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縮小する雇用状況下での新たな外国人労働者の受入れ
諸外国の事例を通して考える「特定技能」のこれから

三菱UFJリサーチ&コンサルティング 経済政策部 [東京] 副主任研究員 加藤 真氏

縮小する雇用状況下での新たな外国人労働者の受入れ

本稿は、雇用環境が悪化するなかで、国内労働者(※ 1)の雇用機会や雇用条件を守りながら、いかに新たな外国人労働者(特に低~中熟練)を受け入れていくか、その受入れ方法についてヒントを得るため、東アジアを中心とする諸外国の制度を参照しつつ、日本への導入可能性を検討した(執筆:2020年10月)。

【要旨】

■雇用状況の変化について
  • 新型コロナウイルスの影響に伴い、雇用主・企業側も労働者側も雇用状況や景気認識は大きく悪化している。
  • 特に、外出自粛・営業自粛による飲食・宿泊サービス分野への影響や、在宅勤務推奨によるビルクリーニング分野などへの影響は甚大であるが、当該分野は、特定技能外国人の受入れ対象分野でもある。
  • コロナ禍の収束がみえず、雇用状況の改善もすぐには期待できない今般の状況は、国内の雇用を守ることを優先しつつ、どのように新たな外国人労働者を受け入れていくか、その制度や方法を検討する好機だといえる。
■外国人労働者受入れ調整のための諸外国の制度と日本への導入可能性の検討
  • 日本の技能実習・特定技能制度は、「労働市場の影響を判定する制度を持っていないのが現状」と評されることを受け、主に韓国・台湾で行われている三つの制度・実態を整理した上で、日本への導入可能性を検討した。
  • (1)労働市場テストは、特定技能の基本方針でうたう「国内人材確保のための取組を行った上で、なお、人材の 確保が困難な状況に限って受け入れる」ということを具現化する制度であり、導入に向けて検討の価値はあるが、韓国の事例からは、最低賃金程度での求人では国内労働者からの求職行動はあまり期待できず、制度が形骸化する懸念も示されており、厳格な制度運営が求められる。
  • (2)受入れ人数・規模の設定に関わり、景気動向などをみながら毎年検討し、さらに随時雇用状況をみながら「+α」としてバッファをもたせる韓国の制度運用は、「2019 年から 2023 年まで 5 年間で計 34.5 万人の受入れ」として、景気動向への柔軟な対応が限定的な特定技能制度にも参考になる点だと思われる。また、台湾のように「警戒指標」として、政府はどの指標群をモニタリングし、政策判断に用いるのかを明示することが重要である。
  • (3)雇用負担金は、国内労働者と外国人労働者の間にある賃金差を埋め、国内労働者の雇用機会の削減や雇用条件の低下を防ぐことを目的とする制度であるが、厚生労働省「賃金構造基本統計調査」にて2020 年 3 月末に初めて公表されたデータに基づけば、国内労働者(受入れ国側の国籍を有する労働者)と外国人労働者間の賃金差の存在が明らかになっており、雇用負担金導入の根拠となる状況はすでに日本にもあるといえる。

1.統計からみる雇用状況の変化

1)全体的な雇用状況の悪化

新型コロナウイルス感染症拡大に伴い、経済が悪化し、国内雇用が縮小している。その一方、政府は昨年4月から人手不足対応を目的として、特定技能という在留資格を新設し、外国人労働者の受入れを進めている。今後の新たな外国人労働者の受入れのあり方を検討にするあたり、その議論の前提として、はじめに本節では、足下の雇用状況について政府統計や民間調査会社の調査結果をもとに整理する。

2020年 8月17日、政府は2020年4月から6月期の実質国内総生産(GDP)が戦後最大のマイナス成長となることを発表した。コロナ禍前からの景気後退に拍車がかかる形で、経済が落ち込み、それに伴い国内の雇用状況も悪化している。

