NTTコミュニケーションズ株式会社
きっかけを与え、フォローし続ける。
ベテラン社員の活性化に近道はない
一人で1000人と面談した人事マネジャーの挑戦(前編)
NTTコミュニケーションズ株式会社 ヒューマンリソース部 人事・人材開発部門 担当課長
浅井 公一さん
「英語じゃなくて、ウォーキングしてみたら?」 ワクワクする目標設定をサポート
面談の中で社員それぞれの目標を決める際、どういうことを意識されていますか。
目標は二つの方面から設定しています。一つは、スキルや業績評価の向上といった客観的要素。もう一つは、主観的要素、特に人間性の向上です。「5年後に自分は周囲からこう見られていたい」。例えば「アグレッシブだと言われたい」といったことですね。
達成を促すのは、主に組織貢献に直結する業績評価の向上です。ベテラン社員に多いのは、本人は能力もあるし、仕事もできると思っているけれど、実際には上司の求めていることとずれてしまっているケース。本人は頑張っていても、上司は「本当は別の仕事をやってもらいたい」と考えていることがよくあります。「あなたが掲げている目標は、上司が期待していることと本当に合っている? ずれているから、そんなに頑張っても高い評価が付いてこないんじゃないの?」などの辛口アドバイスは日常的に行っています。
また常に意識しているのは、本人の置かれた状況や能力を見極めたうえでアドバイスをすることです。例えば当社の場合、TOEIC650点を部内全員への命題として取り組んでいる組織がいくつかあるのですが、現時点で500点なのか300点なのかによって、設定すべき目標は変わってきます。100点アップするだけでも莫大な時間を要する語学学習のために時間を犠牲にしても、達成した時に定年を迎えているのでは意味がありません。一番ワクワクする目標は何なのか、何が幸せなのか、といったことを社員自身が能動的に見つけられるようにサポートすることが、私の役割だと思っています。
人事が面談を行うと一律で「これをやらないとダメだよ」と指導的な口調になってしまうことも多いと思います。自分に残された時間と今の実力からすると、必ずしも会社の研鑽(けんさん)ごっこに付き合うのが良いこととは限りません。むしろ、多大なストレスになる人もいるんです。そういう人には「英語なんて勉強しなくてもいいよ」と言ってあげる。人事の課長に言われるんですから、安心する社員はたくさんいます。ただしその場合、「代わりに何をやろうか」という話もしなければなりません。ベテラン社員だからこそ、誰にでも同じ目標を押し付けるのではなく、時間をかけるなら、本人の専門性を最も高めることに使ってほしいのです。
ある面談で、少し太り気味の社員が「英語を土、日で3時間ずつ勉強する」と宣言したことがありました。しかし、本当にその社員が英語の勉強に取り組みたいと思っているのか、私には疑問でした。そこで、「英語を勉強する代わりに、ウォーキングをしなさい。それでもまだ時間が余ったら、英語を少しずつ勉強すればいい」とアドバイスしたのです。それを聞いた彼はとても喜んで帰り、半年後に報告をくれました。「体重が減って、腰痛もなくなりました。おかげで仕事もうまくいっています」と。その言葉で、その人にとっての幸せとは何なのか、どうすれば会社に貢献できるのかを考えることが重要だと、あらためて確信しました。
そのように、社員の設定した目標を変更するよう促すとき、何か工夫されていることはありますか。
なかには「近いうちに○○部に異動する」ということを目標に掲げる人もいます。私には人事権がないので異動のことはわからないのですが、客観的に観て異動候補のスキームに乗るには難しいのでは、と思った人には「現状では無理だと思う」とはっきり言います。その上で、「あなたに今できることは、嫌な仕事でも上司のいうことを聞いて、成果を上げること。高い評価が付けば、希望する部署が『うちに来てくれ』って言ってくれるかもしれない」とか、「行きたい部署が求めているスペックの上を行くぐらいの知識を付けたら、その部署があなたを放っておかないだろう」などとアドバイスしています。
時には、厳しいことも言わなければなりません。「昇格したいんです」という人に、「もうあきらめた方がいい」と告げたこともあります。不可能な目標、とりわけ昇進については期待を持たせてしまう方が酷です。期待が裏切られたときに、会社に対する恨みや憎しみしか残らないからです。この年代になっても昇進に強くこだわる人は、自分より上の人と比較してしまう性格なのです。ならば、上の人に勝てる土俵を探してもらわなければなりません。自力でできる一つの例が、その道を究めること。「社外のどこに行っても第一人者と言われるぐらいのレベルになって、将来、年収で逆転してやれ」ぐらいのことを言っています。こうしたこれまでの人事では考えられなかったような接し方が、社員に響いたのではないでしょうか。昇進にこだわる人に対し、下の人と比較するよう思想の転換を促す方法もありますが、それは道を究める夢も破れた時だと思います。あと15年も会社人生が残っている50歳の人に、その選択肢を提示するのは、まだ早すぎます。
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