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社員が笑顔で、生き生きと働くための
「キャリアカウンセリング」

法政大学キャリアデザイン学部教授・臨床心理士

宮城 まり子さん

頻発する「異動希望」の背後にある現実逃避

マネジメントする側も大変ですね。

いま、ある会社でキャリア相談室のスーパーバイザーを担当していますが、20代から30代前半の社員に多いのが、「異動希望」の相談なのです。ただキャリア相談室には人事権はないので、異動希望に沿うことができません。それにも関わらず、どうやったら異動できるかという「策」を練るために、キャリア相談室に来るわけです。そこで皆が言っている「異動希望」の理由は、「仕事が合わない」「上司と合わない」「こんな仕事をしたくない」といった稚拙なものが多く、これは現実からの逃避に他なりません。

私がキャリアカウンセラーの人たちに言っているのは、異動先の相談には乗らないようにということ。それより、なぜ異動したいかその理由を聴くように言っています。実際は、異動しなくてもいいような問題ばかりなのです。上司とよい人間関係を作る、どうやって工夫したらやりがいを感じられる仕事に変えることができるか、楽しみへと変えられるのか、といった支援をしてくださいとお願いしています。

異動が成り立つのは、本人が異動するための努力を本気でしているかどうかによります。異動したい部署があるならば、その部署で必要な知識を学んだり、資格を取るようなことをしているか。海外転勤がしたいのなら、TOIECなどに本気でチャレンジして英語の勉強をしているか、といったことです。

さらに言えば、上司が応援したくなっているかどうかです。この部下は本当に努力しているし、ぜひとも全社的な視点から育てたいと思っているので、希望する部署に行かせて動機付けをしてあげたいと思っていると。そのためには、上司が応援してくれるよう積極的に働きかけをしていかなくてはなりません。

信頼できる「人間関係」を持てていない

自分の人生やキャリアのことを真剣に考えないのは、どこに原因がありますか。

宮城 まり子さん Photo

今の新入社員の人たちは、子供の頃から個室があてがわれています。だから、テレビのチャンネル争いをした経験などありません。自分の見たいテレビ番組を見れないというストレスを経験していないのです。集団の中でもめごとがあり、それを乗り越えていくという経験が非常に少ない。要は、人間関係やコミュニケーションするための「筋肉」が鍛えられていないわけです。逆に、そういう辛い状況に遭遇すると、避けてしまう。人と意見が対立すると、お茶を濁してしまうのです。とことん相手と議論することは彼らの頭の中にはなく、そういうことはダサいことだと考えています。

精神的に落ち込んだときに、仕事以外の楽しみとか、会社以外の信頼できる人間関係をどれだけ持っているかがとても重要になってきます。でも、今は多くの若者が薄っぺらな人間関係の中で過ごしています。自分の弱みも含めて、会社で苦労している、辛いということをオープンに話せる信頼に基づく人間関係が少ないように思います。そのため、ストレスが溜まりやすいのです。

一方で、変にプライドは大事にしています。自分がみじめな思いをしている、会社で怒鳴られる──これまでエリートで来た人というのは、這いつくばって泥の中でまみれているような姿や自分の弱味を、他人に見せるのを好みません。

話し、そして「放つ」ことで、気持ちが楽になる

「メンタルヘルス研修」で効果は上がりますか。

「メンタルヘルス研修」というと、管理職を対象としたラインケアがほとんどです。どうやって早期発見・早期対応するか、ということに主眼を置いています。もちろんこれも大事ですが、それよりも20代から30代にかけての人たちに、セルフケアの研修を行ったほうが効果的と思います。

現実には上司も忙しいので、仮に早期発見できたとしても、かなり重症化している場合が多い。だから、まずは、自己管理をする、メンタルヘルスのマネジメントを若い人がどれだけできるかが、職場としてとても重要な課題となっています。

カウンセリングをしていても、自分から情報発信したり、SOSを出すことが下手な人が多いと感じます。なぜもっと早く上司に言わないのかと。自分一人ですべてを抱え込んでしまって、結果的に調子が悪くなるまで自分から助けを求められなくなっています。

結局、対人スキルが非常に落ちていることが原因なのですね。そうすると、まずは自分以外の誰かと話をすること、これが第一歩ですね。

そうです。そして覚えておいてほしいのは、話すことは「放つ」ことにつながっているということ。カウンセラーは、まず、抱える問題をすべて放たせればいいのです。人は悩みを抱えている限りは辛いのですが、話し、放つことでとても楽になります。悩みを抱えた状態というのは、思いリュックを背負っているようなものです。「放つ」ことで、その中にある重たいものがどんどん軽くなっていく。そうすると、気持ちがとても楽になってきます。

宮城 まり子さん Photo

人間には放つ人が必要なのです。ただ最近の若い人には、そういう存在となる人があまりいません。本音で話せる人が本当に少ない。私は学生に対して、大学時代には弱音も含めて、話せる人を持ちなさいと言っています。

これは、企業の管理職にも言えることです。エリートの管理職の人ほど、自分の素を出しません。健康相談室やカウンセラーのところにも行きません。自分のメンタルヘルスの悪さを認めません。長い間悩みを抱え込んでしまい、結局、本当に悪くなった段階で初めて相談に来ます。これでは遅い。

ですから、キャリア相談室があったら、まず気軽に行ってみることです。そして、会社側もキャリア相談室があることを、もっと啓蒙していくこと。それには、形だけでもいいからキャリア相談室を作ることから始めなくてはなりません。いずれにしても、あるだけで違います。メンタルな相談室というのは行きにくいけれど、キャリア相談室であれば、仕事全般に関わることなら何でも気軽に相談できるわけです。それが、心の病気のことでは、なかなか相談に行こうとはしません。

キーパーソンが語る“人と組織”

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大阪府 商社(専門) 2020/10/14

 

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