図表1には、国内雇用状況に関連する政府統計について、2020年10月5日時点で得られる最新値である2020年8月時点と過去5年間の同月比を整理している。コロナ禍前の過去5年間にわたり、失業率の低下・有効求人倍率の上昇が続き、人手不足状態にあったが、直近の2019年8月と2020年8月を比べると、非正規雇用者数が減少し(多くは雇用機会を失ったと推測される)、失業率・完全失業者・休業者はいずれも増加している。図表中にはないが、2020年9月23日時点でコロナ禍に伴う解雇・雇い止めは 6万人を超えたことが厚生労働省から発表され、失業者の増加が続いている実態がある。

図表 1 国内の雇用環境に関する政府統計の変化
国内の雇用環境に関する政府統計の変化

(出所)厚生労働省「一般職業紹介状況」(有効求人数、有効求人倍率)、総務省「労働力調査」(左記以外)をもとに筆者作成
(注)失業率、完全失業者数、有効求人数、有効求人倍率は季節調整値。有効求人倍率は、パート含む一般が対象。休業者数は、月末1週間の就業日数が0日の就業者数。

民間調査会社などによる各種調査でも、同様の結果が得られている。はじめに、企業・雇用主側の状況をみると、例えば帝国データバンク(2020b)が定期的に実施している雇用の過不足状況調査によれば、企業が感じる人手不足感はコロナ禍前に比べて大幅に減少した。同じ帝国データバンクの別の調査結果(2020a)によれば、2019 年度に「人手不足倒産」が 6年連続で最多を更新したことを踏まえると、状況が大きく変化したことがわかる。リクルートワークス研究所(2020)がまとめる2021年3月卒の新卒学生の求人倍率も、一昨年 1.83倍、昨年1.72倍であったところ、今年は1.53倍まで低下した。実際、航空業界や旅行業界などで、来年の新卒採用を見送る企業も出てきている。

悪化しているのは、企業・雇用主側の認識だけではない。連合総研がまとめる「勤労者短観」(2020年6月期)に基づくと、労働者側の景気認識は2011年以降最も低い水準まで落ちており、失業不安を感じている人が約4割に達している。

2)特に飲食・宿泊関連へ大きな影響

ただし、全業種・職種に満遍なく影響が及んでいるわけではない。業種別では、外出自粛・営業自粛の影響から、とりわけ飲食・宿泊サービス業や観光業への影響が大きい。前掲図表 1にも掲載の通り、「労働力調査」による平均月間就業時間をみると、全体に比べて、特に宿泊業や飲食店での減少幅が大きくなっている。こうした結果、2020年10月2日までに全国で555件発生した「コロナ関連破たん」のうち、飲食業が87件で最多、宿泊業も50 件と突出している(東京 商工リサーチ 2020)。さらに、諸外国との比較として、OECDがまとめるTourism Statisticsをみてみると、2018 年時点で、日本では、観光業が国内全体の GDPに直接寄与する割合は 2.0%程度(OECD平均の半分)だが、雇用全体に占める観光関連雇用者の割合は約10%(OECD平均は 6.9%)を占めており、今回のコロナ禍による不況のあおりを大きく受けているといえる。

3)雇用縮小業種と特定技能受入れ分野の関係

このように、国内労働者の雇用状況が悪化しているなか、新たな外国人労働者の受入れにあたっては、国内労働市場の実態を見極めた慎重な対応が求められる。

今般、特に影響を受けている飲食・宿泊サービス業では、新たな在留資格である特定技能の枠組みで、宿泊と外食分野合わせて、2023年までに最大7.5万人の受入れを見込んでいる。他の特定技能対象分野でも、例えば、ビルクリーニング分野では、在宅勤務推奨の影響などにより、経営者の8割以上がコロナ禍による悪影響があると回答し、従業員に対して自宅待機や配置転換を命じている調査結果もあるなか(クリーンシステム科学研究所 2020)、2023年までに最大3.7万人の受入れを見込んでいる。さらに、航空分野でも、移動制限の関係から需要が大きく減少しているが、2023 年までに最大2,200人の受入れを見込んでいる。

