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「日本一いい会社」を目指すために 社内で「産業カウンセラー」を育成するメリットとは

バブル崩壊以降のビジネス環境の変化は、日本的経営の古き良き価値観を激しく揺さぶりました。“企業一家”の共同体意識が薄れ、かつては日本企業の躍進の源泉だった会社と社員の信頼関係や、社員同士の絆にもほころびが見えています。個人も組織も厳しい競争にさらされて疲弊するなか、メンタルヘルス不調やパワーハラスメントにむしばまれ、活力を失いつつある職場は少なくありません。そこで、健全な職場環境づくりのプロフェッショナルとして、あるいは社内外の信頼関係を再構築する経営ツールとして注目されているのが「産業カウンセラー」の存在です。2012年10月に『日経ビジネス』誌上において「奇跡を起こすすごい組織100」に選ばれたビルメンテナンス会社の四国管財株式会社(本社:高知市)は、社内で産業カウンセラーを育成し、傾聴などの専門技術をマネジメントに活かすことで、組織の活性化やきめ細かな顧客対応につなげています。自らも「産業カウンセラー養成講座」を受講された同社の中澤清一社長に、その効果やメリットについてうかがいました。
【インタビュー先】
四国管財株式会社 お客様係&代表取締役
中澤 清一さん

四国管財株式会社 中澤 清一さん
プロフィール
中澤 清一(なかざわ・せいいち)●大学卒業後、1985年に母親が社長を勤めていた四国管財株式会社に入社。社内外に山積する問題を目の当たりにして、根本的な経営改革の必要性を痛感。「社員やその家族が自慢できてお客様からも尊敬される会社創り」を志す。97年に同社代表取締役、2000年に同社お客様係&代表取締役。主な公職に、高知県経営品質協議会 幹事、土佐経済同友会 幹事、「輝け!たんぽぽ教育文化賞」実行委員長、中小企業庁「小さな企業未来会議」コアメンバーなど。

■産業カウンセラーとは?
産業カウンセラーは、社団法人日本産業カウンセラー協会が認定する民間資格。心理学的手法を用いて、働く人たちが抱える問題を自らの力で解決できるように援助することを主たる業務としています。活動領域としては「メンタルヘルス対策への援助」「人間関係開発への援助」「キャリア開発への援助」の三つが挙げられます。
■産業カウンセラー養成講座とは?
日本産業カウンセラー協会が行う、産業カウンセリングのための知識・技能を修得するための講座。メンタルヘルスの推進、キャリア・カウンセリング、人間関係開発などの専門知識と技能や、それらの根底にある「傾聴」について学びます。

詳しくはこちら→社団法人産業カウンセラー協会 ホームページ

なぜ「産業カウンセラー」を導入したのか

―― 中澤社長が、自社の経営幹部やマネジャー層に「産業カウンセラー」の専門スキルを導入されるに至った理由、背景についてお聞かせください。

父が経営していた、四国管財で働くのが私の小学2年生からの夢だったんです。その父は中学2年生のときに亡くなり、代って母が後を継いでいた会社に大学卒業と同時に就職しました。ところが念願かなって入社してみたら、もう問題だらけ。スタッフ教育はなっていないし、職場環境は悪いし、とにかくやる気のない人が多かった。当時は、清掃会社に第一志望で働きに来る人がいませんでしたし、内定者に辞退されることもしょっちゅうでした。

仕事そのものは素晴らしいのに、社会的地位の低い会社と見られていた。それが悔しくて、私は四国管財を「日本一のいい会社」にしてみせると誓ったんです。私の思い描く「いい会社」とは、「社員やその家族が自慢できてお客様からも尊敬される会社」のこと。でも理想と現実の間には、大きな隔たりがありました。現場で働く従業員の声をまったく聞けていなかったんです。その結果、本部社員や現場のリーダーが心ない叱責でスタッフに心の傷をおわせてしまうなど、本人たちに悪気はなくても、“パワハラ”的な事件が起こるようになっていました。そんな環境をどう変えればいいのか、従業員の心に寄り添うにはどういう知識やスキルが必要なのか、まさに会社を救いたい一心でたどり着いたのが「産業カウンセラー」だったんです。

