慣れ過ぎも問題?
紹介会社のコンサルタントに逆提案する求職者
転職を目指すあまり… 少々行き過ぎの「人材紹介会社活用法」
転職に際して、人材紹介会社を利用する人の割合はまだ少ない。徐々に増えつつあるが、求人サイトや転職情報誌を見て、自分で企業に履歴書を送る人の方が多いだろう。もっとも、人材紹介会社を利用して転職を何度も経験した人がいないわけではない。その多くは「紹介会社の上手な活用法」を経験的に分かっているが、なかには、行き過ぎた独自の利用法を編み出す人もいるようだ。
私からも「謝礼」をお支払いします
「採用された場合の、企業に対する紹介手数料は年収の何パーセントでしょうか?」
人材紹介会社を利用して何回か転職したことのある人から、たまにこんな質問をされることがある。
「企業によって契約内容はまちまちですね」
たいていの場合はあいまいに答えるのだが、この日、転職相談に来たDさんはさらに食い下がってきた。
「人材紹介会社に勤務している知り合いから、平均的な手数料は年収の30パーセントだと聞いたことがあるのですが…」
Dさんは上場企業や外資系の有名メーカーなどで管理職を経験したこともある40代のベテランだ。これまでに数回、キャリアアップ型の転職を成功させている。その時に、先の転職エージェントと知り合ったのだろう。
「転職が成功したら、私個人からも年収の5パーセントを御社に謝礼としてお支払いします。その分、御社は企業に対して値引きが可能になるので、チャンスが広がるんじゃないかと思って…」
確かに今は不況ということもあり、企業側から紹介手数料の値引きを交渉されることがないわけではない。だからといって求職者から謝礼を受け取るのは、あまりにもイレギュラーだ。
「手数料の問題で採否が左右されるようなことがあれば、ご相談いたしますが、原則的には当社と企業との間ですでに契約が交わされていますので、ご心配には及びません」
せっかくのDさんの提案を全面的に断ってしまうと、気分を害するかもしれない。そう思った私は多少の含みを残しながらも、その必要はないですよ…という方向でこの話を終わらせることにした。
「よろしくお願いします…」
Dさんはこの日お渡しした何枚かの求人票を持っていったん帰宅した。
個別の採否に手数料は関係ないのに…
その後、Dさんに何社か紹介したが、なかなか面接にまで持ち込めない状態が続いている。何社目かの選考結果を伝えた際、Dさんからさらなる提案があった。
「前回お話しした謝礼の件ですが…」
なかなか面接に進まない状況を、Dさんは企業側が高い手数料に難色を示しているのでは…と懸念しているらしい。
「30パーセントのところを25パーセントでもいいと、採用担当者の方に伝えてもらえないでしょうか。また、30%で採用が決まった場合でも、御社に5パーセントの謝礼をお支払いします。御社としては35パーセントの利益になるわけですから、よろしくお願いします」
Dさんの気持ちも分からなくはない。しかし、人材紹介の契約を結ぶ際に、企業から手数料の交渉をされることはあっても、個別の案件で、「手数料を値引いてくれれば採用する」というケースはほとんどない。採用時の経費削減は企業にとっても大きな課題だが、入社後ずっと払っていく年収の方が額ははるかに大きい。そういう意味では、採否は手数料云々ではなく、その企業にどれだけ必要な人材かという判断で決まるといえる。私はそのようにDさんに話した。
「そうなんですか…」
いったんは納得したかに思えたDさんだったが、さらに踏み込んだ提案をしてきた。
「いずれにしても、私からの5パーセントの謝礼はお支払いします。御社で売上に計上しても結構ですし、手続き的に難しければコンサルタントの方への個人的な謝礼にすることも可能ですので…」
私は思わず苦笑いしてしまった。そこまで言われると逆にやりにくくなる。だいたい仕事でやっているのに個人的な謝礼などもらえるわけがないし、Dさんのことも常識のない人に思えてきて、企業に対して自信を持って推薦できなくなってしまう。
「本当にお気遣いは無用ですので。それより、一日でも早く面接に進める企業が見つかるように頑張りましょう」
Dさんは熱心さのあまりこんな提案をしてくるのだろう。それは分かりつつも「人材紹介の仕組みに通じすぎている人」は対応しにくいな、とつい思ってしまうのだった。