オーエムシーカード:人材確保のカギはブランド力にあり
オーエムシーカード 人事部次長 西田勝さん
人事とは、人が人を評価する、人が人の人生を左右するかもしれない、大変な仕事である。 その重責に、現役人事部員たちはどう向き合っているのか?(聞き手=ジャーナリスト・前屋毅)
- 西田勝さん
- 人事部次長
にしだ・まさる●1958年生まれ。関西大学経済学部卒業。82年にダイエーのカード会社・朝日クレジット入社。債権管理部門、総務・人事部門などを経て、99年9月からオーエムシーカード人事部次長。
私が就職した1980年代の初め、アメリカを鏡として見ると、
「将来的にカード業界は伸びる」という予感があったんです。
前屋:西田さんは、次長という肩書きのわりにはお若く見えますね。今おいくつですか?
西田:47歳です。オーエムシーカードの人事部では私の上に部長がいますが、たしか彼は1つ年長だと思います。他の企業の人事部に比べると、メンバーの年齢は若いかもしれませんね。ちょうど今、55歳での役職定年制ができたりして、会社全体で世代の入れ替わりの時期にあたっています。それで、部長クラスなどにも若手を起用していこうとしているんです。
私は41歳のときに次長になりましたけど、今は37歳くらいの次長も誕生していますよ。早く職位につけて人材育成をしていこうと、会社としては考えているわけです。
前屋:西田さんが若くして次長になられたとき、「やった!」という気持ちでしたか。それとも、「大変だ!」という気持ちが強かった?
西田:その両方でしたね。でも次長になれないままだったら、不安だったかもしれません。ポストの数は限られているわけですから、やっぱり早い時期に昇進できるのはうれしいものですよ。
前屋:西田さんのご経歴を教えてもらえますか。
西田:オーエムシーカードは、合併・統合を繰り返して現在の姿に至っていますが、私は大学を卒業した1982年にダイエーのカード会社だった「朝日クレジット」に入社しました。今のようにカード業界が注目される前です。カードの業界が急激に伸びてくるのは、80年代後半くらいからです。
前屋:就職先にカード業界を選んだのはなぜですか。金融なら銀行とか、他の選択肢もあった気がしますけど。
西田:大学時代にダイエーグループの流通センターでアルバイトをしていたので、ダイエー系の会社に馴染みがあったんです。それと、アメリカを鏡として見ると、「将来的にカード業界は伸びる」という予感もありました。
それに、カード業界は技術の進歩が早いし、営業から事務、コールセンターと職種フィールドも広いんですね。大学を卒業したばかりで就職するとき、自分の適性なんてわからないでしょう。ですから間口が広いところを選びたかったというのも理由でした。
会員様からのお問い合わせに臨機応変の受け答えができる。
そういうスキルのない人材はコールセンターで務まりません。
前屋:人事の仕事はいつからですか。
西田:1999年の9月からです。入社して5年間は債権回収の部署、次に保険の事務をやり、コールセンターの総務人事課長をやって、それから人事部に異動になりました。
前屋:コールセンターの総務人事課長と現在の人事部次長では仕事はどう違うのですか。
西田:現在は正社員に関する仕事をしていますが、コールセンターではパートさんの採用が主な仕事でした。
前屋:人事も幅広い仕事を経験されてきたわけですが、入社された頃から人事の仕事をやりたいと?
