カギは「トップと現場の共創」と「仕掛けづくり」にあり
クリエイティビティが高まるオフィス空間づくりとは
時間の使い方を変えるだけでもクリエイティビティは生まれる
今すぐにABWを導入するのは難しいという場合、他にクリエイティビティを高める働き方としてどのような方法が考えられますか。
先ほど紹介した「KEYS」の8要素には「十分なリソース」も挙げられていて、クリエイティビティにおいては資源が潤沢であることが望ましいと言えます。資源には資金や人材だけでなく、“時間”も含まれます。特に、まとまった時間を設けることがクリエイティビティを高めるのに有用ではないかと考えています。
例えば、コンセプトワークの手法にホンダの「ワイガヤ」がありますが、2~3日の合宿で行うのが基本です。議論の間は対立が起こったり哲学や倫理にまで話題が飛躍したりすることもありますが、何度も蛇行しながら徹底的に議論した結果、納得のいくコンセプトが生まれるといいます。こうしたブレイクスルーは、他の業務と並行し細切れで進めるやり方では起こらないのではないでしょうか。
時間という資源を、集中的に投下させるのですね。
時間のメリハリをつけて、プロトタイプの段階まで一気に引き上げてしまう。やはりエネルギーが一番必要なのは、立ち上げですから。ここまでできれば、後は少しずつ積み上げていけます。ハッカソンなども同じ理由で、まとまった時間で行うことに意味があります。
また、最近注目の集まるサバティカルも、よくできた制度だと感じています。例えば、東京大学の教員は7年に1度、1年間の休暇が認められていて、自身の研究に専念したり、留学やフィールドワークの時間に充てたりすることができます。
ある程度長く勤めていると、教員であっても学内のプロジェクトなど、研究以外のさまざまな業務が増えてきます。それらをいったんリセットできる点で、高いリフレッシュ効果が期待できます。コストや人の配置にも関係してくるので導入には整備が必要ですが、有効な手法だと思います。
働く場の在り方が変わると、マネジメントの仕方も変わる必要がありそうです。
そうですね。働く場所が自由になると、マネジャーはメンバーの一挙手一投足を追うことができません。プロセスを評価することが難しくなるわけです。それを踏まえると、成果主義的な評価を導入せざるを得ないのではないかと感じます。とはいえ、大きな社会論争となった単純に結果だけで評価する2000年代初頭のやり方ではなく、今の時代に合った評価手法があるはずです。
例えば、柔軟な働き方を取り入れていることで有名なサイボウズですが、元は成果主義志向が強いベンチャー企業でした。しかし、28%という離職率を問題と捉え、評価の仕方や勤務形態の見直しを実施。2018年には従業員一人ひとりが働き方を自由に設計できる制度を導入して話題となりましたが、その評価の仕方は成果主義に近いように感じます。時間をかけて、多様な働き方を受け入れる風土をつくりあげた結果が、今の制度につながっているのです。
昨今、働き方改革が盛り上がっていますが、1~2年で完成するものではなく、10年くらいのスパンで考えていく必要があります。オフィス移転やリノベーションは、きっかけでしかありません。ただ、インパクトの大きなイベントであることは確かなので、うまくテコにして組織変革につなげていってほしいですね。
また、近年はリモートワークが特別なものではなくなりましたから、オフィスという“場”の価値を考え直す時期に差しかかっているとも言えます。先日、働き方の多様性が進む北欧の企業を視察してきたのですが、「リモートで働く従業員をどう呼び戻すか」が大きなテーマになっていました。リモートワークが定着して出社する人が減ったことで、企業としての一体感が希薄になり、チームとしてスムーズな運営ができなくなっているのです。
そこで“出社したくなるオフィス”をつくろうと、企業がオフィスに投資。見学した企業のオフィスはカフェスペースが大変立派で、とても驚きました。日本では現在、リモートワークを含めた働き方の多様化への取り組みが進んでいますが、あと10年ほどしたら、同じようにオフィス回帰の動きが見られるかもしれませんね。
さまざまなジャンルのオピニオンリーダーが続々登場。それぞれの観点から、人事・人材開発に関する最新の知見をお話しいただきます。