次世代の新卒採用に向けての試み
現代の、そしてこれからの経済環境に適応し、日本企業の競争力を高めていくための新卒採用はどうあるべきなのだろうか。新卒採用の「新しい波」を紹介してみたい。
母集団形成についての試み
現在の新卒採用では「自由応募」が主流となっている。インターネット・メディアなどを通じて募集告知を広く行い、興味を持った学生にエントリーしてもらうというスタイルだ。そのため、入社意欲の高い人材を中心に母集団形成ができる反面、興味や志向がある程度近い人材が多く集まる傾向が指摘されている。
現代の企業組織は、同じような人材で固めるよりも、一定の多様性を持たせた方が強く、環境の変化にも対応しやすくなると言われている。そこで、多彩な人材を集めていきたいと考える企業では、新卒採用の母集団形成段階から、自由応募で自社に応募してくる層以外にも目を向けはじめているのだ。
こうした動きの代表例が「楽天」だろう。同社では「いくら人気企業でも、自社に応募してこない学生の方が多数派なのは間違いない。その中には非常に優秀な学生も多くいるはず」という考え方から、担当者が大学に出向き、優秀な学生の一本釣りを行っている。
これに近いのが、かつて大企業を中心に行われていた「リクルーター」制だろう。実際、メーカーや通信キャリアなどでは、リクルーターを復活させるケースも増えてきている。また、もともと自社に興味のなかった学生に、第三者であるキャリアアドバイザーを通じて適性ややりがいなどをプレゼンテーションしてもらう「新卒紹介」の活用も、こうした新たな母集団形成の取り組みの一環といえるだろう。
さらに、最新のトレンドとなる可能性を秘めているのが、ツイッターやフェースブック、ユーストリームといったITツールを活用した母集団形成だ。こうしたツールを使いこなしている層は新しい動きに敏感で対応力にも優れていると考えられる。このように「求める層がいるところに出向いていく」発想も、今後の新卒採用において重要になってくるだろう。
採用時期をずらす試み
優秀な学生を青田買いするために早期化が続く採用戦線。しかし、あえて募集開始時期を遅く設定したことが好結果につながった、「キヤノンマーケティング」の事例が注目されている。同社の場合、もともとは景気の動向を見極めてから採用計画を決定したため募集開始が遅くなったのだが、意外にも例年以上に良い人材が集まり、これまで必ず出ていた内定辞退者を1人も出すことなく10月の内定式を迎えることができたというのだ。この成果を受けて、同社では今後も夏採用を続けていきたいとしている。
この事例は、早期スタートの方が優秀な人材を確保できる、という新卒採用の常識に一石を投じたものだといえるだろう。キヤノンマーケティングに応募してきた学生たちは、春採用の就職戦線で何らかの壁にぶつかり、自ら考えることで成長した人材が多かったという。同社以外にも、現在大手商社などが募集開始を夏以降にすることを検討している。
しかし、学生の成長は何も就職活動によるものだけではない。大学側は以前から、「若い学生は専門課程で学ぶことで急速に成長する。その成果を見て選考してほしい」として、企業の採用時期が大学の専門課程である3年生・4年生の大部分と重なってしまうことに憂慮していた。今後、既卒者採用や通年採用などで、「採用時期が早いだけでは良い人材確保につながると限らない」という独自の採用戦略を打ち出してくる企業が増えそうだ。
選考方法についての試み
ほとんどの企業が、選考の最重要項目としている面接。しかし、数回にわたる念入りな面接を経て入社した人材が数年以内に離職してしまうケースが増えている。人気企業も例外ではない。そこで、面接だけに頼るのではなく、新たな選考方法と組み合わせることでミスマッチを減らそうという企業が現れている。
よく知られているのが「ワークスアプリケーションズ」のインターンシップを利用した選考だ。約1ヵ月間、学生は有給で問題解決型の課題に取り組む。「自分の能力が分かる」と評判で、上位校の優秀な学生が多く参加している。このインターシップで優秀な成績を修めた学生には「5年間いつでも入社可能」のパスが手渡される。すぐ入社する学生もいるが、いったん大企業を経てから転職してくる人や、海外留学などから帰ってきてから入社する人もいるという。
