日本社会の少子高齢化、経済のグローバル化の背景の中、M&Aやリストラクチャリングの増加や従来型のキャリアパスの変化、成果・能力主義の浸透などの環境変化により、個人の生き方、働き方は多様化しています。そして、その多様化した個人を組織に活かす仕組みとして、組織内のキャリア開発支援に注目が集まっています。そのような状況下、人事担当者がキャリア開発支援を行う専門家であるCDA(キャリア・デベロップメント・アドバイザー)の資格を取得するなど、新たなキャリア開発支援のための動きが、広がりを見せています。今回は、キャリアカウンセリングを通じて、社員のキャリア開発を行うことの意味とそのメリット、また、具体的にキャリア開発支援をどう行っていけばいいのかについて、株式会社日本マンパワーの和泉浩宣さんにうかがいました。
- 和泉 浩宣(いずみ ひろのぶ)
- 株式会社日本マンパワー
キャリアドック部 CDA企画課 プロデューサー 和泉 浩宣さん
大学卒業後、1999年に日本マンパワーに入社。企業の人材開発・キャリア開発の諸施策をはじめ、ジョブカフェなど行政機関の若者就職支援施策、また大学・専門学校等のキャリア教育施策など、多岐のキャリア開発支援に関する事業構築・運用支援に従事。日本キャリア開発協会認定CDA。
なぜ、キャリア開発支援が必要なのか
近年、社員のキャリア開発支援を行う企業が増えていますが、その背景には何があるのでしょうか。
まず、世の中のルールが大きく変わったことが挙げられると思います。グローバル化や高度情報化、雇用形態による格差や、少子高齢化など、環境変化が企業と個人に大きな影響を与えています。これらにより、企業ではM&Aやリストラクチャリングの増加、従来型のキャリアパスの変化、成果・能力主義の浸透などの変化が起こっています。
それまでは能力開発も企業の責任の下、実施されていましたが、現在では個人の責任で行うようになりました。企業側も社員に対して、自律的・自主的に能力開発に取り組んでほしいと考えています。
一方で、個人の価値観も多様化しています。例えば、1社に長く勤めるのではなく、自分自身の能力をいろいろなところで試してみたいと考えるようになってきているのも一例です。つまり、自分自身の能力や経験を把握しながらキャリアを形成していく、「自己責任」の時代となったわけです。今では、自分のキャリアは自分自身で作る、磨いていくという意識が広く世の中に浸透しています。
考えてみると、かつて企業は人事に関して、年次管理を行っていればおおよそ対応できていました。しかし、近年は各人の成果や能力によって昇格のスピードは異なり、給与もアップダウンするようになっていますから、以前のような一律管理ではうまく対応できません。そのため、人事部門でも一人ひとりに関与していくアプローチが必要になっています。人事管理も、この10年あまりの間で多様化、個別化しており、企業が社員のキャリア開発支援を行うことも、現在では当然のこととして認識されているのです。
貴社がキャリア開発に関連して行った「仕事に関するアンケート」の結果では、「仕事をする上で、悩みや不安を感じることがありますか」という質問に対して90%を超える人が「ある」と回答しています。そして、具体的な不安や悩みの内容を見ると、回答が非常に多岐に渡っていました。この結果を、どのように評価されますか。
ほとんどの人が仕事をする上で悩みや不安を感じていますが、今回の調査を見ると、年代ごとに傾向や課題が違っていることがわかります。
例えば、20代では「仕事とプライベートの両立が上手く行かない」「自分の適性がわからない」といった回答が多い。まだ悩みの多い世代であり、自分は何に向いているのかを振り返る余裕がないからでしょう。
30代になると、「自分自身のやる気・モチベーションが維持できない」という回答の多さが他の年代と比べて目立ちます。この年代ともなると、仕事には慣れてきたものの、その仕事の意味をなかなか作れなくなっているという見方ができます。プライベートでもいろいろと変化が出てくる世代なので、それも含めたモチベーションのアップダウンの維持が難しいということだと思われます。
40代では「ポスト(昇格)が上がらない」という問題があります。この年代はバブル期入社で同期の人数が多いこともあって、ポスト不足の問題がまさに浮き彫りになっています。
そして50代では、「仕事が評価されない」という悩み、不安が多くなっています。