西田:いえ、そういう気持ちはなかったですね。入社したときは、人事がどういう仕事かも、まったくわからなかったですから(笑)。
じつは、就職活動をしているときは生命保険会社が第一希望だったんです。大手生保の内定までもらったんですけど、「保険のおばさんたちのマネジメントが仕事です」と言われて……、自信がなかったので断ったんですよ。私よりも年齢がそうとう上の、しかも女性をマネジメントする自信がなかった。今でも自信がないのですが(笑)。
前屋:にもかかわらずコールセンターでパートさんをマネジメントする立場になったわけですね。パートさんのマネジメントで難しいのは、どこでしょう。
西田:やっぱり、採用ですね。今、全体的な企業活動が好調なのを反映しているのでしょうか、正社員もそうなのですが、パートさんでも人が足りません。募集しても、なかなか応募をしてもらえない状況です。そうなると、合格のバーを下げて採用活動をしなければならなくなる。いい人材だけを採りたいというのが理想なのですが、そういうふうにはいきません。
前屋:募集しても集まらないというのは意外です。仕事したくても、仕事のない人が増えているという認識だったんですが。
西田:どこの企業もそうだと思いますが、働きたい人の年齢層と、企業として欲しい人の年齢層にギャップがあるんです。その、企業として欲しい年齢層が不足しているので、取り合うかたちになっています。
その一方で、企業が年配者を採用しにくい理由は、その仕事とペイが合わないからです。年配者を採用するとなると高い給与を支払うことになります。そこを思い切って下げることができれば、もっと年配者を採用できると思うんですけどね。
前屋:コールセンターのパートさんについて、オーエムシーカードが欲しい人というのは、どんな能力がある人ですか。
西田:オーエムシーカードでもシステム投資をして、コールセンター業務はかなり標準化されてきています。たとえば営業トークなど、話すべきことは目の前のディスプレイに表示されますから、それを読むだけでいいわけです。こういう仕事なら、誰でもできると思います。
でも会員様からのお問い合わせについては、臨機応変の対応が必要になってくるんです。ですから、それができるためには、機械のオペレーションが素早くできて、しかも会話力もある人じゃないと務まりません。そういう総合的なスキルを持つ人が、なかなか採用できないのが悩みですね。
前屋:そういう能力を持つ人というのは、面接の時点でわかるものですか。
西田:コールセンターで3年ほど採用を担当していて、年間600人から800人を面接しましたから、面接技術が磨かれて、能力の有無はある程度見抜けるようになっていましたね。とはいえ、時給制で募集をかけても、いい人材の採用には限界があるんです。そこで今、オーエムシーカードでは「地域社員」の制度を新しく設けて、月給制での勤務を条件にした社員を採用することで、人材の質を上げようとしているところです。
私自身が就職活動をしていた20数年前の時代に比べると、 今、カード会社の認知度が上がってきたと強く感じますね。
前屋:そして今は本社人事部で正社員の採用を担当されているわけですが、西田さんご自身が就職活動に臨んだ20数年前と比べて、何か違ってきているところはありますか。
西田:いちばん感じるのは、私が就職活動していた頃に比べると、カード会社の認知度が上がってきたということですね。それなりに人気のある業界になってきています。ただ、「オーエムシーカードに入るよりも、もっと名の通ったカード会社がいい」とか、やっぱり「ブランド」を好む学生さんが多いのは今も変わりませんが。
正直、オーエムシーカードは、経営再建中のダイエーとの関係で、「ブランド」ということでは少し弱い面がありますね。学生さんがオーエムシーカードへの就職をご両親や学校の先生に相談しても、あまり積極的に薦められることは少ないみたいです(笑)。在職中の社員だって、親戚や友だちから「君の会社はダイエーと関係があるんでしょう。大丈夫?」と訊かれるぐらいですから。
たとえば業績一つでも見てもらえれば、そんな心配することはないとわかってもらえると思うのですが(笑)。
前屋:「ブランド」ではやや不利なオーエムシーカードとしては、今後、どういうかたちで学生にアピールしようと?
西田:オーエムシーカードはオンリーワン企業を目指しているので、若い皆さんのアイデアが生きます、というような言葉で訴えているんです。とくに、内定した学生さんに対してはマン・ツー・マンで、そこを訴えています。
前屋:マン・ツー・マン、ですか?
