“人間のプロ”として、人事はどうあるべきか?
~今、求められる「戦略人事」の実現に向けて
株式会社LIXILグループ執行役副社長 人事総務・法務担当
八木 洋介さん
正しいことを考え続け、拠り所を持つ
人事が求められている役割を実現していくには、どのようなことを心掛ければいいのでしょうか。
常に、何が正しいのかを考えることです。ルールに書いてあるから正しい、ということではありません。時にはルールが間違っていたり、状況に適さなかったりすることもあります。常に何が正しいのかを考え、自分なりの拠り所となるものを見つけることです。
正しいことを考え続けていると、「自分としては、これだけは譲れない。とても大切にしている考え方で、判断の基準となる」というものが必ず出てきます。そういうものを見つけるための試みを、LIXILでは「ELT(エグゼクティブ・リーダーシップ・トレーニング)」として、ハイポテンシャルと思われる人たちを集め、8ヵ月間に渡って行っています。今、当たり前に行われていることでも、おかしいとか間違ったルールだと思った時には、自分が正しいと思うことを口にして実践していく――。そうすることの意味と重要性について、いろいろな形で話し合うようにしています。
このようなことを考えるようになったのは、私がかつて大学受験から逃げて海外放浪の旅に出たこと、NKK時代に社長批判をしたことなど、自分がこれまでやってきた数々の失敗を、自分なりに分析してきたからです。「自分にとって正しいこととは何なのか?」「正しいことが見えているのに、どうしてそれができなかったのか?」「より適切な方法ができなかったのはなぜか?」「何が自分の行動を妨げているのか?」「どうやったらその原因を外すことができるのか?」というようなことを、ずっと考えてきました。すると、たいていの人は自分と同じようなことで悩んでいたり、壁に突き当たったりしていることが分かりました。そのため、相談を受けた時には学説などではなく、自分の経験からヒントを言うようにしています。そういう意味からも、「人事のプロ」というのは、まず自分を知ることが大切だと思います。
重要なのは、失敗した経験をそれだけで終わらせないで、なぜ自分はそんなことをしたのか、一所懸命考えること。そして、自分の中に腹落ちさせることです。失敗した経験を、意味のあるものにしていくのです。そういう引き出しを持っていると、相談に来た人たちを元気づけたり、何かきっかけを与えたりすることができます。人を相手にする人事は、人に助言し、元気を出してもらうコミュニケーションをするためにも、自分を知り、自分の軸を持っていることが大切だと考えています。
単に知識を得ることは、インターネットがあるので、今では非常に楽になりました。一番難しいのは、生身の人間を相手にして、言葉を紡いでその人のやる気を高め、パフォーマンスを上げていくということです。これができれば、会社の生産性は向上していきますし、逆にそれができなければ、人のやる気やパフォーマンスは半減します。そういった意味からも、人のエンゲージメントレベルを高いところに置いておくことは、会社の業績を差別化する最大の要因だと思います。それができるのが人事の「醍醐味」でもあり、人事が会社に一番「貢献」できるところです。
さまざまなジャンルのオピニオンリーダーが続々登場。それぞれの観点から、人事・人材開発に関する最新の知見をお話しいただきます。