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あの仕事の「ヒト」と「カネ」

【振付師】
アイドルやアーティストの“原石”の魅力に磨きをかける
ダンスを極めた身体表現のエキスパート

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昭和を代表するテレビ番組『8時だヨ!全員集合』のオープニングの踊りを振り付けたのが、先頃亡くなった俳優の藤村俊二さんであることはあまり知られていない。“おヒョイさん”の芸能界でのキャリアは意外にも「振付師」として始まったのだ。それからほぼ半世紀。ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』のエンディングを飾る「恋ダンス」で一躍、有名になったMIKIKOをはじめ、かつては表に出ることのなかった「振付師」の仕事に、近年、注目が集まっている。印象的な動きを考えるだけでなく、人材を育て、ステージや作品全体をまとめ上げる役割へと、その存在が大きくなっているからだ。

クリエイターであると同時に教育者、踊れない芸能人をどう踊らせる!?

アイドルグループのモーニング娘。やAKB48の育ての親として知られるカリスマ振付師の夏まゆみ氏が2014年6月に上梓した『エースと呼ばれる人は何をしているか』は、著者初の“ビジネス書”として出版され、大きな反響を呼んだ。振付師がなぜビジネス書なのかという疑問は一読氷解する。本書で明かされるのは、著者の専門であるダンスの奥義でもなければ、創作の秘密でもない。「振り付け」という芸術活動を通して確立された出色の教育論であり、人材論、キャリア論なのである。

夏氏は本書の出版時点で、300組を超えるアーティストの振り付けやダンス指導を担当していたが、そのほとんどがダンス未経験者だった。ダンスの振り付けとは、簡単に言うと、音楽に合わせたステップやポーズ、ターンなどの動作から一連のダンスを構成し、それを踊り手に伝え、覚えさせるまでの作業をいう。ダンス経験者なら、見よう見まねでもそうした動きを自分の身体で再現できるが、未経験者ではそうはいかない。踊れない人をどう踊らせるか。動きを教える以前に、いかにして踊る気にさせるか――振り付けの第一人者が強調するのは、相手のこころを揺さぶる“言葉の力”の大切さだ。それは奇しくも、多くのビジネスリーダーや人事プロフェッショナルが明言する人材・組織開発の要諦と一致している。クリエイターであると同時に、そうした“教育者”としての役割をも担うのが「振付師」という仕事の特徴なのだ。

振付師 イメージ

ダンス未経験者をどこまで踊らせるか。
振付師には、“教育者”としての役割もある

もともと「振付師」という日本語自体は、日本舞踊の振付職人を指す用語として、江戸時代中期には成立していた。器械体操やフィギュアスケート、シンクロナイズドスイミングなどのスポーツ、あるいは殺陣やアクションといった身体表現の用語としても使われるが、本稿ではダンスの振付師、なかでも需要の多い映画やテレビ番組、CM、舞台などに出演するダンサーや歌手への振り付けを専門に行う人材、仕事について取り上げる。この狭義の振付師を、いわゆるショービジネスの世界では「コリオグラファー」(choreographer)、バレエや舞踏の世界では「振付家」と呼ぶことも多い。

どういう人物が、どういうコンセプトのもとに、どういう環境(場所、設定)で、どういう音楽に合わせてパフォーマンスを行うのか。踊り手は何人か、そのうち男性は何人で、女性は何人か。衣装はどのようなものか。そうした要素をすべて見極めた上でオリジナルのダンスを創作し、踊り手にそれを指導する、すなわち“振り写し”するのが振付師の主な仕事である。ダンスパートの振り付けに止まらず、ショーやコンサート、映画やミュージカルといった作品全体の演出・構成まで手がける振付師も少なくない。古くは映画『キャバレー』や『オール・ザット・ジャズ』の演出で知られるブロードウェイの鬼才、ボブ・フォッシー。最近ではリオ五輪閉会式における五輪旗引き継ぎパフォーマンスの斬新な演出で一躍、世界的に注目され、上記の「恋ダンス」の振り付けも大ヒットさせたMIKIKO氏らがこれにあたる。

