第33回 働く人と組織を守るメンタルヘルス
~創成に向けた共生と絆を目指して~
メンタルヘルス大会
2011年8月29日(月)に、公益財団法人 日本生産性本部 メンタル・ヘルス研究所が主催する、第33回「メンタルヘルス大会」が開催されました。
第33回「メンタルヘルス大会」今回のメインテーマは、「働く人と組織を守るメンタルヘルス~創成に向けた共生と絆を目指して~」。
大会当日は、多くの企業の人事・安全衛生担当者のほか、労働組合や健康保険組合の担当者が出席し、熱心に講演に耳を傾けていました。本レポートでは、当日行われた講演の中から2本を取り上げ、その模様をダイジェストでお伝えいたします。
日時 | 2011年8月29日(月) 9:30~18:30 |
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場所 | JA共済ビル カンファレンスホール(東京・平川町) |
主催 | 公益財団法人 日本生産性本部 メンタル・ヘルス研究所 |
【講演】「うつ病治療の最新事情」
<講師>
日本認知療法学会 理事長
国立精神・神経医療研究センター 認知行動療法センター 所長 大野 裕 氏
【取組事例・パネル討議】「活力ある職場づくりのためのメンタルヘルスの課題と方策」
<パネリスト>
(株)ノーリツライフプランサポート室 室長 森下 文昭 氏
パイオニア労働組合 中央執行委員長 森 俊介 氏
<コーディネーター>
メンタル・ヘルス研究所 根本 忠一 氏
講演「うつ病治療の最新事情」
認知療法・認知行動療法を使ってこころのスキルアップ
本講演では、臨床精神医学、認知療法の専門家である日本認知療法学会理事長 国立精神・神経医療研究センター 認知行動療法センター所長の大野裕氏が、「認知療法・認知行動療法」を軸としたうつ病治療の取り組みについて、語りました。
「うつ病」の発症は、職場、家庭、プライベートなどでストレスになる「きっかけ」が重なることから始まるそうです。その際、周りからのサポートが十分に得られないと脳の働きが落ちて、物事を悲観的に考えるようになり、「ストレスが現実以上に大きく思える」「サポートがあっても目に入らない」状況に陥ってしまい、症状が進んでいくといいます。
治療法としては、「環境調整」(環境を調整し、ストレスを減らして、周りからのサポートが適切に得られるようにする)、「薬物療法」(薬を使って脳の働きを改善する)、「精神療法(認知療法)」(精神療法を使って、気持ちや考え方の整理をする)の三本柱があるとのこと。
「うつ病の発症から症状が進むまでには、人によってさまざまな原因や背景があります。重要なのは、その人に合った対応をすること。周りからのサポートに加え、“セルフケア”も大事です。そこで、役に立つのが、認知療法・認知行動療法だと思っています」と大野氏。
「認知療法・認知行動療法」とは、ものの考え方・うけとり方に目を向けて、気持ちや行動をコントロールすること。いま、うつ病の予防や復職支援などで、この療法を利用する企業が全国的に増えているそうです。
次に、「認知療法・認知行動療法」の具体的な内容――「こころのスキルアップ・トレーニング」プログラムについて紹介がありました。以下の四つがポイントだといいます。
- 行動活性化………生活のリズムを整え、やりがいのあること・楽しいことを増やしていく
- 問題解決のコツ…問題解決がきちんとできるようなスキルを伸ばしていく
- 人間関係のコツ…自分の気持ちや考えを相手にしっかりと伝えられる力を伸ばしていく
- 思考チェンジ法…自分の考えにしばられすぎず、柔軟な考え方ができるようにしていく
これらのスキルを身につけることで、気持ちが楽になり、ストレスにもうまく対処できるようになるとのこと。
また、「認知療法・認知行動療法」では、うつ病の方の不安がどこにあるのかについて、周りの人たちが“一緒に確認すること”も重要だといいます。原因が分かれば対処するための手立てを考えることができますが、落ち込んだり不安になったりしている人は、それができないため、人事・労務担当者の皆さんには、そこを意識したサポートをお願いしたいと、大野氏は語っていました。
