「配転命令権」行使の有効性判断が必要
人事異動に応じず、従来の職場に出勤する社員への対応
ジョーンズ・デイ法律事務所 弁護士
山田 亨
2. 社員から見た配転拒否の理由
社員が配転命令を拒否する理由は、配転命令の有効性要件に対応して、以下の通り分類できます。
(1)配転命令権の欠如
1. 職種・勤務地が限定されていると主張するもの(東京地判平成15年3月24日(東京サレジオ学園事件)、大阪地判平成16年1月23日(大京事件)等)
2. 社員が同意しなければ会社は配転できないと主張するもの(旭川地決平成6年5月10日(損害保険リサーチ事件)、前掲ソフィアシステムズ事件、東京地判平成20年10月30日(エクソンモービル事件)等)
(2)配転命令権の濫用
1. 業務上の必要性がないと主張するもの(東京地判平成22年2月9日(三井記念病院事件)、NTT東日本(首都圏配転)事件、東京地判平成14年4月22日(日経BP事件)、前掲山宗事件、東京高判平成12年1月26日(日本入試センター事件)等)
2. 不当な動機・目的をもってなされたものであると主張するもの(組合活動嫌忌について名古屋地判平成20年2月 20日(みなと医療生活協同組合(協立総合病院)事件))、東京地判平成20年3月10日(マガジンマウス事件)、大阪地判平成12年5月18日(大阪ビ ル管理事件)等、セクハラ告発への不利益処分について名古屋地判平成15年1月14日(交建設計事件)、退職の強要について大阪地判平成17年7月5日 (サンデーペイント事件)、東京地判平成14年9月30日(目黒電機製造事件)、大阪地判平成12年8月28日(フジシール事件)等)
3. 通常甘受すべき程度を著しく超える不利益であると主張するもの(前掲ケンウッド事件、前掲フットワークエクスプレス事件、病気休暇明けの女性教諭への配慮が不足しているとした鳥取地判平成16年3月30日(鳥取県・米子市(中学校教諭)事件))
実務的には、配当命令権濫用の判断基準に曖昧ないし流動的な部分があり、対立も生じやすいため、社員は上記(1)の主張に加え、上記(2)の1から3までのすべてを同時に主張するのが通常です。こうした濫用の主張を防止するため、
- (イ)対象社員に対して、配転命令に先立ち、配転が必要となる業務上の必要性について説明する。
- (ロ)配転の対象社員の選定について客観的な基準を設ける。基準を公表できる場合は対象社員に公表する。
- (ハ)家庭の事情等、対象社員から配転により生じると考えられる不利益に関する情報を聴取する。
- (ニ)質疑応答の機会を設けるなど対象社員の納得を得るために合理的な努力をする。
- (ホ)打診した配転命令に対して対象社員が不利益軽減措置を要望した場合、真摯に検討して回答する(対応可能な要望については対応する)。
- (ヘ)正当な団体交渉の申入れに対しては、真摯に応じる。
といった対策が考えられます。
会社の規模、対象社員の数、配転の原因等具体的事情によって、講ずるべき具体的対策を取捨選択することになります。
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