他方、コロナ禍の収束がみえず、雇用状況の改善もすぐには期待できない今般の状況は、国内の雇用を守ることを優先しつつ、どのように新たな外国人労働者(特に低~中熟練)を受け入れていくか、その制度や方法を検討する好機だともいえる。これを受け次節では、日本の技能実習・特定技能制度における受入れ調整の制度状況を概観した上で、主に東アジア諸国を中心とする海外の制度を参照しながら、今後の日本への導入可能性を検討したい。

2. 外国人労働者受入れ調整のため制度

1)日本の制度状況

国内の雇用を守りながら、特に低~中熟練の外国人労働者を受け入れるため、諸外国の事例も踏まえると、いくつかの 制度が組み合わされて運用されている。

次の図表2は、日本(技能実習、特定技能)、韓国(雇用許可制)、台湾(外籍労工受入れ)の外国人労働者受入れの調整制度をまとめたものである。なお、韓国の雇用許可制(※2)、台湾の外籍労工の受入れはいずれも、国内の人手不足を補うことを目的に、低~中熟練の外国人労働者を受け入れている制度である。

図表2を概観すると、主に、(1)国内労働者優先のための労働市場テストの実施、(2)受入れ人数・規模の規制、(3) 雇用負担金として外国人を雇用する際に税の支払いを義務づけ、(4)外国人が就労する業種や職種の限定、(5)外国人が就労する事業所・職場の限定、(6)在留期間の限定(還流型受入れ)、(7)出身国・地域の限定の七つに分けられる。

図表2 外国人労働者の受入れ調整に関する制度 比較
外国人労働者の受入れ調整に関する制度 比較

(出所)三菱UFJリサーチ&コンサルティング(2019)、出入国在留管理庁(2020)などをもとに筆者作成
(注)上記以外に、外国人本人の年齢、学歴、職歴などをポイント化して、一定の基準をクリアした人のみ受け入れるポイントシステムもある。日本では高度外国人材向けに、受入れ制限や入国時のスクリーニングではなく積極的誘致のために運用されている。

日本の状況をみてみると、技能実習は、事業所規模に応じた人数制限や職種・実習先・在留期間の限定は行っている。だが、「技能移転による国際協力の推進」(技能実習法第1条)という目的があり、「技能実習を労働力需給の調整手段と して用いない」(同3条)と規定されているため、そもそも国内労働市場の保護という観点が希薄である(制度の建前上、希薄にならざるを得ない)。実際、2008年秋のリーマンショック後、国内労働者が集まらない農業・漁業分野では技能実習 生が増加し、依存はむしろ強まった歴史がある(明石編 2011)。また、2000年以降、高校新卒就職者の代替または補完要員として技能実習生が増加しており、都道府県によっては高校新卒就職者よりも技能実習受入れ人数が上回っているところもある(万城目 2019)。

他方、特定技能では、受入れを認めた14分野の分野別受入れ上限の設定や通算5年の在留期間などの制限を設けている。技能実習と異なり人手不足対応を制度目的としており、基本方針には「生産性向上や国内人材確保のための取組を行った上で、なお、人材の確保が困難な状況」に限って受け入れるとされている。だが、「生産性向上や国内人材確保のための取組」とは、具体的にどのような取組で、どの程度の予算をかけ、どのような成果を求めるのか不明瞭であり、さらに、どのような指標をもって「人手不足が解消された」「人手不足状態が続いている」と判断されるのかも曖昧である。このことから、日本は「労働市場の影響を判定する制度を持っていないのが現状」(早川 2020:11)とも指摘される。

そこで、現在日本では行われていない制度のうち、(1)労働市場テスト、(2)各年での業種別受入れ規模の設定、(3)雇用 負担金の三つの制度について海外事例を概観しながら、日本への導入可能性を検討したい((1)~(3)の番号は、図表2中の(1)~(3)と赤字で付した部分と連動)。

