企業や家庭の状況が変われば、
管理職を希望する中高年女性は「4人に1人」まで増える
~女性登用の数値目標を達成する鍵は企業と家庭にあり~
ニッセイ基礎研究所 生活研究部 准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任 坊 美生子氏
要旨
企業に女性活躍を促す「女性活躍推進法」は、2025年度に時限立法の期限を迎える。国内の女性管理職比率は、過去10年、約1割のまま低迷しているが、これまで「どうしたら女性管理職を増やしていくことができるか」という具体的な議論は不十分だったのではないだろうか。
これまでは、女性管理職が少ない要因として、女性自身の昇進意欲の低さが指摘されてきた。しかし、それは本当に、女性個人だけの責任なのだろうか。企業や家庭の状況にも問題があるのではないだろうか。筆者はそのような問題意識から、年昨年10月、一般社団法人定年後研究所と、インターネット調査「中高年女性の管理職志向とキャリア意識等に関する調査~『一般職』に焦点をあてて~」を行った。
その結果、中高年女性のうち、現状では管理職を希望する女性は約1割にとどまるが、企業や家庭の状況が変われば、管理職を希望する女性は「4人に1人」まで増えることが分かった。その条件とは、管理職の評価・待遇や職務範囲の見直し、管理職に対するサポート、業務の合理化、管理職になるための教育の充実、働き方の見直し、家庭における男女役割分業の見直しなどである。
つまり、女性の管理職への昇進意欲のネックになっているのは、企業や家庭の状況であり、それらを解消・緩和していくことができれば、女性管理職比率を上昇させ、日本のジェンダーギャップを縮小していくことは可能だと考えられる。
1――はじめに
「世界経済フォーラム」が2023年に発表したジェンダーギャップ指数で、日本は世界146か国中125位となり、2006年以降、過去最低の順位を更新した 1。日本のジェンダーギャップの大きな要因の一つは、経済分野における女性管理職比率の低さにある。政府は2003年から、「指導的地位に占める女性の割合30%」を目標に掲げ 2、2016年には「女性活躍推進法」を施行して企業に数値目標の設定や具体的な対策を促してきたが、女性管理職比率は依然、約1割のまま低迷している。2025年度には、女性活躍推進法の時限立法の期限が迫っているが、「どうしたら実際に女性管理職を増やしていくことができるか」という、具体的な議論はこれまで不十分だったのではないだろうか。
女性管理職が少ない要因として、国内ではこれまで、女性自身の昇進意欲の低さが指摘されてきた。それ自体は、各種の調査結果を見れば、事実だろう。しかし、「女性の意欲の低さ」は、本当に、女性個人だけの問題なのだろうか。企業側は、女性を採用して以降、将来の管理職登用を視野に入れた配置や教育をしてきたのだろうか。また、現在の職場は、残業や休日出勤をしないと管理職の仕事を全うできないような状況になっていないだろうか。さらに、家庭における女性の過重な家事育児負担が、仕事に費やす時間を奪っていないだろうか。
筆者はこのような問題意識から、「企業や家庭の状況が変われば、女性の管理職志向は前向きに変化する」という仮説を立てて、昨年10月、一般社団法人定年後研究所との共同研究として、インターネット調査「中高年女性の管理職志向とキャリア意識等に関する調査~『一般職』に焦点をあてて~」を行った 3。その結果、中高年女性のうち、現状では管理職を希望する女性は約1割にとどまるが、仮説通りに、企業や家庭の状況が変われば、管理職を希望する女性は「4人に1人」まで増えることが分かった。本稿では、この調査結果を基に、女性管理職比率の反転攻勢に向けた方向性を提示する。
1 朝日新聞2023年6月22日。
2 2003年の男女共同参画推進本部において決定。
