課題解決型の人材派遣とシェアリング型のアウトソーシングサービスで急成長
近年は障がい者雇用支援など、
社会課題を解決するソーシャルビジネスを展開
株式会社エスプール 代表取締役会長兼社長
浦上壮平さん
社会的な要請に応える「障がい者雇用支援事業」を展開
障がい者雇用支援を開始した経緯について聞かせてください。
企業は、従業員数の2%にあたる人数の障がい者を雇用することが法律で義務付けられていますが、多くの企業が苦労しています。さらに来年度以降は、その雇用率が2.2%に上がるため、企業はどのように障がい者雇用を増やしていくかということに頭を悩ませています。これまでの企業の障がい者雇用は、身体障がい者に集中しており、即戦力となる身体障がい者の新規採用は非常に難しくなっています。その一方で、知的障がい者、精神障がい者の採用については、本業の中で仕事を創出することが非常に難しく、雇用がほとんど進んでいません。今後、上昇していく法定雇用率を達成するためには、知的障がい者や精神障がい者の雇用を増やしていく必要がありますが、非常に厳しいのが実状です。
私は、障がい者の人たちが、やりがいを持って働き、経済的に自立していくためには、一般就労を増やしてくことが必要だと思っています。CSRの高まりなどから、多くの企業が障がい者のために業務を切り出していますが、特に知的障がい者においては単純作業の場合が多く、やりがいのある仕事を作れていません。その結果、本人のやる気が続かず、辞めてしまうケースが多くなっています。
障がい者の人は、なかなかやりがいのある仕事を見つけられない。一方、企業は障がい者を雇用したくても、そもそも障がい者の人たちに合った仕事が用意できない、無理やり仕事を作って雇用したため、障がい者がすぐに辞めてしまうなど、非常に苦労されています。そのミスマッチを解消するサービスを創ることができれば、双方にとって喜ばれるのでは、と考えました。
具体的には、どのようなサービスを提供しているのですか。
障がい者専用の企業向け貸し農園「わーくはぴねす農園」を、現在、千葉県と愛知県で合計八つ運営しています。障がい者雇用を希望する企業に農園を貸し出し、主に知的障がいの方を直接雇用して、法定雇用率を達成していただくという事業モデルです。また、各企業には、自社の障がい者をサポートする農園管理者を配置してもらいますが、主に地元のシニアの方が採用されていて、シルバー雇用の創出にもつながっています。
わーくはぴねす農園は、シェア型の共同農園となっており、温度管理が行われたハウスでは、一年中野菜を栽培することができ、設備は働く障がい者に配慮した造りになっています。障がい者の人たちが、心を込めて作った野菜は、社内で活用していただきます。おいしい野菜を、福利厚生の一環として社員に定期的に配ったり、社員食堂で提供したりするのです。野菜を食べた感想を、農園で働く障がい者にフィードバックする仕組みにしており、その結果、障がい者の人たちも、もっとおいしい野菜を作ろうと、やりがいを持って働くことができます。現在、530人の障がい者が各企業に雇用されていますが、退職率は5%以下と極めて低い水準となっています。サービスを利用する企業は、大手企業を中心に約120社で、業種もメーカー、金融、IT、小売、ホテル業など、多岐にわたり、日系企業だけでなく外資系の企業も多く利用されています。農園を利用する企業は、障がい者雇用に対する意識が高く、自社内で障がい者を雇用しているケースが大半ですが、農園で働く障がい者の定着率が非常に高いので、農園を利用する企業が増えています。6年間でサービス利用を止めた企業は2社しかなく、追加発注率は25%を超えています。
また、収益構造についても大きなポイントがあるのですが、当社の収入は全て、サービスを利用する顧客企業からのものです。一般的に福祉事業者の収入は、国や地方自治体からの助成金や給付金となる場合が多いのですが、当社の事業は、公的な機関からの助成を受けずに障がい者雇用を実現しているのです。わーくはぴねす農園ができることで、地域に数十~数百人単位での雇用が創出され、障がい者の経済的な自立が可能になります。この点が行政から注目され、昨年新設した愛知県豊明市の農園は、市長自ら熱心に誘致してくださいました。豊明市には、行政の持つ情報を生かして農園開設に必要な土地探しと、障がい者のリクルーティング活動への協力をしていただきました。その結果、約60人の知的障がい者の雇用を創出することができました。今後、全国の自治体と連携して、障がい者の雇用促進を広げていきたいと考えています。
