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【ヨミ】ハタラキカタカイカク ワークライフバランス 働き方改革、ワーク・ライフ・バランス

「ワーク・ライフ・バランス」という言葉は、世の中にすっかり定着しました。そのうえで近年は、「働き方改革」の重要性も叫ばれています。平成30年7月6日には「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」が公布されるなど、いま企業は、働き方改革とワーク・ライフ・バランスの実現に向けて、待ったなしの状況にあるといえます。ここでは、どのようにして実践していけばいいのか、具体的な施策や法改正の内容、今後の見通しなどについて解説します。

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1. 働き方改革、ワーク・ライフ・バランスとは

ワーク・ライフ・バランスが求められてきた背景

ワーク・ライフ・バランスとは、その名の通り、「仕事(ワーク)と生活(ライフ)の調和(バランス)」を意味します。ここで言う「生活」とは、人生における仕事以外の部分のこと。例えば、育児や介護、趣味、学習、休養、地域活動などがこれにあたります。

仕事は生活の糧として欠かせないものであり、生きがいや人生の目標にもつながります。一方、仕事以外の部分も生活の重要な礎であり、安定すればより人生を楽しむことができます。この両輪が成り立ってこそ、人生は充実するのです。しかし、現実には仕事と生活の両立が難しく、どちらかに偏重している人が多いのも事実です。

例えば、仕事自体に安定性がなく経済的な自立が難しいため、仕事以外の部分に時間をかける余裕がない。子育てや介護に追われていて、仕事との両立が難しい。このように個人が抱える問題が浮き彫りとなってきたのは、働き方の二極化が進み、社会が人々の意識や社会構造の変化に適応できなくなりつつあることが理由の一つといえるでしょう。

これらの問題を解決し、人々が仕事と生活の調和を実現することは、企業にとっても重要な課題です。社員一人ひとりの「仕事と生活の調和」が実現すれば、社員の意欲が高まり、最大限にその能力を発揮することができるからです。そういう意味でも、ワーク・ライフ・バランスの実現は、これからの企業経営において不可欠といえるでしょう。

ワーク・ライフ・バランスで期待される効果

ワーク・ライフ・バランスが実現すれば、以下のような効果を期待できます。

  • 病気や退職などのリスクの回避
    長時間労働の改善により、労働者の健康を維持し、知識や経験を持った人材の離職を防ぐことができます。
  • 生産性向上
    仕事以外の生活の充実により、仕事へのモチベーションがアップします。また長時間労働の改善により、限られた時間内での業務効率を考え、より生産性が向上します。
  • キャリアアップ
    仕事以外の生活においてさまざまな経験や資格の取得が可能になり、個人の能力向上につながります。
  • 少子化の緩和
    長時間労働の改善、仕事と生活の両立を促す社会的基盤の整備によって、「子どもを持つ」という新たな選択肢が増えることになり、少子化の進行が緩和されることが期待されます。
  • 地域社会の活性化
    政府が想定する「新しい公共」として、行政だけでなく、市民やNPO、企業などが積極的に教育や子育て、まちづくり、介護、福祉など複数の分野で活躍することが期待されます。
  • 労働人口の確保(多様な人材の確保)
    女性や高齢者など、これまでさまざまな事情で仕事と生活を両立できていなかった人たちの就業が可能になり、多様な人材を確保することができます。

一方で、ワーク・ライフ・バランスにはデメリットもあります。ワーク・ライフ・バランスは一朝一夕に実現できるものではなく、取り組みを推進していくことが大変難しいからです。効果的な対策を考えようにも、各企業の組織形態、従業員の構成はそれぞれ異なるほか、各人が考えるワーク・ライフ・バランスの定義も同一ではありません。そのため、評価・処遇など含めた施策を一律に行うことに限界があるのです。

ワーク・ライフ・バランスを早くから実践してきた欧州の企業では、ダイバーシティ(多様性)の実現のために行われる経営戦略の一つとして、ワーク・ライフ・バランスを捉えています。長年にわたって長時間労働を続けてきて、さまざまな事情から急に改革に手を付けるようになった日本とは、その背景が異なるのです。両者の土壌の差をしっかりと認識した上で自社内の現状把握に努め、問題点の洗い出しから経営者・管理者の意識改革、現場のマネジメントの底上げ、職場の環境づくりなど、さまざまな課題を乗り越えていくことが企業には求められます。

