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日産自動車の“カルチャー ダイバーシティ”戦略
~Eラーニング導入による効果と今後への期待とは?

【インタビュー先】
日産自動車株式会社 ダイバーシティディベロップメント オフィス室長 高橋 美由紀さん、
グローバル・エデュケーションアンドトレーニング・コンサルタンツ株式会社 代表取締役 布留川 勝さん
日産自動車株式会社 ダイバーシティディベロップメント オフィス室長 高橋 美由紀さん

高橋 美由紀(たかはし みゆき)

日産自動車株式会社 ダイバーシティディベロップメント オフィス室長。早稲田大学卒業後、日産自動車株式会社に入社。欧州日産の設立を担当し、アムステルダムに駐在。その後、韓国三星財閥への技術援助プロジェクトを担当。カルロス・ゴーン氏のアシスタントを経て、北米日産にてマーケティングマネージャ、国内マーケティングのマーケティングダイレクターを歴任。現在に至る。

グローバル・エデュケーションアンドトレーニング・コンサルタンツ株式会社 代表取締役 布留川 勝さん

布留川 勝(ふるかわ まさる)

グローバル&自立型人材育成をミッションとする、グローバル・エデュケーションアンドトレーニング・コンサルタンツ株式会社 代表取締役。現在までに、120社以上の国内外企業の人材育成コンサルティングに携わる。最近では、個のグローバル化を促すパーソナル・グローバリゼーションワークショップを開発。また、ハーバード大学、カーネギーメロン大学、ニューヨーク大学、UCバークレー、INSEADなどのビジネススクールのほか、語学学校など100校以上と協働している。


ビジネスの世界では、「グローバル化」が急速に進んでいる。このような状況下、日本企業が成長していくには、「グローバルに対応できる人材をいかに育成していくか」が、重要となることはいうまでもない。既にグローバル企業として知られる日産自動車では、さらなるグローバル化の推進にあたり、「カルチャーダイバーシティ」に注力。Eラーニングを効果的に使って、成果を残しているという。では、同社はEラーニングを実際にどのように活用しているのだろうか。日産自動車株式会社 ダイバーシティディベロップメント オフィス室長の高橋 美由紀氏と、同社と共にEラーニングを共同開発した、グローバル・エデュケーションアンドトレーニング・コンサルタンツ株式会社の布留川 勝氏が、その秘訣について語り合った。

ルノーとのアライアンスにより日産に起こった変化

布留川: 本日は、日産自動車のグローバル化推進の施策について、弊社と共同開発したEラーニングを中心に、うかがいたいと思います。まず、貴社はフランスの企業のルノーとアライアンス関係にあるわけですが、一緒にやっていくことになって、現場や社内の対人関係などに影響や変化はありましたか。

高橋: 弊社は何十年も前から外国とビジネスをしていますので、「グローバル企業」としては歴史があります。しかし、純粋に日本人だけで企業を運営していた時代と、海外の企業と資本関係があり組織の中枢に外国人が多数いる現在とでは、状況が全く異なっています。日産は役員を見ても、現在ではさまざまな国籍の人がいます。

布留川: 日本の企業でダイバーシティというと、多くの場合は「ジェンダーダイバーシティ」を思い浮かべます。しかし、何年経ってもそれほど進んでいないというのが実感です。

高橋: 弊社では、ダイバーシティオフィスが出来た2004年は、女性管理職の比率が1%くらいだったのですが、現在では約6%にまで増えています。しかし、欧米企業ではその比率が2桁あって当然です。やはり、日本独自の文化や社会が、人々の考え方に大きな影響を与えているのだと思います。

布留川: ダイバーシティマネジメントに関して、「違うものがぶつかり合う中でダイナミズムが生まれてくる、あるいはそこにイノベーションが生まれてくる」などという経営者は多いのですが、ゴーンCEOの考え方も、まさにそんな感じなのでしょうか。