3 調査対象は、全国の、従業員500人以上の大企業に正社員として勤める45歳以上の女性で、コース別雇用管理制度がある企業では「一般職」と「総合職」の女性。コース別雇用管理制度がない企業では、「主に基幹的な業務や総合的判断を行う職種」と「主に定型的な業務を行う職種」に就く女性。及び、定年前にこれらのコースや職種に就き、定年後も継続雇用で働いている女性。有効回答数1,326(「一般職」1,000、「元一般職」39、「総合職」258、「元総合職」29)。
2――女性管理職比率の現状と企業の課題認識
2-1│女性管理職比率の現状
まず、厚生労働省の「令和4年度雇用均等基本調査」から、国内企業(従業員規模10人以上)の管理職(課長相当職以上)に占める女性の割合を見ると、2022年度は12.7%である(図表1)。同調査によると、国内企業の「正社員・正職員」に占める女性の割合は26.9%であり、母数に比べても、女性の管理職比率は低い数値である。過去の推移をみると、数値の公表が始まった2009年度の10.2%から、ほぼ横ばいである。
役職別に見ると、「課長相当職」が11.6%、「部長相当職」が8%と、上級管理職はより少ない。また、一般的には「管理職」には含まれないが、「係長相当職」は18.7%と最も高い。
次に企業規模別にみると、「10~29人」は21.3%、「30~99人」は15%、「100~999人」は9.5%、「300~999人」は6.2%、「1,000~4,999人」は7.2%、「5,000人以上」は8.2%となっており、規模が大きい方が、女性管理職比率が低い傾向がある。
2-2│女性管理職比率の低さに対する企業側の認識
次に、このような状況に対する企業の課題認識についてみていきたい。厚生労働省が2015年に行った委託調査で 4、女性の活躍推進に関する企業の課題認識(複数回答)を尋ねた結果が図表2の通りである。従業員数「301人以上」の企業では、全項目のうちトップが「女性社員の管理職を目指す意欲を高めることが難しい」であり、半数の49.5%に上った。従業員数「101人以上300人以下」でも、45%に上り、最も高かった。このように、企業の多くは、女性管理職比率が上昇しない主要因を「女性社員の意欲の低さ」にあると認識していることが分かる。
4 三菱UFJリサーチ&コンサルティング(2016年)「ポジティブ・アクション『見える化』事業 女性活躍に関する調査報告書」。
3――中高年女性側の管理職昇進に関する意識
3-1│中高年女性会社員の管理職志向
次に、女性社員側の意識についてみていきたい。一般社団法人定年後研究所とニッセイ基礎研究所が昨年10月、大企業に勤める45歳以上の女性を対象に行ったインターネット調査「中高年女性の管理職志向とキャリア意識等に関する調査~『一般職』に焦点をあてて~」では、これまでに管理職経験の無い女性に対し、将来的に管理職に就きたいかどうかを、「就きたい」「職場の状況次第では就いても構わない」「家庭の状況次第では就いても構わない」、「就きたくない」、「分からない」の5択で尋ねた。
その結果、大半の64.3%は「就きたくない」だった(図表3)。「就きたい」は8.6%にとどまったが、「職場の状況次第では就いても構わない」が12.1%、「家庭の状況次第では就いても構わない」が3.6%と、“条件付き”で希望する層が計15.7%、存在した。従って、“条件付き”を含めると、管理職を希望する層は中高年女性の24.3%となり、およそ4人に1人の割合まで増えることが分かった。
3-2│中高年女性会社員が管理職に「就きたい」理由
次に、条件なしで、将来的に管理職に「就きたい」と回答した女性にその理由を尋ねると、「給与が上がるから」と「よりやりがいのある仕事に就きたい」が5割近くに上り、双璧だった(図表4)。つまり、女性の昇進意欲には、お金と同じぐらい、「やりがい」という自己実現への動機が関連していることが分かった。
次いで、「経営や組織運営に関わりたいから」、「新しいことを経験したいから」、「社員の育成や指導に関わりたいから」など、管理職の職務内容自体への関心・意欲を示す項目がいずれも2割弱となった。「自身の社会的地位を挙げたいから」も同じく、2割弱だった。また、「女性の同僚や後輩たちの進む道を広げたいから」や「社会の中で女性の地位を上げたいから」など、自身の事情だけではなく、職場や社会のジェンダーの問題を改善しようとする動機も1割を超えたことは注目される。