現場でのダメ出しにも即対応、人を輝かせることで自分も輝く面白さ

ダンスを指導する振付師は、当然のことながら、自分自身が優れたダンサーでなければならない。舞踊表現の基礎をなすクラシックバレエをはじめ、コンテンポラリー、ジャズ、ヒップホップといった幅広いジャンルのダンスに精通し、高度なスキルとそれらを通じた人間の身体への深い知識を身につけていなければ、オリジナリティあふれるダンスを生み出すことも、またそれを踊り手に的確に伝えることもままならないからだ。実際、活躍している振付師は、プロダンサーとして一定以上の実績を残した後、現役引退して振り付けや演出の道に転じた人か、あるいは現役のプロダンサーを兼任している人がほとんどである。

また、内面的な適性としては、踊り手の魅力や楽曲の面白さを最大限引き出すための感性や洞察力にすぐれた人、踊り手のモチベーションを高めながら、振り付けをわかりやすく伝えられるような、コミュニケーション力の高い人が向いているといえるだろう。

振付師 イメージ

いかに人の記憶に残るシーンを作り上げるか。
振付師の腕のみせどころだ

一部の有名振付師を除くと、振り付けの仕事は不定期で、突然舞い込むことがほとんどだ。クライアントのチェックまで1~2週間しかないといった慌ただしい依頼も多く、また、せっかく仕上げた振り付けもリハーサルでダメ出しがあると、現場で踊り手や他のスタッフ全員を待たせながら、短時間で修正しなければならない。柔軟性や臨機応変の対応力とともに、日頃から人間の身体の動きへの観察眼を磨き、独創的な表現や振り付けの引き出しを増やしておく、地道な努力も必要になってくる。

何よりもダンスが好きで、人を輝かせることに喜びややりがいを感じられるメンタリティの持ち主であれば、この仕事は天職といえるかもしれない。多くのタレントやアーティストには、もともと一般人にはない“原石”の魅力がある。振付師は自らの創ったダンスでそれに磨きをかけ、本物のオーラを解き放つことができるのだから。

振り付けだけでなく、作品をトータルに演出できるポジションが理想的

必要な資格や学歴などはないが、振付師になるには、上述のように、プロダンサーとしての経歴が欠かせない。ダンスパフォーマンス科などが設けられている専門学校やダンススクール、バレエ教室などでダンスを基礎から学びながら、その過程で実際のステージのバックダンサーを務めるなどの経験を積むのが一般的なステップだ。その後は、専門のプロダクションや劇団に所属してステージのオーディションを受けたり、著名な振付師に弟子入りしたり、あるいは自らグループを立ち上げて自主公演を重ねたり、チャンスをつかむためにそれぞれの方法で精進することになる。ダンスコンテストで受賞するなどの実績も、仕事の依頼に影響するようだ。

振付師の仕事は依頼ごとの契約であり、1曲あたり、あるいは1公演あたりの振り付け料は個人の経験や能力によって、数万円から数百万円まできわめて大きな開きがある。現在、振り付けの仕事だけで生計を立てられる振付師は国内に数えるほどしかいないのが実情だ。多くの振付師の場合、ふだんはダンサーやダンススクールのインストラクターとして働き、そちらに主な収入源を頼っている。活躍の舞台は、映画やテレビ、舞台、コンサート、CM、PV・MVなど多岐にわたるが、待遇の面ではまだまだ厳しい世界と言わざるを得ない。ダンスの専門家という枠にとらわれず、エンターテインメントに関する幅広い知識や技術を身につけて、一つの作品をトータルにプロデュースできる振付師を目指すことが、成功への道といえるだろう。

この仕事のポイント
やりがい 自らの創ったダンスでタレントやアーティストの“原石”に磨きをかけ、本物のオーラを解き放ち、輝かせることができる
就く方法 専門学校やダンススクール、バレエ教室などでダンスを基礎から学び、プロダンサーとして一定以上の実績を残した上で、専門のプロダクションや劇団に所属する、独立するなど
必要な適性・能力 ・幅広いジャンルのダンスに精通し、高度なスキルとそれらを通じた人間の身体への深い知識をもつ
・踊り手の魅力や楽曲の面白さを最大限引き出すための感性
・洞察力
・コミュニケーション力
・柔軟性や臨機応変の対応力
収入 依頼ごとの契約であり、1曲、あるいは1公演あたり数万円~数百万円 ダンサーやダンススクールのインストラクターで生計を立てる人も多い

 


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