あの仕事の「ヒト」と「カネ」

【照明デザイナー】
ライトアップやイルミネーションを設計・デザイン
光の魔法で街を、人を、社会を照らす

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
慌ただしい時期だというのに、街であの色とりどりの光の瞬きを見かけると、ふと足を止めてしまうのはなぜだろう。16世紀のドイツの宗教家、マルチン・ルターは、森の中できらめく星を見て感動し、木の枝にろうそくを飾ることで再現しようとした。それがクリスマスイルミネーションのルーツだという。その伝統的な造形美を、発光ダイオード(LED)などの先端技術を駆使して現代の環境演出に昇華させる「照明デザイナー」。建物や都市空間だけでなく、人の心も照らす光のプロフェッショナルの実態を探る。

80年代以降職業として成立した“夜景”のプロフェッショナル

近年、初冬の街を彩る風物詩として定着した感のあるクリスマスイルミネーションが日本に登場したのは、実はそう新しいことではない。1904年(明治37年)12月17日付けの新聞記事に「京橋銀座二丁目のキリンビール明治屋にては、(中略)例年よりはいっそう花やかに、去る十五日よりクリスマス飾りをなし、毎夜イルミネーションを点じつつあり」とある。明治時代後半には、すでに「イルミネーション」という言葉も使われていたのだ。とはいえ、一般にはまだ縁遠く、夜に屋外でともす人工の光は長い間、生活の便を図る作業灯や防犯灯としての明かりでしかなかった。光が照らし出す自然や建築物の姿を、あるいは光そのものを、人々が美しい“夜景”として認識し、鑑賞するようになったのは、1970年の大阪万博の頃から。首都の夜景のシンボルである東京タワーでさえ、時代が昭和から平成に替わるまで、そのシルエットは日が沈むと宵闇に紛れてしまっていたのである。

照明デザイナー イメージ

今や冬の風物詩となったイルミネーション
LEDの普及でより多彩に華やかになった

80年代に各地で開催された地方博覧会で野外照明が注目を集めたことや、バブル期に相次いで登場した大型商業施設やテーマパークが夜景スポットとして大いに人気を博したことなどから、ライトアップやイルミネーションといった“光による空間演出や装飾”の効果に対する認知度が次第に高まり、同時にそれを取りしきる「照明デザイナー」の存在にも文字通り、光があたるようになっていった。

ちなみに、「照明デザイナー」と呼ばれる仕事は大きく、次の三つの専門分野に分かれる。

(1) 最も古くからある演出照明デザイン。舞台の演出効果としての照明のほか、映画やテレビ、CMのためのライティングを含む。舞台照明家、照明技師などと呼ばれることが多い。
(2) 光源となる照明器具などのプロダクトデザイン。プロダクトデザイナーに含まれる。
(3) 80年代に職業として成立した、最も新しい分野である環境照明デザイン。ライトアップやイルミネーションといった屋外照明から、高層ビルや商業施設、住宅などの建物内のインテリア照明まで、あらゆる環境照明がデザインの対象となる。

狭義の「照明デザイナー」は(3)の環境照明デザイナーを言うことが多く、本記事ではその中でも屋外照明デザインの仕事を中心にとりあげる。

光は空間を明るく、美しく彩ると同時に、色味や強弱、向きひとつでその印象や表情を劇的に変えるため、人の気持ちを鎮静させたり、逆に高揚させたりする心理的な効果も高い。照明デザイナーは、依頼主とイメージを綿密に打ち合わせ、デザイン案を模型やCGで作成。さまざまな照明手法や光源、器具を駆使し、調整を重ねながら、光を効果的に配置して空間を演出していく。美しい夜景は、それを彩り、照らし出す光=照明なしにはありえない。照明デザイナーとはいわば、夜景をクリエイトするプロフェッショナルなのである。