ワーク・ライフ・バランスを実現するために求められる「働き方改革」の推進

ワーク・ライフ・バランスを実現するには、働き方自体を改革しなければなりません。具体的には、政府が理想としている下記の項目を満たす改革の推進が必要です。

  1. 就労による経済的自立を可能にする
  2. 健康で豊かな生活のための時間を確保できる
  3. 多様な働き方・生き方が選択できる

これらは、単純に残業を少なくして労働時間を削減するだけでは実現できません。さまざまなアイデアによる生産性の向上が必要であり、その取り組みを実行するため、企業にとっては財源の確保も重要な課題です。個々の事情や価値観に応じて多様な働き方を選択できる社会の基盤を作るために、一気通貫して働き方改革を行う必要があるのです。

2.働き方改革、ワーク・ライフ・バランスの進め方

「ワーク・ライフ・バランス」の実現に向けて、現在、政府主導で「働き方改革」が進められています。政府が最大のチャレンジと謳っている「働き方改革」の内容には、大きく三つの柱が立てられています。

賃金などの処遇の改善

雇用形態によって処遇に差異があることは、働く人のモチベーションを下げる要因となります。例えば、「データブック国際労働比較2016」(独立行政法人労働政策研究・研修機構)を見ると、フルタイム労働者の賃金に比べて、パートタイム労働者の賃金水準は欧州では7~8割程度ですが、日本では56.6%と6割を切っています。

賃金だけでなく、賞与や定期的な昇給の差も際立っています。日本企業の83.3%が正規雇用者に賞与を支給していますが、パートタイム労働者にも支給しているのは37.3%と低い割合です。定期的な昇給に関しても、正規雇用者には66.5%の企業が実施しているのに対して、パートタイム労働者にも実施している企業は27.8%でした。この状態が続けば、本人の意思に反して正規雇用者になれなかった人のモチベーションの低下は避けられないでしょう。

しかし、このような状況が改善されれば、労働意欲は向上し、労働生産性の向上にもつながっていくと考えられます。処遇が改善されれば経済的な自立も可能となり、ライフスタイルにおける選択肢が増えることも期待できます。

時間や場所などの働き方の制約の克服

働き方に時間や場所の制約があれば、自ずとライフスタイルの選択肢は狭くなります。とくに長時間労働は、「ワーク・ライフ・バランス」の実現を大幅に阻害します。社員の健康を害するだけでなく、女性や高齢者の就労参加や男性の家事参加の足かせにもなるでしょう。

しかし、この制約が克服されれば、労働人口が減少するなか、多様な人材がライフスタイルに合った働き方を選択でき、経営者側も人材を確保することが可能になります。

多様なラインでのキャリアの構築

日本の労働者の多くはかつて、終身雇用を前提としたキャリアを築いてきました。しかし、この単線型のキャリアパスでは、自身のライフステージに合った働き方をすることもままなりません。現在は、100人いれば100通りの事情や価値観があり、そのライフステージもじつにさまざまです。多様な働き方を実現するには、それを受け入れる労働市場や企業慣行が必要です。従業員それぞれが自分に合ったキャリアデザインができてこそ、潜在的な労働力がその価値を発揮し、さらには日本全体の労働生産性の向上へとつながるのです。

3. 働き方改革、ワーク・ライフ・バランス推進に向けての実務

同一労働同一賃金など非正規雇用の処遇改善

「働き方改革」の中でも、雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保を目的に推し進められているのが「同一労働同一賃金」などの非正規雇用者の処遇改善です。「同一の価値とみなされる労働には同一の賃金を支払う」という原則で、外資系企業などで導入が進んでいますが、日本企業には長年にわたって正社員の解雇が容易ではなく、年齢と共に給与が上がるシステムを採用している企業が多いため、そのまま、同一労働同一賃金を実施するのは難しいという声もあります。

実務としては、平成30年6月に「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」が成立し、パートタイム労働法、労働契約法、労働者派遣法の改正が行われ、同一労働・同一賃金が導入されることになりました。施行は平成32年4月1日ですが、中小企業におけるパートタイム・有期雇用労働法の適用は、平成33年4月1日となります。主な内容は以下の通りです。

