「やっちゃだめ」から「やっていい」への変革が、やる気を引き出す
社員の主体性を覚醒させる「よい同調圧力」とは
SOMPOコミュニケーションズ株式会社 代表取締役社長
林 祥晃さん

経営層から「変革の推進」や「イノベーションの創出」を求められる一方で、組織には「前例がない」「失敗は許されない」といった、「やっちゃだめ」の同調圧力がまん延している――。こうしたジレンマを、多くの企業のリーダーが抱えているのではないでしょうか。メンバーの主体性を引き出し、経営目標に結びつけるにはどうすればいいのか。その鍵は、「同調圧力」を“悪”と捉えるのではなく、「よい同調圧力」として“良い”方向に活用することにあると、SOMPOコミュニケーションズ株式会社 代表取締役社長の林祥晃さんは言います。「やっちゃだめ」を「やっていい」に変えていくことで、メンバー全員が活躍できる組織を実現できるという林さんに、「よい同調圧力」に満ちた組織文化を醸成するための手法と、その根底にある想いについて伺いました。
- 林 祥晃さん
- SOMPOコミュニケーションズ株式会社 代表取締役社長
はやし・よしてる/1964年長崎県長崎市生まれの愛知県名古屋市育ち。立教大学卒業後、安田火災海上保険会社(現 損害保険ジャパン株式会社)に入社。入社3年目に知的障がい者のボランティアを経験する中で、「2:6:2の法則」の打破(人類総活躍の実現)を自らの生きざまにしていこうと決意。以後、モチベーションの高い組織づくりが得意分野となり、各種メディアに取り上げられた。グループ会社社長就任を機に、社員との真の信頼関係構築により、「やっていい」の同調圧力を形成していく「ラポール・リーダーシップ」を実践。その結果、徐々に仲間を増やしながら、ボトムアップで人事給与制度を作りあげる「パブリックコメント」をはじめ、創業30年以上の1500人規模の企業においても活力あふれる組織づくりを実現することができた。著書に『よい同調圧力を組織の武器にする』(翔泳社)がある。
「やっちゃだめ」の空気が組織の活力を奪う。多くの企業が陥る「8つの課題」
本日は「よい同調圧力」という非常に興味深いテーマでお話を伺います。まず、林さんが考える従来の「同調圧力」のイメージと、それが多くの組織にどのような課題をもたらしているかについてお聞かせください。
「同調圧力」と聞くと、多くの方が悪いイメージを持たれるのではないでしょうか。コロナ禍における「自粛警察」のように、組織に「やっちゃだめ」という雰囲気がまん延している。その結果、メンバーが主体性を発揮できなかったり、あるいは悪い方になびいてしまったり、見て見ぬふりをしてしまう。そういったネガティブな使われ方が一般的です。
しかし、あらためて言葉の意味を調べてみると、「少数意見を持つ人が、多数意見に合わせるように暗黙のうちに強制されるような心理的圧力」とあります。それなら、この力を「良い方向」に使ってしまえばいいのではないか。「やっちゃだめ」を「やっていい」に変えていく。それが「よい同調圧力」という考え方です。「みんながいきいきとやりたいことをやっているのだから、私もやらなければ」といったように、メンバー同士が良い方向に影響を与え合うことができれば、結果的に活力ある組織づくりにつながるはずです。
なぜ多くの組織では「やっちゃだめ」という悪い同調圧力がかかってしまうのでしょうか。
ある程度年数を積み重ねた組織には、しっかりとした官僚的な制度やルールが整備されていきます。これらは仕事の効率化や一体感を生み出す上では良い面も多く、組織の成長には欠かせません。
しかし皮肉なことに、誰かが「やりたい」とチャレンジしようとしても、「前例がない」という一言でつぶされてしまうことが多い。「やっちゃだめ」の同調圧力がかかり、メンバーの主体性の芽が摘まれてしまうのです。しかも、長年かけて組織に根付いたものですから、変えようと思っても一朝一夕には変えられません。私は、こうした「やっちゃだめ」の同調圧力を形成する要因として、多くの企業に共通する「8つの課題」があると考えています。
硬直的な組織ができあがる「8つの課題」
- 階層構造化による業務の効率化
- 経営と現場の分断
- 情報の制限
- 手続きや承認プロセスの固定化
- 官僚主義の強化による組織全体のパフォーマンス低下
- 仕事と評価の主従逆転
- KPIの過度な要求
- 恐れの文化の醸成
