キャリアチェンジ転職売り手市場だから? 人気キャリアにこだわらない人たち
「売り手市場」が続いている転職マーケット。とりわけソフトウェア開発を中心とする技術職は引く手あまたで、似たような求人案件がどんどん寄せられる。しかしその一方で、企業が求めるスペックを満たす人材の登録はめったにないのが実情だ。そのため、ある程度エンジニアとしての実務経験がある人が登録してくると、まず紹介会社の中で奪いあいになってしまう。しかし、本人がその貴重なキャリアを活かした転職を考えていないこともある。
未経験の仕事に挑戦してみたい
「○○さんの本を読んで、非常に感銘を受けました。ぜひ自分も企業経営に関わる仕事がしてみたい、そう思ったのが転職活動を始めたきっかけです」
Yさんを迎えて行った、転職相談。登録情報が送られてきたときから私は、Yさんのこれまでのキャリアと今後の希望がまったく一致してないことが気になっていた。Yさんは、理工系の大学を卒業。一貫して制御系ソフトウェアの開発に携わり、キャリアを重ねてきた。エンジニアとして好条件で採用したいという企業は、いくらでもあるだろう。しかし、Yさんの希望職種は、これまでのキャリアとまったく関係がない「経営企画」。もしかすると、登録時に選択項目を間違えたのではないかとも考えたが、直接話を聞かなければ詳しいことはわからない。
実際に会ってみると、Yさんが経営企画を希望する理由は明快だった。これまでの仕事と将来への思いや、ふと手に取った書物に触発されて経営を学びたいと考えるようになった経緯。熱意にあふれているし、私が先輩や友人だったら「しっかりした考えだね、頑張れよ」と言っていただろう。ただ、人材紹介会社として見れば、とても貴重なキャリアであることも確かだった。
「お気持ちは大変よくわかりましたが、これまでのキャリアを活かす転職も並行して考えてみてはいかがですか? Yさんのキャリアなら待遇アップやリーダーとしての採用はもとより、製品企画や技術的なコンサルタントなど、いろいろな可能性があると思うんです」
私はあらかじめ用意しておいた、Yさんに紹介可能な求人票の束を取り出した。視野を少し広げてもらうアドバイスも、人材紹介会社の大事な役割だ。
すると私を制して、Yさんはこう言った。
「これまでのキャリアを活かした転職なら人材紹介会社に頼らなくても、知人の紹介などですでに話をもらっています。転職支援のプロである御社には、未経験でも応募できる経営企画の仕事をぜひ、紹介していただきたいんです」
たしかに、Yさんのキャリアなら横のつながりで、エンジニアとしていくらでも転職できるだろう。人材紹介会社に登録するのが初めてではないなら、どこに行っても同じような対応をされて飽き飽きしている可能性もある。こちらの都合を押し付けている場合ではなさそうだ。
「承知しました。経営企画の案件を探してご紹介したいと思います」
私は技術者としての紹介を断念し、そう約束した。