企業社会を支えるソフトインフラへ――
“給与業務”から日本のアウトソーシングを変える
株式会社ペイロール
湯淺哲哉さん
人事部門をもっと強くする“次世代アウトソーシング”
御社の顧客企業は現在240社におよびます。その実績、経験から、日本企業の人事部門の現状や今後のあり方について、お考えをお聞かせください。
失礼な言い方かもしれませんが、欧米企業や国内の外資系企業と接していつも思うのは、日本企業よりも人事部門のポジションが格段に高いということ。弊社が給与業務アウトソーシングを始めるきっかけになったADPでも、人事部門の地位はすごく高くて、トップのすぐそばで重要な人材戦略を提言しています。それに比べると、日本企業の人事部門は実務に追われているせいか、“作業部隊”のような印象がどうしても拭えません。やはりそこは、もっと変わっていかなければなりません。限られた人材をいかに活用して最大限のパフォーマンスを発揮してもらうかが日本企業の喫緊の経営課題であり、まずは人事部門が事務仕事から解放され、コア業務に集中できるようにしなければ、日本経済全体の成長も望めないでしょう。人事部門がポジションを高め、機能を強化し、経営により貢献するためにこそ、われわれアウトソーサーの支援は必要なのだと、私は思っています。
なるほど。日本企業の人事部門にとって、給与業務のアウトソーシングがもたらすメリットは、単なるコスト削減だけではないということですね。
そのことをよく理解されている企業も、もちろん少なくはありません。アウトソーシングするのと、法律や制度が変わるたびにシステムを更新して社内で処理するのと、どちらがいいかというと、8、9割の企業はアウトソーシングのほうが効果・効率的で、将来にわたって安定した給与サービスが得られると、分かってはいるんです。まして2016年からは「マイナンバー」制度が始まりますから、その新しい番号情報に関わるオペレーションの負担増を考えれば、流れは断然アウトソーシングなんですよ。しかし日本で給与業務をアウトソーシングしている企業の割合は、全体の2割程度にすぎません。メリットがあると分かっていながら、顧客側が踏み出せないのはなぜか。ミスや情報漏れが起こったらどうしよう、柔軟性がなくなるのでは、データが手元になくて大丈夫か……そういうリスクが、メリット以上に気になるからです。マイナンバーの漏えいなんてことは、絶対にあってはいけませんからね。給与計算を「絶対に間違えません」と言い切れるベンダーは、残念ながら今の日本には、弊社も含めてありません。同業他社もけっこう増えてきましたが、業界全体としての信用度はまだまだ低い。そこがわれわれベンダー側の最大の課題でしょう。逆にいえば、課題を何とか克服して、絶対に間違わないように業務のクオリティーとセキュリティーを高めていけば、マーケットは一気に拡大すると思います。
サービスのメリットは浸透しているわけですから、その反面のリスクをケアすれば、確実に受け入れられる、と。これは、BPOビジネス全般に通じるヒントですね。では、最後に今後の抱負をお願いします。
ミスや漏えいを防ぐにしても、作業効率を上げるにしても、ベンダーが頑張るだけではダメだと私は考えています。たとえば、我々がいくら仕事の精度を高めても、お客さまからいただく情報が間違っていたら、正しい給与計算はできないわけですからね。そこで今取り組んでいるのが、従来はお客さまにとってブラックボックスだった、弊社内の処理プロセスを“見える化”するための仕組みづくりです。誰がどんな資料をいつ提出したのか、自分の情報が今どう処理されているのか、お客さまや社員の皆さんのほうからいつでも自由に閲覧して、チェックできるようにすれば、業務の精度も効率ももっと上がるだろうと、そう考えています。
生意気な言い方ですが、私は「業者」とか「外注」「代行会社」と呼ばれるのがあまり好きではありません。企業社会を支えるソフトインフラとして貢献するために、最適なソリューションを、あくまでもお客さまと対等な立場で、お客さまと協力し合いながら導き出していきたい。それが私の目指す、人事部門がもっと強くなるための「次世代アウトソーシング」の理念です。
社名 | 株式会社ぺイロール |
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本社所在地 | 東京都江東区有明3-5-7TOC 有明イーストタワー11階・12階 |
事業内容 | 給与業務フルスコープ型アウトソーシング。給与・賞与計算といった基本サービスから、社員・各拠点との直接対応サービス、それを支えるSaaS型各種オプションサービス、外部機関との窓口など、幅広い給与サービスを提供。 |
設立 | 1989年4月1日 |
日本を代表するHRソリューション業界の経営者に、企業理念、現在の取り組みや業界で働く後輩へのメッセージについてインタビューしました。