西田:ええ。最近の学生さんというのは9割以上がウエブサイトを通じて応募してきますから、広く効果的に訴えるということが逆に難しいんです。オーエムシーカードの言葉をサイト上で訴えても、それを読んでくれているのかどうか、判然としない。それなら大学の就職相談の窓口をつうじて、と考えるかもしれませんが、サイトに押されて、就職相談の窓口を利用する学生さんがほとんどいないらしいんですね。就職相談に来るのは、どうにも就職先がなくて、困ってしまった学生さんだけ、という話も聞いたことがある(笑)。ですから、私たち人事部が大学の就職課を回っても、あまり効果がないと思われるんです。
そういうわけで、オーエムシーカードも今、かなりウエブサイトを活用しています。学生さんの適性検査もウェブでやっていますし、しかもその業務をアウトソーシングしているので、一昔前に比べると効率的にはなっていますね。
前屋:しかしウエブサイトで適性検査をやるというのは、監督者もいないし、高い点数をとるノウハウだって学生の間で簡単に広まるだろうし、あまり意味をなさないのでは? そのノウハウを教えてもらえなかった学生が損をすることにもなりかねない。
西田:そこはもう割り切るしかないと思っているんです。確かに、ノウハウとか情報を得られなかった学生さんが損をすることもあるかもしれません。でも、社会に出て、サラリーマンになるうえで、「要領がいい」ということも大事だと言うことができますから(笑)。
前屋:学生の適性検査の業務をアウトソーシングされている、と。では、西田さんら人事部は、採用活動のどの段階から直接にタッチし始めるのですか。
西田:フェイス・トゥ・フェイスと言いますか、集まってもらっての説明会や面接の段階まで来たら、私たちが関わることになります。企業によっては、説明会も試験も、1次面接までアウトソーシングしているようですけど。
オーエムシーカードは、そこまでアウトソーシングしていません。1次と2次を合わせて延べ約1000人の面接を私たち人事部が行うことになりますね。私自身は最終面接だけを担当していますので、300人を少し切るくらいでしょうか。毎年4月から7月にかけて、それだけの面接をやるんです。
人事部員は自分自身の「面接の能力」をどう計ったらいいのか?
実際に採用した社員の数年後の姿から判定するしかありません。
前屋:多くの学生との面接から、気質の変化みたいなものを感じることもありますか。
西田:外見は変わりましたね。髪型一つとっても、ずいぶん自由になっています。でも、そんな外見に対して中身は、けっこう行儀がいいんです。きちんとした言葉遣いの学生さんが多いし、常識的な対応もできる。ただ、マニュアル世代というのか、決められたことはきっちりできるわりに、そこから先、殻を破って自分なりの価値を創造する、ということについては弱いかなという気がしますね。
いわゆる「指示待ち」タイプの学生さんが目立ちますね。この業界では、それでもやれないことはないんです。カード業界はシステム産業、装置産業なので、お客様に機械でキャッシング、機械で返済していただけば、それで自動的に収益も出てきますからね。
しかし、そういう特徴があるからといって、カード会社が5年先、10年先も安泰かと言うと、むろんそんなことはない。システム産業の特徴に加えて、新しい価値をどんどん創造していかないと、企業として将来性が見えません。ですから人事部としても、新しい価値を創造できる可能性を持った人材を採用していかなければならない。私はそう考えています。
前屋:「新しい価値を創造できる人材」って、毎年採用できるものですか。それとも、年度によって違うものですか。
西田:毎年、必ずいますよ。たとえば内定を40人に出したとすると、その中に4、5人はいます。面接の中でわかるのですが、他の学生さんとはまったく違う視点から受け答えをしたり、ハッとするような指摘をしたり、「光っている」と感じる人です。こちらの錯覚だった、というケースもありますが(笑)。
前屋:そこを見抜くためには、やっぱり面接する側の能力が重要になってきますね。そういう能力があるからこそ、人事部として仕事ができる、と言うこともできると思います。
西田:おっしゃるとおりです。面接者の能力が何より大事ですね。ただし、オーエムシーカードの人事部がそういう能力を備えているかどうかということについては、自信を持って肯定できません(笑)。
人事部員が自分の面接の能力の有無を知るには、どうしたらいいか。これはもう、自分が採用を決めた新入社員の様子を2年後か3年後に見てみて、それで自分の目の確かさを判定するしかありません。入社後の評価を見たり、部門長に意見を聞きに行ったりして、そのうえで「期待どおりだったな」とか「ちょっと期待はずれだったな」とか思うわけです。コンピテンシーなど新しい手法で分析をやろうとしたこともありますが、少し環境が変化しただけで基準が違ってきたりするので、あまり当てになりません。配属先と本人の適性が違っていたり、そんなケースもありますから、長期で見ないと本当の評価は下せないとは思いますが、ともかく人事部員が自分でその採用に携わった社員の「実績」を確認して、それを参考にするしかないですね。