(1)労働市場テスト

1)韓国の事例

韓国、台湾ともに、低熟練の外国人労働者の受入れを行う前に、必ず事業所別の労働市場テストを行うこととなっている。労働市場テストとは、一般に、外国人労働者を募集するにあたり、事前に女性、高齢者などの国内労働者に対して一定期間求人を出し、それでも求職がない場合に限り、外国人を雇用できる制度である(※3)。

図表3 (事業所別)労働市場テストのイメージ
労働市場テストのイメージ

(出所)筆者作成

上林(2010,2015)によれば、労働市場テストとは、外国人労働者の受入れに制限をかけ、自国の労働市場への影響をできるだけ小さくする方法として諸外国(※4)でも採用されているが、日本では、技能実習、特定技能ともに行われていない。このことから、隣国の韓国の一般雇用許可制などを引き合いに出しながら、労働市場テスト導入を求める指摘はしばしば なされてきた。だが、実際の運用状況については、ほとんど言及されてきていない。

そこで、以下の図表4では、韓国の政府系研究機関が発行する現地資料をもとに、労働市場テストの結果、どれほどの韓国人労働者が採用に至ったかをまとめている。韓国では、韓国人労働者向けに原則14日間の求人が求められるが、図表をみると、韓国人労働者の採用決定率は1%前後となっている。企業規模が大きくなると、若干採用率が高まる傾向がみられるものの、大部分の中小企業・小規模事業者は韓国人の採用に至っていないことが確認できる。

図表4 労働市場テストによる韓国人採用決定率(事業所規模別、2004年-2015年7月)
労働市場テストによる韓国人採用決定率

(出所)ソルドンフン、イキュヨン他(2015)※2015 年は 7 月までの数字

韓国人労働者が完全雇用に近い状態であれば、労働市場テストの結果、韓国人採用決定率が低くても問題ないといえるが、2010年代の韓国全体の失業率は 3-4%台の一方、20 代の失業率は10%近くまで達している。これは、リーマンショック後の 2009年(7.8%)を上回り、アジア通貨危機後の1998年(11.4%)に迫る状態であることからも(韓国統計庁「経済活動人口調査」)、韓国人労働者が完全雇用状態ではないといえる。

これを受け、韓国国内では、最低賃金ぎりぎりの求人が多いことから、韓国人労働者が採用に至るケースが限られ、労働市場テストは現実的には機能していないという評価もみられる。改善策として、雇用主が提示する給与額について、最低賃金以上という条件に加え、当該業職種の平均年収以上となるような賃金とするといった具体的指標を定めたガイドラ インを作成することなどが示されている(キム ヨンス 2013、韓国労働研究院 2017 など)。

ただし、上記のような課題がある一方で、上林(2010)は、労働市場テストが、自国の労働市場を守るための規制として「もっとも基本的な方法」(p.158)であるという。また、実効性の点で疑問が付されるものの、外国人労働者の受入れ手続きが極めて煩雑で役所の承認を得るために多数の書類を必要とすることや、申請から実際の許可を得るために一定期間 を要することから、企業にとっては、労働市場テストが、外国人労働者の受入れの障壁として機能しているとも指摘されている(上林 2015)。

2)日本への導入可能性の検討

労働市場テストは、前述したように特定技能の基本方針でうたう「国内人材確保のための取組を行った上で、なお、人材の確保が困難な状況に限って受け入れる」ということを具現化する制度であり、導入に向けて検討の価値はあるだろう。

ただし、韓国の事例を踏まえると、最低賃金程度での求人では国内労働者からの求職行動はあまり期待できず、制度 が形骸化する懸念もある。そのため、例えば、求人期間を3ヵ月~半年程度と一定期間設けることや、賃金を当該業種・ 職種の平均賃金以上として潜在的な労働力も呼び込めるレベルの求人を義務づけるなどにした上で、それでも求人が充足されない場合に限り、外国人労働者の受入れを認める、といった制度設計や厳格な運用が重要になると考える(※5)。

