再注目! シェアードサービスによる
グループの生産性向上
三菱UFJリサーチ&コンサルティング
経営コンサルティング部[大阪] チーフコンサルタント 小松創一郎氏
1.なぜ今、再び脚光を浴びているのか
2000年前後に日本に上陸し、大企業を中心に浸透してきた「シェアードサービス」が、今再び注目されている。中堅企業や小売業・卸売業を中心に、これまであまり管理・間接部門改革やグループ横断的な管理運営に積極的でなかった企業においても、導入が進んでいる。
シェアードサービスが再度脚光を浴びつつある理由は、次の通りである。
1)人材不足、世代交代への対応
- シェアードサービス導入により、少人数で管理・間接業務を行えるようにし、余剰となった人員を事業部門へ
- 属人化してしまった業務のベテラン担当者が定年を迎えるので、導入を機会に業務の見える化を実施
2)働き方改革への対応
- 残業時間を減らすために、シェアードサービス導入に伴う業務改革により作業・処理時間の短縮を図る(業務の標準化・平準化、一括処理、起点入力、データ連携、業務フローの整流化などにより)
3)RPAやAIなどの活用から
- RPAの活用は、各社バラバラに導入するのではなく、シェアードサービスセンターなど業務の集中しているところに導入することが最も効果的。アウトソースしていた業務の内製化も可能に(情報流出などの防止へ)
4)グループとしての生産性向上の観点から
- 今後のより一層厳しい収益環境をにらみ、シェアードサービスによるグループ全体の生産性向上を図る
- 事業再編と連動して行うことでより効果を発揮。グループのあり方を見直すきっかけにも。企業買収後の経営統合にも有効
2.シェアードサービスとは何か
シェアードサービスとはグループの管理・間接機能を一つのところに集め、業務の標準化、一括処理などを図る仕組みである。
1)シェアードサービスの目的
シェアードサービスの目的の第一は、業務の集約化により生産性を向上させることにあるが、工数・コスト削減だけでなく、グループとしてのガバナンス向上、管理・間接業務の品質向上にも役立つ。
かつては、定型的な処理業務を中心にシェアードサービスは活用されていた。しかし、近年は業務範囲を拡大し、管理・企画支援業務を行っているところもある。過去にシェアードサービスを導入した企業において、業務範囲の見直しが行われる例も出てきている。
2)シェアードサービスの運営主体
シェアードサービスの運営主体については、既存の企業体(ホールディングス、グループ本社)の中で行う場合もあれば、別途シェアードサービス専用の会社を設立して行う場合もある。
法人として独立させた方がシェアードサービス会社と被サービス提供会社(サービスを提供される側の会社)との間で適度な緊張感を保って生産性を向上させやすくなるが、一方で関係が疎遠になって提供サービスの品質水準が低下したり、グループとしての一体感が希薄になったりする場合もあるため、運営主体をサービス提供先との関係においてどう位置づけるかを検討することは重要である。
なお法人格を独立させなくても、シェアードサービス会社と被サービス提供会社間で、明確なサービス内容と評価基準を伴った契約を結ぶことにより、提供サービスの生産性と品質を担保することが可能である。
3)シェアードサービスの導入イメージ
シェアードサービス導入イメージは、次のようなものになる。各社それぞれで似たようなことを行っている業務、重複している業務を一つの部門、もしくは法人に移管する。すべての業務をシェアードサービスに移管するのではなく、移管するにふさわしい業務を、業務の特性、ボリューム、集約効果などをもとに選別して行う。経営に直結する企画業務は、移管には向いていない。
3.新規導入の進め方
新たにシェアードサービスを導入する場合は、現状把握、分析、改革を行う設計図の策定、改革の実施と、順を追って進めることが必要だ。
はじめからすべての業務を移管するのではなく、段階を踏んで、導入対象業務や導入対象企業を増やしていく場合もある。
4.導入のポイント
筆者が支援に携わった経験からすると、導入時には、次のようなポイントが挙げられる。
- 短期的なコスト削減のみの目的では頓挫する。導入は中長期的な取り組み(永続的な業務効率の向上(体質改善)、ガバナンス強化、教育、管理部門の機能の分化・専門化、深化)
- 業務を集約しただけでは、生産性は向上しない。導入時に業務改革を行い、最適化、標準化を行うことが必須。
- 標準化を行うためには、情報システムを統一する必要がある。バラバラでは効率化しない。
- 業務の特性に応じた改革・改善策を検討。
- 不要な人材の受け皿、下請け的な位置付けでは駄目。業務処理のエキスパート集団としての位置付け、評価を。
- 被サービス提供会社との契約は人件費相当ではなく、サービスの付加価値相当を。互いの緊張感が必要(ただし、導入当初は人件費相当額でも可)
- 導入当初から対象業務を広げ過ぎない。
- 導入はトップダウンで進める。ボトムアップでは進まない、もしくは、最適なものにはならない。
- システムはグループ全体で統一する。
- 業務の削減効果が最も大きいのは、グループ本社。
- グループ会社において、削減効果を発揮するのであれば、グループ会社の管理・間接機能のほとんどを引き受けなければ、大きな効果は上がらない。
5.グループ経営上の効果
シェアードサービスの導入には図表3のような効果があり、グループ経営として、ひとつ上のステージに上がるために必要なものである。シェアードサービスは、グループ各社を支える経営管理プラットフォームの役割を果たす。
導入後、ホールディングスやグループ本社は経営・企画業務に特化、シェアードサービスセンターは事務処理とガバナンス向上に専念、グループ子会社は事業運営に注力することで、グループ全体での機能分担がより深化する。これにより、グループ全体の持続的な成長が、より迅速に無駄なく図れるようになる。
シェアードサービスは、決して大企業だけのためのものではなく、中堅企業においても今後の事業拡大、成長のためには、経営の足固めとして必須である。期待する効果、目的を明確に認識したうえで、息の長い取り組みを永続的に行うことが大切である。持株会社制やグループ経営管理制度と合わせて導入することにより、より効果を発揮する。
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