「なぜZ世代は将来不安を抱いているのか」
~希望あるライフデザインに向けた経済的・教育的方策とは~
第一生命経済研究所 ライフデザイン研究部 主任研究員 西野 偉彦氏
1.高校生の7割以上が「将来に不安」
Z世代は、定義が厳密に定められているわけではないが、おおむね「1990年代半ばから2000年代に生まれた世代」を指しており、2024年現在では10歳代半ば~20歳代にあたる(注1)。生まれながらインターネットが利用可能だったことから「デジタル・ネイティブ」といわれ、多様性を重んじる傾向などが指摘されている。これから10年先の日本を見据えたとき、20歳代~30歳代の大半を占めることになるZ世代の生活行動や考え方などについて、様々な角度から検討を加えることは重要である。
本稿では、「Z世代と将来不安」を取り上げる。Z世代は、自分の将来に対して不安感を強く抱いている世代と指摘されている。たとえば、独立行政法人国立青少年教育振興機構が日本を含めた4か国の高校生を対象に2022年に実施した調査によると、日本の高校生は「自分の将来に不安を感じている」「将来のことを悩むより今を楽しみたい」について、「よくあてはまる」「まああてはまる」と回答した割合がいずれも75%を超え他の3か国に比べて最も高くなっており、将来不安を強く抱いていることが示されている(図表1)。
高校生は、子どもから大人へと変わる思春期にあたり、不安を抱きやすい時期といわれるが、こうした「将来不安」は高校生に限らず、Z世代全般が抱えていることを示唆する調査結果もある。大手コンサルティンググループが2022年に実施した「Z・ミレニアル世代年次調査2023」によると、日本におけるZ世代の4割程度が、今後の景気の悪化・停滞により、結婚・出産や住宅購入、昇給などといった個人のキャリアの展望やライフイベントが困難になると予想している(注2)。
2.Z世代の「将来不安」をかき立てるものは何か
なぜ、Z世代は将来不安を強く抱いているのだろうか。子ども家庭庁が13歳~29歳を対象に実施した調査によると、子ども・若者の7割以上が仕事について「十分な収入を得られるか」について不安があると回答している(図表2)。Z世代は幼少期以降、ITバブル崩壊、リーマンショック、東日本大震災、コロナ禍など経済不安が高まる時期を過ごしていることの影響も考えられる。近年のZ世代の収入への不安感は、アメリカやドイツなど4か国のZ世代と比べても高い水準にある(注3)。物価高など景気の動向への不安感が大きいようだ。
ただ、Z世代が収入への不安を強く抱く背景には、景気の動向だけでなく、奨学金の負担感が影響している可能性もある。労働者福祉中央協議会が2024年に実施した調査によると、大学卒の奨学金利用者率は45.2%に上っている。日本学生支援機構の貸与型奨学金利用者(以下、JASSO利用者)の借入総額は平均340万円を超え、過去の調査に比べて最も高いとされている(注4)。同会によると、貸与型奨学金の返済期間は平均14年程度であり、今後の奨学金の返済について利用者の7割が不安を抱き、4割以上が返済の負担に苦しさを感じている(注5)。さらに、奨学金の返済は若い世代のライフデザインにも影響しているようだ。「貯蓄」については6割以上、「結婚」「出産」「子育て」「持家取得」については4割前後の利用者が奨学金返済による生活設計への影響があると回答し、しかも「貯蓄」以外は増加傾向にある(図表3)。
また、Z世代の将来不安を考察するうえで興味深いのは、前述の子ども家庭庁の調査において「仕事に対する現在または将来の不安」として、「収入」に続いて「きちんと仕事ができるか」(70.8%)、「働く先での人間関係がうまくいくか」(67.7%)、「そもそも就職できるのか・仕事を続けられるのか」(66.8%)が上位となっている点である。いずれも「自信を持てない」ということであり、将来への不安が子ども・若者の「自己肯定感の低さ」に起因することを示唆している。
自己肯定感は、自尊感情や自己効力感などの言葉とほぼ同じ意味合いで、自分への肯定的な評価を抱いている状態とされている(注6)。日本財団が日本を含めた6か国の18歳を対象に2024年に実施した調査でも、日本の18歳は「自分のしていることには、目的や意味がある」「自分は他人から必要とされている」「自分には人に誇れる個性がある」の割合が、いずれも他の国と比べて低くなっており、若者の自己肯定感の低さが浮き彫りになっている(注7)。
自己肯定感を向上させるためには、教育的側面が重要とみられている。小出他(2021)によると、自己肯定感は教師や仲間との相互作用を通して、自分がどのように扱われているか、周りは自分をどう見ているのかが重要であることや、親しい人間関係にある周りの人たちから認められたり、ほめられたりする経験を通して形成されるとしている。したがって、教師や友人から認められることで自分自身を大切にし、自分に自信を持つことができる可能性がある(注8)。