(2)受入れ人数・規模の設定

1)韓国・台湾の事例

韓国の一般雇用許可制では、受入れ対象業種を5業種に限定し、毎年業種別の受入れ上限人数(受入れ規模)が、 政府の外国人労働者政策委員会で決定される。2019年末に発表された2020年の受入れ規模は計56,000人で、製造 業が最大の40,700人割り当てられている(雇用労働部 2019)。

この受入れ規模の算出プロセス・具体的な計算式は、三菱UFJリサーチ&コンサルティング(2019)にて、韓国政府、 政府委員会の元学識委員、業界団体関係者などへのインタビューや現地文献をもとに整理している。

要点をまとめると、まず韓国政府(雇用労働部)は、(1)受入れ規模算出のために、毎年 2 回、約32,000 の全国の事業所をサンプルとして「職種別事業体労働力調査」を実施し、1)現員数、2)不足人員数、3)採用計画人員数、4)直近3ヵ月間の職業スキル別求人数と実際の採用人数、5)未充足人員数について、韓国人常用雇用・韓国人非常用雇用・外国人労働者別に実人数を回答してもらい、各業種の外国人労働者不足人数を算出する。加えて、(2)在留期間満了での出国予定者数や不法(非正規)滞在者数のうち推定される出国者数を算出する。さらに、(3)各業界団体が独自に行う労働力需給調査の結果等を加味し、(1)・(2)・’(3)をもとに政府委員会にて決定されている。実際、2008年秋のリーマンショックを契機とする世界的経済危機を受け、2008年には132,000人だった受入れ規模を、2009年には1/3以下の34,000人に減少させ、韓国人労働者の雇用機会を確保しようとする制度運用がなされている(図表 5,6 参照)。

図表 5 韓国一般雇用許可制の受入れ規模の推移
韓国一般雇用許可制の受入れ規模の推移

(出所)韓国雇用労働部資料、雇用許可制 HP より筆者作成

図表6 韓国一般雇用許可制の近年の業種別受入れ規模
韓国一般雇用許可制の近年の業種別受入れ規模

(出所)韓国雇用労働部資料より筆者作成、「+α」は時々の雇用状況をみて弾力的に配分する部分

国内労働市場を保護する制度設計が評価される反面、韓国現地では、さまざまな課題も指摘されている。その筆頭は、受入れ規模決定にあたり、労働需要側(雇用主側)にだけ焦点を当てており、供給側(韓国人含む労働者全体)への考慮が不足しているという点である。受入れ規模決定の統計的根拠となっている「職種別事業体労働力調査」は、雇用主が主観的に不足人員数を回答しており、実際に自社で給与支払い能力があるかどうかは別として、理想的もしくは少し多めの人員構成になるように回答する誘引が働くため、不足人員数や未充足人員数が実態を正しく捉えた数字とは必ずしもいえない。そのため、より客観性が高い指標(賃金、失業手当申請者数、労働時間の変化など)を、受入れ規模決定過程に複数含ませる必要性などが指摘されている(韓国移民学会 2014、キムジュヨン 2016など)。

概要のみの紹介になるが、台湾でも、外籍労工とよばれる低熟練業務に従事する外国人労働者の受入れを認めている業種ごとに、人数の制限をかけている。例えば、建設業では技術の特殊性、建設計画規模等をもとに受入れ人数が決まり、施設看護・介護ではベッド数との比率で受入れ人数が決まる。また、台湾においても、台湾人労働者の就労機会を維持するため、「警戒指標」とよばれる各種政府統計(台湾人の就職率、失業率、給与推移、景気動向、外国人労働者の失踪率など)を3ヵ月に 1回開催される政府委員会で報告し、外国人労働者の雇用率や受入れ業種を議論する場が持たれている(三菱UFJリサーチ&コンサルティング 2019)。