(1)不合理な差別の禁止
  • 同一企業内で正規雇用労働者と非正規雇用労働者(パートタイム労働者、有期雇用労働者、派遣労働者)との間において、個々の待遇ごとに不合理な待遇の差を設けることが禁止となります。
  • 有期雇用労働者について、正規雇用労働者とⅰ職務内容、ⅱ職務内容・配置の変更範囲が同一である場合には「均等待遇の確保」をしなければなりません(義務化)
  • 派遣労働者について、ⅰ派遣先の労働者との均等・均衡待遇、ⅱ一定の要件(同種業務の一般の労働者の平均的な賃金と同等以上の賃金であることなど)を満たす労使協定による待遇のいずれかを確保しなければなりません(義務化)
(2)労働者に対する待遇に関する説明義務の強化

非正規雇用労働者は、自分の待遇につき、「正社員との待遇差の内容や理由」などの説明を事業主へ求めることができます。 事業主は、説明を求められた場合は説明をする義務があります。
※(1)(2)ともにガイドラインで明確に示します。

(3)行政による事業主への助言・指導等や 裁判外紛争解決手続(行政ADR)

紛争となった場合は、都道府県労働局において、無料・非公開の紛争解決手続きを行います。「均衡待遇」や「待遇差の内容・理由」に関する説明についても、行政ADRの対象です。
※行政ADRとは、事業主と労働者間の紛争を、裁判をせずに解決する手続きのことです。

同一労働同一賃金の導入が決定した現在も、現場には大きな課題が残されています。それは、非正規雇用職員の賃金を引き上げるための財源の確保です。各企業がその資金を捻出しなければならず、正規雇用社員からカットするのか、会社内部に留保している資金を使うのか、大きな選択を迫られています。

この問題について、一足早く決断をしたのが日本郵政グループです。日本郵政は、引っ越しを伴う異動のない一般職の正社員約5000人を対象に、2018年10月から住居手当の支給額を年10%ずつ10年かけて減らすことを決めました。これは平成29年に東京で、平成30年には大阪で、正社員のみに支給される手当は一部違法との判決が下されたことによるものと推測されます。

また、あまり知られてはいませんが、同じように非正規雇用職員の割合が多いのが、公務員です。平成28年4月時点で、6ヵ月以上勤務する非正規雇用の地方公務員(特別職や臨時職員も含む)は約64万3千人といわれています。公務員においても、一般職の非常勤職員に対して期末手当(賞与)が支給できるようにする改正地方自治法が平成29年5月に成立しています(平成32年4月に施行)

長時間労働の是正

「働き方改革」の目玉の一つが「長時間労働の是正」です。高度経済成長期には、適切な労働時間や業務効率などを度外視し、結果を出すことのみに注力する日本企業が多く存在しました。しかし時代が流れ、その状況が変化。最近では、大手広告代理店の新入社員、長時間労働が原因でうつ病になり自殺した事件などをきっかけに、多くの企業で長時間労働をなくそうする動きが活発化しています。

国会でも長時間労働の是正に向け、「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」が成立しました。なかでも、労働基準法や労働安全衛生法の改正により、罰則つきの時間外労働の上限規制を設けたことは、長時間労働の対策の大きな柱といえるでしょう。

もともと、労働基準法により労働時間は「1日8時間、週40時間」と規定されています。しかし、あらかじめ労働者と使用者で書面による協定を締結していれば、法定の労働時間を超えての時間外労働(残業)や、法定の休日に労働させることも可能です。この協定は労働基準法第36条に規定されていることから、「36(サブロク)協定」と呼ばれます。これまでも時間外労働には、厚生労働省の告示で「月45時間、年360時間」との基準がありましたが、労使で結ぶ36協定の「特別条項」により、上限を超えることができる抜け道がありました。これによって、労働時間の基準を超えても罰則規定はありませんでしたが、改正によって、以下のとおり罰則規定が設けられます。

【原則】時間外労働の上限は、「月45時間、かつ、年360時間」
【特例】臨時的で特別な事情でも(特別条項を加えた36協定があっても)、時間外労働の上限は休日労働を含めず「6ヵ月まで、年720時間」。休日労働を含めた場合は「月100時間未満、2~6ヵ月の平均が80時間未満」

大企業は平成31年4月1日から、中小企業は平成32年4月1日から適用となり、業務内容の特殊性から、自動車運転業、建設業、医師などでは、5年間の猶予期間が設けられています。そのため、従来の長時間労働が即時に是正される効果は期待できません。