1つ目は「階層構造化による業務の効率化」。トップダウンの風土です。組織が成長して階層ができると、効率的な意思決定のためにトップダウンが主流になります。2つ目は「経営と現場の分断」。本社が主役になり、階層の上位にいる人や、それを支える本社部門ばかりが注目され、現場が主役になれない状態です。これでは、本社に対する不信感が生まれてしまいます。3つ目は「情報の制限」。本社が主役になると、「現場は信用できない」「情報をうまく活用できない」という感覚から、外部への漏えいを恐れて、情報が開示されなくなってしまいます。
4つ目は「手続きや承認プロセスの固定化」。組織が大きくなると、報告や承認のフローが作られ、PDCA文化が生まれます。すると、メンバーは承認されやすい「P(計画)」ばかりに力を注ぐようになり、立派な資料は作るけれどなかなか「D(実行)」に至らない、という本末転倒が起こります。5つ目は「官僚主義の強化による組織全体のパフォーマンス低下」。リーダーの仕事はメンバーを「管理する」こと、メンバーの仕事はリーダーに「管理される」ことがメインになり、管理の文化が当たり前になってしまいます。
6つ目は「仕事と評価の主従逆転」。公平性・透明性を担保するために評価制度がどんどん精緻化・複雑化し、リーダーもメンバーも「評価のため」に仕事をしているような「評価至上主義」の状態に陥ります。7つ目は「KPIの過度な要求」。評価と連動し、数字で測れるKPIが尊重されます。すると、KPIを上げるテクニックに走り、本来大切なお客さまへの品質や、メンバーのハートに火をつけるといったことがおろそかになりがちです。
そして、8つ目は「恐れの文化の醸成」。1〜7が積み重なった結果、組織には「やりたいことができない」「やらない方がいい」という「恐れの文化」が醸成されてしまいます。残念ながら、多くの日本企業がこうした課題を抱えているのではないでしょうか。
目指すは「2:6:2の法則」の打破。「よい同調圧力」への着想
多くの企業が「8つの課題」を抱える中で、林さんがあえて「同調圧力」を“良い”方向に使おうと考えられたきっかけと、その原点について教えていただけますか。
私が「よい同調圧力」という考え方に至った原点は、入社3年目に経験したボランティア活動にあります。横浜市の社会福祉協議会で、同世代の知的障害を持つ方々と触れ合いました。特別支援学級を卒業後、なかなか社会と接点が持てず、家に閉じこもりがちだった人たちを「町へ出そう」という取り組みです。
正直、「ボランティアはかっこいい」といった動機で参加したのですが、大きな衝撃を受けました。私と同じ年頃の若者たちが、本当に純粋で目をキラキラさせながら「お兄ちゃん、かっこいい」と抱きついてくるのです。そして、彼らを見守るご家族や社会福祉協議会の皆さんが、心の底から彼らを愛している。「この人たちの魅力に、自分は負けている」と感じました。
人間は一人ひとり、とてつもない魅力や能力、熱意を持っている。その個性を尊重し、活かすことができれば、組織も世の中も、もっと良くなるのではないか。ボランティアの経験を通じて、そう考えるようになりました。
この経験の後、あらためて会社を見てみると、「2:6:2の法則」における下位の2割の評価を受けている人たちがいました。なぜそうなってしまったのか。誰もが素晴らしい能力や熱意を持っているはず。その力を発揮できれば、組織はもっと素晴らしく豊かなものになるのではないか。そう考えて、私は「2:6:2の法則」の打破、すなわち「人類総活躍の実現」を自らの生きざまにしようと決意しました。

「2:6:2の法則」というと、「上位2割が優秀」「中位6割をいかに上位へ引き上げるか」といった文脈で語られがちです。
私はその考え方自体が嫌でした。「上位2割の価値観が素晴らしい」という前提に立っていて、その基準に合わない人はダメだと言っているのと同じだからです。そうではなく、一人ひとりには違った能力や利点があります。違った価値観で測れば、誰が優秀かなんて変わってくるはず。全員が活躍できると私は信じています。この信念のもと、マネジメントに取り組む中で、モチベーションの高い組織づくりが得意となり、社内調査でトップクラスの評価をいただいたり、メディアに取り上げられたりもしました。
しかし、預かる組織が大きくなるにつれ、メンバーの隅々にまで「ハートに火をつけられている」という実感が持てなくなってきました。その原因を探るため、メンバーの声を聞き、多くの書籍を読みあさる中で浮かび上がってきたのは、先ほど述べた「(悪い)同調圧力」と「8つの課題」でした。理想は「人類総活躍」なのに、現実は「やっちゃだめ」の空気がメンバーの主体性を奪っていたのです。このギャップを埋めるために、「やっちゃだめ」の同調圧力を生み出す構造そのものを逆手に取り、「やっていい」の同調圧力を作ればいいのではないかと考えるようになりました。
