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ダリオ流「ダイバーシティ」を実現する
コミュニケーションの方法

オペラ演出家、マルチ・アーティスト

ダリオ・ポニッスィさん

ダリオ流「オペラ演出」と「チームマネジメント」

ところで、オペラの演出というのは、いろいろな立場の人をまとめ上げていく仕事。チームマネジメントという側面から、どのようなことを意識され、演出を心がけているのでしょうか。

第一に、作品に対する研究です。作曲家や作詞家が何を訴えたかったのか。そのことを徹底的に追及します。スコアを分析して、関連する資料などを調べ上げます。その上で、この作品で自分は何を伝えたいのかを考え、コンセプトを固めます。それができないと、演出家として自信が持てません。稽古が始まったら皆にそれを分かるように説明していきます。ただ、稽古をしていく中で当然のことながら、新しい発見が出てきます。それに対して柔軟に対応できるよう、事前にいろいろなプランをしっかり用意しておくことも大切です。

相手はその道のプロ。前に伝えたことを変えるわけですから、その理由を論理的、かつ説得力のある形で説明しなくてはいけません。

もちろん、いつも納得してもらえるわけではありません。その時は、相手に「どんな感じでやりたいのですか?」と聞くようにしています。「じゃあ、それでやってみましょう」となるわけですが、うまくいくとは限りません。結果、最初のプランに戻るわけですが、言うことは言ったので、今度は本人が納得しています。私のプランを信じてやってくれる。頭から自分のやり方を押し付けるのではなく、相手の考えも十二分に受け入れながら一緒に作品を作っていく姿勢が重要だと考えています。

演出家は、相当プレッシャーがかかる仕事ですね。

ダリオ・ポニッスィさん Photo

オペラは成功するときは歌手が褒め称えられ、失敗したときは演出家のせいになると言われます。それだけ、責任が重い仕事です。逆説的ですが、演出家が一方的に命令するのではなく、皆と一緒に作っていくことが大切ではないでしょうか。だから私は、「なぜ、そういう風なやり方をしようと思ったのですか」といった質問をよくします。そして、試行錯誤を繰り返し、作品をより良くしていくための軌道修正をしていきます。このようなやり方で皆のモチベーションを高めていくことにより、チームとしてのまとまりが出てきます。ですから、歌手を怒鳴ったり、辱めたりするようなことは絶対にしません。

演出家にはある部分、コーディネーターのような役割が求められるわけですね。

要は、皆がいい気持ちで仕事ができる環境を作ること。そうすると、人間は安心して、ハッピーな気持ちになります。それこそ「悲劇」をやっていても、稽古場では笑い声が絶えません。その中から、自由な発想やアイデアも出てきます。

北風ではなく、太陽でないと人の気持ちは動かせないと。まさに「ダリオワールド」と呼ばれる所以ですね。一方で、オープニングに向けて用意周到に準備する点にも感心しました。

彼らがどう演ずるかについて、私なりにいろいろなアイデアを用意しなければなりません。稽古が終わった後でも、朝5時頃まで調べ事をしていますよ。彼らの質問や疑問に対して、ちゃんと答えることができなければ、信頼関係を築くことができませんから。でも、中には「そんなこと、自分で調べろ」という演出家も少なくありません。

そういうタイプは会社組織でも結構いますよ。すると、若い人たちは不安の中で仕事をすることになる。その挙句、「不機嫌な職場」が当たり前になってしまいました。

分からないときには、「こんな感じかな」とそのヒントや方向性を示してやらなければ、前に進めません。また、協働作業的なやり方をしているためか、皆にオペラをどう作り上げていくか、どう演じていくかの“研究癖”“勉強癖”がついてきました。全員でアイデアや考えを出し合うことが当然になってきたのです。このようなコラボレーションが、チームにおけるコミュニケーションの本質だと思っています。いろいろな立場の人がいるからこそ、こうしたアプローチを採用することができるわけです。