このほかにも「長時間労働の是正」から取り残される職業として、教員が挙げられます。教育現場では、教科指導からクラブ活動、学校行事に保護者対応など、多岐にわたる業務が教員には求められます。そのため、勤務を時間で管理することが必ずしも適切でない特殊性があるとして、公立学校の教育公務員の勤務形態の取り扱いは、法律で別途規定されています。具体的には、時間外勤務手当および休日給が支給されず、給与月額の4%が教職調整額として支給される、というものです。この規定により、教員の長時間労働はグレーゾーンとなっています。この状況を受け、教員の長時間労働是正のために夏休みの短縮など独自の対策を行う地方自治体も出てきています。

長時間労働の是正には、大きな課題もあります。抜本的な改革を行わないで、単に残業規制をしているだけでは、逆に労働者を苦しめることもあるからです。仕事量は変わらないのに、労働時間だけを削減しようとすると、自宅に持ち帰って仕事をしなければならなくなることは容易に想像がつきます。これでは、ワーク・ライフ・バランスを進める改革として、本末転倒と言わざるを得ません。長時間労働の是正は、計算上ではなく、本当の意味での実質的な「労働生産性の向上」を伴う必要があるのです。

労働生産性の向上

「働き方改革」の内容の一つに「賃金引き上げ、労働生産性の向上」があります。「労働生産性」とは一般的に、投入した労働量(労働者一人あたり、もしくは1時間あたり)に対して、どれほどの労働の成果(付加価値)を出したのかを表す指標となり、以下のような計算式で表されます。

労働生産性 = 付加価値 ÷ 労働量

※労働量は、労働者一人あたりの成果を求める場合は「人数」、時間あたりの成果を求場合は「時間」で考えます。
※付加価値とは、新たに企業が生み出す金額的な価値のことです。

上記の「労働生産性」は業務の効率と類似する考え方です。国内企業を比較する場合は問題ありませんが、海外諸国との国際比較をする場合は、「労働生産性」の算出に異なる計算方式が用いられます。ここでの「成果」はGDP(国内総生産)とされ、就業者一人あたりの国内総生産、就業1時間あたりの国内総生産という定義になります。「国民経済生産性」とも呼ばれ、以下のような計算式で表されます。

労働生産性 = GDP(国内総生産) ÷ 就業者数もしくは就業時間(就業者数×労働時間)

なお、「労働生産性の国際比較2017年版」(公益財団法人日本生産性本部)をみると、OECDデータに基づく日本の時間あたりの労働生産性は46.0ドル(4,694円)で、OECD加盟35ヵ国中20位の結果となっています。また、日本の就業者一人あたりの労働生産性は81,777ドル(834万円)で、イギリスやカナダをやや下回って、OECD加盟35カ国中21位という結果です。ただし、この比較については、各国の一人あたりのGDP換算が異なる事情もあり、実情を正確に反映していないという指摘もあります。

このような計算式での「労働生産性」も一つの判断基準になるかもしれませんが、重要なのは、実際の働く現場において、労働者自身が「労働生産性」が上がったと肌で感じていることです。厚生労働省は平成30年3月に作成したパンフレットで、生産性向上の事例集を作成し、周知に努めていますが、下記はその一例です。

  • コンサルタントによる業務フローの見直しとシステム導入により、業務効率を図る
  • ホームページに見積もり作成システムを掲載し、営業コストの削減に活用する
  • 顧客データ管理のクラウド化と給与計算システムの導入により、管理業務を効率化する
  • 機材の導入により業務の負担を軽減し、創出された時間と人員を他の業務に再分配する
  • 業種別中小企業団体において、作業手法のマニュアル化を行う

上記のような各企業の取り組み自体が、労働生産性向上のヒントとなり、実際の現場を変えていくかもしれません。また、一定の条件を満たす中小企業・小規模業者には業務改善助成金の支給もあり、労働生産性の向上の後押しとなるでしょう。

テレワーク

働き方改革の内容の一つに、「柔軟な働き方がしやすい環境整備」があります。その中の具体的な施策として挙げられているのが、「テレワーク」です。テレワークとは、情報通信技術(ICT)の活用により実現した、時間や場所に拘束されない柔軟な働き方のこと。リモートワークと似ていますが、テレワークはフリーランスなど業務委託の業務形態も含まれており、雇用を前提としているリモートワークよりも広い意味で使われます。おもに三つの形態があります。

