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あの仕事の「ヒト」と「カネ」

【猟師】
生き物の生命と真正面から向き合う“絶滅危惧種”
獣害に立ち向かい、農山村を救う切り札に

狩猟をテーマにしたコミックがヒットし、“狩りガール”がマスコミをにぎわせている。狩猟の魅力を伝える環境省主催のイベントにも予想を上回る参加者がつめかけた。時ならぬ“狩猟ブーム”の一方で、野生のシカやイノシシは爆発的に増えつづけ、深刻な獣害の拡大には一向に歯止めがかからない。捕獲の担い手であるはずの猟師が高齢化し、激減する中で、あらためてその仕事の価値や社会的意義が問い直されている。

農家には死活問題――狩猟文化の衰退が深刻な獣害の一因に

都会で働くビジネスパーソンにはピンと来ない数字かもしれないが、国は2023年度までに、野生に生息するニホンジカとイノシシの頭数を、現在の403万頭(13年度時点)から210万頭へ半減させる目標を掲げている。環境省の調査によると、2013年度のニホンジカの生息頭数は推定で約305万頭と、1989年度(約30万頭)の約10倍に達した。イノシシは約98頭で、こちらも約3倍に。近年の爆発的な増加傾向からすると、これを10年間で半分にまで減らすのは相当高い目標であり、実際、達成は難しいともいわれている。しかし地方再生のために、シカやイノシシの捕獲駆除は喫緊の課題だ。背景にあるのは、深刻な獣害の拡大である。

猟師の減少で、シカやイノシシなどによる農作物被害は拡大する一方だ

シカ76億円、イノシシ55億円、サル13億円――これは、当該動物による農作物の被害額(2013年度)だ。有害鳥獣全体では、毎年200億円前後におよんでいる。大型台風1個がもたらす農業被害がおよそ5億~30億円だから、鳥獣被害がいかに大きいかわかるだろう。一年の苦労がたった一晩で水の泡になれば(シカやイノシシは夜行性で食欲旺盛)、農家がやる気を失うのも無理はない。鳥獣被害は、農家にとってまさに死活問題なのだ。

なぜ、ここまで深刻化してしまったのか。かつて農山村では、農業は狩猟とセットだった。農作物が実れば、獣たちから狙われることは必然だからだ。物資の乏しかった時代は、狩って捕獲した動物の肉や毛皮がくらしの糧として重宝され、狩猟と農業の兼業で生計を立てる人も少なくなかった。しかしどちらの生業も、農村の過疎化・高齢化につれて衰退。耕作放棄地が増え、野生鳥獣の生息域が人里近くにまで拡大する一方で、捕獲の担い手となる狩猟者は激減していった。現在、狩猟免許所持者は約18万人(2012年度)と、1970年代の半分以下に落ち込んでいる。狩猟愛好者の集まりで、行政から害獣駆除を委託されている各地の猟友会でも、近年はハンターの減少・高齢化が著しい。仲間うちでは「シカが減る前にハンターが絶滅するのでは」と、笑えない冗談が交わされているほどだという。狩猟者不足を改善しないかぎり、「シカとイノシシ半減」の目標達成はほど遠い。そこで国は、若手猟師の育成に乗り出し始めた。絶滅に瀕していた「猟師」の仕事が、深刻な獣害に立ち向かい、地域経済を救う切り札として、いま見直されようとしているのだ。

若者に狩猟の魅力を――新しい担い手の育成が喫緊の課題

名づけて「狩猟の魅力まるわかりフォーラム」――環境省は、新たな狩猟の担い手を増やす取り組みの一環として、狩猟文化を見つめ直し、若者にその魅力や奥深さを伝えるイベントを全国各地で展開している。20~30代の若手猟師が狩猟の道に入ったきっかけやおもしろさを語るパネルディスカッションから、狩猟方法や獲物の解体方法の実演、ジビエ(獣肉)料理の試食まで、プログラムは盛りだくさん。射撃の模擬体験もできる。同フォーラムへの、予想を上回る反響などもあり、昨今、女性ハンターの増加が“狩りガール”として話題を呼ぶなど、狩猟に対する関心は少しずつ高まっているようだ。

同省はさらに、野生鳥獣の“捕獲管理”に力を入れるため、これまでは保護に主眼を置いていた鳥獣保護法を、鳥獣保護管理法に改正。技能基準などを満たした民間業者を捕獲の認定事業者とするほか、100年以上実現しなかった夜間の銃による猟を一定の条件の下で認めたり、わなや網による狩猟の免許取得可能年齢を20歳から18歳に引き下げたりして、狩猟者の確保を進めている。

