NTTコミュニケーションズ株式会社
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ベテラン社員の活性化に近道はない
一人で1000人と面談した人事マネジャーの挑戦(前編)
NTTコミュニケーションズ株式会社 ヒューマンリソース部 人事・人材開発部門 担当課長
浅井 公一さん
これは人を喜ばせる仕事。社員の声が大きなやりがいに
ベテラン社員本人だけでなく、その上司とも面談するそうですね。
ベテラン社員本人との面談がスタートしてすぐに、ベテラン社員たちから思いもかけなかったほど強い反発を受けることになったのが契機です。「この研修に一体どれだけの金をかけているんだ。もっと他のやり方があるだろう」と声を荒げられたり、時には「お前になんか説教をされたくない」と机をひっくり返されそうになったこともあります。まるで、戦場のような面談が繰り広げられました。
この出来事は、「彼らはなぜ、あんなに怒ったのだろう。人事との面談であそこまで爆発させるほどの問題がこの会社には潜んでいるに違いない」と考えるきっかけになりました。当初は、上司がベテラン社員とどう接しているのかを知りたくて、ベテラン社員を部下に持つ20名~30名の上司をサンプル的に抽出し、面談を行う予定でした。しかしこの出来事を受け、サンプルではなく、上司全員と面談し、一人ひとりの悩みを事前に聞いておこうと決意しました。
この上司との面談が、ベテラン社員本人との面談においても非常に大きな効果を生んでいます。「上司としてどのように接しているか」だけでなく、部下について「朝は何時に出社しているか」「家族の状況に変化はないか」「何か困ったことがあると言ってなかったか」などの話を聞き出すことで、ベテラン社員をより深く理解し、面談に臨めるようになったからです。面談で「朝7時に来ているらしいね」と語りかけると、「えっ、何で知っているんですか」となりますよね。事前に情報を収集しておくことで、対象者の懐にぐっと入り込めるようになりました。
面談で質問する流れは、事前に決めているのですか。
決めているのは、最初の質問だけです。その後の質問は、特に決めていません。全員にまず、「この前の研修はどうでしたか。本音の感想を教えてください」と聞きます。自分を振り返って内省する研修なので、「辛かったです」という人は職場で活躍できていないことが多く、「面白かったです」という人は職場で活躍できている傾向があります。
最初の質問で本人の状況を把握した後は、書いてきてもらった本人のミッションやビジョン、目標などを見ながら、また、事前に上司から聞いておいた情報や本人の話している内容を見極めながら、臨機応変に質問していきます。抽象的なことしか書いていない人には具体化させるようにし、既に具体化できている人には完成の度合いを高めさせるようにしています。
昇格面談や採用面談などのいわゆる選抜面談では、大抵スクリプトがあるのでしょうが、私の場合は一切ありません。「ガス抜きしてあげた方が良いな」と思った人の場合、愚痴を吐き出させただけで終わることもあります。
一人ひとりにあわせた面談を実施するには、相当な時間と労力を要します。浅井さんを突き動かしたものは何でしょうか。
最初の動機となったのは、副社長に「ベテラン社員のモチベーションが本当に下がっているのであれば、ベテラン社員向けの新たな事業を立ち上げることも考えなければならない。お前が多くのベテラン社員は使えないと判断したなら、俺が経営判断をしてやる!」と言われたことです。「そこまで信頼してもらえたら、手を抜けないな」というのが本音でした。
しかし面談が進んでいくうちに、私自身の思いも変わっていきました。面談後の反応が徐々に聞こえはじめ、それが大きなやりがいになっていったのです。「面談で元気になりました」という言葉や、対象者の上司からの「浅井さん、どんな魔法をかけたんですか」という感謝の声。それらを聞いて、自分がプロフェッショナルになったという実感と、「俺は人を元気にすることができる」という自信がわきました。
お話をうかがっていると、浅井さんはベテラン社員それぞれにしっかりと向き合っていらっしゃいますね。面談を行う前は、ベテラン社員に対してどのようなイメージをお持ちだったのでしょうか。
正直、世間一般論を信じていました。でも、ふたを開けてみると、良い意味で裏切られましたね。ほとんどのベテラン社員が、高いモチベーションを持って仕事をしていたんです。ただ、モチベーションが高いからといって、必ずしも仕事で成果を出せているとは限りません。むしろモチベーションは高いけれど、成果を出せずに悩んでいる社員や、頑張りたいけど、頑張り方がわからなくなっている社員が多かったんです。