3-3│中高年女性会社員が管理職に「就きたくない」理由
次に、将来的に管理職に「就きたくない」と回答した女性にその理由を尋ねると、「責任が重くなったり、業務負荷が大きくなったりするから」(約7割)や「精神的プレッシャーが大きいから」(約5割)など、職務に関する項目の割合が大きかった(図表5)。また、「部下を統率する自信が無いから」も約3割に上った。「責任が重くなるわりに、給与が上がらないから」(2割強)など待遇への不満、「労働時間が長くなるから」(約3割)など働き方への不満も多かった。
これらの結果を見ると、管理職を敬遠する最大の理由は、一見、職務の難易度に女性が委縮していることのように見えるかもしれないが、その背景を考えると、例えば「責任が重くなったり、業務負荷が大きくなったりする」や「部下を統率する自信が無いから」という意識には、管理職手前のチームリーダーなどの経験が不足しているとも考えられるし、職場における管理職の職務範囲が広すぎるという可能性もある。就任後に上級管理職がフォローしたり、他の管理職や部下が協力したりするなど、管理職へのサポート体制が整っていない可能性もある。また言うまでもなく、働き方への不満は、企業自身の問題である。さらに、「家庭との両立が難しくなるから」という不満は、家庭での仕事に関する家族の役割分担とも関連している。
このように、中高年女性が管理職に就きたくない理由を紐解くと、女性個人の能力や意識の問題だけではなく、企業の人事マネジメントや働き方など、企業側の組織運営に関する問題が大きく横たわっているということができる。また、家庭の状況とも関連している。逆に言えば、企業や家庭のこれらの状況が改善されれば、管理職を敬遠する意識も変わってくる可能性がある。
3-4│中高年女性会社員が「管理職に就いても構わない」と思う条件
次に、将来的に「職場の状況次第では管理職に就いても構わない」と「家庭の状況次第では管理職に就いても構わない」と回答した女性に、具体的にどんな条件や環境が揃えば、管理職に就いても構わないと思うかをまとめた(図表6)。
その結果、最も多いのは「管理職の給与水準の改善」(3割強)や「管理職の評価制度の改善」(3割弱)など、評価・待遇面の改善だった。次いで、「管理職の職務内容や職務範囲の見直し」(3割弱)や「管理職に対するより上位の管理職からの支援やアドバイス」(約2割)など、管理職の仕事がしやすいように、職務の在り方や組織体制、組織運営の改善を求める回答も割合が高かった。また、「管理職研修を受講し、マネジメントに必要な知識や考え方を学べること」や「管理職手前でサブ管理職のようなポストを経験し、マネジメントのノウハウをOJTで習得できること」など、マネジメントのノウハウを座学やOJTで身に着けられるように、教育の充実を求める回答も多かった。
その他、「社内会議の頻度を減らすこと」や「オンライン会議やチャットなど、デジタルのビジネスツールをより活用できること」が1~2割に上り、管理職の仕事の合理化への希望も多かった。「管理職同士の飲み会や付き合いが減ること」(1割弱)といった職場慣習の見直しの希望もあった。
さらに、「転勤がない管理職ポスト」や「フレックスタイム制度など、働く時間を選べること」、「在宅勤務制度など、働く場所を選べること」、「管理職の残業時間を抑える仕組みや風土づくり」など、働き方の見直しを求める回答も軒並み2割前後となった。
家庭においては、「家庭で、育児や介護など、家族のケアがひと段落すること」や「夫が、家事や育児、介護など、家庭の仕事をもっと分担すること」など、家庭における男女役割分業に関するものも1割弱あった。
これらの希望は、いずれも、3-3|で管理職に就きたくない理由として挙がった、「責任が重くなり、業務負荷が大きくなったりするから」や「精神的プレッシャーが大きいから」、「責任が重くなるわりに、給与が上がらないから」、「労働時間が長くなるから」等のデメリットを緩和する条件と言うことができる。