高橋: そうですね。世界には多様なお客様がいらっしゃるのに、日本で同じような教育を受けてずっと同じ会社にいる人たちだけでお客様のニーズを掴めるのか、というのがゴーンCEOの発想ですね。「ミラー・ザ・カスタマー」とよく言いますが、鏡になっていないと、お客様の気持ちをくみ取り、それを商品化することは出来ないということです。一方、弊社のCOOの志賀は、「意見のぶつかり合いによって、革新的な組織を作る」ということを強調していますね。

布留川: それは対照的な意見ですね。ところで、ルノーとのアライアンスを通じて、貴社では仕事の進め方に変化がありましたか。

高橋: ルノーと日産は資本提携をしていますが、お互いの文化やブランドを尊重し合っています。両方が歩み寄るということで、社内の公用語は英語です。もちろん、仕事の進め方や会議一つとっても表現の仕方が違うので、最初はかなり戸惑うこともありました。

職場での「異文化コミュニケーション」とは?

布留川: 「異文化コミュニケーション」というと、これまで何十年も、基本的には「アメリカと日本」という考え方がメインでした。しかし、アメリカとの違いがわかっていても、例えば中国やインドのような新興国とでは、コミュニケーション面で苦労することが多いのではないでしょうか。

高橋: 欧米文化でさえ、まだ日本との大きな違いを感じることがあります。例えば一般論として、日本はチームを重視、欧米は個人を重視、日本はボトムアップ、欧米はトップダウン、というような傾向があると思います。欧米の人は、「私の責任はここ」というのが明確で、日本人のような、すり合わせの文化がない。一方、日本人はボトムアップが好きだし、それがモチベーションの源泉にもなります。

布留川: 欧米ではジョブ・ディスクリプション(あるポジションに関する職務内容を詳細に記した文書)が、明確ということでしょうか。

高橋: そうですね。欧米はジョブ・ディスクリプションが明確なので、「私はここまで」という責任が明確だと思います。一方、日本では三遊間のゴロも拾って、チームとして成果を上げようという考え方が主流ですね。

現場の状況にマッチした「Eラーニング」

日産自動車株式会社 ダイバーシティディベロップメント オフィス室長 高橋 美由紀さん

布留川: 今回、貴社と共同で、グローバル化を推進するためのコンテンツとして、カルチャーダイバーシティを学ぶための「Eラーニング」を開発しました。これまで貴社では、セミナーやワークショップを実施されてきたと思いますが、どのような背景があって、Eラーニングを導入することになったのでしょうか。

高橋: 社員がそれぞれのスケジュールで働いている中で、好きな時間にコンパクトに学べることが、Eラーニングの良さだと思います。弊社の場合、生産部門でもグローバルな仕事をしている人は多いのですが、生産拠点自体は幅広いエリアに点在しています。そういう状況では、アップしておくとみんながアクセスできて、好きな時間に学べるというEラーニングのメリットは、大変大きいのです。また、学ぶ際に単なるスキルとしてだけではなく、「なぜそんな風に考えるのだろう」と、その国の文化などの背景まで理解していくと、さらに応用することができます。もう少し踏み込んで教育ができるツールはないかと考えて、Eラーニングの共同開発を行なったのです。

ここで、両社が開発したEラーニングについて、説明しておこう。それは、ビジネス・コミュニケーションで日本人が陥りやすい問題や行動を取り上げ、明日からすぐに使える知識やスキルを習得することに主眼を置いた「異文化理解Eラーニング」。メールやグローバル会議などの実践的な内容のほか、異文化衝突の背後にある文化的背景も学べる内容となっている。「すぐに役立つ」と評判が高く、日産自動車では、1,000人を超える受講者の3分の2が、他の社員への受講を勧めるメールを発信しているという結果も出ている。

高橋: 弊社の行動指針には「クロスファンクショナル」「クロスカルチャー」があります。クロスファンクショナルは、自身の部門に凝り固まらないで、そこを外れて活動しようという考え方。クロスカルチャーは、海外のパートナーとのビジネスを含めて、社員全員が共有すべき価値観です。現在従業員の6、7割が、海外とビジネスを行なっています。しかし、その約半分は文化の違いを理解できず、効率的にコミュニケーションがとれずに悩んでいることが、調査によって分かりました。そこから手を打っていかないと、仕事が進まなくて非効率です。どれほどスピーディーに異文化コミュニケーション能力、ネゴシエーション能力を付けていくかは、大変重要だと思います。

