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あの仕事の「ヒト」と「カネ」

【電車運転士】
男の子なら誰もが一度は憧れる運転席
鉄道ブーム、ローカル線ブームで人気再燃か

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第一生命保険株式会社が全国の幼児・児童を対象に毎年行っている「大人になったらなりたいもの」アンケート調査の最新結果が先頃発表された。男の子の第1位は7年連続で「サッカー選手」だが、9位に入った「電車・バス・車の運転士」も根強い人気を誇る。行き交う電車を見下ろせる橋の上や線路沿いの公園へ行くと、必ずと言っていいほど見かける親子連れ。電車の運転シミュレーションゲームも大人気だ。子どもたちはどうしてあんなに電車が好きなのか。いや、子どもだけではない。憧れをずっと持ち続け、高い技術と使命感にまで極めたプロフェッショナルが、大人の中にもいる。

夢の対価は700万円!? “自腹”を切ってまでなりたかった憧れの職業

仕事一筋に生きてきたエリートサラリーマンが、50歳を目前に人生のレールを乗り換え、自分自身と家族の再生のために、子どもの頃の夢だったローカル線の電車運転士を目指す――。そんなヒューマンストーリーを描いた日本映画『RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の物語』は、2010年に公開され、シニアを中心に幅広い世代から好評を得た佳作である。とりわけ男性であれば、いわゆる“鉄オタ”ならずとも、この現代のおとぎ話に心地よい共感と懐かしさを誘われるだろう。いつの時代も「電車運転士」は、男の子の“大人になったらなりたいもの”ランキング上位の常連だ。近年、映画の主人公さながらに夢をあきらめなかった“オールドルーキー”たちが、観光列車ブームに沸く各地のローカル線で活躍しているのをご存じだろうか。

電車運転士 イメージ

電車を運転してみたい――誰しも一度は思う夢を、
シニアになってかなえる人もいる

もっとも有名な例は、千葉県・房総半島を横断する第3セクター鉄道の「いすみ鉄道」だ。同社は経営再建中だった10年に、全国初の試みとして、訓練費700万円の自己負担を条件に列車運転免許を取得するという社会人対象の運転士養成プランを導入した。40代から50代の元サラリーマン4名が嘱託社員として採用され、見事に国家試験を突破、12年夏から単独で乗務に就いている。当初は、自腹を切ってまで運転士になりたい人などいるのかといぶかる向きもあったが、結果は大成功。夢をかなえた4人の奮闘がテレビドラマ化されるなど大きな反響を呼び、存廃問題に揺れる一ローカル線の知名度を全国区へと押し上げた。「電車運転士」という職業の持つ不思議な魅力が起こした、奇跡といえるかもしれない。

一般に「電車の運転士」や「鉄道の機関士」といわれる人を、正式な行政用語では「動力車操縦者」と呼ぶ。国内の機関車、電車や気動車、路面電車などの運転に必要な、国土交通省が定めた国家資格「動力車操縦者運転免許」を持つもののことである。電車運転士は、公共交通機関として欠かせない鉄道の車両を運転するプロフェッショナル。その仕事の基本にして最終到達点は、「安全」「正確」「快適」の3点に尽きるといっていい。多くの人命を預かるだけに、とくに安全確保は運転士にとって絶対の使命である。定められたダイヤに沿って秒単位の発着時刻を厳守する正確な運転技術は、海外での評価も高く、日本の運転士が誇りとするところだ。乗客の乗り心地にも最大限配慮し、同じ車両でも天候や乗車率によって微妙にブレーキのかけ方を変えるなど、スムーズな運転をたえず心がけなければならない。また、運転のほか、出発前の車両点検やさまざまな事故・トラブルの対応なども重要な仕事である。列車の運行現場の安全・安心・安定は、その双肩にかかっているといっても過言ではない。

列車運行はトラブルの連続。高い集中力と冷静さ、ストレス耐性は必須

新しい何かを作ったり、商品を売って売り上げを伸ばしたりするビジネスパーソンと違い、電車を始めとする交通機関の運転士・運転手の仕事は成果が目に見えにくい。何も変わらず、何も起こらず、より多くの利用客を目的地まで送り届けられることが、最大の成果だからだ。一日の仕事が平穏無事に終われば、「今日もやりきった」という充実感と達成感が味わえる。

