転職相談で「ガス抜き」する求職者
異動の季節が過ぎる頃―― 転職希望者が増える?
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結果は愚痴を聞いただけの2時間、でも……
「私としてはマーケティングの企画を担当したかったのですが、その部署の人員が削減になってしまったんです。その結果、この春から今の部門に異動になりまして……」
Nさんが転職活動に踏み切った直接の理由は、どうやら自分の希望とは違う部署に異動になったことのようだ。そのまま延々と現状の不満を話し続けるNさん。
結局2時間以上も話し続け、求人企業の情報を詳しく説明する時間がなくなってしまった。Nさんのスペックに合っていると思われる求人票を数社分渡すだけで精一杯。「後でゆっくり読んでください」ということになってしまった。
一般的には、自分の会社の不満ばかり言っている人材はどの企業でも欲しがらないと思われるかもしれない。しかし、Nさんは有名大学出身で、大手企業に新卒で入社して転職歴もないのだから、ネガティブなことを言わなければ、いろいろな可能性があるのではないかと私は思った。
「もう一度お会いできませんか。今度は、より具体的な求人情報をお伝えしたいと思っています」
企業を紹介するために再度アポイントを取ろうとしたが、なかなかうまくいかない。メールを送っても返事がないし、電話をかけても留守番電話になってしまう。
結局、その後簡単なメールのやりとりが一、二度できただけで、そのままフェードアウトになってしまった。現職の会社での仕事がかなり忙しいようだ。意に沿わない異動によって噴き出した会社への不満を、私たち人材紹介会社にぶつけることで、いい「ガス抜き」になったのかもしれない。
今後、Nさんが転職に本腰を入れることになるかどうかはわからない。今働いている企業をNさんは批判していたが、第三者の目から見れば日本を代表する有名企業である。多少体質は古くてもそこでキャリアを積んでいく「選択肢」は決して悪いものではないだろう。ベンチャー企業に転職すればスピード感のある充実した仕事はできるかもしれないが、安定感や待遇面から考えると、特に大きな不満がないのであれば、転職しないことを勧めるキャリアコンサルタントも少なくないはずだ。
Nさんのようなケースには、人材紹介の仕事をしていると、たまに遭遇する。結果的には愚痴を聞いただけの2時間になってしまったが、ここから大きな案件に発展することもある。
「すぐに転職をお考えでなくても結構ですよ。一度相談にいらっしゃいませんか」
そんなわけで、今日も新しい人材にアプローチするのである。
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