―― ベストセラー『日本でいちばん大切にしたい会社』の著者である、法政大学大学院の坂本光司教授からも「人を幸せにする会社」として高く評価されている貴社で、パワハラが起きていたとは驚きです。

四国管財株式会社 お客様係&代表取締役 中澤 清一さん

パワハラそのものより、結果的にそれを招いてしまった私たちのマネジメントが悪かったんです。社員の声を聞き、心に寄り添うことができない、経営管理の手法に問題がありました。

弊社では、お客様からのクレームが速やかに“見える化”されるように、現場やスタッフ個人の責任をいっさい問わず、過失はすべて会社の責任という姿勢を打ち出しています。そうして収集したクレームのデータを分析してみると、出所はほぼ決まっていて、特定のスタッフや現場に偏っている。ほとんど、精神的にまいっている人たちなんです。笑顔が素敵な社員から急に笑顔が消えたかと思うと、ミスを連発したり、休みがちになったり。夜間の勤務中に突然、人事不省に陥ったベテランのスタッフもいました。そこで本人に聞いてみたら、実は子どもが不登校になってしまって悩んでいるとか、ご主人に先立たれて生きがいを失くしたとか、クレームの背後には必ず問題が潜んでいるんですよ。会社や上司が早く気づかなければいけないのに、相手の声を聞くどころか、逆に無神経な発言でさらに傷つけたりしていたなら、これはもう人災と言うしかないでしょう。

現場のリーダーにしても、派遣先で業務を円滑に回さなければいけない立場上、お客様と弊社本部の板挟みになりやすく、反動でスタッフにあたってしまうことが少なくありません。クレームを良い機会と捉えて活かしていくためにも、責任はすべて、社員の心の声を聞けていない会社にあるものと受け止めるべきなんです。

―― たしかにそこまで深く、社員の状況を引き出そうと思うと、傾聴と適切な語りかけで相手の心を解きほぐす専門的なスキルが必要になってきますね。

そうなんですよ。最近は「傾聴」という言葉も一般的になってきましたが、自分で努力するだけではなかなか身につきません。私も以前は、相手の話を聞いているつもりで、実際にはまったく聞けていないということがよくありました。

たとえば、ある若いスタッフが先輩の女性社員に、実家への仕送りのことで相談していたときの話です。私が横から「いくら送っているの?」と口をはさむと、2万円と答えたので、私は深く考えもせずに「えらい!」とほめました。すると、女性社員はあきれかえっていましたね。「社長は2万円の仕送りをえらいと言うけど、彼にはその2万円がしんどい。だから相談に来ているんです」と。ハッとしましたね、これではいけないと。

経営トップが「産業カウンセラー養成講座」で学んで気づいたこととは

―― 中澤社長は自ら産業カウンセラーの養成講座に通われたわけですが、実際に受講されてみて、印象はいかがでしたか。

傾聴の姿勢と技法を実地で学ぶ演習の授業が特に“深かった”ですね。話を聞くカウンセラー役と相談する役を相互に繰り返し体験することで、受容と共感が自ずと身についていくわけですが、相談者役のときは、受講者自身が実際に悩んでいることや秘めた心の闇まで自己開示することが求められます。

受講者仲間の内面に触れて、私は罪悪感を覚えずにはいられませんでした。驚くほど長い間、心の傷を引きずっている人が多かったからです。きっと私もあちこちで部下を傷つけ、長く苦しめてきたに違いありません。言われたほうはいつまでも忘れないし、まして肩書きのある人間の心ない言葉は致命傷になりますからね。

―― 社員の心のケアが目的なら、外部のカウンセラーに委託するという選択肢もあると思いますが、なぜ“自前”にこだわり、しかも社長が率先して受講されたのでしょうか。

産業カウンセラー養成講座 イメージPhoto
少人数の実践的な
グループワークが充実

いくら専門の傾聴スキルがあっても、弊社の業態はもちろん、スタッフそれぞれの個性や人柄まで知った上でなければ、本当に相手の悩みを聞くことはできません。それに、幹部や管理職が現場のスタッフを傷つけてしまうのは、社長の私が彼らを傷つけているからかもしれません。そう思い至って、まず私から受講したんです。その後に役員が1名、さらに現場のリーダーが2名、現在までに計4名が受講しています。