電車運転士 イメージ

正確・安全な日本の鉄道運行を支えるプレッシャーははかりしれない

しかし実際には、列車運行が平常どおりに進むことは意外なほど少ない。地震や大雪、突風などの天災から、車両故障や人身事故、線路内への立ち入り、車内でのもめ事や急病人発生、忘れ物の捜索まで、さまざまな予期せぬトラブルに見舞われ、そのたびに運行に支障を来す。都市部での通勤通学時であれば、わずかな遅延が発生しても、駅はたちまち人で溢れかえり、混乱が生じることも珍しくないだろう。運転士になったばかりの頃は先輩運転士に付き添ってもらいながら乗務を行うが、一人前の運転士として単独乗務に就くようになれば、このようなトラブルに遭遇した際にも、自分一人でさまざまな判断を迅速に下さなければならない。もちろんトラブル時の対処については訓練でもくりかえし学ぶが、現場の状況は都度異なるため、被害の影響を最小限に食い止めるためには、運転士が最初にどのような対応をとるか、とっさの判断が求められるのだ。そして難しい状況の中でも、他の乗務員や駅員、作業員らと連携・協力しながら、利用者の足を何とか確保できたときには大きなやりがいを感じられるという。

正確性、安全性で世界に冠たる日本の鉄道だが、残念ながら、過去には運転士のミスによる痛ましい事故も発生している。運行管理システムなどのテクノロジーがどれだけ進化しても、こうした過ちを根絶するのに十分ではない。何よりも大切なのは運転士自身の安全意識と重い職務への使命感、そしてそれらを日々の業務においてもつねに持ち続ける意思である。

その意味で適性としては、高い集中力を保てる人、集中しながらもまわりの状況に気を配るなど、同時に複数のことを処理できる人、予期せぬ事態に直面しても落ち着いて冷静な判断を下せる人などが向いているといえるだろう。また、不規則な勤務形態に適応できるかも重要なポイントになる。特にダイヤが過密な都心部の幹線では、勤務間の休息時間が短く、仮眠や食事、水分補給さえも満足にできない労働環境が問題視されているほどだ。ストレスに強く、体調やオンオフの切り替えを含め、適切な自己管理ができないとつぶれてしまいかねない。そうした苦労があっても、「大好きな電車のそばにいられるだけで幸せ」といえるほどの情熱を持ち続けられれば、一流運転士への道はおのずと開けるのだろう。

現業職は高卒者が中心、経験と厳しい訓練を経て難関の国家資格に挑戦

電車という巨大な乗り物に多くの人の命を乗せて動かす電車運転士の仕事は、特殊な技能と知識を要するため、必要な国家資格の取得は難しく、そのための訓練も厳しい。運転士になるには、高校卒業時点で鉄道会社の「鉄道現業職」採用試験を受験し、社員になるのが一般的なルートだが、鉄道会社の求人は指定校制で、採用実績のある高校に来ることがほとんどだ。

採用後は、まず駅務員や車掌として数年間勤務経験を積んだ後、国土交通省認可の養成施設(JRや大手私鉄は自前の施設をもつが、中小事業者は大手に養成を委託)で数ヵ月間の専門教習を受けて、国家試験に臨む。試験には、筆記試験や身体検査、適性検査、技能試験などがあり、先述のいすみ鉄道のケースでは4人全員が2回~3回目の受験で突破したという。

厚生労働省の平成27年賃金構造基本統計調査によると、電車運転士の平均年収は40.3歳で688万円。勤務地によっても給与水準は異なるが、待遇面では比較的安定しており、都市部の大手鉄道会社なら30歳で600万円前後、地方の私鉄では400万円前後となっているようだ。高校から現業職として入社した場合の初任給は、16万円から18万円程度が相場。もっとも、財政難に苦しむ地方のローカル鉄道の多くは、新卒の正社員を採用し、育成する余裕もない。いすみ鉄道のような、“夢”を活用する知恵が今後ますます求められるだろう。

この仕事のポイント
やりがい 列車を「安全」「正確」「快適」に運行し、一日の仕事を平穏無事に終わらせた充実感と達成感
就く方法 鉄道会社の「鉄道現業職」として採用後、駅務員や車掌として数年間勤務経験を積む。その後、国土交通省認可の養成施設で数ヵ月間の専門教習を受け、筆記試験や身体検査、適性検査、技能試験に合格して、国家資格「動力車操縦者運転免許」を取得する
必要な適性・能力 ・高い集中力を保つ能力
・集中しながらもまわりの状況に気を配るなど、同時に複数のことを処理できる能力
・予期せぬ事態に直面しても落ち着いて冷静な判断を下せる能力
・ストレスに強く、適切な自己管理ができる能力
・電車・運転士への熱い思い
収入 平均年収は40.3歳で688万円。都市部の大手鉄道会社なら30歳で600万円前後、地方の私鉄では400万円前後

 


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