有賀 誠のHRシャウト! 人事部長は“Rock & Roll”【第38回】
CHROを考える(その2)
兼業と兼務
株式会社日本M&Aセンター 常務執行役員 人材ファースト統括
有賀 誠さん
人事部長の悩みは尽きません。経営陣からの無理難題、多様化する労務トラブル、バラバラに進んでしまったグループの人事制度……。障壁(Rock)にぶち当たり、揺さぶられる(Roll)日々を生きているのです。しかし、人事部長が悩んでいるようでは、人事部さらには会社全体が元気をなくしてしまいます。常に明るく元気に突き進んでいくにはどうすればいいのか? さまざまな企業で人事の要職を務めてきた有賀誠氏が、日本の人事部長に立ちはだかる悩みを克服し、前進していくためのヒントを投げかけます。
みんなで前を向いて進もう! 人事部長の毎日はRock & Roll だぜ!――有賀 誠
前回、人事担当役員とCHROの違いについて説明しました。それを踏まえた上で、ご紹介した早稲田大学ビジネススクールの入山章栄先生からの「日本には真のCHRO(Chief Human Resources Officer)が不足している」という問題提起は、今後どのような展開につながるのでしょうか。
CHROの兼業
入山先生によれば、真のCHROが不足する中、そのような人材には極めて高い需要があり、これからは優秀なCHROが兼業をすることによって複数の企業を支援する時代になるのではないか、ということです。確かに、日本企業が優秀なCHROを育成できないとしたら、需要の大きさから、CHROの兼業は現実のものとなるのかもしれません。
一方、供給面ではどうでしょうか。
私は、CHROには「横」と「縦」、2軸の役割があると考えます。
「横」は、CEOとともに経営チームをまとめ、企業の戦略を策定・実行することです。これは左脳的な仕事であり、兼業が可能かもしれません。社内コンサルタントと呼ぶこともできるでしょう。
一方、「縦」の役割は、経営トップの意思を現場に伝え、また、中間の官僚組織を飛び越して現場の声とトップを直接つなぐことです。その中には、労働組合との密なコミュニケーションなども含まれるでしょう。多分に人間臭い部分、右脳的な要素が必要となる仕事となります。典型的な人事・労務担当役員の主たる使命と言うこともできますが、それはCHROにも求められる要素となりえるのです。
この「縦」は、組織との一体感やディープな人間関係を前提とするものであり、兼業という働き方では役割を果たすことが難しいと考えられます。しかも、私が知るCHROは、ほぼ例外なく皆パッション溢れる人物であり、一体感や人間関係を大切にしています。「兼業」という距離感をよしとはしないでしょう。
「横」の役割はよいとしても、「縦」の要件から、CHROの兼業は簡単には広まらないように思えるのです。
CHROの兼務
入山先生は、CHROの兼務も推奨されています。それも、「人事とDX」など、企業にとってその時に最も重要な機能を兼務すべきというのです。経営戦略と組織・制度を融合させるという意図も含めて、CHROが将来CEOにもなりえる優秀な経営リーダーであるとすれば、納得のいく話です。
伝統的な日本企業でも、将来の社長候補には計画的にいろいろな職責を経験させるという、ローテーションによる育成方法が一般的です。特に、人事や経営企画といった部署は、定番のルートと言われています。キャリアの中で複数の職責を経験するという意味では、私自身もかつてファッション・ブランドの社長を経験しました。大失敗をしましたが、その時の経験は、経営目線での人事という仕事の中で大いに活かされていると思います。
一方、米国に本社があるグローバル企業では、幹部候補生に複数の職務を同時に担当させることがあります。まさに、兼務です。IBMでは、日本の人事のリーダーがアフリカでのビジネス・モデル構築に参画するといったアサインメントがありました。私も、米国本社の自動車部品メーカーに勤務していた際は、アジア・パシフィックの人事のリーダーと日本法人の代表の兼務を命じられました。
「ローテーション」と「兼務」、どちらも経営リーダーの育成に効果はあるでしょうが、将来のCEO(=広範に経営を司る)をつくるのであれば、「兼務」の方がよりスピーディーで有効な試練の機会になるのではないでしょうか。
CHRO不足の今後
ここまで、CHROの「兼業」と「兼務」の実現性と効用を考えてきました。「兼業」はCHRO本人のキャリア選択となりますが、企業として真のCHRO(=経営リーダー)を育てたいのであれば、「兼務」は一つの有効な選択肢となりえるかもしれません。
有賀誠の“Rock & Roll”な一言
兼業と兼務。
経営リーダーとしてのCHROを育てるには?
- 有賀 誠
- 株式会社日本M&Aセンター 常務執行役員 人材ファースト統括
(ありが・まこと)1981年、日本鋼管(現JFE)入社。製鉄所生産管理、米国事業、本社経営企画管理などに携わる。1997年、日本ゼネラル・モーターズに人事部マネージャーとして入社。部品部門であったデルファイの日本法人を立ち上げ、その後、日本デルファイ取締役副社長兼デルファイ/アジア・パシフィック人事本部長。2003年、ダイムラークライスラー傘下の三菱自動車にて常務執行役員人事本部長。グローバル人事制度の構築および次世代リーダー育成プログラムを手がける。2005年、ユニクロ執行役員(生産およびデザイン担当)を経て、2006年、エディー・バウアー・ジャパン代表取締役社長に就任。その後、人事分野の業務に戻ることを決意し、2009年より日本IBM人事部門理事、2010年より日本ヒューレット・パッカード取締役執行役員人事統括本部長、2016年よりミスミグループ本社統括執行役員人材開発センター長。会社の急成長の裏で遅れていた組織作り、特に社員の健康管理・勤怠管理体制を構築。2018年度には国内800人、グローバル3000人規模の採用を実現した。2019年、ライブハウスを経営する株式会社Doppoの会長に就任。2020年4月から現職。1981年、北海道大学法学部卒。1993年、ミシガン大学経営大学院(MBA)卒。
HR領域のオピニオンリーダーによる金言・名言。人事部に立ちはだかる悩みや課題を克服し、前進していくためのヒントを投げかけます。