“できる力”をとことん引き出す――
エフピコが目指す障がい者の
「真の戦力化」とは
2013年4月、障がい者の法定雇用率が従来の1.8%から2.0%に引き上げられました。企業は障がい者雇用へのさらなる取り組みを求められていますが、厚生労働省の統計によると、同年に法定雇用率を達成した企業の割合は42.7%で、前年に比べて4.1ポイント低下しています。障がい者雇用を拡大するには何が必要か。どうすれば障がいのある人材を事業に活かせるのか。これらの課題を考えていく上でぜひ参考にしたいのが、16.1%という驚異的な雇用率を実現する、食品容器メーカー最大手のエフピコの取り組みです。同社グループは、障がい者福祉の現場経験をもつ特例子会社ダックスの且田久雄社長をけん引役として、独自の発想と方法論で重度の知的障がい者を戦力化。日本の人事部「HRアワード2013」では、企業人事部門 優秀賞を受賞し、いま、多くの企業から注目を集めています。
- 且田久雄さん
- エフピコグループ 株式会社ダックス四国(特例子会社) 代表取締役社長
(かつだ・ひさお)● 1995年(株)ダックス四国を設立、代表取締役社長に就任。1997年(株)エフピコの特例子会社として認定。
- 藤井良朗さん
- エフピコグループ エフピコ愛パック株式会社(就労継続支援A型) 代表取締役社長
(ふじい・よしろう)● 2006年(株)エフピコ 常勤監査役就任。2008年エフピコ愛パック(株)代表取締役社長就任。
- 永尾秀俊さん
- 株式会社エフピコ 人事部 ジェネラルマネージャー
1987年経理部に入社。その後、財務部、経営企画室、社長室を経て第二営業本部大阪支店長就任。2012年より人事部ジェネラルマネージャー。
- 井上英徳さん
- 株式会社エフピコ 人事部人事課 チーフマネージャー
(いのうえ・ひでのり)● 1982年営業職入社。仙台(営)、茨城(営)、埼玉(営)、大阪支店勤務後、第一営業本部業務課、総務部を経て、2010年10月より人事部人事課。
CSRも法令順守も超えて“本業の真ん中”で戦力に
「HRアワード2013」企業人事部門 優秀賞受賞おめでとうございます。“質・量”ともに最先端をいくエフピコグループの障がい者雇用を、それぞれの立場で統括・推進されている方々にお集まりいただきました。まずこれまでの取り組みをご説明いただけますか。
永尾:弊社は、スーパーなどで使用される簡易食品容器の製造・販売元であり、障がい者雇用については、特例子会社のダックスグループと就労継続支援A型事業所のエフピコ愛パックという二つの形態をもって、拡充に取り組んでいます。その歴史は28年前から始まりました。千葉県習志野の社会福祉法人「あひるの会」とご縁があり、1986年に知的障がい者を雇用する特例子会社としてダックスを立ち上げたのが始まりです。親会社エフピコの生産施設という位置付けで、最初は食品トレーの成型加工からスタートし、そのノウハウをベースに、ダックス四国、ダックス佐賀などグループ4社を順次設置していきました。
一方、エフピコ愛パックは2007年に営利法人としては日本で初めて、障害者自立支援法(現・障害者総合支援法)による就労継続支援A型事業の認定を受けました。その後、北海道から佐賀まで計14の事業所を展開し、現在では容器の製造だけでなく、近年の事業の大きな柱であるリサイクル事業の選別部門でも、多くの障がい者が活躍しています。
且田:知的障がい者が雇用義務化の対象になったのは97年ですから、本当に最近のことなんです。弊社が知的障がい者の特例子会社としてダックスを立ち上げたのは、それよりも10年以上早かった。ただ、私たちの場合は基本的に法定雇用率やCSR、コンプライアンスがどうかという発想から始めたわけではありません。弊社のトップである、小松安弘 会長兼CEOは当時、福祉問題としての障がい者雇用そのものには関心は希薄でした。障がい者だから働けないだろうという偏見や思い込みもなかったんです。
千葉・習志野にある知的障がい者の親たちの会から相談を受けた時も、「働いてもらえるなら取り組んでみよう」という感覚でした。かわいそう、助けなければいけないといった目線では見ていないので、いまある弊社の仕事をそのまま任せることに何のためらいもありませんでした。そして実際に任せてみたら、できるじゃないかと。つきっきりで手助けしたり、障がい者に合わせた作業をわざわざつくったりしなくても、彼らは私たちの本業のど真ん中で十分戦力になってくれる。そういう確信を28年前、初めて特例子会社をつくった時につかんだんです。
就労継続支援A型事業にも、そのようなスタンスで参入されたのでしょうか。
且田:ええ。あくまで事業としての可能性を評価して、挑戦しました。2006年に自立支援法ができ、就労継続支援A型の認定対象が非営利法人のみから営利法人まで広がったのですが、当初はどの企業も手を挙げませんでした。そこで厚労省から、特例子会社での実績を積んでいた弊社グループに「参入してみませんか」という相談があって、まず広島の工場で取り組んでみたら、これが予想以上の成果を上げました。かなり重度の人でも戦力として活躍できることがわかり、全国へ展開していくことになったのです。
藤井:A型事業所は、企業でありながら、障がい者に就労の可能性と職域を広げるための福祉サービスを提供する福祉事業者でもあるという位置づけです。障がい者を単に雇用すればいいわけではなく、経営陣としては厳しい法的規制もクリアしなければなりません。それでも弊社にとって彼らは、その苦労を補ってあまりある貴重な戦力なんです。愛パックの事業には大きく、食品容器組立加工とリサイクルの選別の二つがありますが、特に後者では彼らの強みが存分に発揮されています。