組織の閉塞感を破る鍵は「信頼」。メンバーの力を100%引き出す「ラポール・リーダーシップ」とは
「やっていい」という「よい同調圧力」を醸成しようとしても、多くの組織では「8つの課題」に代表されるような抵抗があるかと思います。その閉塞感を破る障壁となっているのは、具体的に何だとお考えですか。
「よい同調圧力」を醸成しようとしても、それを阻む「3つの壁」が存在します。1つ目は、会社の方針が二転三転することで生まれる「組織への不信感」。リーダーが「これをやろう」と言っても、メンバーは「どうせまた変わるだろう」と冷めています。2つ目は「性悪説に基づくマネジメント」。従来の階層型組織では、上司は部下を「失敗する存在」「できない前提」で管理しがちです。信頼されていないメンバーは、当然ながらリーダーを信頼しません。3つ目は「組織が仮面をつける場所になっていること」。書籍『ティール組織』でも述べられていますが、多くの人は組織の中で自分をさらけ出さず、鎧(よろい)をまとって仕事をしています。安心できないからです。
これら3つの壁に共通するキーワードは、「信頼の欠如」です。メンバーとの間に信頼関係が築けていない。この根本的な問題を克服し、信頼関係をベースにメンバーの力を100%引き出すための手法が、私が提唱する「ラポール・リーダーシップ」です。
ラポールとは、心理学用語で「信頼関係」を意味します。多くのリーダーや人事担当の皆さんも、「信頼」という言葉の重要性を日々感じていらっしゃることでしょう。真の信頼関係を築き、「やっていい」という「よい同調圧力」を広げていくことが重要です。
「ラポール・リーダーシップ」を実践し、信頼関係を築いていくため、リーダーは何から始めればいいのでしょうか。
「ラポール・リーダーシップ」は、以下の4つのステップで実践していきます。この「順番」が非常に重要です。
- 自分を変える:リーダー自身が変わる
- チームを変える:チームの雰囲気を変える
- 仕組みを変える:「やっていい」を加速する仕組みを導入する
- 組織・文化を変える:「やっていい」を組織文化として定着させる
まず、リーダーが最初に取り組むべきことは、「自分を変える」ことです。リーダー自身も「やっちゃだめ」の同調圧力や「8つの課題」にどっぷりと浸かってしまっているからです。具体的には、自分を「やっていい」に導くため、また、メンバーとの間に真のラポールを築くために、自分自身を支える「お守りワード」を作ります。それをスローガンとしてメンバーに伝えます。
ここで絶対に守るべき注意点は、「自分で真剣に考え、自分自身の言葉で話す」ことです。メンバーは、皆さんが思っている以上にリーダーのことを信用していません。「どうせまた言うことが変わるだろう」「何かあったらメンバーのせいにするだろう」などと考えています。そうした経験を繰り返してきているからです。借り物の言葉やどこかで聞いたようなスローガンでは、メンバーの心に響きません。「この人は真剣に実現しようとしている」と感じてもらうには、自分自身の哲学に基づいた、揺るぎない言葉が必要です。
私のお守りワードの一つは、先ほど申し上げた「2:6:2の法則の打破」です。そしてもう一つは、「ビジョンを感じ取る・パーパスを自覚する・ミッションを実行する」。メンバー一人ひとりが自らの力でビジョンを感じ取り、自分のパーパスをきちんと自覚し、その結果導かれた自分のミッションを確実に実行できている状態です。
自分を変えることができたら、次はチームを変えていきます。お守りワードを浸透させ、「やっていい」という雰囲気に導いていくのです。ポイントは、「しつこく、繰り返し、同じ言葉で」伝え続けること。リーダーは「同じことを言っていると、ボキャブラリーが少ないと思われるのではないか」と不安になり、つい表現を変えたり、いろいろな話をしたりしがちです。しかし、「また同じことを言っているな」とあきれられるくらいでいい。同じ言葉を繰り返し言い続けることで、リーダーの本気度が伝わり、チームに浸透していきます。
伝えていくためには、メール、社内SNS、会議でのメッセージ、タウンホールミーティングなど、あらゆる媒体を駆使します。特に重要なのは、一人ひとりと直接触れ合う「ダイレクトコミュニケーション」。それも場当たり的に行うのではなく、しっかりとした「シナリオ(ストーリー)」を持って臨むべきです。