2)日本への導入可能性の検討

韓国の事例を踏まえると、景気動向などをみながら受入れ規模を毎年決定し、さらに随時雇用状況をみながら「+α」と してバッファをもたせる制度運用は、「2019年から2023年まで5年間で計34.5万人の受入れ」として、景気動向への柔軟な対応が限定的な日本の特定技能制度にも参考になる点だと思われる。

現状の特定技能の分野別運用方針を読み解くと、2015年時点の国勢調査の結果や、2017年時点の有効求人倍率等をもとに2023年時点の人手不足数を推計している。このように、参照する統計値と推計値には10年弱の開きがあり、構造的な少子高齢化・人口減少トレンドは変化しないものの、めまぐるしく変化する経済・雇用状況に対応した数値設定とは言いがたい。

今後の方向性として、例えば、共通の政府統計(※6)をもとに、政府内に設置する委員会にて、1年ないし2年ごとに受入れ対象とする分野自体や、分野別受入れ人数規模を設定し、人手不足状況に応じた運用を行うことも一案だろう。その際、台湾のように「警戒指標」として、どの指標群を政府としてモニタリングを行い政策判断に用いるのかを明示することで、議論の透明性も高まると見込まれる。

このような手続きを踏みながら、現実的な数値設定とすることで、「予定人数に比べて受入れが低調だ」とメディアなどに指摘される実態を見直す契機にもなり、政府としても、無理に人数を増やすような必要もなく、地に足のついた制度運用 が期待される。

(3)雇用負担金

1)台湾の事例

台湾では、低熟練の外国人労働者を受け入れる場合、雇用主は政府に対して「職業安定費」という名称の雇用負担金を納税することが求めており、業種に応じるが、おおむね毎月 2,000元(約 7,000 円)程度を納付しなければならない。さらに、一部業種(製造業など)では、「EXTRA制」として雇用主が追加の職業安定費を支払うことで、外国人労働者の採用数を増やせる制度運用をしている(業種に応じて5,000-9,000元/月程度(約18,000-32,500円))。

雇用負担金制度は、特に外国人労働者について、熟練度が下がるほど最低賃金レベルで雇用される傾向があるため、国内労働者を雇用する際に通常かかる費用との差額分にあたる金額を国が徴収することで、雇用主が国内労働者よりも外国人労働者を選好し、結果的に国内労働者の雇用機会の削減や賃金低下を招くことを防ぐという考え方に基づいて導入されている。また、この税収は、国内労働者の職業訓練などに活用・還元されている。

図表7 雇用負担金の考え方のイメージ
雇用負担金の考え方のイメージ

(出所)筆者作成。本図はあくまで雇用負担金の考え方を模式図化したイメージである。 また、ここでの「国内労働者」は、受入れ国側の国籍を有する労働者を想定している

雇用負担金制度は、台湾のほかにも導入している国がいくつかある。シンガポールでは、「外国人雇用税(FWL:Foreign Worker Levy)」として徴収している。外国人労働者の熟練度が下がるほど税率が高まる累進性を採用しており、毎月納税が求められる(シンガポール人材開発省HPより)。マレーシアでも、従来から外国人労働者の「年次雇用税(Levy)」を課しており、2020年からは業種別に外国人依存度(全従業員に対して外国人労働者が占める割合)に応じて課税負担が増えていく新制度を導入した(JETRO HPページより)。

また、欧米でもカナダでは、季節労働など一時的に低熟練外国人労働者を雇用するためには、「労働市場影響の評価 手数料(LMIA:Labor Market Impact Assessment Fee)」の支払いを雇用主に求めており、これを2014年6月以降、従来の275ドルから1,000ドルに引き上げ、有効期間も最長1年間に短縮した(カナダ LMIAサイトページより)。イギリスでは専門技術を有する外国人労働者を雇用する場合、「移民技能負担金(ISC:Immigration Skills Charge)」として 企業規模に応じて、最初の1年間は最大 1,000ポンド、その後半年ごとに最大500ポンドの支払いを雇用主に求める制度を、2017年4月から始めている(イギリス内務省HPより)。

