人材採用の意思決定に時間がかかる企業
仕事が忙しく転職活動に時間がかけられない人材
「応募者をお待たせしすぎた」企業のケース
内定目前で1カ月保留。応募者心理はどうなるのか?
転職活動には意外と時間がかかるもの。書類選考、1次面接、2次面接、内定、採用決定…という一般的なプロセスが順調に進んだとしても、最短で2~3週間くらいだろうか。事前の情報収集や複数の会社を受験する場合も考えると、2~3カ月はかかるのが普通だろう。しかし、時として1社だけでそれくらいの時間を費やしてしまうケースがある。しかも、その会社が第一志望だったりすると、全体の計画にも大きな影響が出てしまうのである。
「結論をもらえるまで他への応募はできません…」
「そうなんですか…。まあ、私にとってP社さんは最優先の会社ですから、お待ちするのはまったく問題ないんですけど。でも、どれくらい待てばいいかという目安もないんでしょうか?」
Kさんと話していると、私の方も申し訳ない気持ちになってくる。何回かの面接を経て、両者いい雰囲気で進んでいた話なのだが、最終段階にきての保留期間がもう1カ月以上も続いているのだ。
「本当にお待たせしてばかりですいません。P社の人事の方もとても恐縮されているんです。ただ、最終的な決定権のある海外本社の方がお忙しくて、なかなか採用決定の稟議に承認が出ないらしいんですよ」
応募しているP社は、Kさんにとっては第一志望の企業で、最初に求人票を見た時から「ぜひここで働いてみたいですね!」と目を輝かせていた。P社がその業界では有力な会社だということもあるが、Kさんが10年以上にわたって蓄積してきた専門分野のノウハウがそのまま生かせるというところが最大のポイントだったらしい。それだけに、「そんなに待たせるんだったら他に行きますよ」とは言いたくないのだという。
「ところでKさん、P社以外から早く来て欲しいとか、そういうお話が別件で出ていたりされますか?」
「いえ、まだありません。というより、P社の結論が出るまでは他での活動は控えているんです。もし同時並行で動いて、P社より早く内定が出たりしたら困るじゃないですか」
Kさんによれば、P社は第一志望だからこちらから断るようなことはしたくない。結論が出るまで待ちたい。そうすると、先に内定をくれた会社が他にあっても断らなくてはならない。といっても、P社に絶対採用される保証はないから、P社の話が破談した時には、また他で転職活動をすることになる。その時に、一度断った会社に再応募は難しいだろう。P社ほどではなくても、自分を気に入ってくれる可能性のある会社をみすみす失いたくない…。
「たしかにそうですね…」
「そうでしょう。だからP社の結果がいつ頃出るかだけでも分かると、他の転職活動もタイミングを計りながらできるんですけどね…」
こういう場合には、安易に「返事の期限を区切りましょうか」ともいえない。しかし、P社によってKさんの転職活動は大きな影響を受けているのも事実なのだった。
「意思決定の遅い会社は問題でしょう…」
「私は意思決定の遅い会社には行きたくありません。ですから、書類選考でも面接でも3日で結果が出ない場合はお断りして下さい」
思いっきり強気な姿勢のNさんは、「今までもこの方針でうまくいってましたよ」と涼しい顔である。Kさんのようなケースもあれば、Nさんのように割り切っている方もいる。
「企業にとって意思決定のスピードが重要だというのは、今や常識ですよね」とNさん。
「確かにそうですよね」
「何も会社全体の戦略に関わるような話ではありません。一人の社員を採用するかどうか、書類選考にいたっては面接するかどうか…だけの判断じゃないですか。そんなことに1週間もかけているようでは、その会社の将来が思いやられます。そんな意思決定の遅い会社に入ったら、たぶん仕事を進めるうちにいろいろ苦労しそうな気がするんですよね」
とても明快な論理である。このNさん流の考え方でいけば、さきほどのP社とKさんの話などは一刻も早く断るべきだということになるのだろう。
海外本社の偉い人たちにとっては、世界中にある拠点のうちの一つである日本法人の採用案件一つの遅れくらいは大きな問題ではないのかもしれない。もっと重要な課題が山積しているよ、と言うのかもしれない。しかし、当事者にとっては転職というのは本当に重大な問題なのである。
そう思っていたら、Kさんから連絡をもらった。もう保留期間は1カ月半になろうとしている。
「P社の話はそのまま保留にしておいて下さい。ただ、他社への応募も開始します。もしそちらの結果がP社より先に出てきたら、それもご縁ですよね。そう思うことにしました」