・在宅勤務
自宅を就業場所とし、通勤を必要としないため、時間的、身体的負担が軽減されます。
モバイルワーク
就業場所をその時々で選びます。移動中の車内や、顧客先、カフェ、公園など、場所にとらわれずに働くことができ、業務効率化に役立ちます。ノマドワークといわれることもあります。
サテライトオフィス
オフィス以外の場所にスペースを設け、サブオフィスとしてそこで就業する働き方です。通勤に便利な場所もそうですが、最近では、業務に集中できる環境という意味で、田舎や海辺など自然環境の中にワーキングスペースを設ける企業も出てきています。

テレワークには、ワーク・ライフ・バランスの実現のほかにも、さまざまなメリットがあります。「集中力が増して、仕事の効率が良くなった」「自律的に仕事を進めることができる能力が強化された」「離れているため、職場と密に連携をとるようになり信頼感が強くなった」「優秀な人材の確保や雇用継続につながった」「通勤費やオフィス維持費などを削減できた」「資料の電子化や業務改善の機会となった」など、企業と働く人の双方がさまざまな効果を実感しているようです。
 
一方で、課題もあります。テレワークを導入する際はまず、就業規則の変更が必要となります。また、運用する上で、勤怠管理や業務のマネジメントなど、管理職が新たに学ぶ必要のある項目も多く存在します。そのため、厚生労働省や自治体では、相談窓口を設けるなど、サポート体制を整えています。厚生労働省ではテレワークの導入に関するさまざまな相談を無償で受けることができ、テレワーク相談センターでは、専門家を3回まで無償で派遣しています。また、テレワークの活用によりワーク・ライフ・バランスの実現に成果を出している企業の表彰や、助成金制度も整備しています。

さらに昨年からは、総務省もテレワーク推進に向けて積極的な動きを見せています。2020年東京オリンピックの開会式にあたる7月24日を「テレワーク・デイ」と名付け、テレワークの全国一斉実施を呼びかけるなど、企業、団体を巻き込んでの運動を展開。2018年は実施団体が1260にも及ぶなど、広がりを見せています。

副業・兼業

「テレワーク」とともに、「柔軟な働き方がしやすい環境整備」の内容として挙がっているのが、「副業・兼業」の解禁です。「副業」とは、本業以外に持っている別の仕事のことで、本業よりも重点を置かずに低い労働力で仕事を行います。「複業」も本業以外の仕事のことですが、本業と同じような比重で仕事をします。もともと、副業・兼業への法的規制はなく、過去に争われた裁判においても、制限が許される場合を除き、基本的に、労働時間以外の時間をどのように利用するかは労働者の自由とされています。

日本政府は、「働き方改革」の中で副業・兼業を促進する方向を打ち出しました。厚生労働省は平成30年1月にモデル就業規則の労働者の遵守事項を改定し、これまでの禁止事項を削除。「労働者は、勤務時間外において、他の会社などの業務に従事することができる」と新設しています。

副業・兼業には、さまざまなメリットがあります。まずは、副業・兼業により、自分がやりたい、興味のある仕事に就けるということです。本業である現在の職務から離職せず、他の仕事に就くことができ、今までにないスキルや経験を得ることができます。それは同時に、将来の起業や転職に向けた準備、定年後の老後の人生設計が今のうちからできる、ということです。また、収入の確保という側面もあります。

しかし、本業の雇用主である企業側からすると就業時間の把握や健康管理の取り扱いが難しくなること、また、本業である自社の業務がおろそかになるという懸念や情報漏えいのリスクなどから、多くの企業が副業・兼業を認めずに禁止しています。同じ分野での副業・兼業であれば、本業との競業や利益相反の可能性も考えられます。

ただし、副業・兼業は企業側にもメリットがあります。副業・兼業を通じて、社員が社内では得られない知識やスキル、人脈を獲得し、それを社内で生かすことができれば、業務改善や新たな事業機会につながることもあるでしょう。転職を阻止することになれば、優秀な人材の流出を回避できますし、場合によっては、新たな人材の獲得にもつながるかもしれません。

副業・兼業を認めるにあたっては、注意しなければならないこともあります。前述した就業時間の把握、健康管理という問題です。労働者自身の管理だけではなく、企業としても目を向ける必要があります。また、税金や社会保障の点でも注意が必要です。給与所得以外で年間20万円を超える収入があれば、確定申告が義務付けられており、申告しなければ脱税となります。社会保障においても、1週間の所定労働時間が短い業務での兼業であれば、雇用保険などの社会保障の適用がない可能性もあります。いずれにせよ、労働者自身だけでの管理とならないよう、注意が必要です。

