職場のモヤモヤ解決図鑑【第34回】
年5日の確実な有給休暇取得のための
働き方・休み方の改善方法
自分のことだけ集中したくても、そうはいかないのが社会人。昔思い描いていた理想の社会人像より、ずいぶんあくせくしてない? 働き方や人間関係に悩む皆さまに、問題解決のヒントをお送りします!
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吉田 りな(よしだ りな)
食品系の会社に勤める人事2年目の24才。主に経理・労務を担当。最近は担当を越えて人事の色々な仕事に興味が出てきた。仲間思いでたまに熱血!
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森本 翔太(もりもと しょうた)
人事部に配属されたばかりの23才。部長と吉田さんに教わりながら、人事の基礎を勉強中。
同期の話から、有給休暇を申請するハードルの高さを感じた吉田さん。有給休暇休暇は、従業員によって付与されている日数が異なります。年5日の有給休暇取得義務分をきちんと消化しつつ、有給休暇を取得しやすい職場にするにはどうしたらいいのでしょうか。
年5日の有給休暇取得義務に対応するには
年間10日以上の有給休暇が付与される従業員に対して、企業は「年5日」の有給休暇を取得させなければいけません。しかし、業務が忙しくて取得するのが難しく、従業員が有給休暇の申請自体をためらってしまうこともあるでしょう。
このような職場で、従業員が有給休暇を確実に取得できるように、あらかじめ会社で取得する時季を、全体または個別に定める方法もあります。また、付与された残りの日数を把握しやすいような管理方法をとることも効果的です。
【方法1】計画的付与制度(計画年休)
計画的付与制度とは、会社が事前に休暇取得日を計画的に割り振り、従業員がためらうことなく有給休暇を取得することができるようにする制度です。全社一斉に付与する方法(一斉付与方式)もあれば、チームや部署ごとに交代で付与する方法(交代制付与方式)もあります。また、年次有給休暇付与計画表を作成し、付与する日を計画的かつ個人別に決められる方法(個人別付与方式)も多くの企業で利用されています。
厚生労働省の令和3(2021)年度調査によれば、計画付与制度を利用している企業は46.2%に上ります。令和2年調査の43.22%と比較して増加しており、多くの企業が計画的付与制度を活用していることがわかります。
計画的付与制度のメリット
年末年始の休暇や、お盆の夏季休暇にあわせて有給休暇を設定できるため、個別に義務分を調整するよりも労務管理の負担を軽減することができます。また従業員にとっても、ためらうことなく有給休暇を消化できるというメリットがあります。
計画的付与制度の対象
計画的付与制度の対象にできるのは、各従業員の付与日数から「5日間を差し引いた」残りの日数です。例えば、付与日数が10日の従業員に対して計画的付与ができるのは5日、付与日数が20日の従業員であれば15日となります。前年度からの繰り越し分がある場合は、繰り越し分を含めた付与日数から5日を差し引いた日数が、計画付与の対象可能日数となります。
計画的付与を行うには、就業規則への定めと労使協定の締結が必要です。厚生労働省のサイトでは、就業規則や各種労使協定の作成例が掲載されています。就業規則や労使協定を作成する際の参考にご活用ください。
【方法2】個別指定方式
個々人の自由に任せていると、年5日の取得ができそうもない従業員に限り、会社が適宜有給休暇の取得を指定する方式です。
付与する基準日を起点に期限を定め、期限がきても年5日の取得が完了していない対象従業員に対して、会社が時季指定を行います。この方法は、就業規則への規定は必要ですが、計画的付与制度のように労使協定の締結は必要ありません。従業員も有給休暇取得の自由が保たれるメリットがあります。
時季指定できる日数は、義務となる5日から対象の従業員がすでに取得した日数(計画的付与も含む)を差し引いた残りの日数になります。例えば、2日消化している従業員に対しては、時季指定できる日数は3日となります。また、時季指定に際して、会社側が一方的に決定を行うことは望ましくなく、必ず従業員の意見を聞かなければいけない点に注意が必要です。
個別指定方式では、有給休暇の取得時期が偏って業務に支障をきたさないよう、チームや部署で従業員の有給休暇申請状況を確認できるようにするなど、きめ細かな管理が必要です。
計画的付与制度 | 個別指定方式 | |
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方法 | 会社が事前に有給休暇の取得する日を割り振る | 年5日の義務分の有給取得が残っている従業員に対し個別に時季指定をする |
メリット | 労務管理の負担を軽減できる | 従業員の自由度を保ちつつ、義務分を消化できる |
対象範囲 | 付与日数(繰り越し分も含む)から5日を引いた残りの日数 | すでに取得された有給休暇日数を、義務分の5日から引いた残りの日数 |