現在、多くの企業が行っているインターンシップは「ワンデーインターンシップ」で、会社説明会のロングバージョンのような形になってしまっているケースも多い。たしかに長期のインターンシップは企業にとっての負担が軽くはないが、長時間向き合うことでお互いの本質が見えてくるというメリットは確実にある。
また、面接そのものの質を向上させていこうという取り組みも行われている。評価するポイントの明確化や標準的な質問、評価基準を定め、面接を担当する社員のトレーニングも行う。こうした「構造化面接」は欧米では一般的だが、日本ではまだ意外と浸透していない。
こうした中で、「第一生命」などが取り組んでいるのが面接へのコンピテンシーの応用だ。通常の面接では、いわゆるコミュニケーション能力をアピールしやすい学生が有利になるが、それだけにとらわれず、同社が求めるコンピテンシーを持った学生をピックアップしていく科学的な面接を目指しているという。
グローバル化に対応するための試み
内需の大きな伸びが期待できない現在、多くの企業が海外事業に活路を見出そうとしている。その成否を握るのが、日本企業の目的と現地の事情をともに理解してビジネスを遂行できるグローバル人材だ。しかし、年々留学経験者が減少し、また基礎学力にも不安がある日本の大学生の中からはグローバル人材の採用は難しい。
そこで、「パナソニック」では新卒採用の約8割を外国人とする方針を打ち出した。しかも、従来型の現地法人での採用ではなく、本社採用も大幅に増やすという。同じエレクトロニクス業界の「ソニー」「東芝」、流通の「ローソン」なども海外展開のカギとなるグローバル人材の採用に積極的だ。
また、これまで外国人の新卒採用を行う場合、日本語が話せることを条件とするケースが多かったが、それも変化しつつある。「楽天」や「ファーストリテイリング」が社内公用語を英語にしたのも、グローバル人材が活躍しやすい社内環境をつくるためだといわれる。国際電話部門を持つ「NTTコミュニケーションズ」も外国人留学生採用に力を入れているが、今後は日本語能力を採用条件にしない。
このように、質にはこだわるが日本の大学生であることにはこだわらないという新卒採用は、今後も増えていくだろう。
募集職種・形態についての試み
新卒はすべて横並びでスタートという日本式から脱却し、職務内容によって勤務条件や待遇が異なる新卒採用を行う企業も現れている。その代表ともいえる「野村證券」のグローバル型社員(G型社員)枠は大きな話題となった。同社が買収した旧リーマン・ブラザーズの部門への配属をイメージしており、初任給は54万円。部門間異動はなく、報酬は実績に応じて変動する。
欧米では、新卒採用の段階から「幹部候補生」と「それ以外の社員」の二本立てで採用が行われるのが一般的。幹部候補生は指定校制がとられることも多く、幹部候補生以外の社員とは初任給も異なる。日本でこうしたはっきりしたやり方がなじむかどうかという課題はあるが、職種に連動させた採用は、確かに求められている。
こうした動きでもう一つ注目されているのは、新卒の有期社員採用だ。「日興コーディアル証券」では、ファイナンシャルアドバイザー(FA)を、1年契約で完全実績報酬型の金融プロフェッショナル職として採用している。こうした雇用形態での募集は、中途採用では従来から比較的多く見られたが、新卒からというのは新しい試みというべきだろう。
また、完全な有期ではなく、いわゆる「お試し雇用」を活用するケースも、中小企業を中心に増えつつある。これは中小企業庁が実施する「新卒者就職応援プロジェクト」といった官公庁主導のプログラムや、「パソナ」の「フレッシュキャリア社員制度」などを通じて新卒者を派遣社員として受け入れるものだ。半年程度の期間、じっくりとお互いを見ることができるため、最初からの正規雇用にはリスクを感じるという企業にとっては、新しい新卒採用のスタイルとなる可能性もある。
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