世界基準のリーダーシップを求めて伸ばす
GE流“生え抜き”育成哲学とは(前編)
―― 強さの秘密は「全社員一人ひとりをリーダーに」
日本GE株式会社 代表取締役 GEキャピタル社長兼CEO
安渕 聖司さん
アメリカの代表的な株式指標「ダウ平均」が1896年に算出を始めて以来、今日に至るまで一貫して選ばれ続けている銘柄はただ一社。あのエジソンをルーツに持つ、GE=ゼネラル・エレクトリック・カンパニーだけです。航空機エンジンや発電用タービン、医療機器などの製造から金融サービスまで多様な事業を展開するGEは、世界150ヵ国以上で約30万人が働くグローバル企業。企業の国際間競争が激化する中、長い歴史を経て今なお世界の巨人であり続けるGEの取り組みは、日本企業にとっても大いに参考になるに違いありません。GEの金融部門であるGEキャピタル社長兼CEOで、日本GE全体の代表取締役でもある安渕聖司さんに、人材に関する考え方や取り組みについてお話しいただきました。
やすぶち・せいじ●1979年、早稲田大学政治経済学部卒、三菱商事入社。90年ハーバード・ビジネススクールMBA修了。99年、米投資ファンド、リップルウッドの日本法人立ち上げに参画。01年、UBS証券会社入社。投資銀行本部の運輸および民営化責任者として、多くの大型案件を手がける。06年、GEコマーシャル・ファイナンスにアジア地域事業開発担当副社長として入社。07年、GEコマーシャル・ファイナンス・ジャパン社長兼CEOに就任。09年、GEキャピタル社長兼CEOに就任し、日本の金融サービス事業全般を統括、現在に至る。
「人を育てることへの情熱」に驚かされたGEとの出会い
GEといえば、アメリカを代表する世界的な企業ですが、多くの日本人が持つ“アメリカの会社”のイメージからすると、意外に思える特徴も少なくありません。
当社は、発明王トーマス・エジソンが創業した会社に端を発し、1892年に「ゼネラル・エレクトリック・カンパニー」として設立されました。よく驚かれるのは、その120余年の歴史の中で、経営トップであるCEOがわずか9人しか出ていないということです。一人あたりの在任期間は平均で14~15年と、きわめて長い。しかも9人全員が社内の生え抜きなのです。ご存知のように、アメリカの企業では経営者を外部から次々と招聘することが日常茶飯ですが、GEではこれまで一度もありません。長期的な視点に立った経営を行ない、そのために一貫して自前のリーダーを育て続けている。そこが、「アメリカの会社らしくない」と思われる、当社の最たる特徴でしょう。
GEは“人材輩出企業”として有名です。御社が人を育てることに、とりわけエネルギーを注ぐ理由を教えてください。
実は私も、入社してまず驚かされたのが、GEの人材育成に対する熱意の強さ、意識の高さでした。正直、これほどまでとは思いませんでした。その背景にあるのは、リーダーシップに対する信念です。GEにとって人を育てることは、リーダーを育てることと同義であり、われわれは社員一人ひとりにリーダーシップを求めています。理由はかんたん。全員がリーダーシップをとれる組織のほうが、そうでない組織よりもはるかに強く、はるかに高いパフォーマンスが出せる、そして環境の変化にも的確かつ迅速に対応できる、と確信しているからです。すぐれたパフォーマンスと徹底した変化への対応こそが当社の最も重要なミッションであり、それを達成するために組織の上から下まで、社員一人ひとりにリーダーシップを求め、しっかりと身につけさせる。会社として、そういう強い信念があります。
安渕さんご自身も驚かれたというGEの「人を育てることへの熱意」。それを、最初に実感されたときのことを覚えていらっしゃいますか。
前職を経てGEに入社したとき、私は50歳になっていました。もともとはコマーシャル・ファイナンスの事業開発担当で、アジア全域のM&Aのヘッドとして雇われたのですが、入社して間もなく手がけたプロジェクトが評価されて、次はいきなり、「GEキャピタルの日本法人全体のマネジメントをやってほしい」という話が来たのです。まだ入社して1年1ヵ月しか経っていなかったので大変驚き、思わず当時の上司に「人違いじゃないですか」と言いました。会社も上司も、私のことをまだよく知らないはずではないかと。しかし、上司は「そんなことはない。君について多くの人から話を聞き、さまざまな情報も集めた。私は君を良く知っている」と断言したのです。
後からわかったことですが、たしかにGEは人をよく見ている。採用するときも、その人にリーダーシップのポテンシャルがどれくらいあるかを評価して、それがあれば、採用時点のポストだけでなく、将来的にどこかのリーダーシップロールをまかせようと、最初からそこまで見据えているのです。しかも、その姿勢は年齢に全く関係がありません。ポテンシャルがあるとわかったら、私のように50歳を過ぎて加わった人間にも、チャレンジングなステージを用意し、能力をとことん引き出そうとするわけですから。なるほど、これなら人が伸びるはずだと感心しました。ちなみに、いま私の手元にある部下のパーソナルデータにも年齢の記載はありません。そもそも、書き込む欄がありません。人事に関する判断に、年齢は一切関係ないからです。GEでは、そういうところがとにかく徹底されているのです。
さまざまなジャンルのオピニオンリーダーが続々登場。それぞれの観点から、人事・人材開発に関する最新の知見をお話しいただきます。