2)日本への導入可能性の検討

雇用負担金の前提となる国内労働者と外国人労働者との賃金差について、日本では労働基準法第3条にて、国籍を 理由とした賃金などの差別禁止が定められており、技能実習生でも1年目から労働基準法が適用されることになっている。

だが、実際、厚生労働省が行う「賃金構造基本統計調査」にて今年3月末に初めて公表された、外国人の在留資格別賃金状況と全体を比較すると、技能実習生(平均 26.1 歳)とほぼ同じ年齢層(25-29 歳)、かつ中小企業・小規模事業者での国内労働者全体の賃金を比較すると、1ヵ月あたり女性で約6万円、男性で約8万円の開きがあることが明らかになった。もちろん日本語や技能レベル、就業年数等が異なるため一概に比較はできないが、「『日本人と同等』は都道府県 別の最低賃金並みに過ぎないというのが実態」(村上 2019:69)であり、雇用負担金導入の根拠となる状況はすでにあるといえる。例えば、今般の経済危機以前の水準に戻るまでの間、新規で海外から外国人労働者の受入れを行う場合に限り雇用負担金を徴収することなども一案かもしれない。

3. 各国の直近の対応と今後に向けて

ここまで、韓国・台湾を中心に諸外国の制度を概観した。上記で整理した各国・地域の制度が、今般のコロナ禍に伴う経済危機に対してどのような効果を発揮しているのか、また各国は現在、国内労働者の雇用を守るため、どのような受入れ調整を行おうとしているのか、継続的な観察が必要である。

例えば、すでに韓国では、中国朝鮮族を中心とする韓国系外国人の受入れ制度(特例雇用許可制)に関して、建設業や飲食業など韓国人労働者と競合が起きやすい業種は受入れ停止や規模縮小に向けた検討を進めており、2021年からの施行を目指している(※7)。また、マレーシアでも 2020 年は、外国人労働者の新規雇用を、建設業、プランテーション、 農業のみに限定する方針を打ち出している(※8)。

翻って日本の制度に目を向けると、特定技能の受入れに関する基本方針には、「人手不足の状況に変化が生じたと認められる場合には、状況に応じた必要な措置を講じる」旨が記載されているものの、具体的に「必要な措置」としてどのようなことを行うのかは不透明なままである。

コロナ禍の収束がみえず、また今後いつこのような経済危機が訪れるか分からない状況だからこそ、国内労働者の雇 用機会や条件を守りながら、円滑に外国人労働者を受け入れていくために、本稿で概観したような日本では導入されていない各種制度を検討する意義はあると考える。また、本稿では議論の対象には含めなかったものの、雇用の維持・確保という点では、すでに国内に在留している外国人も含めた国内労働者向けの各種施策(職業訓練、再就職支援、職業紹介基盤強化など)も併せて検討の必要があるだろう(※9)。


(※1)本稿では特に言及がない限り、「国内労働者」にはすでに国内に在留している外国人労働者も含む。
(※2)一般雇用許可制は二国間協定を締結する国からの受入れ制度、特例雇用許可制は中国朝鮮族など韓国にルーツを持つ人の受入れ制度。
(※3)この前後に、「客観的労働市場テスト」として、政府統計をもとに、当該業職種が人手不足状態であることを判断することを組 み込んでいる場合もある。
(※4)ドイツ、フランス、イギリス、アメリカ、カナダなど。例えばドイツでは「優先性審査」という名称で実施している。
(※5)厳格な労働市場テストの実施の必要性は、日本でも川上(2019)などでみられ始めている。
(※6)厚生労働省「一般職業紹介状況」(有効求人倍率)、厚生労働省「労働経済動向調査」(業種別労働者過不足状況)、厚生 労働省「雇用動向調査」(離職率、未充足求人数)、総務省「労働力調査」(失業率)など。
(※7)毎日経済「[単独]仕事、絶壁に…朝鮮族仕事減少」(韓国メディア)
https://www.mk.co.kr/news/economy/view/2020/05/453731/ (最終閲覧日:2020/9/25)
(※8)JETRO「外国人労働者の雇用を3分野に限定する方針、産業界から強い反発(マレーシア)」
https://www.jetro.go.jp/biznews/2020/08/5a61912d0ab92c89.html (最終閲覧日:2020/9/25)
(※9)出入国在留管理庁では、技能実習の継続が困難となった実習生や、在留期間が満了するものの帰国が困難である外国人に対して、在留資格の変更を認め、特定技能の14分野での就業を可能とする特例措置が行われている。