狩猟文化の復活には、「狩猟の6次産業化」
狩猟ビジネスの成立が必要だ

一方で、野生動物を山の恵みとして活かす狩猟文化を地域に復活し、根づかせるためには、狩猟をビジネスとしても成立させなければならない。各自治体が地元のNPOなどと協働で、加工や衛生管理のための施設を増設し、生産(野生動物の捕獲・解体)から加工(食肉加工、ジビエを使った商品開発)、流通・販売まで、すべてを地域内で担う「狩猟の6次産業化」を目指す動きが広がってきた。猟師で稼げる時代へ――まだかすかだが、光は見えつつある。

とはいえ、狩りとはつまるところ、野生動物との生命のやり取りだ。一歩間違えれば、自分自身や周囲にも危険が及ぶ。だからこそ猟師は、獲物に対して最大限の礼を尽くすとともに、法令に基づくルールやマナーを遵守して、安全で正しい狩猟を行わなければならない。狩猟が可能な期間(猟期)や場所、鳥獣の種類および捕獲頭数は法律で定められ、都道府県によって異なる場合もある。使用できる猟具は「網」「わな」「装薬銃」「空気銃」の計4種類。扱う猟具ごとに狩猟免許も分かれ、猟法も厳密に規定されている。

猟師は、自然や生き物の生命と真正面から向き合う仕事であり、そうしたことに深い共感や真摯な思い、感謝の念を寄せられる感性こそが、プロとして最も重要な資質と言えるかもしれない。もちろん狩猟の現場では、足跡などわずかな手がかりから獲物を探す観察力や集中力、粘り強く待つ忍耐力、チャンスを逃さず引き金を引く冷静な判断力なども求められる。苦労の末に獲物をしとめた時の喜びや、生きる糧を自らの力で手に入れることへの素朴な感動は、この仕事の何よりの醍醐味だろう。現代の猟師はそれらに加えて、地域の農業や生態系を守る社会的使命を帯びている。その期待に応えることもまた、大きなやりがいに違いない。

手続きや猟銃の準備で初期投資は30万円程度、専業化は困難

猟師として狩猟を始めるまでの流れは、おおむね次のとおりである。

  1. 狩猟免許を取得する(知識試験・適性試験・技能試験の3種類を受験)
  2. 猟具を所持する(猟銃を所持するためには銃刀法に基づき、講習会の受講や考査への合格などが必要。わなの所持は手続き不要)
  3. 狩猟者登録をする(出猟したい都道府県ごとに狩猟者登録を行い、狩猟税を納めなければならない。登録証の取得には、3000万円以上の共済または損害賠償保険に加入するか、これと同等の賠償能力を証明することが必要)
  4. 地域の猟友会などに所属し、地元のルールにのっとって出猟

狩猟を始めるまでに必要な経費は、狩猟の種類(銃猟、わな猟、網猟)によって異なるが、銃猟の場合は各種手続きに約11万円、猟銃・空気銃の準備費用(数万円~数十万円)や消耗品費用(装弾1発80円~)などをあわせると、初期投資の目安としては30万円程度かかるといわれる。わな猟や網猟なら、各種手続きに4万円程度、猟具の準備は数千円~数万円ほどですむ。

猟師をとりまく環境が、少しずつだが、着実に変わりつつあるのは事実である。しかし現時点ではまだ、猟師専業で生計を立てることは難しいだろう。岐阜県で狩猟の6次産業化に取り組む団体「猪鹿丁」(NPO法人の一事業)は、ジビエの特産品やエコツアー、鳥獣被害対策支援などの積極的な事業展開で収益を確保し、猟師の雇用まで実現しているが、こうした先進例は極めてまれと言わざるをえない。野生の獣を狩って、さばいて、食する――人類最古の営みは、いつか最新のエコビジネスへと進化するのだろうか。

この仕事のポイント
やりがい 苦労の末に獲物をしとめたときの喜びや、生きる糧を自らの力で手に入れることへの素朴な感動
地域の農業や生態系を守る社会的使命
就く方法 狩猟免許を取得。猟具を用意し、狩猟者登録を行い、地域の猟友会などに所属する。
必要な適性・能力 ・自然や生き物の生命と真正面から向き合う真摯な思い、感謝の念
・足跡などわずかな手がかりから獲物を探す観察力や集中力
・粘り強く待つ忍耐力
・チャンスを逃さず引き金を引く冷静な判断力
収入 現時点ではまだ、猟師専業で生計を立てることは難しい

 


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