珍しい転職理由もある
企業での面接ではそのまま言えないことも
中途採用の際に必ず確認される項目の一つが「転職理由」。企業側からは「キャリアアップしたい」「これまでの経験を生かしたい」といった前向きな理由が好まれるようだが、実際には全員が前向きな理由で転職を考えるわけではない。人材紹介会社で転職相談を受けていると、ネガティブな理由が直接のきっかけになっていることが多いと気付く。そんな「面接で言えない転職理由」の中には、予想もしないような一風変わったものもある。
とんでもない「社内格差」が発生?
「これまでの経験を生かして、キャリアアップできる職場があればと思いまして」
この日、転職相談に乗っていたAさんの転職理由は、ありふれたものだった。こういうときはもう少し突っ込んで、何が直接的な動機になったのかを聞き出すことが重要だ。
「ここでお聞きしたことを、そのまま企業に伝えることは決してありません。誰でも転職を考えるときは、今の職場で満たされてないものを次の職場で手に入れたいと思うものです。それを正しく知ってはじめて、Aさんにご満足いただける会社をご紹介できるようになります。ざっくばらんにお聞かせいただけませんか」
そう言うと、Aさんは少しずつ転職を考えている「本当の理由」を話してくれた。
「今の会社には、貢献度に応じてストックオプションがもらえる制度があるんです」
独自技術で成長してきたAさんの会社。比較的早い時期に入社して活躍していたAさんも、自社株を買う権利を付与されていた。そのときは未公開株だったのだが、数年前に会社は株式を上場。Aさんはすかさずストックオプションを行使して、けっこうな額の利益を得たという。
「素晴らしいじゃないですか」
私は素直に感心した。ところがAさんは浮かない表情だ。
「そのときは、いいタイミングで株を売れたと思っていたんです。内部にいると、会社の弱いところもよくわかりますよね。上場から時間をおかずに早めに売って正解だと思っていたんですが……」
ところが会社の株価は順調に上昇。今ではAさんが手放したときの数倍にまで達している。そのため、Aさんと同時期にストックオプションを付与された同僚たちの少なくない人数が、なんと「億万長者化」してしまったのだ。
「もちろん自己責任ですから、それをどうこういう気はさらさらありません。ただ、そういう人たちと毎日顔をあわせているとモヤモヤしてしまうんです」
そこで心機一転、転職してすっきりした気持ちで再スタートしたいのだという。さらにいえば、成長企業となった会社には中途入社で優秀な人材が多数採用されている。そのため、Aさんのような古株の人材は、やや埋もれた状態でもあった。
「わかりました。ぜひAさんを必要とする会社をご紹介したいと思います」
そういう当事者になったことがないのでピンとこないが、これも社内の人間関係、社内格差が原因ということになるのかもしれない。