子育て・介護と仕事の両立

ワーク・ライフ・バランスの実現に向けて、大きな壁となるのが、子育てや介護と仕事の両立です。特に子育てや介護の担い手には女性が多く、両立が難しいため、仕事を諦める人が少なくありません。このような現状を打開すべく、子育てや介護を抱えた人も仕事ができるよう、平成29年3月に改正育児介護休業法が公布され、10月から施行されました。以下は、そのために改正された法律のポイントです。

(1)育児と仕事の両立
  • 最長2歳まで育児休業が可能
    1歳6ヵ月後も保育所などに入れない場合、会社に申し出れば最長2歳まで育児休業の再延長が可能になりました。また、育児給付金の給付期間も2歳までとなりました。これは実効性のある制度といえ、育児と仕事を両立させることができる人が増えるでしょう。
  • 育児休業などの制度告知、育児目的休暇の導入の努力義務
    事業主は、働く方やその配偶者が妊娠、出産したことなどを知ったときは、その方に個別に育児休業などの制度知らせる努力義務が創設されます。また、未就学児を育てながら働く方が子育てしやすいように、育児目的で利用できる休暇制度を設ける努力義務も創設されます。

しかし、努力義務というあいまいなラインであるため、事業主ごとの判断で大きく分かれる可能性があります。また、このほかにも平成29年1月1日施行で改正されたポイントがあります。

  • 有期契約労働者の育児休業の取得要件の緩和
  • 子の看護休暇の取得単位の柔軟化(看護休暇につき1日から半日単位で取得可能)
  • 育児休業などの対象となるこの範囲の拡大
  • マタハラパワハラなどの防止措置義務の新設

改正を繰り返しながら、その都度必要である制度が盛り込まれるような流れとなっています。

(2)介護と仕事の両立

平成29年1月1日施行の改正育児・介護休業法のポイントです。

  • 介護休業の分割取得
  • 介護休暇の取得単位の柔軟化(介護休暇につき1日から半日単位で取得可能)
    これまで介護を必要とする対象家族一人につき通算93回まで原則1回に限り取得可能でしたが、介護の現状を踏まえて、休業を上限3回まで分割で取得できることになりました。
    また、取得単位も1日から半日とし、介護休暇取得が容易に行えるよう、そのハードルを下げています。
  • 介護のための所定労働時間の短縮措置など
    事業主は、介護を必要とする対象家族一人につき、(1)所定労働時間の短縮措置 (2)フレックスタイム制度 (3)始業・終業時刻の繰上げ・繰下げ (4)労働者が利用する介護サービスを利用する場合、労働者が負担する費用を助成する制度、これらに準じる制度のいずれかの措置を選択して行わなければなりません。また、これまで介護休業は通算して93日まででしたが、介護休業とは別に、利用開始から3年の間で2回以上利用が可能となります。
  • 介護のための所定外労働の免除(残業の免除)
    新設された制度です。介護を必要とする対象家族一人につき、介護終了まで残業の免除が受けられるようになりました。

4.働き方改革に関する法律

働き方改革関連法律(目的・内容・ポイント)

ここまで「ワーク・ライフ・バランス」の実現のために、政府が推進する「働き方改革」の流れや、実務について解説してきました。その中で折りに触れて、登場したのが「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」(以下、働き方改革関連法律とする)です。

この法律は、多様な働き方を選択できる社会を実現する「働き方改革」を推進するために、厚生労働省が法案を作成して国会に提出し、平成30年6月29日に参議院本会議で可決しました。「関係法律の整備」となっていることから、単独の法律ではなく、八つの労働に関する法律の改正を行う法律となっています。即ち、雇用対策法労働基準法、労働時間等設定改善法、労働安全衛生法、じん肺法、パートタイム労働者法労働契約法労働者派遣法の改正法なのです。

この章では、「働き方改革」の中心となる「働き方改革関連法律」の概要、とくに改正のポイントを絞って解説します。なお、前章で触れた「時間外労働の上限規制の導入」と「同一労働・同一賃金」は割愛します。