布留川: 異文化の人たちと仕事することは、すごくストレスフルなのですね。

高橋: そうですね。スタイルを変えないと難しいですね。アメリカにいた時、私は意見を求められることを待つことなく、自ら積極的に発言するようにしていました。しかし、日本に帰ってきてからは、アメリカと同じような態度は必ずしも好意をもって受入れられないのではないか、と感じました。

布留川: 自分自身は変わらないけれど、スタイルを変えるということですね。

高橋: 同じEメールを送るのでも、外国人と日本人とでは、トーンが異なります。日本人は合意形成をして、時間がかかってもきちんとお膳立てされているほうがいいのですが、外国人の上司に同じことをすると、「レスポンスが悪い」といわれます。

布留川: ところで、貴社では、Eラーニングの受講者が徐々に増えているそうですね。

高橋: いま、トータルで1,300人ぐらいです。海外で仕事をしてきた者からすれば、どういうレベルにすればいいのかという心配もありましたし、初年度に1,000人を超えるとは思っていなかったのですが、評判は大変良いようです。特に開発や生産に関わる人たちは、海外経験がなくても、現場ではいきなり異文化に接しなければなりません。基本的な文化の違いや、「だからこう言ったのか」「それであんな態度をとったのか」ということがEラーニングでしっかり整理することができるので、非常に良かったと思っています。

布留川: Eラーニングによって、気がつくことも多いのですね。

高橋: 生産部門にインドの研修生が来ると、研修開始から間もないうちに「もっといいやり方がある」と言い出すことがあります。すると、つい感情的になり、「経験もないのに、何がわかるのだろう!?」などと考えがちなのですが、文化の違いが分かっていれば、感情による摩擦は減るでしょう。単に「こう言えばいいんだ」だけではなくて、その背景がわかることで摩擦は減り、文化の違う者同士が歩み寄っていくことができます。

布留川: 例えば、海外経験の長い部長クラスの人が、自分でEラーニングをやってみて、「実際にこんな経験をしたことがある。これは面白い」ということもあるのではないですか。

高橋: はい。それで、部下にも「Eラーニングをやってみなさい」などと言ってくれて、広く浸透したのだと思います。そういう広がりも考えると、集合研修に比べて、費用対効果も高いといえそうです。

布留川: 集合研修は、弊社も多くやらせていただいていますが、講師の費用だけではなくて部屋代や交通費なども含めると、相当な金額になりますからね。そういう意味では、Eラーニングは、学習内容によって向き不向きはあるものの、効果的といえますね。

高橋: あとは、やはり受講者が学ぶ時間を個人のニーズにあわせて融通できることがEラーニングの強みですね。環境や仕事が激しく変化する現在、ある特定の日に行う集合研修だけでは、多忙な職場のニーズに十分対応できないですよね。Eラーニングは、忙しいなかでも勉強させたいという現在の職場の状況にうまくマッチしていると思います。

日産における「英語」の位置づけとは?

布留川: 貴社では、英語をどのように位置づけていますか?

高橋: 例えば役員会議などの資料は、英語と日本語で作っていたのですが、非効率だし、みんな英語ができるようになっていますので、日本語の資料は作らなくなりました。でも、例えば職場を回って説明をする時などは、英語でも分かるのですが、日本人の場合は日本語で書いてあるほうが、より共感を得やすいというのは事実ですね。

布留川: これからの理想は、「みんな英語ができて、日本語と英語の併記のような非効率なことは減らしていこう」ということでしょうか。

グローバル・エデュケーションアンドトレーニング・コンサルタンツ株式会社 代表取締役 布留川 勝さん

高橋: そうですね。採用選考の時点で基礎的な英語力はチェックしますし、仕事のランクがだんだん上がっていくときの条件としても、やはり英語は必須になります。

布留川: 仕事の中で英語の資料が回ってきたり、会議は英語で行なったりすることが当然になってくると、英語ができなければ辛いですよね。

高橋: 例えば、ダイバーシティは日本だけではなく、海外拠点でも取り組んでいます。そのための会議は当然英語で行いますから、分からないと参加できない。あと、ただ英語ができるのと、実際に海外の人と対峙して結果を出して行くのとでは、大きく違います。Eラーニングを利用して、「異文化でのビジネスはどうなのか」ということをしっかり勉強していなくて、単に言語ができるだけということであれば、もの足りないですね。