私の場合、社長就任1年目は、社員との間に信頼関係がない前提に立って、「互いに知り合う」こと、「私自身のメッセージ(お守りワード)を発信する」ことに注力しました。2年目は、1年目に発信したメッセージがどれだけ浸透しているかを確認し、同時に1年目に聞いた現場の要望に対して「このように変えた」という「フィードバック」を徹底しました。聞いたままにしないことが信頼につながります。
そして3年目は、お守りワードである「ビジョンを感じ取る・パーパスを自覚する・ミッションを実行する」の実践を促すため、全社員に「マイパーパス」を作成してもらい、提出してもらいました。私は、約400名の全員が提出したマイパーパスを読み、一人ひとりのプロファイルブックに感想や励ましのコメントを書き込んで、チャットで「メッセージを入れたよ」と個別に連絡しました。
浸透には時間がかかります。4年間言い続けて、ようやく「知らない人はいない」というレベルになりましたが、アルバイトの方まで含めるとまだ届いていない人もいるでしょう。それくらい、組織にメッセージを浸透させるのは難しいことなのです。

ボトムアップを加速させた2つの施策
「自分を変える」「チームを変える」と進み、次は「仕組みを変える」ですね。「やっていい」の雰囲気を加速させる仕組み化についてお聞かせください。
チームの雰囲気が「やっていい」に変わり始めたら、それを加速するために「仕組み化」を行います。当社での具体的な成果事例を2つご紹介しましょう。
1つ目は「パブリックコメント制度」です。タウンホールミーティングで分かったのは、社員にとって「人事給与制度」が最大の関心事であるという事実でした。人事制度や給与制度は、経営陣の指示のもと本社部門が検討し、トップダウンで現場に下ろされるのが一般的ですが、「それなら、社員が自分たちで作ればいいじゃないか」と考えたのです。
そこで、行政のパブリックコメント制度を参考に、当社版のパブリックコメント制度を立ち上げました。全員参加・自由参加型の「意見交換会」という形で実施。全国に拠点があり、24時間365日稼働しているコンタクトセンターの業務特性上、全員が一度に集まることはできないので、オンライン開催を原則としました。1テーマ50分程度のコマを複数設定し、1〜2週間の期間を設けて年2〜3回実施。あえてコマを多く設けることで、シフト勤務の社員も分散して参加できるようにしました。
それでも参加できない人のために、チャットやアンケートフォームでも意見を集約し、あくまでも「全員参加」を目指しました。集約された意見は統計的に処理し、「こういう意見が何割あった」という形でオープンに共有。一つひとつの意見に答えるのは大変ですが、こうすることで全体の傾向が見えやすくなります。この仕組みの結果、社員約400名に対し、延べ参加人数は毎回200〜300名に達しました。アンケート参加も含めると、ほぼ「全員参加」です。
具体的な成果として、2024年7月に役割等級制度や各種手当の見直しを含む、大幅な人事給与制度改定を実施しました。「自分たちの制度を自分たちで実現した」という実感が、組織全体のモチベーション向上に大きく寄与したと感じています。
面白いことに、先日、当事者たちにヒアリングしたところ、「自分たちが(ゼロから)作った」と語っていました。私が「パブリックコメント制度をやったらどうか」とヒントを出したことを、すっかり忘れているのです。私はそれを聞いて大変うれしく思いました。リーダーがきっかけを作ったとしても、メンバーが「自分たちがやった」と実感できること。それこそが主体性であり、ボトムアップの証だからです。
まさに「やっていい」という「よい同調圧力」の成果ですね。もう一つの事例もお聞かせいただけますか。
次の事例は「未来開発PT(プロジェクトチーム)」です。当社はグループの機能会社という位置づけで、経営陣や管理職の多くは親会社からの出向者が占めていました。そのため現場を支える大半のプロパー社員からすると、モチベーション向上に限界がありました。そうした状態を改善しようと、私が社長に就任する前から立ち上がっていたのが「未来開発PT」です。会社の将来のありたい姿をプロパー社員が中心となって描く、という素晴らしい取り組みでした。
