顧客の人材開発課題に的確に応える
「キャリア開発支援ナンバーワン企業」を宣言
株式会社日本マンパワー
加藤智明さん
選択と集中を行い、事業コンセプトを「キャリア開発」に絞り込む
御社の業務内容、事業戦略についてお聞かせください。
当社は、来年が創業50年目の人材開発の会社です。50年近く経っている会社ですから、当社にはさまざまなイメージを持たれていると思います。「通信教育の会社」「CDAの会社」「研修の会社」「人材ビジネスの会社」など、いろいろな事業内容を思い浮かべられることでしょう。当社は、現在、「キャリア開発の研修プログラム」や「キャリアカウンセリングを活用した事業」に特徴やノウハウを持つ人材開発の会社として、「キャリアと言えば、日本マンパワー」という評価を、人事・教育担当者やキーパーソンの方からいただいています。
ただ、私が社長を引き継いだ2006年当時は、「総合的な人材開発の会社」という位置付けでした。「教育研修事業」「人材サービス事業」を中心として、企業向けの教育研修や通信教育だけでなく、人材紹介や再就職支援も大きくしたいと考え、多角化を目指してあまりにも手を広げ過ぎていました。しかし、通信教育であれば当社よりもっと大きな会社がプレゼンスを発揮していました。人材紹介もしかりです。我々は限られた資産・資源で事業を展開しているわけですから、手を広げすぎると大資本の会社に勝てるわけがありません。そうすると、取るべき戦略としては自ずと「選択と集中」になります。競争力の弱い事業や採算性の低い事業は縮小し、我々の強みに特化する戦略へと方向転換を行ったのです。
このような場合、何を選択し何に集中するかがポイントとなります。当社が1999年から日本で初めてキャリアカウンセリング事業をスタートしたという背景を考え、私は「キャリア開発支援」に特徴を持った会社にしていこうと考えました。そこで、事業のコンセプトをそれまでの「総合的な人材開発の会社」から、「キャリア開発支援でナンバーワンの企業を目指す」に変更する、と社内外に宣言したのです。社長に就任した2006年のことでした。
社内で動揺や反発はありませんでしたか。
もちろん、ありました。そのため、社員の話をよく聞き、いろいろと考えました。しかし、何を捨てて、何に集中するのかは私の判断で決め、それを皆に納得してもらいました。なぜなら、赤字事業でも当事者である社員は何とか立て直そうと費用を使いながら頑張ってしまうからです。その時、経営の決断が遅れると、業績はどんどんと悪化していってしまいます。その意味でも、当時の私がやるべきことは不採算事業を止めさせることでした。事業を絞り込む一方で、我々の最大の特徴・強みであるキャリア開発研修のプログラムやキャリアカウンセリングを活用した事業で生き残りを図ろうと決意したのです。そうして、コンセプトを明確に打ち出したことによって、競合他社との区別、差別化ができました。
おかげさまで、今や多くの企業の人事・教育担当者が、我々が提供するCDAのホルダーとなっていただいているので、その方達とはCDAの学習を通じて「キャリア開発」や「キャリアカウンセリング」については価値観を共有しており、社員研修の企画についても当社に提案の機会を頂くケースが増えております。
なるほど。企業に対して研修を売るための営業インフラ(研修基盤)ができるというわけですね。
商品で明確に差別化できればいいのですが、研修の成果は短期的にすぐ目に見えて分かる類のものばかりではありません。我々としては、CDAという他社にはない特徴を持った人材開発の会社として、差別化戦略を描いています。事実、受講中にも企業の方からいろいろと研修に関する相談を受けることもありますし、CDAを学んでいただいていることで、「共通言語」ができてきます。また、様々な捉え方がある「キャリア開発支援」についての考え方や定義づけも共通化が可能になります。
当社のキャリア開発研修は、従業員一人ひとりの「中期経営計画」をつくることと言えます。3年後、5年後、10年後の自分のなりたい姿を考え、組織に貢献していくための能力開発の一環なのです。こう説明すると、トップの方も理解してくれます。
そして当社の場合、キャリア開発プログラムと、キャリアカウンセラー(CDA)養成講座を持っていることが車の両輪のような関係になっています。キャリア開発プログラムは多くの研修会社で持っていますが、キャリアカウンセリングを研修とからめて提供できることが当社の特徴です。
キャリア・コンサルタントの国家資格化の動きも出ていますね。
これも追い風となっています。昨年、「『日本再興戦略』改訂2014」の「雇用制度改革・人材力の強化」の中で、キャリア・コンサルティングの体制整備が打ち出され、「キャリア・コンサルタント10万人養成計画」が発表されました。そして今年になって、キャリア・コンサルタントの国家資格化の法案が提出され、6月4日の産業競争力会議では「未来を支える人材力強化(雇用・教育施策)パッケージ」が、新たに講ずべき具体的施策の一つとして発表されたのです。
当社の事業に関係する分野としては、定期的なキャリア・コンサルティングの実施など、キャリア・コンサルティングの推進に向けたインフラ整備などが示されたわけで、企業の人材育成の取り組みに対して、国の新しい支援が始まろうとしているわけです。当社は1995年からキャリアドック®という部署を設立し、定期的なキャリア・コンサルティングを活用する事業サービスを提供してしまいりました。キャリアドック®とは、従業員の自律度を高め、成長を促すための、定期的なキャリアカウンセリングを中心としたトータルキャリアサポートの仕組みのことを指します。現在、その実施のためのコンサルティングから、実際の運用までのノウハウをご提供しています。まさに今まで当社が取り組んできた取り組みが、これからの日本社会・企業のキャリア開発支援の市場を形成していく推進力となると、私達は考えています。
日本を代表するHRソリューション業界の経営者に、企業理念、現在の取り組みや業界で働く後輩へのメッセージについてインタビューしました。