「新卒で起業」経験者の転職
今後増えるのは間違いないケース 企業は「新卒で起業」した人材を受け入れられるか
日本と海外とでは、同じ大学生でも大きく異なる特徴があるという。「日本の優秀な学生は大手企業や官僚志向が強いが、海外の優秀な学生は自ら起業する」というものだ。確かにマイクロソフトやフェイスブックなど、時代を変えてきた海外の企業には、学生が創業したところが多い。最近は日本でも学生時代から起業するケースが増えているようだが、若い起業家たちを取り巻く環境は、海外と大きな差があるようだ。
なぜ自分の人脈で転職しないのか
「私のような『起業』に関わった人材が、転職に成功した事例はありますか」
その日転職相談にいらっしゃったCさんは、学生時代から起業を目指して活動し、大学卒業と同時に自分の会社を立ち上げた人物だった。いわゆる「ベンチャー起業家」ということになる。
「とはいっても、社員は自分一人だけです。あとは大学の後輩たちが何人か、アルバイトで手伝ってくれていました。事業が軌道に乗ったら社員も増やしていく計画だったんですが……」
文系学部出身のCさんが起こした会社は、新しい技術を製品化するタイプのベンチャーではなく、不便な思いをしている人たちを手助けするサービスを提供するソーシャルベンチャーだった。しかし 、売上げを上げて利益を出せるようになる前に、資金が底をついてしまったという。確かに全てのベンチャーが成功するわけではない。一握りのベンチャーの成功の陰には、Cさんのような失敗も数多く生まれているのだ。
一通り事情を聴いてから、私は「起業経験者」の転職事情についてざっと説明した。
「起業経験がある方の再就職をお手伝いしたことはあります。再度起業する意向の有無など、面接でよく聞かれる質問もあるようです。その面では、参考になるアドバイスをできるかと思います。ただ、これまでの事例は、一度会社員として働いた後に起業された方が中心です。Cさんのように、卒業してすぐに起業された方の事例はまだ少ないのが実情です」
「やはりそうなんですか」
Cさんによると、「起業したくらいだから人脈も広いのではないか、なぜその人脈を使って就職先を探さないのか」とよく言われるそうだ。実は私も、次にその質問をしようと考えていた 。
「一般企業で働いた経験がないことが、私にとってコンプレックスになっています。できれば全く新しい環境で、一からビジネスを経験できるような企業を紹介してほしいと思い、ご相談にうかがった次第です」
知り合いのベンチャー企業からは、「手伝ってもらえないか」という話もあるようだ。しかし、再度同じような環境で働くことはあまり考えていないという。
「中堅以上のしっかりした企業で働きたいと思っています」
Cさんはまだ20代半ばだ。そのため、中堅以上の企業では他の第二新卒と同じ土俵で選考されてしまうという。それはある程度仕方ないとしても、さらに別の問題もあるようだ。