人事マネジメント「解体新書」第96回
職場の「ハラスメント」(パワハラ・モラハラ)の予防・対処法
~基礎知識から、予防・再発防止策までのポイントを解説(後編)~[前編を読む]
昨今、「パワハラ」「モラハラ」など、職場における「ハラスメント」が急増しており、企業の人事管理上、大きな問題となっている。「前編」では、ハラスメントの現状と企業が負うリスクについて考えた。「後編」では、パワハラ・モラハラ問題に対して、企業はどのように対処していけばいいのか、具体的な方法を紹介する。
「パワハラ問題」にどう対応すればいいのか
◆潜在化しやすい「パワハラ」の実態
法律の条文において「パワーハラスメント」という概念を整理したものは存在せず、まだ固まったものはない。ちなみに厚生労働者や各種団体・企業では、以下のように定義している。
【ハラスメントの定義(例)】
厚生労働省 | 同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、 業務の適正な範囲を超えて精神的・身体的苦痛を与える、または職場環境を悪化させる行為をいう。 |
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職場のハラスメント研究所 | 職場において、地位や人間関係で弱い立場の人たちに対して、繰り返し精神的または身体的な苦痛を与えることにより、結果として相手の働く権利を侵害し、職場環境を悪化させる行為。 |
クオレ・シー・キューブ | 職務上の地位または職場内の優位性を背景にして、本来の業務の適正な範囲を超えて、継続的に相手の人格や尊厳を侵害する言動を行うことにより、就労者に身体的・精神的苦痛を与える、または就業環境を悪化させる。 |
21世紀職業財団 | 職場において、職務上の地位や影響力に基づき、相手の人格や尊厳を侵害する言動を行うことにより、その人や周囲の人に身体的・精神的な苦痛を与え、その就業環境を悪化させること。 *職場において:取引先の事務所、顧客の自宅などでも当該労働者が業務を遂行する場所の場合は該当。また、勤務時間外の宴会、休日の連絡等でも業務上の失敗を責めるなど実質上職務の延長上で行われた場合には該当。 |
全国労働安全衛生センター連絡会議 | 職務上の権限や上下関係、職場における人間関係等に伴う権力を利用し、業務や指導などの適正な範囲を超えて行われる 強制や嫌がらせなどの迷惑行為。 *上司から部下への行為に限らず、同僚間や部下から上司に行われる場合や所属組織以外の上部組織、顧客等の取引先関係者から行われる場合もある。 |
問題は近年、ストレス社会を背景にして、パワハラの件数が増加していることだ。また、パワハラは職場の上司・部下との間で生じるものであるため、上司に「生殺与奪権」を握られた部下は誰にも相談できず、事態が潜在化しやすい傾向にある。つまり、「表面化してはいないが、実態としてパワハラが行われている」ことが問題なのだ。
パワハラが起きた時にも、「パワハラと業務上の指導との線引きが難しい」「事実確認が難しい」「被害者が嫌がっていることを加害者に理解させることが難しい」「上司と部下との深いコミュニケーションが取れなくなる」といった懸念事項があるため、パワハラ問題について企業の対応が及び腰になっている現実がある。
◆「指揮命令関係」を逸脱しない
上司には、部下の育成という重要な任務が課せられている。部下の業務遂行を指示・監督し、失敗したときには指導を行わなければならない。時には、苦言を述べたり叱責したりすることもある。このような観点から上司が部下に命令したり、部下の失策を叱ったりすること自体は、全く問題がない。
部下が実績を上げたり、能力を伸ばしたりするために、「ストレッチ目標」として、上司があえて部下にとっては少しきつく、難しいと感じる仕事を与えることがある。その時、部下は「なぜ上司はこんな無理を押し付けるのか」と思うかもしれないが、後に振り返ってみると、それは上司が自分のことをよく考えた上での対応だということが分かる。
しかし、それはあくまで「指揮命令関係」上のことであり、部下の人格や尊厳を傷つけることとは別問題である。上司がこの点(境界性)を正しく理解せず、「上司だから何をやっても(言っても)許される」あるいは「自分の若い頃は、これぐらいのことは当たり前だった」などと誤った認識で部下へと接した(指揮命令を行った)ときに、パワハラが起きるのである。
◆どのような行為(言動)がパワハラとなるのか
指揮命令かパワハラかの判断でポイントとなるのは、上司の指導や注意、叱責などの言動が、「職務と関係のあるものなのか」「業務上必要性のあるものなのか」ということだ。また、業務上の必要性がある場合でも、問題となっている行為(言動)が、「業務上一般的に必要とされる範囲を逸脱していないかどうか」を、十分に検討する必要がある。
【パワハラに該当するかどうかの判断のポイント】
- 職務との関連性・業務上の必要性の有無
- 業務上、一般的に必要な範囲を逸脱していないか
例えば、部下のプライベートな部分に口を出すことは、職務と直接関係がないので、パワハラに該当する可能性が高い。あるいは、「部下を無視する」「仕事を与えない」「会議に呼ばない」といった行為は業務上必要ではなく、明らかにパワハラに該当する。
このような職務との直接関係があるかどうかの判断は、比較的容易だと思われる。難しいのは、業務上必要と認められるが、「範囲を逸脱しているかどうか」の判断である。この判断に関しては、結局のところ“常識的な判断”という主観的な物差しを用いざるを得ないが、厚生労働省労働基準局がまとめた「職場のいじめ・嫌がらせ問題について」(2011年7月)では、パワハラに該当すると思われる具体例が示されているので、参考にしてほしい。
【職場のいじめ・嫌がらせの具体例(都道府県労働局での相談事例)】
身体的苦痛を与えるもの(暴力、傷害等) | ・段ボールで突然たたかれる、怒鳴る ・上司がネクタイを引っ張る、たたく、蹴る、物を投げる ・0℃前後の部屋で仕事をさせられる |
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精神的苦痛を与えるもの(暴言、罵声、悪口、プライバシー侵害、無視等) | ・客の前で「バカ、ボケ、カス、人としてなってない」 ・社長の暴言「何でもいいからハイと言え、このバカあま」 ・私生活への干渉 ・部下への非難を言うミーティングを上司が行ったケース ・ロッカー室冷蔵庫内の私物食品の盗みを疑われる ・仕事を取り上げ、毎日「辞めてしまえ」 ・呼び名は「婆さん」、業務命令はいつも怒声 ・同僚が手や髪の毛を触る、不愉快な発言 |
社会的苦痛を与えるもの(仕事を与えない等) | ・社員旅行参加を拒絶される ・回覧物を回されない、暑気払いや忘年会に呼ばれない ・中国転勤を断ったところ、仕事を与えず小部屋に隔離 |
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