3-5│中高年女性会社員を管理職に登用するための鍵
3-3|でみたように、中高年女性が管理職を「希望しない」理由には、「職務」や「経験・情報不足」、「待遇」、「働き方」、「組織運営、風土」など、企業側の体制やマネジメントのあらゆる問題が含まれていた。3-4|でみた管理職に「就いても構わない」と思う条件には、その裏返しのような項目が並んだ。
つまり、中高年女性たちが現状で管理職への昇進意欲が低い背景には、女性個人の問題だけではなく、企業側の問題や家庭の問題があり、逆に、それらを解消・緩和すれば、中高年女性たちを管理職昇進に向けて前向きな姿勢に変えることができる。その数字が、2-1|でみたように、「4人に1人」ということになる。
先行研究でも、女性の昇進意欲については、組織マネジメントが重要であることが指摘されてきたが 5、実際に、女性自身への調査から、これらの面が整えば「管理職に就いても構わない」という意識を聴取できたことには、大きな意味があるだろう。
5 武石恵美子(2014)「女性の昇進意欲を高める職場の要因」『日本労働研究雑誌』No.648。
4――終わりに
はじめに述べたように、日本では20年以上前から、政府が「指導的立場に占める女性の割合を30%」にすると目標に掲げているにも関わらず、経済界における女性管理職比率は過去10年、約1割のままほとんど前進していない。そしてその主要因としては、女性自身の意欲の低さが指摘されてきた。しかし、本稿でみた筆者らの意識調査の結果からは、それは企業側の見方に過ぎないということが分かった。
筆者らの意識調査の結果からは、女性の昇進意欲のネックになっているのは、寧ろ企業の組織マネジメントや働き方、家庭の問題であることが分かった。言い方を変えれば、企業は、組織マネジメントの見直しや働き方改革などを進めなければ、女性活躍の取り組みだけを急いでも、実を結ばないということになる。
筆者らの管理職志向に関する調査結果を見ていると、女性側の「管理職の給与が低すぎるから」、「管理職の業務が多すぎるから」、「管理職は残業が多すぎるから」といった声が聞こえてきそうである。もちろん、女性の昇進意欲の低さには、企業側と女性側、どちらか一方に責任があるというものではないが、労使が協力し合って、良い方向に前進していくべき問題だと言えるだろう。
私たちは、「日本は女性管理職比率が低い」、「日本は国際的にみてジェンダーギャップ指数が低い」といったニュースもすっかり聞き慣れて、無感覚になりつつあるのかもしれない。しかし、中高年の世代が無感覚になって改善に取り組まなければ、これから労働市場に入ってくる中高年女性の子どもたちの世代に、現在のジェンダーギャップを引き継ぐことになってしまう。
筆者は、女性管理職比率の反転攻勢は、可能だと考えている。女性管理職が低迷する要因が、企業や家庭の中にあることが分かった以上、それを一つずつ、改善に向けて取り組んでいけば良いと思う。家庭の男女役割分業の問題については、企業が社員の家庭に介入することはできないため、1社で解決することはできないが、例えば近年は、男性社員の本格的な育児休業取得に乗り出す企業が増えている。一部の先進事例が徐々に広がり、経済界全体で、男性が家事育児責任を果たすように後押しし、また職場環境としてそれができるように取り組んでいくことができれば、男女役割分業の文化を少しずつ変えていくことにつながるだろう。そのような取り組みの積み重ねを通じて、女性管理職比率は高まり、日本のジェンダーギャップは縮小していくのではないだろうか。
当調査では、本稿で報告した以外にも、中高年女性の管理職志向について様々な分析を行っており、順次、それらを紹介していく予定である。
ニッセイ基礎研究所は、年金・介護等の社会保障、ヘルスケア、ジェロントロジー、国内外の経済・金融問題等を、中立公正な立場で基礎的かつ問題解決型の調査・研究を実施しているシンクタンクです。現在をとりまく問題を解明し、未来のあるべき姿を探求しています。
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