させます。また、訓練を通じて、既存の内容に改善点や修正点が見つけることもできます。
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机上訓練:
議論形式でメンバーごとに役割を確認し、実際に活動できるかを試す -
電話連絡網/緊急時通報診断:
緊急事態発生後、速やかに従業員に連絡がいきわたるかを確認する -
災害・事故の対策本部、代替拠点の対策本部の立ち上げ訓練:
代替拠点を想定している場合は、実際に復旧要員を移動させ、その場所で事業の復旧が可能かを確認する -
バックアップデータを取り出し稼働させる、または復旧訓練:
非常事態を想定し、バックアップしている電子データや書類を使用できるように訓練を行う
事業継続計画全体の訓練をはじめから行うのではなく、日頃の防災訓練に加えたり、事業継続計画の一部を取り上げて訓練を実施したりする方法も有効です。
【まとめ】
- 事業継続計画は、事業を取り巻く環境変化や、外部要因の変化を踏まえ、少なくとも年に1回の定期的な見直しを行う
- 見直しでは、チェックリストを用いて確認したり、ビジネスインパクト分析を取り入れたりすることで、改善点を効果的に洗い出すことができる
- 訓練を通じて、実際の非常事態の際に事業継続計画が機能するか確認することが重要
事業継続計画は、一度作って終わりにしてはいけないんですね!
従業員の周知もそうだし、見直しや訓練を年間スケジュールに盛り込まないとね。まずはBCP運用事務局を設置してみようか
自分のことだけ集中したくても、そうはいかないのが社会人。働き方や人間関係に悩む皆さまに、問題解決のヒントをお送りします!