このように、組織の中にはいろいろな年代の人がいて、さまざまな悩みや不安を抱えています。そこで問題となるのは、全体のどこかを切り取って、力を入れていけば組織が上手く回るというような、レバレッジのポイントが見つけにくいことです。そういう意味からも、年代ごとの課題を正確につかみ、トータルに手を打っていかないと、組織の中におけるキャリア開発はうまく機能しないと思います。
ところで、新入社員の頃からキャリア開発支援を行うことには、どのようなメリットがあるのでしょうか。
新入社員の仕事に対するコミットメントを引き出せるというメリットがあります。「自分にとってこの仕事はどういう意味があるのか」「仕事を通してどう成長していきたいか」を主体的に考えさせる場として、そして学生時代とは大きく異なる環境になるべく早く適応してもらうため、キャリア開発研修を行っている企業が少なくありません。また、これにより早期離職の防止にも繋がっています。
新入社員の時期にキャリア開発支援を進めていく際には、一つ留意すべき点があります。自分の将来の仕事を考える上で、現場の業務の実態を反映した未来像にできるかどうかという点です。入社して間もない頃、職業経験が全くない、もしくは少ない状況では、現実的ではない将来を考えてしまいがちです。そこで、職業経験が全くない場合、少ない場合、十分な場合とで、展開するキャリア開発支援策の内容を変えることをお勧めしています。各段階に合わせたキャリア開発支援策を展開することで、各自にとって本当に意味のあるキャリアビジョンを完成させることができます。なかでも、職業経験が少なく成功体験も少ない、いわゆる「リアリティショック」を迎えがちな時期においては、その時期の現状を冷静に捉え直したり、入社後の体験を成果ベースではなくプロセスベースで振り返ったりするなどして、慎重に進めていく必要があるでしょう。
なお、現在では大学側がキャリア教育を熱心に行っていますので、入社時から継続してキャリア開発支援を行うことについて、新入社員にとって違和感はありませんし、自分自身のキャリア形成に強い興味を持っているケースも多いようです。
キャリア開発支援を行うことの意味がよく分かりました。では、実際のところ、キャリアビジョンを明確に持っている社員と、そうでない社員とでは、将来的にどのような違いが生じてくるのでしょうか。
先行きが不透明な世の中で10年先のキャリアビジョンを描くことは、あまり意味がないのではないか、という声をよく聞きます。しかし、先行きが見えないからこそ、「こうあってほしい未来」「こうなりたい自分」を描き、方向性を見出していくべきなのです。そうした旗を掲げて、実現に向けて一歩踏み出していく――。そのような前向きな行動を促進するためにも、キャリアビジョンをぜひ掲げてほしいと思っています。
キャリアビジョンを掲げた人は、こうなりたい自分を思い描いた瞬間に、今まで意識していなかった情報がアンテナに引っかかってきて、見える景色が大きく変わってきます。こうした経験は、人を大きく成長させます。そういう意味でも、漫然と目の前に起きる日々の出来事をこなすだけの生き方を選択する人と、目標を掲げて常にチャレンジし、行動し続ける人とでは、その未来も随分と違ったものになってくるのではないでしょうか。
キャリア開発支援をどのように進めていくか
企業では、社員のキャリア開発支援を、どのように進めていけばいいのでしょうか。また、企業にはどのようなメリットがあるのでしょうか。
当社では組織における総合的なキャリア開発を支援していくために、「社員が自らのキャリアをマネジメントする」「管理者・先輩が部下・後輩のキャリア開発を支援する」「キャリア相談機能により個別支援する(キャリアカウンセリング)」を三位一体として、「トータルキャリアサポート」という考え方で展開することを提案しています。
まず、社員が自分自身のキャリアを振り返り、今後のキャリアビジョンを設定する場として「キャリア開発研修」を企業の中で仕組みとして導入します。重要なのは研修を終えて、社員が現場に戻ってきた時に、上司がサポートできるかどうかという点にあります。せっかく研修を受けて新しいチャレンジをしようと思っていたにもかかわらず、上司が特に反応せず、「明日から、また頑張ってね」と言うだけでは、部下のモチベーションは一気に下がってしまいます。
部下をサポートする現場の上司は、とにかく部下のキャリアに関心を持ってほしいと思います。なぜなら、部下のキャリア開発支援も上司の重要な役割の一つだからです。しかし、そのことを明確に打ち出していない企業が多いと思います。上司は、部下のキャリアビジョンへの理解を示し、業務遂行目標とキャリア開発目標のすり合わせを行うなど、部下のモチベーションを維持していくためにも部下のキャリア開発を支援していく必要があります。