しかし、構想が壮大すぎて実現可能性が低く感じられたこと、メンバー選抜方式だったため一部の優秀な人たちの活動に留まってしまっていることに、懸念を抱きました。これでは、他の多くの社員にとって「他人事」になってしまいます。そこで私は、このPTのミーティングの場で、「やっていい」をつくる8つの心構えを発信し続けました。
「やっていい」をつくる8つの心構え
- 「恐れの文化」から「赦し(ゆるし)の文化」に
- 「クローズ」をなくし「オープン」に
- 「本社」ではなく「現場」が主役
- 「トップダウン」から「ボトムアップ」へ
- 「PDCA(計画)」から「OODA(実験)」へ
- 「管理」をやめ「自発」を促す
- 「KPI」から「P/L(KGI)」に立ち戻る
- 「評価」をやめ「評判」をとらえる
※「OODA(ウーダ)」とは、見通しの立たない状況において目標達成をするための意思決定方法。「観察(Observe)」「仮説構築(Orient)」「意思決定(Decide)」「実行(Act)」の頭文字を取ったもので、想定外の状況や先の読めない環境において、特に力を発揮します。業務改善のフレームワーク「PDCAサイクル」に代わる手法として、近年注目されています。
特に、「トップダウン」から「ボトムアップ」へ、「クローズ」をなくし「オープン」に、「PDCA(計画)」から「OODA(実験)」へ、という3点を繰り返し伝えました。
その結果、PTは徐々に変化しました。3期目に入る頃には、それまでの「メンバー固定・クローズ型」だった運営から、臨機応変に現場のメンバーを巻き込む「メンバー非限定・オープン型」のハッカソン的な要素が高まっていったのです。
小さなチャレンジを歓迎する雰囲気にしたことで、具体的なアウトプットも出始めました。その活動の集大成とも言えるのが、当社の「MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)」の策定です。
「自分たちの手でMVVを作りたい」という声が上がり、徹底的にボトムアップでやろうと決めました。PTメンバー以外も自由参加できるオンライン合宿を2日間にわたって実施。プロパー社員が中心となり喧々諤々(けんけんがくがく)の議論を交わして、MVVのベースを作りました。その後、それを「パブリックコメント」にかけて全員参加で磨き上げ、完成させました。さらに、「ビジョンマップ作成チーム」「MVV浸透策チーム」といった新たな有志チームが次々と立ち上がり、動画やパンフレットを作って全社に浸透させてくれたのです。この一連のムーブメントは、まさに「8つの課題」を克服するプロセスそのものでした。
現在は、MVV浸透の流れに伴って、メンバー一人ひとりがMYパーパスの実践にチャレンジしたり、一度作成したMYパーパスを見直したりする動きにつながっています。この勢いのまま、私が唱える「ビジョンを感じ取る・パーパスを自覚する・ミッションを実行する」「2:6:2の法則の打破」につながるような大きなムーブメントとして広がっていくことを期待しています。それこそが、最後のステップである「組織・文化を変える」であり、先ほど挙げた「8つの課題」を克服し、「よい同調圧力」を定着させていくプロセスの集大成でもあります。
現場リーダーからでも組織は変革できる
素晴らしいお話をありがとうございました。最後に、変革を目指すリーダーの方々に向けてメッセージをお願いします。
すべてのリーダーの皆さんにお伝えしたいことがあります。繰り返しになりますが、私は、メンバー一人ひとりが持つ能力は本当に素晴らしいと信じています。一方で、その能力を活かせていない組織があまりにも多いと思います。これは非常にもったいないことです。
「自分はトップではないから、会社全体は変えられない」と思われる現場のリーダーの方は多いかもしれません。しかし、変革は現場からでも起こせます。ぜひ、ラポール・リーダーシップを発揮してください。
ラポール・リーダーシップを実践する上で、大切なポイントが一つあります。それは、「仲間や同志を作ること」です。最初は、自分のチームのメンバーだけかもしれません。しかし、よく見渡すと、部署が違っても「この人とは分かり合えそうだ」「強い思いを持っている」という人が必ずいるはずです。そうした仲間や同志を引き寄せ、小さな「やっていい」の輪を広げていく。その輪が大きくなれば、やがて組織全体の文化を変える力になります。ぜひ、皆さんの組織でも「よい同調圧力」を生み出すチャレンジを始めてみてください。

(取材:2025年11月4日)
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