光で人を元気に――「電気代は少なく効果は大きく」が基本

山上や高台、超高層ビルの展望台から、眼下に広がる無数の街の明かりを眺めるという夜景鑑賞のスタイルは、高度経済成長を機に普及、定着した。しかし、俗に「100万ドルの夜景」などと形容されるような、見た目の美しさや非日常的なきらびやかさだけが、人々が明かりにひきつけられる理由ではない。私たちはしばしば、何かを失ってはじめて、その本質的な価値や魅力に気づくことがある。東日本大震災直後も、節電意識の高まりから屋外のさまざまな環境照明が消えたが、地震発生から1ヵ月後の4月11日、先述の東京タワーに照明デザイナーの石井幹子さんらがいちはやく明かりを蘇らせた。「GANBARO NIPPON」――太陽光発電で灯した文字だけのライティングだったが、不安と混乱のさなか、多くの人がその復活を喜んだという。暗闇を照らす明かりは、人の心の拠りどころにもなりうる。光の“魔法”を借りて、それを見つめる多くの人々に癒しや安らぎ、元気や感動を届けられることは、照明デザイナーにとって最大の魅力に違いない。そこに興味とやりがいを見出せる人なら、この仕事に適性があるといえるだろう。

照明デザイナー イメージ

暗闇は人を不安にさせる――夜景を楽しむ心の奥には、そんな人の本能が隠されているのかもしれない

もちろん、限られたエネルギーを大切に使うことは当然の責務だ。「電気代は少なく効果は大きく」が照明デザインの基本であり、その点、わが国の照明業界は世界最高の省エネ技術を持つといわれる。節電とともに、過剰な明るさが人の健康や生態系に悪影響を及ぼす「光害」の問題など、環境への配慮も欠かせない。光や建築に関する専門知識にとどまらず、そうした幅広い視野と見識が求められるのは、照明デザイナーが公共性の高い仕事だからである。

また、独創性や美的感覚もこの道で活躍する重要なポイントだが、一方で自分のデザインを実現するためには、費用対効果を考慮しながら、依頼主や施工業者を始め多くの関係者と連携する必要がある。現実的な判断力や協調性、コミュニケーション能力は必須の資質だ。夜間や屋外の現場での作業も多く、デザイナーとはいえ、けっして美しいだけの仕事ではない。

オリンピックを控え、照明による都市空間演出の需要増に期待

照明デザイナーになる道筋としては、美術・建築系の大学、専門学校で照明デザインや空間デザインなどを学び、照明器具メーカーや照明デザイン専門の事務所、照明施工会社などに就職して、経験を積むのが一般的なステップだ。必須の国家資格などはないが、専門性を示す指標として、「照明コンサルタント」やその上級資格である「照明士」の資格を取得している照明デザイナーも多い。いずれも社団法人照明学会が認定する民間資格で、一定の通信講座を受講することで取得できるが、かなり高度な知識が求められる。また、イルミネーションの設計・デザインには大がかりな電気工事がともない、施工の流れも建築現場に近いため、第2種電気工事士や2級建築士程度の資格を有していると、就職や企画提案の際に有利だとされる。

気になる収入は、勤続年数や実績、勤務先の状況によって異なるが、初任給で17~20万円程度、全体の平均年収は400万円程度といわれている。照明デザイナーという職業自体が成立して日が浅く、知名度もまだけっして高いとは言えない。そのため、建築士やインテリアデザイナーなどが照明デザインの業務を併せて手がけてしまうケースも多く、照明の専門職でありながら、依頼件数そのものが少ないことが収入面のネックになっているようだ。

しかし、2020年東京オリンピック・パラリンピックの開催を控え、世界中の人々が日本の各都市や観光地に集まることを考えれば、言葉の壁を超えてメッセージを発信する空間演出の重要性は高まるばかりである。光を操る照明デザイナーの活躍の場は、確実に広がっていくと見ていいだろう。

この仕事のポイント
やりがい 光の“魔法”を借りて、それを見つめる多くの人々に癒しや安らぎ、元気や感動を届けられる
就く方法 美術・建築系の大学、専門学校で照明デザインや空間デザインなどを学び、照明器具メーカーや照明デザイン専門の事務所、照明施工会社などに就職して、経験を積む
民間資格では「照明コンサルタント」「照明士」がある
必要な適性・能力 ・光や建築に関する専門知識にとどまらない、幅広い視野と見識
・独創性や美的感覚
・費用対効果を考慮しながら、多くの関係者と連携する、現実的な判断力や協調性、コミュニケーション能力
収入 初任給で17~20万円程度、全体の平均年収は400万円程度

 