役員は半ば無理やりでしたが、あとの2名は進んで挑戦し、見事に産業カウンセラーの資格を取りました。私と役員は資格を取りませんでしたが、学んだ内容はとても役に立っています。私はもともと静かに話を聞くのが苦手というか、相談されると、すぐにアドバイスしたくなるおせっかい。いまはアドバイスを我慢して、話を聞くときは聞くことに徹しようと肝に銘じています。そうすると手応えがまったく違う。問題や悩み自体は解決しなくても、相手がすごく喜んで、笑顔を取り戻してくれるんですよ。

―― 傾聴力がついたという実感がありますか。

はい。話を聞くときは、絶対に口外しないと強調して相手を安心させたり、「○○だからつらいんでしょう?」というふうに答えを相手に強制する“閉ざされた質問”を避けたり、そういうことが以前よりも意識してできるようになりました。

傾聴の場づくりにも気を配っています。その取り組みの最たる例が採用時の「自宅面接」です。自宅で話を聞けば、会社では見えない素顔や生活の背景まで見えてきますからね。たとえば家に行って新しい仏壇があったら、家族の誰かを最近亡くして落ち込んでいるかもしれません。そういう事情も引き出しながら、相手の心に寄り添わなければいけない。とりわけストレスがたまりやすい独りきりの現場で働くスタッフを採用する際には、かならず相手の家まで出向いて、自宅面接を行うようにしています。

会社を強く元気にするのが産業カウンセラーの真価

―― 産業カウンセラーのスキルを導入・実践し、傾聴力を高める取り組みを進めた結果、組織にはどんな変化が現れましたか。

目に見える変化としては、退職率の低下があります。問題を抱えている社員はまだまだいるでしょうが、独りでもんもんと苦しんでストレスをためこむ人は減ったと思います。何よりも、われわれマネジメント側の受け止め方が変わりました。部下に対して「あいつ、文句ばかり言うなぁ」から「あいつ、何かあったんやろか」と寄り添えるようになったんです。

社員の中には、悩みがあっても、誰にどう相談していいかが分からないという人が多いし、実際に独りで現場を担当しているケースも少なくありません。だから本部の社員は、そういう現場のスタッフと電話で話す時に、用件だけ聞いてすぐに切るようなことはしません。たとえ仕事の話がなくても、何か現場で困っていることはないか、家族や周りの人たちも困っていないかと、しつこいくらい声をかけるように指導しています。

―― 抱えている問題がすぐに解決できなくても、聞いてくれる人がいる、独りじゃないと思えるだけで違うんですね。

安心感があるんですよ。お客様にもよく「四国管財の掃除のおばちゃんは、働く姿が光っているねえ」とお褒めの言葉をいただきますが、働きぶりが光って見えるのは、安心して仕事に打ち込んでいるからでしょう。

弊社では社員満足度を調査する際、社員に「会社に満足していますか」というような薄っぺらい質問はしません。「仕事以外のことで本社に相談できますか」と聞いています。いまは「相談できる」が65%。この数字が上がれば上がるほど、「日本一いい会社」に近づいていくはずなんです。だから、どんなことでも相談してほしいし、困った時にはいつでも寄り添える会社でありたい。社員の子どもが学校でいじめられていると聞いたら、私が親の代わりに学校へ乗り込んでいくこともあります。目指すのは“究極のおせっかい会社”。それが私の夢なんです。

―― 一方、貴社のビジネスやお客様との関係において、社内にカウンセリングに通じた人材がいることのメリットをどう評価していらっしゃいますか。

もちろんサービス業である以上、従業員一人ひとりが“品質”そのものですから、その品質を向上させるために、傾聴の技術をもって彼らと真摯に向き合い、話を聞ける体制が整ってきたことは弊社の大きな強みだと思っています。