(1)割増賃金率(50%以上)の中小企業への猶予措置の廃止
そもそも、法定時間外労働に支払われる賃金は割増しになります。週40時間を超えた場合に支払われる残業代は、通常の賃金の25%増しです。また、月60時間を超える残業代は50%増しとなります。これまで中小企業では、50%増しの割増賃金を従業員に対して支払っていませんでした。国が中小企業に対して、猶予措置を取っていたからです。しかし今回の改正で、平成35年4月1日からこの猶予措置が廃止となり、月60時間以上の時間外労働には、同じく中小企業も50%増しの割増賃金を支払う必要があります。
(2)一定日数の年次有給休暇の取得の義務化
労働者の権利として、半年以上働いている場合は有給休暇が与えられます。これまで、この有給休暇の取得は労働者本人に任せるというスタンスでした。しかし、実際の取得率をみれば、平成27年は48.7%と、近年5割を下回るような状況です。企業に対して取得の促進だけでは実効性がないため、今回の法改正では、有給休暇を取得していない労働者に対し、会社側が5日は日程を指定して取得させる義務を負うものとしました。
(3)フレックスタイム制の清算期間の延長
フレックスタイム制とは、決められた総労働時間になるよう、労働者が始業・終業時刻を決め、全体の労働時間を調整して働くことができる制度です。現在の法律では「清算期間」は1ヵ月なので、1ヵ月の枠内で労働時間を調整することができます。しかし、月をまたぐ調整ができないため、「1ヵ月の前半は1日の労働時間が短く、後半は長く働く」という調整は可能ですが、「8月は1日の労働時間が短く、9月は長く働く」ということができずに、実生活に合わない側面もありました。今回の法改正で、「清算期間」を3ヵ月に延長したので、月をまたいで、労働時間を柔軟に決めることができるようになります。
(4)特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル制度)の創設
高度プロフェッショナル制度とは、一定の要件を満たす労働者(高度の専門知識を要する年収の高い職業)に対して、労働の成果に対して報酬を支払う新しい労働スタイルの制度です。つまり、労働時間、休日、深夜の割増賃金等の規定を適用しないこととなります。

対象となる要件は、下記の通りです。
年収:1075万円以上を想定
業務:金融商品の開発・ディーリング、企業や市場のアナリスト、コンサルタント、研究開発など
要件:本人の同意、労使委員会の決議、4週間に最低4日、年間で104日間の休日の確保
※健康管理時間を把握し、100時間を超えたら医師による面接指導を実施
※勤務間インターバル制度、1ヵ月または3ヵ月の在社時間などの上限措置、2週間連続の休日の確保、臨時の健康診断のいずれかを選択

極論をいえば、「仕事とその報酬が決定している」ものなので、効率重視で労働時間を縮小すれば、それだけ労働生産性が上がるといえます。ただ、その逆もしかりです。仕事が終わらなければ、労働時間を延ばしても残業代が出ないことになります。

(5)勤務間インターバル制度の導入(労働時間等設定改善法)
勤務終了後、翌日の勤務開始まで、一定時間以上の「休息期間」を設ける制度です。労働者の睡眠時間の確保などを目的とするもので、罰則規定はなく、各企業の努力義務となっています。

既に導入企業もあり、ホンダ技研工業株式会社は1970年代から実施しているそうです。「本社」については、22時を超えての勤務の場合、翌日の出社時間は22時より超えた時間を15分単位で遅らせることができ、12時間のインターバル時間を確保することとされています。また、KDDI株式会社も、2015年から就業規則に、最低8時間のインターバル時間の確保を義務化する規定を設けています。

なお、厚生労働省は、中小企業・小規模事業者に対して、時間外労働等改善助成金を設けています。労働時間の設定の改善を促進するために、時間外労働上限設定コースや、勤務間インターバル導入コースなどがあります。

5.働き方改革、ワーク・ライフ・バランスの見通し・課題

変わる日本型雇用システム・雇用慣行

それでは、今後、「働き方改革」はどのように進んでいくのでしょうか。前章で「働き方改革関連法案」の改正のポイントを説明しましたが、じつは、もともと法案の目玉として挙げられていたものが、直前で全面削除され、この法案から姿を消しました。それは、「企画業務型裁量労働制の対象業務拡大」です。

「裁量労働制」とは、裁量が与えられる一定の業務の労働者の労働時間を、「みなし」で計算することができる制度です。つまり、実際は10時間実労働をしていても、「みなし」時間が8時間となっていれば、8時間労働していると計算されます。実際のプラス2時間分は時間外労働とはされずにグレーゾーンとなり、残業代が出ないことになるのです。

