転職と資格取得の関係
冷静に考えれば当然なのだが…… 企業は資格よりも実務経験を重視
「資格取得」を転職やキャリアアップの強力な武器と考えている人は多い。メディアを見ても、資格取得のためのスクールや通信講座などが、「資格を取れば人生大逆転も可能!」とでもいうような勢いで、連日派手なPR合戦を繰り広げている。しかし、実際に採用する企業サイドは、あくまでも実務経験優先が基本という姿勢を崩していない。そのことを十分理解していない転職初心者が、無駄な努力や投資をしてしまうケースは今も少なくないようだ。
資格は料理の味を引き立てる「薬味」
「ネットの求人情報を見てエントリーしました。経理の経験はありませんが、必要な資格は所持しています。ぜひ詳しい情報を教えてください」
この日転職相談にいらっしゃったKさんは、私たちがネットで公開している募集要項を見て問い合わせをくれた人だった。会ってみると、新卒で入社以来ずっと営業職をやってきたというだけあって、自分のビジョンをしっかり語れる好人物だ。
「営業でいろいろな企業と接する中で、ベンチャーに興味を持つようになりました。ただ、自分には新しいビジネスや技術を生み出すような知識も能力もありませんので、将来的には『CFO』としてベンチャーの発展に貢献するような仕事をしたいと思っています。そこで、まずは経理職としての経験を積みたいと思い、未経験からでもチャンスを与えてもらえる企業を探しているんです」
やる気にあふれているKさん。私もぜひ、彼の夢を応援したくなった。しかし、キャリア採用が中心となる人材紹介の場合、未経験者を紹介できる求人は非常に少ないのが実情だ。
「見ていただいた求人も再度確認してみたのですが、やはり経験者優先だそうです。すでに経理の経験者が数名応募されているそうで、今から未経験の方をご紹介しても難しそうなんですよ。まことに申し訳ないのですが……」
「資格があってもダメなんでしょうか」
「そうみたいなんです」
私は、採用する企業側の考え方をいつもこんな「たとえ話」で説明していた。
「キャリア採用をする企業にとって実務経験は『料理そのもの』です。それに対して資格というのは『薬味』なんですね。薬味があれば、たしかに料理の味は引き立ちますが、薬味だけを食べてもお腹はふくれません。つまり、実務経験があれば資格の有無はさほど問わないというのが企業の本音なんです」
しかし、Kさんはまだ腑に落ちない顔をしている。実はKさんが所持している資格は経理の実務経験者でも持っている人は少数派の、かなり難関とされる資格だった。その資格を取ったということはKさんのやる気が見せかけだけではないことを十分に物語っていた。
「以前、ある人材紹介会社に経理職での紹介を頼んだ際に、やはり未経験では難しいと言われたんです。それで、ではどうすれば紹介してもらえるか聞いてみたんですよ」
Kさんは難しい資格取得に取り組んだ経緯を話してくれた。