就業規則の規定 | 必要 | 必要 |
労使協定の締結 | 必要 | 不要 |
付与日を統一することで有給日数の管理が効率的に
従業員の有給休暇日数を適確に管理するために、付与日を統一することができます。
月初や年度末など年休付与のタイミングを揃える
有給休暇は、原則として入社から6ヵ月を経過した時点で、出勤しなければいけない日の8割以上勤務していることを条件に付与されます。その後は、1年6ヵ月、2年6ヵ月……と毎年付与されるのが原則です。
労働基準法で定めた付与の仕方は、あくまで最低限の基準を定めたものです。法律の規定を下回らない範囲で会社が独自の基準日を設け、付与タイミングを統一することができます。
基準日統一の例 |
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・月初もしくは月末に統一 月途中で入社した社員がいても付与するタイミングをそろえることができ、有給日数の把握がしやすくなります。また、年5日の有給休暇を取得させる期間についても、効率的に管理できます。 |
・年度初めもしくは年始に統一 基準日を一つにまとめることで、より多くの従業員を統一して管理することができます。 |
前倒しで付与したり、期間が重複したりした場合の対応
基準日を統一することで、勤続年数6ヵ月よりも前に有給休暇が付与されるケースや、年5日の指定義務にあたる期間が重複するケースが発生することが考えられます。
前倒しで年10日以上の有給休暇を付与した場合 |
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通常であれば入社してから6ヵ月経過した時点で付与する有給休暇を、入社と同時に与えた場合、会社はその日から1年以内に年5日の有給休暇を従業員に取得させる必要があります。 |
年5日の有給休暇取得義務の期間が重複した場合 |
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入社初年度は6ヵ月勤務時点で、その後は年度初めに一斉付与の方式をとっている場合、「年5日の有給取得義務」の期間が重なるケースが発生します。その場合、「期間按分」という方法を用いて、より効率的に管理することができます。 |
期間の重複が発生するケース |
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その場合(1)2020年10月1日~2021年9月30日と(2)2021年4月1日~2022年3月31の期間で「年5日の有給取得義務」の重複する期間が発生する。 【対応】「期間按分」の方法で有給取得義務日数を算出 |
有給休暇取得の方法を工夫して働きやすい職場環境を作ろう
有給休暇の年5日を取得させる義務は、あくまで最低限の基準です。義務分に限らず、従業員が付与された有給日数を気持ちよく取得し、心身ともにリフレッシュし、いきいきと働ける職場環境をつくるのが理想です。
厚生労働省の令和3年の調査によれば、労働者一人当たりの有給休暇取得日数は平均で10.1日と、昭和59年以来の過去最高の水準となっています。
有給休暇の取得率が上がる一方で、取得しやすい管理方法は業種や職種によって異なります。宿泊業や飲食業など、繁忙期がある業種では、業務に支障がでないよう従業員の取得タイミングを検討する必要があるでしょう。
厚生労働省のポータルサイトでは、企業の休み方への取り組みをまとめています。例えば、長期休暇と組み合わせて、旅行先や帰省先で行う仕事を勤務日と認める「ワーケーション」は、有給休暇取得を促進する方法の一環です。日本航空株式会社(JAL)は2017年からいち早くワーケーションを取り入れており、世間的にもテレワークの広がりにより注目されつつあります。
有給休暇は、従業員が心身を休め、効率の良い働き方を続けるのに大切なものです。働きやすい環境づくりのため、自社に適した有給休暇取得の管理方法を検討しましょう。
【まとめ】
- 就業規則への規定と労使協定の締結により、企業が有給休暇の取得を事前に決める計画的付与制度を活用できる
- 義務分の年5日の有給休暇取得がされていない従業員は、希望聞き取りのうえ、企業が時季指定して取得させることが可能
- 効率的な有給休暇の管理には、月初や年度初めなど、基準日を統一する
- 年5日の有給休暇の確実な取得を行いつつ、自社に適した方法を確立する
従業員が有給休暇を取得できるよう、企業ができる取り組みがたくさんあるんですね
年末年始の計画的付与以外にも、夏季休暇やゴールデンウィークなどの間にブリッジ的に有給休暇を利用して、長期休暇を取るのも良い方法だよね
私もワーケーションを利用して旅行に行きたいです!
新しい制度がつくれるか検討してみましょう
自分のことだけ集中したくても、そうはいかないのが社会人。働き方や人間関係に悩む皆さまに、問題解決のヒントをお送りします!