一方で、「演出家はミステリアスな存在である。皆より偉いんだ」といった雰囲気を醸し出す方もいて、そういう人が評価されたりしますが。

私が良いと思う演出家は、そういうタイプではありませんね。一緒に食事をしながら意見交換をするなど、とにかくまめにコミュニケーションをとります。相手の話を聞きながら、様子を見ながら、気持ちを察していく。その中から、打つべき手立てを考えていく。演出家に必要なのはこうしたイマジネーションなのです。それがあるからこそ、フレキシブルな対応ができる。演出家だから偉いのではありません。より良い演出家になろうと努力すること、それが大事なのです。

目の前にいるパートナーとしっかり向き合うことが、ダイバーシティ実現の第一歩

ところで、パートナーとしての大内弘子さんは、舞台美術や演出助手、さらにはプロデュースなども手掛けていますね。

彼女とは、良いオペラ作品を作り上げていくために、いつも議論をしますよ。何よりもパートナーとして向き合うことが大事だと思うからです。時には、熱くなることもあります。でも衝突を恐れ、対話することを止めてしまったら、それは諦めや、どうでもいいという気持ちにつながります。つまり、愛がなくなるということです。そんなことは人間関係において、あってはなりません。

人生のパートナーだけではなく、仕事のパートナーでも同じではないでしょうか。決して諦めないことです。まずは目の前の人に対して、ちゃんと向き合うこと。話を聞き、違いを知り、それを認めることです。そこから何とか接点を見いだそうと努力するプロセスが、まさに問われるわけです。置かれた立場や価値観が違っても、諦めずにいま目の前にいる人との関係性を意識し、考え、とにかく行動に移してみること。そこから、必ず道が開けてきます。これが、ダイバーシティという観点からもとても重要だと思います。

まずは、相手に対して「壁」を作らないこと。関わりを持とうと思うこと。ここからスタートですね。最後に、日本のビジネスパーソンに対するアドバイスをお願いします。

パチンコなど一人でやる遊びではなく、皆で楽しめる遊びをもっとしたらどうでしょう。その点で、カラオケはいいかもしれません。飲んで歌って、コミュニケーションをとるには良い方法です。

それから、「人生経験」を積むことです。旅もいいし、失恋でもいい。いろいろな経験をすることで、心のヒダがたくさんできて、人の気持ちに対する理解と共感が深まり、人に優しくなれます。最近は、こうした経験が少ないのか、打たれ弱い人が増えてきたのが気になります。

ダイバーシティという点から言うと、日本社会では男性同士、女性同士のグループで行動するケースが多いように思います。イタリアではちょっと考えられません(笑)。飲み会でも何でもいいから、もっと意識して男女が交流したほうがいい。そうすれば、女性のボスに対するコンプレックスもなくなるでしょう。

また、自分と異なる年代や価値観、国籍の人などと、まずはちょっと話をしてみることをお勧めします。そうした身近なところからダイバーシティを始めてみてはどうでしょうか。そもそも、日本人はイタリア人と同じようなラテン的な気質が備わっています。下町の人たちを見ると、本当にそう思います。少しだけでもいい、コミュニケーションスタイルの輪を広げてみることが、ダイバーシティを実現する第一歩なのです。

なるほど、よく分かりました。オペラ演出の世界から、ダイバーシティ・マネジメント実現に向けてのヒントを知ることができたように思います。本日は、お忙しい中、ありがとうございました。

ダリオ・ポニッスィさん 大内弘子さん Photo

取材は2009年9月11日、東京・吉祥寺「スーペル・バッコ」にて。隣は、パートナーでプロデューサーでもある大内弘子さん
(取材・構成=福田敦之、写真=東幹子)

企画・編集:『日本の人事部』編集部

Webサイト『日本の人事部』の「インタビューコラム」「人事辞典「HRペディア」」「調査レポート」などの記事の企画・編集を手がけるほか、「HRカンファレンス」「HRアカデミー」「HRコンソーシアム」などの講演の企画を担当し、HRのオピニオンリーダーとのネットワークを構築している。

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マクレランドの欲求理論
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