【参考文献】

  • 明石純一編著, 2011,『移住労働と世界的経済危機』明石書店.
  • クリーンシステム科学研究所, 2020,「新型コロナウイルス感染症流行の影響調査」.
  • 早川智津子, 2020,「外国人労働者をめぐる政策課題―労働法の観点から」労働政策研究・研修機構『日本労働研究 雑誌』715 号:10-19.
  • 上林千恵子, 2010,「外国人単純労働者の受け入れ方法の検討―日本の技能実習制度と西欧諸国の受け入れ制度との比較から」五十嵐泰正編『労働再審(2)越境する労働と<移民>』大月書店:137-170.
  • 上林千恵子, 2015,『外国人労働者受け入れと日本社会―技能実習制度の展開とジレンマ』東京大学出版会.
  • 韓国移民学会, 2014,「韓国社会の中長期変化に適合する外国人労働者政策発展方策」(韓国語).
  • 韓国雇用労働部, 2019,「2020 年度外国人労働者の導入・運用計画」」(2019/12/17 報道資料、韓国語).
  • 韓国労働研究院, 2017, 「外国人就業ビザの雇用影響評価」(韓国語).
  • 川上資人, 2019, 「外国人労働者受け入れ制度の問題点」部落解放・人権研究所『Human Rights』No.372:2-10.
  • キムジュヨン, 2016,「製造業外国人労働者供給現況と労働力ミスマッチ分析」韓国産業研究院イシューペーパー(韓国語).
  • キムヨンス, 2013,「外国人力導入体系改編の必要性と制度改善方案」『KDI政策フォーラム』255号:1-11(韓国語).
  • 万城目正雄, 2019,「外国人技能実習制度の活用状況と今後の展開」小﨑敏男・佐藤龍三郎編著『移民・外国人と日本社会』原書房:159-184.
  • 三菱UFJリサーチ&コンサルティング,2019,「外国人労働者の受入れによる労働市場への影響に関する調査研究事業報告書」.
  • 村上英吾, 2019,「外国人技能実習制度と貧困」貧困研究会『貧困研究』22号, 明石書店:66-74.
  • 連合総研, 2020,「第39回勤労者短観報告書」.
  • リクルートワークス研究所, 2020,「第37回ワークス大卒求人倍率調査(2021年卒)」.
  • 出入国在留管理庁, 2020「特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する方針(分野別運用方針)」(令和 2 年 2 月 28 日変更).
  • ソルドンフン・イキュヨン・キムユンテ・パクソンジュ, 2015,「雇用負担金制度の導入と運営方案研究」韓国労働研究院レポート(韓国語).
  • 帝国データバンク, 2020a,「『人手不足倒産』の動向調査(2019年度)」.
  • 帝国データバンク, 2020b,「人手不足に対する企業の動向調査(2020年7月)」.
  • 東京商工リサーチ, 2020,「『新型コロナウイルス』関連破たん状況【10月2日17:00 現在】」.

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パートタイム・有期雇用労働法
リボルビングドア(回転ドア)
ロックダウン世代
メンバーシップ型雇用
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ユースエール
ジョブレス・リカバリー
国家戦略特区
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