3.将来不安を緩和するための「ハード&ソフト」の対策
このように、Z世代が将来不安を抱く背景には、経済面や教育面など様々な要素が絡み合っている。したがって、1つの方策をもって「将来不安社会」から「若者希望社会」へと変えることは難しいだろう。ただ、それぞれの不安要素について、ハードとソフトの両面から緩和していくことは可能なのではないか。
たとえば、ハードの解決策として挙げられるのは、大学などの高等教育の公費負担の拡充である。前述の労働者福祉中央協議会の調査によると、高等教育の公費負担について、「可能な限り公費であるべき」と回答した人は3割以上、「OECD平均まで引き上げるべき」と回答した人は2割程度に及んでいる(注9)。こうした高等教育の公費負担の拡充や、奨学金返済に関する所得控除の導入などは、2024年10月に実施された第50回衆議院議員総選挙でも主要政党がマニフェストに掲げており、今後は国会での議論も加速していくものとみられる。
また、高等教育だけではなく、幼稚園や保育園、医療、介護、障害者福祉など、誰もが必要とする公的サービスを無償化するという提言(ベーシックサービス)も注目されている。実際、わが国では「目指す社会像」の策定にあたり、ベーシックサービスの考え方を検討する政党が与野党ともに出てきている。ベーシックサービスは、現金を給付するベーシックインカムに比べて支出が抑制されるといわれているものの、消費税率引き上げなどの財源確保策が必要との指摘もあり、ただでさえ将来への不安の大きなZ世代がさらなる税負担を許容するかなど、導入の実現可能性については十分な議論が必要だろう(注10)。
ソフトの解決策として考えられるのは、子どもの自己肯定感を向上させるための教育である。子ども・若者の自己肯定感の向上については、政府も教育再生実行会議において、第十次提言「自己肯定感を高め、自らの手で未来を切り拓く子供を育む教育の実現に向けた、学校、家庭、地域の教育力の向上」を公表するなど、重要な教育課題と認識されている(注11)。こうした動きをふまえ、子どもの自己肯定感を高めることを目的としたハンドブックや教員研修などを作成・実施する自治体も多い。また、学校ごとに子どもの自己肯定感を高める校内目標を明記するなど、現場レベルにおいても子どもの自己肯定感の向上を目指す教育活動を行う事例も少なくない。
子ども・若者の自己肯定感を高める教育を一層拡充しつつ、奨学金をはじめ教育に関する経済的な負担感を減らしていく制度改革により、Z世代の将来不安を緩和させ、希望あるライフデザインを描けるようにすることが求められている。
【注釈】
- 厚生労働省(令和5年度)「新しい時代の働き方に関する研究会」における「新しい時代の働き方に関する研究会 報告書 参考資料」参照。
- デロイト・グループ「Z・ミレニアル世代年次調査2023日本版」より「もしもあなたの国の経済状況が悪化・停滞した場合、将来あなたが以下のことを成し遂げる可能性はどのように影響を受けると予測しますか?」の回答参照。
- こども家庭庁「こども政策に関する調査研究事業」より「我が国と諸外国のこどもと若者の意識に関する調査 報告書(令和5年度)」参照。
- 労働者福祉中央協議会「高等教育費や奨学金負担に関するアンケート2024」
- 同上
- 国立教育政策研究所「生徒指導リーフ」シリーズより「自尊感情」?それとも「自己有用感」?参照。
- 日本財団「18歳意識調査」より「第62回 国や社会に対する意識(6か国調査)」報告書(2024年)
- 小出真奈美・片岡千恵・荒井信成「小学校低学年における児童の自己肯定感を高める授業の試み‐特別の教科道徳と体育等横断的な取り組みから‐」日本健康教育学会誌2021年
- 労働者福祉中央協議会「高等教育費や奨学金負担に関するアンケート2024」
- 慶應義塾 三田評論「ベーシックインカムとベーシックサービス」2021年
- 教育再生実行会議 より第十次提言「自己肯定感を高め、自らの手で未来を切り拓く子供を育む教育の実現に向けた、学校、家庭、地域の教育力の向上」(平成29年6月1日)
【参考文献】
- 第一生命経済研究所『ライフデザイン白書2024 ウェルビーイングを実現するライフデザイン』東洋経済新報社2023年
- 教育の未来を研究する会編『最新教育動向2024』明治図書2023年
- 井手英策『ベーシックサービス~「貯蓄ゼロでも不安ゼロ」の社会』小学館新書2024年
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