社員から見て何でも言える環境、聞いてもらえる雰囲気を醸成することは、最初に述べたクレームの“見える化”を徹底する上でも非常に有効です。弊社にとってお客様からのクレームは、サービス水準を高め、組織を強くするための貴重な機会。だから、クレームが発生することよりも、発生したクレームが隠蔽されることや、あるいはお客様が弊社への不満を胸にしまってしまうことのほうが怖いんですね。

四国管財株式会社 お客様係&代表取締役 中澤 清一さん

いまでは現場スタッフによるクレームの自己申告率は70%に達しました。「何でも報告してきて」と呼びかけているので、なかには「それがクレーム?」と首を傾げたくなるような細かい報告もありますが(笑)、本部に上がってきたミスやトラブルはすべて、私を含めて16名いる「お客様係」がスタッフ本人に代わって、迅速かつ誠実に対応しています。

―― 現場からクレームがどんどん上がってくるおかげで、お客様と会う機会も増えるわけですね。

そういうことです。接触する回数が増えれば、それだけ相手との人間関係は深まります。現に、お得意様からプライベートな相談をもちかけられることも多いんです。産業カウンセラー養成講座で学んだ傾聴のスキルが、お客様への対応にも役立っていると実感しますね。そこからまた新しいビジネスチャンスが広がったりして、業績も少しずつですが、伸びています。

ちなみに記録をさかのぼると、過去十数年間で弊社に寄せられたクレームの累計数は約2600件。これまでにクレームがきっかけで仕事が増えたことはあっても、解約されたことは一度もありません。

―― 内外を問わず、日常の業務やコミュニケーションに、カウンセリングの技術を自然と活かされているご様子がよくわかりました。貴社のように“自前の産業カウンセラー”を社内に育成しようと考えている他の企業にむけて、何かアドバイスをいただけますか。

経営者仲間にもよく言うんですが、何よりも重要なのは、まずトップや幹部が率先して講座を体験することでしょう。実際に受講してみれば、いろいろな悩みや問題を抱えながら働いている人たちの生の声も聞けて、「人と誠実に向き合うこと」「相手の話に耳を傾けること」の大切さが実感として腑に落ちるはずですから。

逆に部下だけが受講して、会社への導入を提案しても、経営層の理解を得るのはなかなかむずかしいと思います。産業カウンセラーというと、経営者のなかには「売上に直結しない」とか「心を病んだ人のための特殊な仕事」といった誤解がまだ少なくありません。それを払拭するためには、自ら体験してもらうのが一番なんです。

―― 会社を元気にすることこそが、産業カウンセラーの役割の真骨頂といえそうですね。

「産業カウンセラー」が企業にもたらす利益とは、目先ではなく、もっと未来に用意されているものでしょう。私は産業カウンセラーのスキルを、時代に左右されずに、長く会社を存続させていくための最強の経営ツールだと考えています。なぜならば、社会から必要とされ続けるのは「いい会社」だけ。社員やその家族が自慢できてお客様からも尊敬されるいい会社しか、結局は生き残っていけないと確信しているからです。私の場合は、会社の窮状に迫られたとはいえ、本気で経営を考え、何が大切かを突き詰めたからこそ、産業カウンセラーの価値に気づくことができたのだと思います。

―― 社内で産業カウンセラーを育成することの重要性について、理解することができました。本日はお忙しいところ、ありがとうございました。

四国管財株式会社 中澤 清一さん
(2012年12月7日 東京都港区の社団法人日本産業カウンセラー協会にて)
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社団法人日本産業カウンセラー協会は1960年に創立して以来、産業カウンセラーの育成と、組織・個人に対するメンタルヘルス対策・キャリア開発・人間関係開発などの各種支援活動をすすめてきました。毎年、全国約50か所で開講する「産業カウンセラー養成講座」は40年の歴史があり、業界トップの充実した実習が厚い信頼を得ており、企業人を中心に毎年、約5000人に受講されています。現在、協会には全国13支部で約2万5千人が会員として登録し、地域に密着した活動を行っています。
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