  • このエントリーをはてなブックマークに追加

あの仕事の「ヒト」と「カネ」のバックナンバー

【学芸員】
「観光立国」への機運高まる中
貴重な文化遺産を後世に伝え、その魅力を広く発信
国が推進する「文化財の観光活用」に関し、ある大臣が、それを妨げる存在として「一番のがんは学芸員」と発言。世論の猛反発を浴びたのは記憶に新しい。担当分野の専門的知...
2017/05/25掲載
【大使】
国益を左右する外交の最前線で
リーダーシップを発揮する、グローバル人材の理想像
多くの要人と交流する機会が多く、華やかなイメージで語られる外交のプロフェッショナル「大使」。しかし、任地での一挙手一投足が、自国の行く末を左右するといっても過言...
2017/04/26掲載
【エンバーマー】
生前の自然な姿で、最期の別れを心ゆくまで
遺体の尊厳を守り、遺族の悲しみをケア
置で衛生的に長期保全する技術のスペシャリスト、「エンバーマー」。火葬の国である日本で、骨と灰だけになってしまう遺体をなぜわざわざ美しく保つ必要があるのか。「エン...
2017/03/30掲載

関連する記事

出産・育児と仕事の両立のポイントは女性従業員と上司が「わかりあう」こと
相互理解を促進するために人事が活用できる仕組みとは?
女性活躍推進の取り組みが進む中、出産を機に女性が退職するケースは未だに多いようです。そこでリクルートグループでは、育児と仕事の両立を支援する「iction!」(...
2017/03/24掲載注目の記事
【振付師】
アイドルやアーティストの“原石”の魅力に磨きをかける
ダンスを極めた身体表現のエキスパート
リオ五輪閉会式の印象的な演出で、一躍注目を集めることとなった「振付師」という仕事。印象的な動きを考えるだけでなく、最近では人材を育て、ステージや作品全体をまとめ...
2017/02/24掲載あの仕事の「ヒト」と「カネ」
【電車運転士】
男の子なら誰もが一度は憧れる運転席
鉄道ブーム、ローカル線ブームで人気再燃か
正確性、安全性を誇る日本の鉄道。その信頼を日々の運転で支えているのが、子供達の憧れ「電車運転士」だ。憧れをずっと持ち続け、高い技術と使命感にまで極めたプロフェッ...
2017/01/20掲載あの仕事の「ヒト」と「カネ」
【機能訓練指導員】
お年寄りの笑顔を、自らの喜びに
老いと向き合った瞬間から始まる新しい成長をサポート
人材不足が深刻な介護業界だが、介護の現場では、高齢者をただ受け入れて面倒を見るだけでなく、もっと元気にしようというポジティブな動きも広がっている。国も推奨する“...
2016/11/24掲載あの仕事の「ヒト」と「カネ」
【舞妓】
芸妓になるための修業中の身分
給料なし、恋愛禁止で芸に打ち込むお座敷の華
京都のシンボルとして、いまや海外にも広く知られている可憐な「舞妓はん」。一人前の芸妓になるための修業中の身分である舞妓は、人気や知名度の高さとは裏腹に、実物の姿...
2016/10/21掲載あの仕事の「ヒト」と「カネ」
新卒採用支援/内定者フォロー特集
会員として登録すると、多くの便利なサービスを利用することができます。会員ができること
ミスマッチの応募にお困りの採用担当者様へ

記事アクセスランキング

注目コンテンツ


新卒採用支援/内定者フォロー特集

新卒採用から内定者フォローまでを支援するサービスやソリューションをご紹介します。


【人事の日制定記念企画】
オピニオンリーダーからのメッセージ

HR領域のオピニオンリーダーの皆さまから全国の人事部門に向けてメッセージを頂戴しました。


人事メディア情報

人事メディア情報

人事・労務関連の代表的なメディアをご紹介いたします。


グローバル化、M&A……変化の激しい時代に<br />
「POSITIVE]が選ばれる理由とは タレントマネジメント機能を大幅拡充!

グローバル化、M&A……変化の激しい時代に
「POSITIVE]が選ばれる理由とは タレントマネジメント機能を大幅拡充!

1400社以上の導入実績を誇る電通国際情報サービスの統合人事パッケージ...