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キーパーソンが語る“人と組織”

“人と企業のフラットな信頼関係”が日本を変える
シリコンバレー発の新しい雇用のあり方とは(前編) [1/3ページ]

2016/3/25

篠田 真貴子さん
(東京糸井重里事務所 取締役CFO)

篠田 真貴子さん 東京糸井重里事務所 取締役CFO
かつて機能していた終身雇用モデルが崩れ、個人と企業とのパワーバランスも揺らぎつつあります。労働力人口の減少も進み、企業は求める人材を採用・確保することが難しくなってきました。個人もまた、自ら機会をとらえて成長しなければ、激しい変化と競争の時代を生き残ることはできません。今後、人と企業が共存共栄していくためには、従来の関係をどのように問い直し、結び直せばいいのでしょうか。この問題に一つの解を示したのが、リンクトインの創業者リード・ホフマンらが記した書籍『ALLIANCE――人と企業が信頼で結ばれる新しい雇用』です。ALLIANCE(アライアンス)とは、個人と企業がフラットな信頼関係を築きながら、仕事に応じて雇用契約を結ぶこと。アマゾンなど、アメリカ・シリコンバレーの優良企業が続々実践しているそうです。本著の監訳を務めた東京糸井重里事務所取締役CFOの篠田真貴子さんに、ご自身の経験談も交えながら、国内外でアライアンスの考え方が注目される背景やその特徴、今後の可能性などについてうかがいました。
Profile

しのだ・まきこ●慶應義塾大学経済学部卒、1991年日本長期信用銀行に入行。1999年、米ペンシルべニア大ウォートン校でMBAを、ジョンズ・ホプキンス大で 国際関係論修士を取得した後、マッキンゼーにて戦略コンサルティングに従事。2002年、ノバルティス・ファーマに入社、人事部を経てメディカル・ニュートリション事業部、後にネスレ・ニュートリションにて経営企画統括部長をつとめる。2008年10月、ウェブサイト「ほぼ日刊イトイ新聞」を運営する東京糸井重里事務所に入社、2009年1月より現職。2012年、東京糸井重里事務所がポーター賞(一橋大学)を受賞する原動力となった。『ALLIANCE――人と企業が信頼で結ばれる新しい雇用』監訳。

子どもが生まれて気づいた、仕事に対する本当の欲求とは

―― 日本長期信用銀行(現:新生銀行)から留学を経て、マッキンゼー、ノバルティス・ファーマ、ネスレと、内外のそうそうたる企業で活躍されてきた篠田さんですが、そうしたキャリアへのビジョンを描き始めたのはいつ頃からですか。

自分の記憶では、大学生の頃には「社会へ出たら、男性と同じようにバリバリ働くんだ」というイメージを明確に持っていたつもりでした。ところが昨年末、家で片付けをしていたら偶然、高校時代に書いた作文が出てきて、将来はこういう職業に就きたいとか、夫の海外転勤について行って向こうでMBAを取りたいとか、書いてあったんです。作文を書いたことも忘れていたので、驚きました。男女雇用機会均等法が施行されたのがちょうど高校を卒業する前後でしたから、その議論が世間をにぎわせていた影響も少なからずあったのかもしれません。

ただ、「バリバリ働く」というとカッコよく聞こえますが、新卒の総合職で入った銀行時代の私は本当に生産性が低くて、当時流行していた「24時間戦えますか」という栄養ドリンクのCMが、別にキャッチーでも何でもない。「当たり前ですけど、何か?」という感じでしたね。配属されたのがマーケットの部署で、仕事自体も集中力を要しましたし、仕事が終われば「おい、飲みに行くぞ」でしょう。すごく鍛えられました。

―― 日本の伝統的なサラリーマン文化が、職場にまだ残っていたわけですね。

ええ。でも、そういう雰囲気自体は嫌じゃなかったんです。銀行を辞めて、留学しようと思うようになった一番のきっかけは、日本の銀行につきものの、頻繁な人事異動でした。自分の人生なのに、仕事の内容や働く場所さえ自分でコントロールできないのはいやだな、と。会社に一方的に決められて、たった1週間で次の職場へ赴任しなきゃいけない。「それが当たり前だ」という風土には、どうしてもなじめなかったんです。終身雇用なんだから、会社のいうことさえ聞いていれば一生安泰――同期の男性社員が疑いもせずにそう言い放つのを見て、「何を考えているんだろう」と不思議でなりませんでした。まぁ、彼らも私のことをそう思ったでしょうけどね(笑)

―― 当時の日本企業では、そういう人生観や就労観が“当たり前”で、篠田さんのような考え方は、たしかに異端だったかもしれません。

そもそも女性が総合職を志望するという時点で、すでに異端だったんです。実際、面接では「あなたが総合職を受けることについて、お父様は何とおっしゃっていますか」と聞かれたくらいですから。学業では私よりはるかに優秀な女性でも、アシスタント系の一般職を選ぶのが当り前だった時代に、あえてそうではない選択をした同世代の女性は、私に限らず、なぜそうするのか、自分にとって仕事とは何なのか、たえず自問自答を強いられたはずです。その分、周囲の男性社員が何の疑問も持たずに受け入れている、職場の“当たり前”に、疑問や違和感を持ちやすいということはあったんじゃないでしょうか。結局、MBAをとって外資系企業に移ってみると、仕事はハードだけど、こっちのほうが気持ちとしては楽というか、すごく自然に振る舞えるようになりました。

―― いくつかの外資系企業を経て、順調にキャリアを重ねていく一方で、あるときから、仕事に対する考え方に大きな変化が出てきたそうですね。

はっきり自覚するようになったのは、子どもができた頃でした。下の子どもを妊娠したとき、ノバルティス・ファーマというスイスの製薬会社にいたのですが、ちょうど管理職になり、職責も広がって……という矢先だったんですね。外資系では、仕事で成果を出せばストレートに評価され、より大きなポジションのオファーにつながります。以前は、その明快さが自分の感覚に合っていて、大企業の中で昇進したり、職責が広がったりすることがモチベーションになると信じていたのですが、どうもそうではない、と。新しいチャンスを提示されても、それをうれしいとか、面白いと思えない自分がいることに、気がついたんです。上の子が生まれた頃は、子育てとの両立に慣れていないせいかな、とも考えました。外資ですから、上司が子どものいるシンガポール人やフランス人の女性で、実際に励まされたり、教えられたりもしたのですが、ただ、育児の経験を積み、そういうロールモデルに恵まれても、やはり「本当に自分のやりたいことはこれじゃない」という違和感がぬぐえなかった。それは結局、仕事と子育てをどう両立するかが、問題の本質ではなかったからでしょう。

働きたいけれど、何を目指せばいいかわからなくなりかけていたところに、運よく東京糸井重里事務所(以下、糸井事務所)からオファーがあったんです。もともと「ほぼ日」のファンだったので、これは面白いという確信がありましたし、何よりも自分の現状を変えたいという思いから、転身を決めました。仮に1~2年やってうまくフィットしなければ、またもとの業界で職を探せばいい。挑戦とか、冒険とか、そんな重いノリはありませんでした。


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