「毎日出社」よりも「テレワークとの組み合わせ」のほうがワーク・エンゲイジメントやパフォーマンス実感が高い
会社員2万人のウェルビーイング・エンゲージメント調査結果
三菱UFJリサーチ&コンサルティング コンサルティング事業本部
組織人事ビジネスユニット HR第1部 コンサルタント
石綱 あいみ氏

人的資本経営の推進において、昨今、ウェルビーイングやワーク・エンゲイジメントといった指標に注目が集まっています。これらの指標と他のさまざまな要素との関係を探るため、三菱UFJリサーチ&コンサルティングでは日本国内の企業に在籍する会社員約2万人を対象にアンケート調査(以下、会社員2万人調査)を実施しました(2024年2月実施)1。
本稿では、出社頻度とワーク・エンゲイジメント、および業務におけるパフォーマンス実感(以下、パフォーマンス実感)の関係を取り上げ、職場における働き方を検討する際に考慮しておきたいポイントをお伝えします。
出社頻度の現状
新型コロナウイルスの流行を機に、日本ではテレワークが急速に普及しました。しかし、コロナ禍の収束に伴い、対面でのコミュニケーションや社員のつながりを重視し、テレワークを廃止・縮小するなど、出社回帰の動きもみられます。
会社員2万人調査では、会社員の約77%が「ほぼ毎日出社している」(以下、「毎日出社」)、約16%が「週に1~4回出社している」(以下、「週に1~4回出社」)、残りの約7%が「月に1回以上、週に1回未満出社している」(以下、「月に1回以上、週に1回未満出社」)、または「ほとんど・まったく出社していない」と回答しました。
出社頻度別 ワーク・エンゲイジメント
最近の出社回帰の傾向を踏まえると、「毎日出社」の働き方は今後さらに増えていくと予想されます。では、「毎日出社」の働き方をする会社員は、他の働き方をしている会社員に比べてワーク・エンゲイジメントやパフォーマンス実感は高いのでしょうか。
この点を検証するために、まず、ワーク・エンゲイジメントスコアを出社頻度別に集計し、対応のないt検定を行いました。t検定とは、調査で得られた標本における属性ごとの平均値について、統計的に「差があるか」を確かめる分析手法です。
調査結果に対し対応のないt検定を行った結果、会社員全体では、「週に1~4回出社」のほうが「毎日出社」に比べてワーク・エンゲイジメントが有意に高い結果となりました2。なお、「毎日出社」には、今回の調査で他職種に比べてワーク・エンゲイジメントが低かった現業職が多く含まれていたため、現業職を除いて対応のないt検定を実施しても、傾向は変わりませんでした。よって、出社頻度による職種の偏りの影響を除いても、出社頻度によってワーク・エンゲイジメントに有意な差があると明らかになりました。
一方でまた、年代によって、出社頻度とワーク・エンゲイジメントの関係には違いがある点も分かりました。
年代別にみると、20~30代では「週に1~4回出社」および「月に1回以上、週に1回未満出社」のいずれも、「毎日出社」に比べてワーク・エンゲイジメントが有意に高い傾向がみられました。一方で、40~50代は、「毎日出社」に比べ「週に1~4回出社」のみが有意に高く、60代以上は、「毎日出社」、「週に1~4回出社」、「月に1回以上、週に1回未満出社」の間に有意な差はありませんでした2。
出社頻度別 パフォーマンス実感
次に、出社頻度によるパフォーマンス実感の違いを確認するため、パフォーマンス実感のスコアを出社頻度別に集計し、対応のないt検定を行いました。パフォーマンス実感は、Griffinら(2007)のパフォーマンス尺度(和訳あり3)に基づく設問により計測しており、熟達行動・適応行動・プロアクティブ行動がどの程度取れているか、その実感がスコアに反映されます。
t検定の結果、会社員全体では、「毎日出社」に比べ、「週に1~4回出社」および「月に1回以上、週に1回未満出社」のほうがパフォーマンス実感は有意に高いことが分かりました2。なお、ワーク・エンゲイジメントと同様に現業職を除いてt検定を実施しても、同様の結果が得られました。
年代別にみると、40~50代のみ、「月に1回以上、週に1回未満出社」が「毎日出社」と有意な差がありませんでした。
おわりに:実践に向けた示唆
以上の分析結果から、「毎日出社」の働き方をする会社員は、他の働き方をしている会社員に比べて、必ずしもワーク・エンゲイジメントやパフォーマンス実感が高いわけではないと分かりました。企業が今後、出社頻度の向上を検討する際は、社員のワーク・エンゲイジメントやパフォーマンスを高める観点からは、テレワークを完全廃止して「毎日出社」に統一するのではなく、テレワークを組み合わせた柔軟な働き方が可能な仕組みの構築が有効と考えられます。
また、出社頻度別のワーク・エンゲイジメントやパフォーマンス実感の傾向は、年代によって異なると明らかになりました。背景には、年代によって担う業務の性質、デジタルツールの習熟度、子育てや介護などの家庭環境の違いなど、さまざまな要因が考えられます。出社頻度がワーク・エンゲイジメントやパフォーマンス実感に与える影響は、会社員全体を一律に捉えることはできません。今後の働き方の検討にあたっては、これらの傾向を念頭に置き、幅広い社員の声を取り入れながら検討していくことも重要でしょう。
1 アンケートの対象・方法・期間などの概要はhttps://www.murc.jp/library/report/cr_240521/を参照ください
2 本稿では有意水準を5%とし、有意性を判断しています
3 太田さつき・竹内倫和・高石光一・岡村一成「プロアクティブ行動測定尺度の日本における有効性:Griffin, Neal & Parker(2007)のフレームワークを用いた検討」『産業・組織心理学研究』29(2),59-71(2016)
三菱UFJリサーチ&コンサルティングは、三菱UFJフィナンシャル・グループのシンクタンク・コンサルティングファームです。HR領域では日系ファーム最大級の陣容を擁し、大企業から中堅中小企業まで幅広いお客さまの改革をご支援しています。調査研究・政策提言ではダイバーシティやWLB推進などの分野で豊富な研究実績を有しています。未来志向の発信を行い、企業・社会の持続的成長を牽引します。
https://www.murc.jp/

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