正直、私たち人事部がいちばん保守化しているかもしれないし、
中途採用で「外の血」を入れて変えていく必要がありますね。
前屋:お話をうかがって、正社員もパート社員も、いい人材を確保するのは容易でないということがわかりました。優秀な人材を獲得していくためには、人事部自体も変わっていく必要があるかもしれません。
西田:昔の人事部というのは、管理部門の象徴みたいな存在でした。決められたルールで、決められた給料を払う制度を運用していればよかった。しかし現在は、きっちりとした人事戦略を立ててやっていくことが、各部門から人事部に求められるようになっています。
きっちりした人事戦略という意味には、スピードも含まれています。昔なら1年とか2年をかけて新しい人事制度をつくっていましたが、今は半年くらいのスパンで制度をつくって運用していかないと、たちまち陳腐化してしまう。採用についても、各部門からニーズが出てきたら最短1カ月のうちに中途採用で対応できる、それくらいのスピーディさが求められています。
そのためにも、オーエムシーカードの人事部では、「採用活動のためのブランド力」を持つことが重要だと考えているところです。簡単にできることではないので、長期スパンで取り組むべきテーマではありますけどね。たとえばドラフト制度のような人事制度をつくり、それがオーエムシーカードの看板になっていけば、「ブランド力」も上がると思います。まだそういう取り組みが遅れているのが、残念ながら現状なんです。
前屋:人事部のメンバーの入れ替わりというのは、頻繁に行われているんですか。
西田:いま人事部は、社員14人、パート4人の計18名です。社員の異動は、ここ2年くらいはありませんね。3年くらい前に大きく動かしたので、今は落ち着かせているところです。
そもそも、全社的に欠員状態なもので、欲しいと思う人材を人事部ですらもってこれない現状なんです。入ってこないと出せないので、異動がないわけですね。
前屋:人事部を中途採用で増強することはできないのですか。
西田:オーエムシーカード全体では、年間5人から10人くらいの中途採用をしています。しかし、さきほども言いましたが、優秀な人材は企業間で取り合いになりますので、なかなか思うように採用できていませんね。経理の人材は流動化が進んでいるので、比較的、集めやすいのですが。
前屋:人事部としては、もっと採用のための知恵を絞らなければ、ということですね。
西田:ええ。人事部自身への採用も考えなくてはいけない。現在のオーエムシーカードの人事部の仕事というのは、大雑把に言って、7割が決められたオペレーションをこなし、3割が企画の仕事なんですね。この割合を逆転させるのがこれからの課題だと思いますし、そのためには人事部こそ中途採用を強化して、従来とは違う発想のできる「外の血」を入れていかなければいけないのかもしれません。
正直、人事部がいちばん保守化しているかもしれないし、1人じゃなくて、2人、3人と一気に「外の血」を入れて、変えていく必要があると。今の人事部のメンバーは定期採用者ばかりで、中途採用は1人もいませんから。こんなことを言うと、部長に怒られるかもしれないけど(笑)。
前屋:今日は、どうもありがとうございました。
(インタビュー構成=前屋毅、取材=8月8日、東京・五反田のオーエムシーカード本社にて)
インタビューを終えて 前屋毅
「採用もブランド力で」という話を印象深く聞いた。それも旧来の「大手」というだけのブランドではなく、社員が夢を持てるような体制であることこそが、これからのブランド力と言えるのだろう。
西田氏が言うように、他社と違う「独特な人事制度」もブランド力になりうる。その会社に、自分を生かしてくれる人事制度があるとしたら、多くの就職希望者にとっては大きな魅力にちがいない。
問題は、そうしたブランド力を、どうしたら持てるようになるか、だ。それには発想力の豊かな人材こそが必要とされる。これまでの人事部員というと、真面目一本槍のイメージがつきまとう。しかし、これからは、ユニークな人材こそが人事部員にふさわしいとされてくるのかもしれない。オーエムシーカード人事部がユニークな人材の集団に変わるのも、もしかしたら遠い日のことではないかもしれない。
まえや・つよし●1954年生まれ。『週刊ポスト』の経済問題メインライターを経て、フリージャーナリストに。企業、経済、政治、社会問題をテーマに、月刊誌、週刊誌、日刊紙などで精力的な執筆を展開している。『全証言 東芝クレーマー事件』『ゴーン革命と日産社員――日本人はダメだったのか?』(いずれも小学館文庫)など著書多数。