さらに、社員への支援を行うためには、社内外のキャリアカウンセラーにより個別支援を行う「キャリア相談機能(室)」を設けることも重要です。このように、こうした三位一体の仕組みを設けることで、環境への適応力が高まり、社員の当事者意識が芽生え、自律的な行動が促進されていきます。社員のキャリア開発支援をトータルに実施することは、企業にとってこのようなメリットをもたらすのです。
「仕事に関するアンケート」では、約半数の方が「仕事の悩みや不安を相談できる仕組みがなく、相談相手がいない」と回答しています。企業がさらに社員のキャリア開発支援に関わるためには、どのようにすればよいのでしょうか。
この結果では、むしろ「ある」との回答が35.0%あったことを評価しています。というのも、私はもっと低いと予想していたのです。一方で、「相談する仕組みがない」という回答は半数近くになります。お互いに声を掛け合わず、会話がない職場です。こうした職場では、そもそも仕組みを作ることではなく、社員の話を聞くとか、お互いに個人を尊重しあい対話する意識を持つことから始めるべきだと思います。
それよりも、「普段、仕事の悩みや不安を誰に相談していますか」という質問に対して、「人事担当者に相談する」(1.4%)、「社内の相談窓口に相談する」(1.2%)という回答が非常に低かったことを問題視しています。大半の方は、「同僚に相談する」(28.9%)、「家族に相談する」(24.2%)というわけです。そして、年代が上がるほど相談する相手がいなくなり、自分ひとりで抱え込んでしまう傾向が出ています。やはり、ここでも年代によって課題が異なることがわかります。
また、「誰にも相談しない」(25.4%)、「相談したいが、誰にも相談できない」(12.2%)ということで、相談機能はあるのに使われていないこともわかりましたが、これは大きな問題といえます。せっかくキャリア相談サービス機能を作ったとしても、それが社員にとって身近な存在ではないのでしょう。今後、対応すべき課題の一つだと思います。
社員がキャリア上の悩みを抱えている時に、直属の上司が相談に乗るのが、本来の姿のように思います。それに対して、人事担当者がアドバイスやサポートを行うことには、どのようなメリットがあるのでしょうか。
本来、部下の支援はラインマネジメントの中で行われるべきです。しかし、現在のマネジャーにはプレイヤー的な要素が非常に強く求められています。さらに最近では、ワーク・ライフ・バランスの考え方により、限られた人数と限られた時間の中で、より高い成果を出していくという大きなミッションもあります。そういう状況で、親身になって部下の支援をしていくことはとても難しいことです。
もちろん、部下にはいろいろと上司に相談したいことがあるでしょう。しかし、上司が忙しい様子だと、相談はしにくい。また、現在ではコミュニケーションがなかなか取りにくい職場環境になっています。
だからこそ、それをリカバリーするために、上司とは別の社内キャリアカウンセラーの存在が、クローズアップされているのです。キャリアカウンセラーは、キャリアカウンセリングを通じて時間をかけながら相談者が自分自身と向き合い、自身の価値観・人生観を再発見し、自己理解を深める方向へ導いていく役割を担っています。話を聞いていく中で本人が気づき、自ら責任をもって前向きに行動につなげていけるようなカウンセリングを行います。それにより、とかくOJT的な問題解決の指示やアドバイスになりがちな上司とは違った視点で、アドバイスやサポートできる事は大きなメリットであると思います。
企業がキャリアカウンセリング室を運営していく上での、注意点などについてお聞かせください。
何より、守秘義務です。これが担保されないと、社員は本音で語らないと思います。ここに行けば、安心、安全であると思ってもらえること。それが社員にとっての絶対的な信頼感となっていきます。
そして、相談者が来るのを一方的に待つのではなく、何か不安や問題を抱えているのではないかと、自ら現場に出向いてカウンセリングを行うなど、能動的に働き掛けながらカウンセリングを行うケースが増えてきています。
実際に「仕事の悩み・不安の解消や、自らのキャリアを形成していく上で、どのような施策の充実を望んでいますか」という問いに対する回答では、「社内・外の専門相談員の配置」が突出して多くなっています。今、キャリアカウンセラーに対する期待が大きいことがよく分かる結果です。
企業におけるキャリアカウンセラー(CDA)のメリット
CDAという資格についてお教えください。