日本人はどうすれば海外で活躍できるのか

布留川: 最近欧米のトップ企業の日本法人に、ある傾向が見られます。優秀な人材を採用し、育成プログラムも充実しているのですが、日本人の幹部で本部の役員に入る人はほとんどいないんです。日本の事業部長クラスを、逆に海外から送り込んでくることもある。こういう状況をどうお考えですか?

高橋: 最近マスコミなどでも、日本で日本人の方が登用されないことや、アジアの中でも日本人が負けているという話をよく聞きますね。弊社では今のところ経営会議のメンバー10人のうち、5人が日本人で5人が外国人という状況です。現在は、この中から日本人がいなくなるというのは想像できませんが、逆に、日本人だからといって席が約束されているということでもないと思います。

布留川: 国籍ではなくて、能力がある人がそこに座るのが当然ということですね。

高橋: 日本人がもっと世界の舞台に積極的に出て行かなければという危機感はあります。弊社では、COOの志賀も「日本人のビジネスリーダーをきちんと育成していかなくてはいけない」という意識が強いですね。

布留川: 日本の企業は、どちらかというと男性社会ですよね。現在、日本人がグローバルでなかなか活躍できない状況には、日本の男性特有の理由があるのでしょうか?

高橋: 日本人は一般的に言って、外国人が大勢いるなかで、自らディスカッションをリードしていくような力が足りないという印象があります。たとえば国際会議でまず口火を切るとか、そういった自らリーダーシップを発揮するような姿勢があまり見られませんね。また、多様な人材をマネジメントする経験が比較的少ないので、全く異なるアプローチをしてくる外国人にどう対応していいのかわからない人も多いのではないでしょうか。

布留川: なるほど。日本の大手企業には、比較的似通った傾向があるように思えますね。例えば、30代~50代で、日本の有名大学を卒業した、いわゆるエリートの人たち。保守的で紳士的なのですが、リーダーシップが欠如していたり、物をはっきり言わなかったりします。

高橋: グローバル人材が求められる今、日本人はもっと積極的にリーダーシップをとることが必要だと思います。アメリカでは遠慮して発言を控えたりしていると、次の会議に呼ばれないこともあります。主張することが自分の存在意義であり、それがチームに貢献するという考え方です。今後、日本人はグローバル人財となって、新興国でのビジネスをサポートできるような付加価値を生んでいかなくてはならない。それには、今回開発したEラーニングや研修で異文化をしっかり理解し、相手によってスタイルシフトが出来るようになることが重要です。 今後も、Eラーニングや研修を通して、社内での継続的なグローバル化の推進、カルチャーダイバーシティの推進を目指していきたいと思っています。

布留川: 本日はお忙しい中、貴重なお話をうかがうことができました。ありがとうございました。

日産自動車株式会社 ダイバーシティディベロップメント オフィス室長 高橋 美由紀さん(右)、
グローバル・エデュケーションアンドトレーニング・コンサルタンツ株式会社 代表取締役 布留川 勝さん(左)

(取材は2011年2月17日、神奈川県横浜市の日産自動車株式会社にて)
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グローバル・エデュケーションアンドトレーニング・コンサルタンツ株式会社

グローバル・エデュケーションアンドトレーニング・コンサルタンツ株式会社は、グローバル&自立型人材育成をテーマに、120社以上のトップ企業の人材育成計画の立案・研修運営を手がけています。世界中の教育プログラムと、企業・団体・個人の学習ニーズを結びつけ、グローバルに活躍する人々の能力開発を促進することが私たちのミッションです。国内外のネットワークやリソースを元に、お客様のご要望に応じ、組織波及効果の高い教育プログラムをコーディネートいたします。

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