現行法においては、この裁量労働制は専門職種の「専門業務型」と、経営の中枢部門で企画・立案・調査・分析業務の「企画業務型」の2種類が認められています。そして、法案作成当初は、この「企画業務型」につき、その対象を法人営業職に拡大する予定でした。しかし、「裁量労働制の方が労働時間は短くなる」点につき、労働時間調査に関する不適切データが発覚し、野村不動産で行われた裁量労働制の違法な適用なども相まって、削除するに至りました。

実際、「裁量労働制」とされていても、出退勤時間が一律で定められている企業もあります。対象者を拡大解釈して適用されることもあり、是正勧告や指導を受けている企業も少なくありません。現実には、長時間労働や残業代ゼロの根源にもなりうるのです。そういう意味では、「裁量労働制」によって、本当に長時間労働が是正されるのか、柔軟な働き方が実現されるのか、再度の検証が必要になるでしょう。

また、今回の「働き方改革関連法案」で創設された「高度プロフェッショナル制度」も、同じく労働基準法の適用外となる働き方です。「時間に関係なくキャリアを積みたい」「納得のいくまで仕事を追求したい」という強い意欲のある労働者にとっては、マイペースで働くことができ、魅力的な制度ともいえます。確かに、これまでの日本の安定した終身雇用制度が崩れてきている今、このようなキャリアアップや自己実現の追求に沿うことはできます。しかし、本来の目的である「長時間労働の是正」として歯止めになるかという点では、その適用を企業任せにせず、しっかりと管理することが必要となってきます。適用次第で、「残業ゼロ法案」とならないように、注意が必要です。

働き方改革を進め、ワーク・ライフ・バランスを実現するための留意点

ここまで「ワーク・ライフ・バランス」を実現するために「働き方改革」をみてきました。政府としては法案も成立し、あとは施行までの期間でガイドラインなどを詰めていくことになります。それでは、適用を受ける側、企業などの経営者や実際の現場はどうなっていくのでしょうか。ここで、いくつかの課題が挙げられます。

(1)経営の抜本的な改革
この法案が施行され、公正な処遇の確保や長時間労働を是正するためには、小手先だけ、一部分だけで対応することはできません。非正規雇用者を抱える企業ならば、法改正に則って適切に対処するために、多くの資金が必要となります。場合によっては、経営方針自体をシフトするほどの、大きな抜本的な改革が迫られることになるのです。とくに中小企業においては、猶予期間があるにしても、早めの決断、そして準備を進めることが求められます。
(2)現場の実態の把握
次に行うべきは、実際に働いている現場の実態を把握することです。企業が大きくなり、拠点が増えれば、目の届かないことも多いでしょう。中小企業といえども、現場任せとなっている経営者も少なくありません。これから適用される法律につき、改正ポイントをまず理解すること、そして、働いている現場の実態と比較し、改善すべき点を洗い出すことが重要です。今回の法改正では罰則規定もあり、報告を受けるだけでは不十分です。まずは、プロジェクトチームを立ち上げ、正確なデータを収集してから、経営戦略を立てることが重要です。
(3)マネジメント力の強化
方針や制度の変更点などが決まれば、あとは現場のマネジメント力を上げることが必要になります。今回の「働き方改革」や「ワーク・ライフ・バランス」に伴い、実態とその変更すべき点を情報共有し、適用される改正法に関する勉強会の実施も計画に入れるべきでしょう。現場で判断に迷った際の手順を管理者官で共有し、連携の強化を図るべきです。

「ワーク・ライフ・バランス」のように、仕事と生活が偏らずに両立できるよう調整するという考え方から、「ワーク・ライフ・インテグレーション」(仕事と生活を統合する)にシフトし、アメリカでは珍しくもない「有給休暇の無制限」などを導入している日本企業もあります。クリエイティブ職などは、仕事以外の生活の部分でインスピレーションを得る傾向があり、仕事と生活を区切る方が、違和感があるのかもしれません。相乗効果を生み出すという考え方も、既にビジネスの世界ではあたりまえになりつつあります。企業にとって、そこで働く労働者にとって、一番いい選択肢は何かを、真剣に考える時期が来ているのです。

「働き方改革」を推進し「ワーク・ライフ・バランス」を実現することは、企業にとって、対応が難しい部分もありますが、一方、将来的にみると受け取るメリットが多いともいえます。必要であれば、助成金の申請や、政府が設けている相談窓口や専門家などに助言を仰ぐことも選択肢の一つです。来るべき改革に向け、早期に準備することが重要です。

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