CDA(キャリア・デベロップメント・アドバイザー)は1999年に日本で初のキャリアカウンセラー資格として誕生しました。2011年9月には、資格登録者が1万人を突破し、キャリアカウンセラーの実務家レベルの資格として、国内最大の会員数(資格登録者数)を誇っています。
CDAを就職・転職などの相談員とイメージされる方もいらっしゃるかと思いますが、企業内においては、社員の気づきや成長をサポートする役割を期待されています。
人事担当者がCDAの資格を持つことで、企業にはどのようなメリットがありますか。また、担当者個人にもメリットはありますか。
人事担当者の場合は、キャリアカウンセリングを学ぶことによって、人材開発・キャリア開発計画の策定をはじめ、人材採用・定着支援、教育の実施、評価と配置の支援など、人事部門の業務のさまざまな場面でキャリアカウンセラーとしての知識と理論、ノウハウを活用することができます。
例えば、人材育成に関するいろいろな理論を身に付けることになるので、組織内の仕組みを考えたり策定したりする人事企画に役立てることができます。また、評価面談などは人事業務に必須のものですが、そうした場面でもキャリアカウンセリングのスキルを効果的に使うことができます。
これは、人事担当者だけに限ったことではありません。日常業務のラインマネジメントの中に、キャリアカウンセリングのエッセンスが入っていくとコミュニケーションが円滑に行われ、うまく組織が回っていきます。
例えば、コミュニケーションのスキルで言うと、キャリアカウンセリングでは、自己理解とか自己概念をテーマとして扱います。上司は部下の問題や悩みを傾聴し、自問自答を促します。部下は問題や悩みの経験から、自分なりの意味を見出し、経験から学んでいきます。
何より、自分自身を客観的に見ることができ、自分自身と対話ができるラインマネジャーがいるとすれば、部下にとってものすごくプラスになります。上司はマネジメントの立場から、こうした部分に関心を持って、部下との日常会話や面談、ミーティングの場などで活用していってほしいと思います。
日本マンパワーでは、どのように企業のキャリア開発支援、人事担当者の資格取得支援をサポートしているのですか。
CDA資格取得者には、人事部門の方が多くいらっしゃいます。そのため、CDA資格を取得した方に対しては、定期的に勉強会やフォーラムを開催しています。併せて、CDAという資格を組織内で活かしていただくために、ケーススタディの紹介や実態調査の報告会を開催するなど、きめ細かな情報提供を行い、フォロー体制の充実を心がけています。また、人事部門の方だけではなく、ネットワーク構築のためのイベントや交流会も行っています。
また、年に1回、面談やサーベイなどを通して、人間ドックのように自分自身の成長やキャリアの棚卸しを行う「キャリアドック」構想の実現に向けた施策も検討しています。今後、こうした機会が展開していけば、キャリアカウンセラーの活躍する場も広がり、個人のキャリア自律がより促進されていくことになると思います。
本日はお忙しい中、貴重なお話を伺うことができました。ありがとうございました。
日本最大のキャリアカウンセラー養成機関、日本マンパワーが提供する
『CDA養成講座』の【無料説明会】を全国19か所で実施しております。
2011年9月にはCDA有資格者が1万人を突破しており、
日本で活躍する標準レベル キャリア・コンサルタントの約3人に1人がCDA有資格者です。
人事・教育担当者をはじめ、キャリア相談担当者やマネジャー層など、
企業の中でCDAが活躍するフィールドは拡がっています!
無料説明会では、CDAの実際の活躍の現場や、資格取得後の活用事例なども
お話する場となっておりますので、ぜひお気軽にご参加下さい!
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株式会社日本マンパワーは、2012年に創業から46年目を迎える人材開発会社です。 特に「キャリア開発研修」や「キャリアカウンセリングを活用した事業」に特徴やノウハウを持つ会社として、様々な人材開発サービスを提供しております。
また、最新の「企業内キャリアカウンセリング実態調査」や、日本最大級の「新入社員意識調査」など各種調査をはじめ、1年間で約2,000名の人事教育のご担当者様にご参加いただいている情報提供型イベントの開催などを通じて、最新情報とノウハウを発信しております。
今後とも「キャリア開発のパイオニア企業」として、人材の育成を通して広く社会に貢献していきたいと考えております。