「同一労働同一賃金」の意味を正しく整理し、企業対応のポイントをつかみましょう
「同一労働同一賃金」という言葉は、もともと労働問題における専門用語でした。しかし、安倍首相が2016年1月22日に行った施政方針演説で触れたことで、一気に注目を集めています。ここでは「同一労働同一賃金」に正しく向き合い、対応するための情報をご紹介します。
「誰と誰の労働が同一なのか」がポイント
同一労働同一賃金は、文字通り「同じ労働には同じ賃金」ということを意味します。ここでは「誰と誰の労働が同一なのか」がポイントになります。
以前は「性別」「人種」がポイントだった
「同一労働同一賃金」が日本で注目される以前は、主に欧米で「男性と女性」「白人と黒人」の労働・賃金において使われていました。性別・人種は変えることのできない特徴であり、そこで差別があることは許されないという視点から、「同一労働同一賃金」が叫ばれたのです。「人権の問題」と言いかえることもできます。
日本では「同一企業・団体における正規雇用と非正規雇用」がポイントになる
一方、日本政府が進める「同一労働同一賃金」は、「同一企業・団体における正規雇用と非正規雇用」の格差の解消を目指しています。
性別や人種と違い、雇用形態は時と場所で変わり得るものです。労働者に任される仕事と密接に関係するものであるため、人権問題だけでは片づけられない複雑な対応が求められます。
日本政府が進める「同一労働同一賃金」の整理
上記の通り、日本政府の推進する「同一労働同一賃金」は「正規雇用と非正規雇用」の格差の解消を目指すものです。この施策を理解するには、共通する「均等待遇・均衡待遇」「ガイドライン」「ADR」について理解したうえで、「パートタイマー・有期雇用者」と「派遣労働者」の二軸で捉える必要があります。
均等待遇・均衡待遇の理解
まずは、「均等待遇・均衡待遇」について理解しておく必要があります。公的資料にも記載はありますが、『日本の人事部』の「人事キーワード」でも、わかりやすく解説しています。制度理解への一歩としてご活用ください。
- 【参考】
- 人事キーワード「同一労働同一賃金」
ガイドライン
ガイドラインは、「パートタイマー・有期雇用者」と「派遣労働者」どちらにも共通して適用されます。
「ADR」について
今回の政府の施策では、ADR(裁判外紛争手続き)の対象が拡大されました。使用者と労働者の紛争を裁判よりも迅速に解決する手段で、両者の健全な対話の促進が期待されます。
詳細は人事キーワード「ADR」をご覧ください。
- 【参考】
- 人事キーワード「ADR」
パートタイマー・有期雇用者の場合
上記の均等待遇・均衡待遇、ガイドライン、ADRが共通の地盤とした上で、「パートタイマー・有期雇用者」と「派遣労働者」では対応がわかれます。
自社にパートタイマー・有期雇用者が存在する場合、下記の官公庁の情報を参考にしてください。
派遣労働者の場合
派遣労働者を受け入れている場合、もしくは派遣元の場合は下記を参照してください。
派遣労働者の場合はもっと複雑で、「派遣先均等・均衡方式」「労使協定方式」の二つを理解しなければなりません。
同一労働同一賃金は、事例の見極めにも注意
イケア・ジャパンの事例
「全員正社員化」という言葉のもとで制度改革を進めたのはイケア・ジャパンです。
ここでは「正社員」の雇用形態の中身に注意する必要があります。イケア・ジャパンの場合は全社員を「無期雇用」にしたものの、全社員を「フルタイム」にしたわけではありません。短時間労働、フルタイムが混在しています。
そもそも「正社員」という言葉にはっきり定義があるわけではなく、事例を参照する場合は雇用形態の定義に十分注意することが必要です。
あらゆる問題を喚起してしまった「同一労働同一賃金」
2020年から日本で順次施行される「同一労働同一賃金」施策は、基本的に同一企業・団体における正規雇用と非正規雇用の格差の是正を目指しており、それ以外は対象外であることは事実です。
しかし、「シニアとそれ以外」「正社員同士」「出向者と正社員」「別法人の社員同士」など、さまざまなケースを指摘する声も聞かれます。正規雇用と非正規雇用の間以外でも、待遇の格差の是正への関心が高まっているのです。
正規・非正規間以外の同一労働同一賃金にも、対応すべきである
法改正の範囲外のことについては、今のところ、法的な対応義務はありません。しかし、同一労働同一賃金が叫ばれるとき、そこには「従業員の待遇の不公平感」が何かしらの形で表れている可能性があります。法的な要請を待たずとも、その不満に真摯に向き合い、場合によっては大きな改革を行うことが企業としてのあるべき姿でしょう。
待遇の不公平を検討する、「人事のQ&A」の事例
待遇の不公平に関する質問は「人事のQ&A」に多数投稿されています。「同一労働同一賃金」という言葉が広く知られる前に投稿されたものが多く、待遇に関する不公平は古くて新しい問題であることがわかります。
なお、同一労働同一賃金に関する訴えがあったときは、その原因となった制度について「人事のQ&A」で検索すると、「同一労働同一賃金」というワードで検索するよりも事例が多く見つかるかもしれません。事例は下記をご参照ください。