やはり、あまりにも態度の決まらない企業に未練を残していてもしかたがないと思ったのだという。Kさんの転職活動が再開されることになった。
「忙しすぎて転職活動しにくい」という人材のケース
転職相談も企業面接も、いろいろ便宜を図っています
「忙しすぎて転職活動もできない…」という話をよく聞く。仕事がハードすぎるからという理由で転職したいのに、連日残業や休日出勤が続いて、いつまでたっても求人情報を探す時間もない。そんな方のために、応募や面接のアポイント取りなどあらゆる事務手続きを代行する人材紹介会社は便利なパートナー。人材紹介会社に登録するのにも、それなりの手続きや相談の時間が必要だが、なるべく負担をかけないような各種サービスもご提供しているのである。
「紹介会社も仕事場の近くまでお訪ねします」
「いやあ、ここまで来ていただいて本当に助かりました。連日残業で10時すぎまで働いてるものですから、なかなか事務所の方へはお邪魔できなくて…」
Dさんはホテルのコーヒーハウスで、席に着くなりお礼を言ってくれた。
「いえいえ、気にしないで下さい。同じようにお忙しい方はたくさんいらっしゃいます。仕事場のお近くまで出向かせていただくというのは、よくあることなんです」
「そうなんですか。私も本当はそちらをお訪ねしてご相談した方がいいのは分かってるんですが、なにしろ内勤の部署なものですから。営業のようにちょっと出てきます…というのがまったく無理なんです。特に夕方以降は、ほぼ全員残業してますからね。7時くらいに会社を出たとしても、“おや、今日は何かあるんですか?”なんて職場中の注目の的になってしまいます。自由に外出できるのは、この昼休みだけなんですよね」
たしかにDさんの職場の大変さはかなりのものだが、実は珍しいといえるほど特殊なケースでもない。特に管理部門は、ギリギリまで人員を減らして仕事を回している企業も多く、転職活動もままならないという話は少なくない。そこで、こうした昼休みの「出張相談サービス」もごく普通のこととして行わせてもらっている。昼休みなら、食事しながら…も可能だし、通常事務所でのご相談は1時間程度いただいているものを、コンパクトな要点のみのご相談で40分程度に短縮することも可能だ。
「昼休みの1時間だけで可能ですか?」という方にもご心配は無用だ。
もっとも、中には休みの日(土曜など)に自宅の近くまで来てほしいというご要望もある。以前は、そういったご希望にも対応していたのだが、やはり休日で時間がある場合は、事務所にお越しいただいてじっくり相談いただいた方が、内容のある時間になるようだ。ご希望に応じて、その場で求人票をプリントアウトしてお渡しすることもできる。
「面接だけのために東京に支店を作りました」
企業での面接についても同じ問題がある。「あまりにも忙しくて、書類選考を通過したのはいいが面接に行く時間がない」という方の場合だ。特に問題なのが、地方にある企業のケース。東京で募集した場合、移動の時間を入れると、まる一日空けてもらわないと面接ができないということになってしまう。
「私どもの場合は、面接用に東京に事務所を借りているんですよ。うちの人事部の者が上京して、その部屋で面接を行います。以前はホテルのロビーや人材会社の事務所をお借りしたりしてたんですが、それだと何となく不安に感じされる方もいらっしゃるんですよね。でも、この部屋を借りてから候補者の方の信頼感も大幅に改善されたような気がします」
こう話してくれたのは、地方都市に本社を置くG社の採用マネージャーだ。実際、その部屋を見せてもらったが、都内でもかなりメジャーな駅のすぐ近くでビル自体もきれいな建物である。
「なるほど、ここなら都内の候補者の方も訪問しやすいですよね」
「そうなんです。地方都市だと、地元で面接する場合にも候補者の方に交通費をご支給することになります。それなら、人事担当者が上京して面接しても経費は同じなんですよね。もちろん、この部屋(事務所)の維持費は別途かかりますが、それもいい人材を採用するための広告費だと思っています。また、営業が商談に使ったりもできますしね」
実際に面接のためにその部屋を使うのは、月に数日だという。しかし、そこまでしてでも良い人材を確保したいという企業もあるのだ。
「やはり首都圏の企業で勤務されている方は優れたキャリアをお持ちの方が多いと思います。地方の企業で、首都圏からUターンやIターンの人材を採用したいという企業は少なくないと思うんですよね。私どもも、いろいろ工夫しないと採用競争に勝っていくことはできません」
G社のような企業は今後増えていくのではないだろうか。