非常に社会貢献度の高い事業モデルですね。
そのほかにも、社会や企業課題を解決するための事業を、いくつか立ち上げています。最近では、「Omusubi」というブランドで採用支援事業をスタートさせました。これは、アルバイトやパートなどの求人応募の受付を成果報酬で代行するサービスです。
アルバイトやパートの募集受付は、昔はほとんどが電話でしたが、最近ではメールやWEBでの応募が多くなっています。店舗の責任者(店長)からすると、現場の仕事が忙しく、電話を取り損ねすることもあり、メールに関しては、頻繁に確認する時間もありません。また、メールを返信するにしても、その数が何十通にもなると相当の時間がかかり、残業が増加する恐れもあります。採用活動という重要な業務がおろそかになることで、せっかくの採用機会を失っているケースが少なくありません。応募者対応が遅くなってしまったことが原因で、人が確保できないという事態が現場では起きているのです。「Omusubi」では、その応募受付を当社が代行し、面接を設定できたら、成果報酬で手数料をいただく仕組みにしました。一般的なコールセンターは、回線数やコール数、メール対応数に応じて費用が発生する料金体系ですが、当社は面接設定課金となっているため、採用効率だけでなく、コスト面でも大きなメリットがあります。現在、直接雇用が多く、多店舗展開する飲食チェーンや小売業、サービス業の顧客を中心に60社が当社のサービスを利用されています。
そのほかにも、「プロフェッショナル人材バンク」という、シニアを対象とした人材サービスを行っています。経営のプロとして経験を積んだエグゼクティブから、各専門分野で実績を残した実務のプロまで幅広い人材を集め、顧問として派遣するサービスを行っています。「実務経験や人脈が豊富なプロのシニア人材のアドバイスを受けたい」という声や、「新規事業のプロジェクトメンバーとして、一定期間協力してもらいたい」など、中小企業、ベンチャー企業には、経験豊富なプロ人材に対するニーズが数多くあります。また、大手企業でも、「全く違う新しい分野への進出を検討するために、プロ人材の意見を参考にしたい」といったニーズも増えています。プロフェッショナル人材バンクは、シニア人材の力で、さまざまな企業の経営課題を解決を支援するサービスとなっています。
実務経験や人脈が豊富なプロ人材が、定年退職した後、何も仕事をしないのは非常にもったいないことであり、ノウハウが次の世代に引き継がれないことは社会的に大きな損失です。プロフェッショナル人材バンクを通じて、シニアの皆さまには社会と接点を持ちながら、「生涯現役」で活躍してほしいと考えています。
貴社は、創業の頃はフリーターに対する就業機会を提供していましたが、世の中のニーズに合わせて、提供する対象を拡大しているわけですね。
その通りです。若者・フリーターから始まり、現在は、障がい者、シニアへと対象を広げ、最近では主婦やシングルマザー向けの就業機会の提供を行っています。働く意欲や能力があるのに、事情があって就労が困難な人たちがいます。そのような人たちにスポットを当てて、活躍の場を増やすことができればと考えています。
企業や社会にはさまざまな課題やテーマがありますが、雇用に関する課題はいつの時代にもあり、特にこれからは、労働力人口の減少への対応が重要な課題だと考えています。この大きな課題を解決していくために、これまで活躍の機会が少なかった潜在労働力を、積極的に活用する方法を生み出していくのが、当社の人材サービス事業に対する根本的な考え方です。社会課題を解決する意識を持って付加価値の高いサービスを展開していけば、仮にリーマンショックのような景気変化や環境変化があっても、経営は揺らぐことなく、安定的に成長していくことができると考えています。
日本を代表するHRソリューション業界の経営者に、企業理念、現在の取り組みや業界で働く後輩へのメッセージについてインタビューしました。