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退職代行会社等が関与する場合の留意点
弁護士
岡崎 教行(牛嶋・寺前・和田法律事務所)
3 会社として留意すべきこと
前述の「退職届」が会社に届いた場合、会社としては、後日、労働者の退職が覆ることがないようにしなければなりません。そのために、会社として何をするべきなのか、何をしてはならないのか、という点について検討します。
(1)本人の意思確認
前述の通り、辞職であっても、合意解約の申込みであっても、それらは労働者の意思表示ですので、当該労働者が退職の意思を表示したことを確認する必要があります。つまり、前述の「退職届」が本当に当該労働者の意思に基づいて作成されたものなのかを確認する必要があるのです。
前述の「退職届」には、今後の連絡事項は退職代行会社に連絡してくださいという趣旨の記載がありますが、会社からしてみれば、労働者本人が本当に退職代行会社に依頼をしたのかどうかもわかりませんので、それを守らなければならないというものではありません。
したがって、一つの方法としては、退職者本人に対して、電話あるいは電子メール、LINE等で連絡し、退職の意思を確認するという方法があります。その際は、退職を承認する旨も伝えておくとよいでしょう。また、電話連絡の場合は、いつ、どういった会話をしたのかを記録化しておく必要があるでしょう。記録化の一例として、次のものが考えられます。
■電話連絡の場合の記録化の一例
平成30年12月●日
●●部長
●●部課長●●●●
報告書
平成30年12月11日、●●社員名義で退職届が届いたことから、●●社員にその意思を確認するために、以下の通り電話をし、●●社員の意思を確認いたしました。
-
日 時
平成30年12月●●日午後●時●●分~同時●●分 -
架電先
090-●●●●-●●●●(会社に登録されている連絡先) -
会話内容
自分:今、電話で話ができるかな。
相手:はい、短時間であれば。
自分: 先日、退職届が届いて、今後の連絡先は●●となっているのだけれど、退職の意思があるということでよいか。
相手:はい、退職するつもりです。
自分: 会社として、君の退職届けを受理し、それを承認したので、平成30年12月30日をもって退職となります。
相手:はい、ありがとうございます。
自分:今後の連絡先は、書かれていた会社ということでよいのか。
相手:はい。
自分: 誓約書等も記載してもらう必要があるが、そういった書類は直接郵送で送ってよいか。
相手:はい、送っていただいて構いません。
自分:今後、新天地での活躍を祈念します。
以 上
労働者に連絡をしたけれども、労働者と連絡がつかないという場合には、退職代行会社に連絡し、前述の「退職届」が、「●●さんの意思に従って書かれたものなのかを確認したいので、それが確認できる資料を提出していただきたい」という趣旨の問合せを行うことになるでしょう。退職代行会社から、労働者本人が記載したことが確認できる資料(例えば、退職届が新たに実印で作成され、印鑑証明書が添付されて送付されてきた場合、退職届が新たに手書きで作成され送付されてきて、それが労働者本人の筆跡であると確認できる場合など)が出てくれば、それで本人の意思確認は終了としてよいでしょう。
(2)弁護士法違反
前述の「退職届」には、退職日まで有給休暇とすること、足りない場合は欠勤とすることが記載されています。年次有給休暇については使用者が時季変更権を行使することが可能であること、また、退職日如何によっては賞与の支給等の問題もあり得ること、その他、未払い残業の問題なども退職時に発生するケースがあることなどに留意してください。
その場合、会社としては、退職代行会社との間で交渉を行うことは避けるべきです。退職代行会社も交渉を行うことはないと思いますが、仮に退職代行会社が会社との間で、実質上、労働者の代理人として交渉を行った場合、それは非弁行為に該当します。
非弁行為とは要するに、弁護士以外の者が報酬を得る目的で、法律事件に関して法律事務を取り扱うことです(弁護士法72条は、「弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらのあっせんをすることをなりわいとすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない」と定めています)。したがって、退職代行会社は労働者の代理人になることはできず、法的にはあくまで使者(本人がすでに決定している意思を相手方に表示、または本人の意思表示を相手方に伝達する人あるいは機関)でしかありません。
仮に、会社が退職代行会社との間で交渉を行い、その結果、一定の条件のもと労働者が退職をするということになった場合には、弁護士法72条に違反することになりますが、その効果はどうなるのでしょうか。昔の判例ですが、弁護士法72条は国民の公正・円滑な法律生活を守り法律秩序を維持することを目的とし、その意味で高度の公益的規定と解されることから、これに違反する行為は公の秩序(民法90条)に違反するものとして無効であると判示しています。近時、司法書士が140万円を超える過払金の返還請求権について裁判外の和解をすることについて委任契約を締結することは弁護士法72条に違反するものの、裁判外の和解契約を有効とした判例(平成29年7月24日最高裁第一小法廷)もありますが、退職代行会社との間で交渉を行い、退職に関する合意をした場合には、退職自体が無効になってしまうリスクも存します。その意味からも、会社としては、退職代行会社との間で交渉等は行うべきではありません。
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