社員の「うつ病」対策のひとつとして、「認知療法・認知行動療法」への理解が深まった講演となったのではないでしょうか。
取組事例・パネル討議
「活力ある職場づくりのためのメンタルヘルスの課題と方策」
まずは、パネリストお二人が、それぞれの取り組み事例と今後の課題について、個別に発表を行ないました。最初は、(株)ノーリツライフプランサポート室 室長の森下文昭氏。もともとメンタルヘルスに関して専門ではなかったという森下氏が、メンタルヘルス問題に直面することになったのは、2005年のことだそうです。当時はメンタル疾患休業者がいても、個別に対応し、復職支援の仕組みなどは未整備だったとのこと。また、メンタルヘルスに関する取り組みについて、部門長によって理解や協力の度合いに差があったそうです。一方で、休業する社員数は増加傾向。ノーリツでは、メンタルヘルス対策が急務と考え、さまざまな取り組みを行なっていくことになります。
具体的には、新入社員、管理職などの「階層別」にメンタルヘルスの研修を行なったり、社内に向けて情報を発信したりする、一次ケア(疾病予防)。超過勤務の社員と産業医の面談を実施したり、外部に相談窓口を設けたりする二次ケア(早期発見)など。他にもさまざまな取り組みを行ってきましたが、一番力を入れてきたのは、職場復帰の手引きを導入し、復職した場合もしっかりサポートすることで再発率の低減を目指す、三次ケア(再発予防)だそうです。
同社のメンタルヘルス対策に関する取り組みはかなり充実していますが、復職後も休職を繰り返す社員がいるなど、現在も引続き課題は多いそうです。そのためメンタルヘルスに関する調査や、休業する社員との定期的な面接などを実施するなど、今後も取り組みを強化していくとのことでした。
続いては、パイオニア労働組合 中央執行委員長の森 俊介氏による報告。2004年に組合員の意識調査を行なったところ、「部門を超えた折衝・調整をしたがらない」「ものが言いにくい」など、いわゆる「大企業病」のような結果が出たそうです。そこで、同組合では、組織風土課題の解決に注力しました。2005年に「会社を元気にする活動」をスタート。2006年には、「作らない」「放置しない」という、メンタルヘルスに関する基本方針を設定しました。セルフケアやラインケアを促して予防に努めるほか、早期の発見や治療に繋げるための専門家によるケア、スムーズな復職に向けての仕組みの整備などを行なったそうです。
2007年には、「メンタルヘルス職場復帰プログラム」を作成し、運用開始。その後も組織風土に関する課題について、さまざまな取り組みを行なっているそうです。労働組合としては、会社の再建が急務である環境下、一人ひとりが安心して元気に働けるために、組合員の「よろず相談所」として機能するこを目指し、また、職場を元気にするために、経営再建と組織風土改善にむけた取り組みを行なっているといいます。社員の幸せや希望について、真剣に考えていこうという同組合の運動方針。報告の中にあった「希望を持ち、前向きに取り組める環境こそ、人間らしく心身ともに健康でいるための要素」という言葉が大変印象的でした。
続いては、会場の参加者から質問を受け付け、メンタル・ヘルス研究所の根本忠一氏がコーディネーターとなって、パネリストお二人にご回答いただく「パネル討議」。本レポートでは詳細な記述は行ないませんが、お二人の質問に対して真摯に回答される姿勢、参加者が熱心に耳を傾けている様子が大変印象的でした。2時間におよんだ、今回のパネル討議。「良い会社を作っていこう」「社員の力を十分に発揮できるようにしよう」というお二人の考えがダイレクトに伝わってくる、大変熱いセッションとなりました。
3月の震災から早くも半年が経過しましたが、未だに予断を許さない状況が続いています。働く人たちのメンタルヘルスをケアしていくために、いま何をすべきで、どのように備えておくべきなのか――。本大会に参加された方々は、さまざまな気づきを得られたのではないでしょうか。
『日本の人事部』では今後も、人事担当者としてぜひ聴いておきたい講演、参加しておきたいセミナーなどのレポートをお届けしていく予定です。次回のイベントレポートを、どうぞご期待ください。